今回は......まぁ、いつも通りっすね。
「ちょっとキリア! 腕治るならもっと早く言ってよ~! 本当に心配したんだからな!」
「いや~、ごめん、ごめん。右腕が丸ごと吹っ飛ぶ経験なんてなかったから、再生することすっかり忘れてたよ」
俺は現在、ヤマトに抱き着かれながらすぐに生えてきた右腕を彼(いや、本人がヤマトで認識しろと言うから彼女なのか?)に両手の指ですりすりと触られていた。
くすぐったいな……。
流桜が下手なせいで思っていたよりも錠の破壊に手間取り、ヤマトだけでも守ろうと咄嗟に右腕を犠牲にしたときは俺もこれからシャンクスか……なんて激痛の中で高揚と共に思ったが、その後普通に再生してきてビックリした。
便利だなこの身体。
でも右腕を吹っ飛ばすのは二度とごめんだ。
男の意地ですまし顔をしていたが、マジで痛かったからな。
「……そっか。無我夢中で僕のことを助けてくれたんだね」
「当たり前だろ。友達なんだから」
「……ありがとう。本当に、感謝している。この恩は一生忘れないよ」
ヤマトは錠が嵌められていた自分の手首を触った後、最後にもう一度俺の右腕に触れてから熱っぽい瞳でそう言った。
「ヤマト……」
「おい、気は済んだか馬鹿ども。キリアも回復したならさっさと立ち上がって俺について来い」
そんな感じでヤマトと友情を深めていたら、急にパイセンが水を差してきた。
その空気の読めなさへの怒りもあるが、それ以上に先ほどいきなり殴られたことに対してまだ何も謝罪を受け取っていない。
文句を言おうと立ち上がるが、俺よりも先にムッと怒りの表情を浮かべたヤマトが立ち上がり、パイセンに人差し指を突きつけた。
「おいお前!」
「あぁ?」
「いきなりキリアに殴り掛かったことといい、それへの謝罪がないことといい、一体何様のつもりなんだ! 僕の恩人に対して失礼だろう!」
「……お前にじっくりとそこにいるクソ馬鹿のやらかしを説明してやってもいいが、今は時間がない。おい、キリア! さっさとそこのアホ女を連れて俺について来い」
「アホ女とはなんだ‼ 僕は――」
「あ~、ちょっと落ち着けヤマト。あれでも俺の恩人なんだ。今は俺の顔を立てると思って我慢してくれないか?」
「キリアの恩人……? 分かった。我慢する」
俺が言えば大人しくなってくれるヤマトを連れ、パイセンの背中を追って駆け出す。
ちらりと上空を見てみるが、カイドウの姿は見当たらない。
パイセンの糸分身が健闘しているか、それなりに時間が経過したから一度探索を打ち切ったかのどちらかだろう。
何気に俺が爆風と爆音を抑え込んだことも貢献している……と思いたい。
海岸沿いまでやって来た俺たちは船の姿を探すが、酷い嵐で船の姿なんてどこにも見当たらないような状況だ。
パイセンは苛立った様子で腕につけている小型の電伝虫に向かって怒鳴った。
「おい、応答しろ! 船はどうなっている⁉」
『……ザザ……すいません……海流の流れが激しすぎて……海岸沿いまで近づけるのは……無理です!』
「ちっ、そういやこの辺りの海流は異常なんだったな」
舌打ちしたパイセンだが、次の瞬間には思いっきり悪い顔をしながら舌なめずりをした。
「守りは盤石。難攻不落のワノ国か……ますます欲しくなるじゃねェか……!」
「パイセン、舌なめずりははしたないですよ」
「そうだ、そうだ。汚いぞ」
「……コイツら、海流に巻き込まれて死なねェかなぁ」
ドフラミンゴはぼやきながらどうやって脱出したものかと思案する。
その一方、クソ馬鹿2人は呑気に会話をしていた。
「あっ、そういえばヤマト。一緒に俺たちと鬼ヶ島を出るってことで良かったのか?」
「うん。君たちが強いのは分かるけれど、流石に戦力差が大きすぎるからね。ワノ国の頼りになる侍たちも
あー、そうか。今は原作開始前だった。
赤鞘九人男たちはまだ時空の狭間か。
「確かに戦力差は如何ともしがたいよなぁ……パイセンの仲間たちじゃ力不足だし」
「誰の家族が力不足だって⁉ あと、もうちょっと真面目に脱出の手段を考えろ馬鹿どもが!」
「脱出か……ヤマト、どう?」
「ちょっと待ってね。うーん……今なら大丈夫なんじゃないかな?」
「うし。じゃあ、パイセン。そういうことなんでよろしく」
「????」
ドフラミンゴは首を傾げた。
「何を言ってんだ? テメェ」
「いや、だから――ヤマトに敵の気配が近くにないかどうか聞いて、いないといったから今なら多少派手なことをしても居場所はバレないと思いますよ~、船の人たちに連絡よろしく――って言ったんです。ね、ヤマト」
「うん」
「なんだコイツら気持ち悪っ」
ドフラミンゴは本気で引いた。
なんで出会って数時間で熟練の相棒みたいに主語抜きの会話をしているのか。
地道に人との関係を築き上げてきたドフラミンゴには心底理解できない人種たちだった。
「ま、まぁ……近くに追手がいないならいいか。――こちらジョーカー。聞こえるか? 船の位置を信号弾で知らせろ。上陸できないならこちらから飛んでいく」
『ザザ……了解しました』
ちょっと間を置いて、少し遠くの方で赤い信号弾が打ちあがったのが見えた。
「あそこか……良し、飛んでいくぞキリア。そこのアホ娘はお前が背負っていけ」
「だから誰がアホだ! 桃色野郎!」
「どうどう、落ち着けヤマト。俺が背負っていってやるからさ」
「うん! よろしく!」
「……なんでだろうな。俺ァこの先、驚くほど苦労するような気がしてならねェよ」
変なことを言いながらパイセンは一足先に糸を雲に引っかけて浮かび上がり、鬼ヶ島から信号弾の船まで飛び始めた。
「さて、俺たちも行くとするかヤマト」
「うん! あの竜の翼で飛んでいくんだろう?」
「あぁ。――でも、それだけじゃあ芸がないな。折角だから俺の変身を見せてやるよ!」
というわけで、久々の変身だ!
能力の覚醒に伴って手に入れた頭が三つある形態は流石に怖がられるかなと思ったので、最初期に使っていた胴体の殆どが獅子で、後ろ脚が山羊、そして竜の翼と蛇の尾を持つ形態に変身した。
「わぁ~! 凄い! カッコいいよキリア!」
『ありがとう。あんまり人に褒められることがないから嬉しいよ。さぁ、俺の背中に乗ってくれ』
「では失礼して――おぉ、この毛、モフモフだ」
そういやパイセンはキモイとか酷いことを言って乗りたがらないので、人を背中に乗せるのは初めての経験かもしれない。
結構テンション上がるな。
『良し、それじゃあ準備はいいかヤマト』
「…………うん」
『……どうした。何か思うところがあるなら遠慮なく言っていいんだぞ』
「君は鋭いなぁ……いや、この島を出ることに迷いはないんだ。ただ、不思議な縁だと思っただけで」
『不思議な縁?』
「君のことさ。僕を外へ連れ出してくれるのがまさか、竜の翼を持つ百獣の王とはね……」
『百獣の王というには色々と混ざりすぎている気はするけどな。でも、そんなもんだろう。不運の連続、予期せぬ出会い……戸惑いこそが人生だよ、ヤマト君』
「――そっか、そうだね! これが人生だ!」
ヤマトは後ろを振り向き、そっと心の中で言った。
“行ってきます。僕を生かしてくれた皆。たくさんの味方を連れて必ず父を討ちに戻ってくるからね”
『さぁ、行くぞ! ヤマト!』
「あぁ、行こう! キリア!」
竜の翼が羽ばたき、百獣の王の身体が空に浮く。
ヤマトは生まれ育った故郷に一時の別れを告げ、自分を鎖から解き放った男の背中に乗って自由な海へと飛び出した。
◆◆船中◆◆
嵐が酷くなかなか厳しいフライトとなったが、こと空中において俺が遅れを取るはずもなく。
『お先~!』
「じゃあな――!」
「クソ餓鬼どもが……!」
ヤマトを背中に乗せた俺は悠々とパイセンを抜き去り、信号弾を打ち上げた船へと辿り着いたのだった。
「へぇ、これが僕の初めての冒険の船か‼」
眼をキラキラさせながら割と大きな(元百獣海賊団の)船を見渡すヤマト。
俺は遅れて到着したパイセンに言った。
「結構いい船を盗んできたんですね、パイセン」
「盗んできたのは潜入していた俺の部下たちだがな。テメェのせいで城の中は混乱の極みだったから、海に捜索に出るとか適当な言い訳をつけたら簡単に出港できたんだとよ」
「じゃあ、俺の手柄ですね」
「今すぐ海に突き落とすぞ元凶が」
パイセンの冗談はいつも通り聞き流すとして。
ヤマトは初めて乗る船に興奮を隠しきれないらしく、船のあちこちを動き回っては俺やパイセンの部下にあれこれ聞いてくる。
今まで憧れを止められていたんだ。その反動でこうなるのも仕方がないことだろう。
「――で、これからどうするつもりなんです? ドフラミンゴ先輩」
ヤマトがいる手前頑張って意地を張っていたが、カイドウの一撃にパイセンのパンチに右腕の消滅&再生とそれなりに消耗していた俺は船室に設置されたソファに座って一息ついていた。
あぁ、今すぐにでもベッドで寝たいな~。
パイセンは早速船に常備されていたワインボトルを開けて直にボトル飲みをし始めた。
ちなみにヤマトはまだ甲板ではしゃぎまくっている。
「さっき俺が言った話ですけど、冗談でもなんでもなくパイセンの部下たちじゃあ、百獣海賊団には太刀打ちできないと思いますよ。それは糸分身を戦わせたパイセン自身が一番分かっているんじゃないですか?」
「……」
無言でワインをがぶ飲みするパイセン。
「それに一番の問題のカイドウ。あれ――ヤバいですよ」
「……一撃食らってどうだった?」
「次食らっても何割威力が落とせるか俺にも分からないです。雷鳴八卦だったかな? あの技は。まぁ、感覚的に雷鳴六卦くらいまでは落とせるかもしれないですが……」
「じゃあ、あと三発くらえばノーダメージだな」
「俺はサンドバックじゃないっすよ」
分かっているとは思うが、一応補足を入れておく。
……えっ、分かってるよね?
「それから、あくまでも耐性がつくだけであって、ノーダメージになることなんてないですからね」
多分、雷鳴二卦くらいまではダメージ入るんじゃないかな?
「……正直に言え。俺とお前の二人掛かりで勝てるか?」
「無理です。――少なくとも、今のままじゃ」
「そうか……」
パイセンは再びワインをがぶ飲みしてから額に手をやって考え事を始めた。
こうなったら長いからな。俺は疲労回復のために仮眠でも――
「――って、ちょっと待て。おいキリア。お前、カイドウと戦う気になったのか?」
「何をいまさら。もちろん戦いますよ」
「……あれだけ戦うことを渋っていた男とは思えねェな。どういう心境の変化だ?」
「決まっているじゃないですか」
俺は甲板で楽しそうにはしゃいでいるヤマトを見ながら言った。
「友達のためですよ」
「……お前、本当にキリアか?」
「あのね、俺のことなんだと思っていたんです?」
「傍迷惑鬼畜珍獣サイコパス」
「罵倒のオンパレード――⁉」
しかもこれをパイセンに真顔で言われるとかいう屈辱!
だけど、俺ってマジで普通に友達のために命張れる男なんだけどなぁ……今まで友達いなかったから知らなかっただけで。
「……まぁ、動機はなんであれ、テメェがやる気になったのはいいことだ」
「驚いたのは俺も同じですよ」
「あん?」
「ドフラミンゴ先輩、本気でカイドウの首を狙っているんですね。あの一撃を見ても、なお」
「当たり前だ。もう腹は括った。後はどうするかを考えて実行するだけだ」
「ヒュ~、カッコいい」
「茶化すな。お前にも死ぬほど働いてもらうからな」
「でも、具体的にどうするんです? 一旦ドレスローザに帰ります?」
「あぁ。ファミリーにもきっちりと今後の方針を伝える必要があるからな」
「怒り心頭のカイドウが急に攻め込んできたりしないですかね?」
「流石に世界政府加盟国でかつ七武海の領土に攻め込んでくることはねェだろ。それに――」
甲板ではしゃぎ疲れたのか、2人がいる船室に入って来たヤマトを見ながら言った。
「いざとなったらこっちにはカイドウの息子にして、プルトンの鍵を握る人質がいる。カイドウも下手に手出しはできねェだろうさ」
「……プルトン?」
「あぁ? テメェが言ったんだろうが。なんたら戦艦ヤマトってよ」
「……」
記憶を巻き戻し中。
『……宇宙戦艦ヤマトって知ってます?』
あっ、
『……宇宙戦艦ヤマトって知ってます?』
うーん……
『……宇宙戦艦ヤマトって知ってます?』
言った……ねぇ……
「……パイセン」
「なんだ?」
「それ、パスでお願いします」
「なんだそりゃ⁉」
かくかくしかじか。説明終わり。
パイセンは俺の胸ぐらを掴み、額に血管を浮かび上がらせながら迫力満点の顔で言った。
「つまりなんだ、テメェはこう言いたいわけだ。
「……あい」
「ぶっ殺されてェのかテメェ⁉」
「……いえ」
パイセンマジギレ。
久々に見たかも、ここまでキレている姿。
するとタイミング悪くやって来たヤマトが怒りながら俺とパイセンを引き離した。
「おいお前! キリアに何をしているんだ!」
「お前にこのクソ馬鹿がどれほど傍迷惑な馬鹿か教えてやってもいいが、今はテメェにも腹が立ってんだクソが! ヤマトとかややこしい名前しやがって! カイドウのネーミングセンスはどうなってんだクソッタレが!」
「僕の名前はヤマトじゃなくて光月おでんだ!」
「じゃあキリアが呼んでいるテメェの名前は何なんだ⁉」
「正式なおでんになるまでの僕の名前だ!」
「……じゃあテメェの名前じゃねェか! あと、正式なおでんとやらには絶対にツッコまないからな!」
「僕はワノ国も救えていない未熟な身。でもいつかきっと、父を倒し、光月おでんになってみせるんだ」
「だから! 聞いてねェんだよテメェの身の上話は! クソアホ女が!」
「誰がクソアホ女だ! いいか良く聞け! 僕の名前はヤマトだ!」
「…………ヤマトじゃねェか‼」
まぁ、ヤマトだよね。
2人とも仲良さそうで安心した。
じゃあ、俺は疲れたんで寝まーす。
お休みなさーい。Zzz。
「お、おい! 寝るなキリア! テメェ、俺をこの頭おかしい女と2人きりにするつもりか⁉」
「誰が頭おかしい女だ! 桃色野郎!」
「誰が桃色野郎だ! いいか、俺の名前はドン――――」
「フフフ、やめろよ船長……それは俺の肉だって……むにゃむにゃ」
悪のカリスマ。
怪物狂人。
侍に憧れる鬼姫。
色々とバラバラな3人を乗せ、船は進む。
疲労困憊のドフラミンゴはギャーギャーやかましい女を相手にしながら思うのだった。
あーあ、コイツらマジで死んでくれねェかなぁ、と。
ヤマトとドフラミンゴ先輩の相性は最悪です。
この2人両方と相性が良いキリア君はやっぱり色々おかしいよ……