今回は結構長めです。
内容はタイトル通りなのと、普段よりちょっと熱気と湿度高めです。
「あれ? おでん……じゃなくてパイセンじゃないっすか。ういーっす」
「僕たちを追放しておいて、今更何しに来たんだ桃色野郎」
「……着いて早々に問題を起こしたお前らを処分なしなんて出来るわけがねェだろうが。俺の立場も考えろ」
盛り上がっていた俺たちの前に現れたパイセンは島に着陸すると焚火を囲んでいる俺たちの横にドカッと座り込み、焼いていた肉を勝手に取って食い始めた。
「あっ、おい! それはキリアの肉だぞ!」
「テメェらの後処理で飯を食う時間もなかったんだ。全く、ふざけやがって……!」
そう言ってやけ食いを始めたパイセン。
まぁ、確かに迷惑を掛けた自覚があるので反発しているヤマトを諫めつつ、肉を焼いて渡していく。
一通り食って満足したのか、ドレスローザから持ち込んだらしい酒を飲みながらパイセンは語り出した。
「――先に言っておくが、テメェらの追放を取り消すつもりはねェ。そうしねェと俺の家族たちに示しがつかないからな」
「分かってます。……ところで、モネちゃんはどんな様子でした?」
「パエリアをやけ食いしてたぞ。お前らがドレスローザに入るのは禁止だが、向こうから来る分には禁止にしていない。ま、そのうち会いに来るんじゃねェか? その時にしっかり話し合っておけよ。テメェらの痴話げんかで振り回されるのはもううんざりだ」
「……了解っす」
「……」
今回ばかりはパイセンの言うことが正しい。
そろそろモネちゃんとしっかり話し合わなくちゃいけないな。
今後のことについて。
「それから俺のファミリーには明日、カイドウとの戦いについて話す予定だ。お前たちはそうだな……適当に修業でもしてろ」
「扱いが雑っ!」
「もっと僕らのことを尊重しろ!」
「ブーメラン発言って知っているか?」
◆◆翌日◆◆
ドレスローザを追放されているとやはり暇なもので、ヤマトも人と接触できない以上は戦力の増やしようがない。
仕方がないのでパイセンが言っていた通り、俺とヤマトは朝から晩まで2人で修業に明け暮れていた。
まぁ、修業と言っても俺とヤマトで戦っていただけだが。
「やっぱり強いなヤマトは!」
「キリアもね! クソ親父を殴り飛ばしただけのことはある!」
お互いにリスペクトできる友人同士での修業とはここまで捗るものなのか。
俺たちは時間も忘れてひたすらに戦っていた。
気が付けばもう夜だ。
「でもやっぱり覇王色の纏いは難しいなぁ……どうなっているのかさっぱり分からない」
「僕も原理がどうこうは良く分かっていないんだ。クソ親父の技を真似して力を籠めたら自然とこうなったというか……」
再び2人で肉を焼き、かっ食らいながら今日の反省を行う。
今話している通り、覇王色の纏いは全く身につかない。
これが使えればかなりの戦力になると思うんだけどなぁ……。
「肉寄越せ」
「うわ⁉ ビックリした! 急に上から降ってきてどうしたんですパイセン?」
「疲れたんだよ。いいからさっさと肉を寄越せ」
そうやってヤマトと話しているとまたしても突然空から肉寄越せ妖怪がやってきた。
アンタ、そんなに腹減っているならドレスローザで食ってから来いよ……。
暫く無言で肉を食っていたパイセンだが、やがて満足したのか持ち込んだ酒をグビッと飲み干した。
「――で、ファミリーへの説得はどうでした?」
「予想に反して随分と苦労したぜ……殆どの奴らは最初から俺に賛同してくれていたが、トレーボルとアイツの派閥がやけに反抗的でなァ……こんな時間になるまで話し合いが長引いた」
「トレーボル……あぁ、あの上昇志向が低そうなキモいおっさんですか」
「おい! 俺の家族をバカにするんじゃねェ! おおよそ合ってはいるがな!」
あらら。こりゃあ、深刻に揉めたみたいだな。
冗談口調とはいえ、普段だったら俺の言葉に同調なんてするはずもないのに。
よっぽどトレーボルと酷い言い争いをしたんだろう。
「でも説得には成功したんですよね?」
「あぁ。だが、ちと考えなおす必要がある点も見つかった」
「最近少しだけマシになったパイセンのファッションセンスですか?」
「……トレーボルの俺への態度だ」
ドフラミンゴは思い出す。
あのサングラス越しに見えたトレーボルの目線を。
馬鹿なことを言い出した子供を見下すような、賢い大人ぶったあの視線を。
「――改めて教えてやる必要があるな。
組織のボスを立てられない組織に待つのは崩壊の道だけだ。
ドフラミンゴは静かに怒りの炎を燃やしながら今後の部下たちへの対応を真剣に検討していた。
「――ところでキリア、今更だがこのヤマトとかいうアホ女は戦力として使えるのか?」
「なんて失礼な奴なんだ⁉ キリア、コイツからやってしまおう!」
「どうどう、落ち着いてヤマト。パイセンも、そんな煽るような言い方しちゃダメですよ。ヤマトの血筋を忘れたんですか?」
「カイドウの娘だろう? だが、それだけじゃあなァ……」
「むっ、言っておくが僕は、数えきれないくらいあのクソ親父と戦い続けて鍛えられてきたんだ! 生半可な奴には負けないぞ! 特にお前のような奴にはな!」
「上等だ。そろそろお前に礼儀ってやつを教えてやりたいところだった。その細い金棒を構えろ、クソ餓鬼が」
「ちょ、ちょっと落ち着いて2人とも……」
なんでこの2人はこんなに相性が悪いんだ?
顔を合わせれば喧嘩している印象しかないぞ……。
「でもキリア! コイツが!」
「おい、キリア。本当にこの女、使えるんだろうな?」
2人いっぺんに話しかけないでよ……聞き取れるけどさ。
「あぁ、ヤマト。一旦落ち着いて? ね?」
「パイセン。ヤマトの実力は本物ですよ。なにせ、覇王色の纏いも習得しているくらいですからね。俺も今、教えてもらっている最中です」
「覇王色の纏いだぁ……? いや、それも気になるがそれ以前にテメェ、
「あっ――」
かくかくしかじか。説明終わり。
パイセンは俺の胸ぐらを掴み、額に血管を浮かび上がらせながら迫力満点の顔で言った。
「つまりなんだ、テメェはこう言いたいわけだ。これからカイドウに挑もうっていう一蓮托生の仲にも関わらず、見せ場がないから俺の前では披露しなかったと……!」
「……あい」
「戦いを舐めてんのかテメェは!」
「……いえ」
パイセンマジギレ。
久々に見たかも、ここまでキレている姿。
いや、つい先日船の中で見たばっかりだったわ。
パイセンは暫く血管を浮かせて怒っていたが、やがて無意味な怒りであることに気が付いたのか、掴んでいた俺の胸ぐらを離した。
「……おい、
「というと?」
「覇王色の纏いの話だ。本当にお前は人に教えられるのか?」
「……正直言って、人に教えられる自信はないよ。僕だって数えきれないくらいクソ親父と戦う中で技を盗んで覚えたものだからね。でも、だからこそ実戦の中で見せることは出来る。後は君たち次第だ」
ようやく名前で呼び、さらに真剣なドフラミンゴ先輩の雰囲気を感じ取ったヤマトもまた真剣にそう答える。
「そうか……確かにカイドウと戦い続けたとかいうその経験は役に立つかもな……」
例によって暫く無言で考え込んでいたパイセンだが、持ってきたボトルに残っていた酒を一気に飲み干すと俺とヤマトに向かって告げた。
「――おい、明日から俺も参加する。3人で修業をするぞ」
「「はい?」」
◆◆翌日◆◆
さて、そういうわけで翌日より俺、パイセン、ヤマトの3人による修業が始まった。
急に自分も修業をすると言い出した時はビックリしたが、そこにはしっかりとしたパイセンなりの理由があった。
「よくよく考えてみると、お前たち2人はカイドウを想定した敵役としてこれ以上ないほど適任だ。キリアの理不尽な防御力。そしてヤマトの覇王色纏いに、数えきれないくらいカイドウと戦って得たとかいう戦闘知識。どうせ他の技も盗んでんだろ?」
「「……」」
「正直、お前ら2人を足した程度じゃあ、カイドウには遠く及ばねェが、それでも能力的には似たようなものだろう。キリアは混ざりものとはいえ竜でもあるしな」
俺はヤマトと顔を見合わせ、頷いた。
「……パイセンにしてはいい案ですね。確かに俺は防御力の面だけで言えばカイドウと似たようなものかもしれないです。仰る通り、竜でもありますしね」
「……桃色――ドフラミンゴに同意するのは癪だけど、確かに理にはかなっている。それに言われた通り、僕はカイドウの技をある程度コピーしている。威力までは真似できていないけどね」
考えれば考えるほど俺とヤマトは対カイドウ戦においてこれ以上ないほど最高の練習相手だったのだ。
俺がもつカイドウ並の防御力に、ヤマトがもつカイドウの攻撃から盗んで学んだ攻撃力。
俺に関しては混ざりものとはいえ竜でもあるし、空中戦も可だ。
ヤマトならカイドウの戦いの癖なんかも知っているだろう。
この3人で訓練することが、どれほど意味のあることなのか。
俺は背筋に震えが走ったのを感じた。悪寒じゃない。武者震いだ。
俺たちは、きっともっと強くなれる――!
「――でもパイセン、もうちょっと頑張ってくれないと訓練にならないっすよ?」
「もう終わりかー?」
「ハァ……ハァ……やかましいぞ、クソ餓鬼どもが……なんでテメェら、会って間もないのに連携が完璧なんだよ……!」
「なんでって言われてもなぁ……ヤマト」
「あぁ、キリア」
「「俺/僕たち、友達だし」」
「テメェらの友達の定義はどうなってんだ……! ハァ……ハァ……」
肩で息をしながら文句を言うボロボロのパイセン。
俺たち単体ならともかく、流石に2人同時に相手にするのはかなり堪えたらしい。
あと、ドレスローザで引きこもって余裕の黒幕顔かましているうちに鈍ってしまったところもあるのだろう。
「パイセンの攻撃は目に見えにくいし、殺傷能力も高めだとは思いますけど、如何せん攻撃力がちょっと物足りないですね」
「そんなんじゃあ、クソ親父の皮膚に傷をつけることもできないと思うよ?」
「俺ももう慣れちゃいましたしね。どうにかして攻撃力を高めないとカイドウと戦うのは厳しいと思いますよ」
「……分かっている。今のままじゃあ勝てねェことくらい、分かってんだ」
一度は疲労のあまり座り込んだパイセンだったが、すぐに立ち上がるとトレードマークであるピンクジャケットを脱いで木の枝に引っかけ、黒いシャツを腕まくりして両腕を露わにさせた。
「もう一回だ。来い、クソ餓鬼ども」
「……いいガッツじゃないですか。見直しましたよ」
「……次はもっとカイドウの動きに寄せていくぞ」
ドフラミンゴ先輩が糸を操る。
俺は竜形態で襲い掛かる。
ヤマトが金棒に覇気の雷を纏わせながら突撃する。
グリーンビットが衝撃に揺れた。
◆◆翌日以降――◆◆
さて、そんなわけで俺たち3人はグリーンビットで修業に明け暮れていた。
パイセンは自分の部下たちへの鍛錬も強制し始めたらしく、時折俺たちのところに幹部を連れてきて強制的に戦わせたりしている。
まぁ、俺たちの圧勝なんだけどね。
さらに幹部たちを鍛えなおすだけではなく、武器工場やらそこら辺に割いていた人員も全員戦闘要員に転換予定なんだとか。
……大丈夫? ストライキとか起きない?
けど、そこは流石のカリスマ。
全員文句ひとつ言わずにきっちり訓練をこなして戦闘要員は着々と増えているらしい。
人員配備をこんなに簡単に変更できるとか、内政チートかよ。
そんなわけでパイセンは色んな調整事項があり、毎日ドレスローザとグリーンビットを行き来して忙しそうにしている。
俺&ヤマトのコンビに結構ボコられているはずなんだが、どこからあんな体力が湧いてくるんだか……原作読んでいた時も思ったが、本当にタフだなあの人。
ちなみに、俺とヤマトも修業だけしているわけではなく、2人でドレスローザから持ってきてもらった用紙を使って鬼ヶ島の見取り図を作ったり、対カイドウ相手の作戦を練ったりしていた。
……あと、修業を始めて一週間くらい経った頃にモネちゃんがグリーンビットに来てくれた。
ヤマトがいるとまた話がこじれそうだったので、見聞色で彼女の気配を察知した瞬間に今日の夕食確保をお願いして森へ狩りに行ってもらっている。
「……久しぶりね、キリアさん」
「久しぶり。モネちゃん」
こうして静かな場所で2人きりになるのは本当に久しぶりだ。
少し時間を置いたことで落ち着いたのか、モネちゃんの顔に怒りはなかった。
……少し瘦せてしまったようだが。
「ちょっと、歩こうか」
いつかのドレスローザみたいに2人で肩を並べてグリーンビットの砂浜を歩く。
さて、どう話したものかと思案していると、モネちゃんの方から先に口を開いた。
「……ねぇ、キリアさん」
「なに?」
「あなたは本当に不思議な人ね。そうして黙っていればどこにでもいる男の人だけど、本当は七武海で、名前もキリアで、至るとこで波乱を巻き起こしている超問題児。うふふ、若様が振り回されているのも納得ね」
「……」
「私、あなたのそういうミステリアスなところも含めて好きになったわ。正体が分からなくて、余裕綽々としているあなたのことが」
確かにモネちゃんに全てを隠して近づいた時の俺は正体不明の怪しい男にしか見えなかっただろう。改めて振り返るとよく付き合ってくれる気になったなと驚くほどだ。
「……でも、こうして恋人になった今は思うの。ミステリアスさなんて要らない。本当のあなたのことが知りたいの」
「本当の俺?」
「ねぇ、教えてキリア。あなた、何を考えているの? 私のこと、どう思っているの?」
「……」
2人同時に歩みを止める。
「……今はカイドウを倒すことしか考えていないよ」
「それはあのヤマトとかいう女のため?」
「……彼は男だ。そして、友達だ」
「友達? 前にも言っていたけれど、それは本当に……」
「
モネちゃんの瞳を真っすぐに見つめて俺はそう言い切った。
暫く見つめ合っていたが、やがてモネちゃんは溜息をついてから視線を外した。
「……あなた、軽薄に見えてたまに恐ろしいくらい律儀ね」
「俺はいつも律義さ」
「おー、おー、浮気男がよく言うじゃない!」
「いひゃいです……すいまひぇんでした……」
モネちゃんに思いっきり右の頬をつままれて説教される。
「ていうか、あの浮気はなんだったのよ⁉」
「いや……あれは、暴漢に絡まれていたところを助けようと……」
「じゃあ、私を助けた時と全く同じ台詞回しだったのはどういうことかしら⁉ なに、テンプレートなの? これ言っとけば女落とせるだろうとか甘いこと考えていたんじゃないでしょうね⁉」
「……すいまひぇん。考えてました」
「ッ! 最低!」
「ぶべらっ!」
死ぬほど痛いビンタを食らわされた。
まぁ、これは甘んじて受けておくしかないだろう。
「まったくもう! ……まぁ、のっぴきならない事情があることは何となく分かったけどね」
「えっ」
「……後から思い返してみたのだけど、あの時のあなた、相当凄い顔色だったわよ。その上手な口を回す余裕がないくらいにね」
「……」
「いいわよ。答えられないなら。……そんな顔されちゃ、どうにもできないじゃない」
そう言ってそっぽを向くモネちゃん。
……ヤバいな。モネちゃん、いい女すぎる。
思わず衝動的に全部ぶちまけたくなるが、流石に革命に関わる大事なので何とか口を噤んだ。
「……モネちゃん、実は俺からも大事な話があるんだ。今後のことについて」
「……」
「君のことは変わらず好きだ」
「――っ、相変わらず、腹立つくらいストレートね!」
「でも、ずっと一緒には居られないとも思っている」
赤くなったモネちゃんの顔色が元に戻る。
すっと海賊団の幹部らしい顔になったモネちゃんが尋ねてくる。
「……それは、私たちの敵になるかもしれないという話のこと?」
「そうだ。そう遠くない未来、俺は君たちと敵対することになる」
「……それはなぜ?」
「どうしても、海賊王にしたい男がいるんだ。それこそ、君にとっての若様のような男がね」
これだけは譲れない。
ルフィを海賊王にするのであれば、ドンキホーテ・ドフラミンゴとの対立は必須。
俺はパイセンとの今の関係を悪くないと思っているが、それでも憧れは止められない。
「……そう。確かにそれは、対立は避けられないでしょうね……」
「だから、本当は君を俺の側に引き込みたかったんだ」
「……それが私に近付いた目的ってわけ?」
「それだけじゃないが……まぁ、それはおいておくとして」
「気になるわね。今教えて」
「可愛かったからです」
「……スルーすることにするわ」
赤面するなら聞かなきゃいいのに。
ゴホン、と咳払いしてから話を元の軌道に戻す。
「君は俺の想像を遥かに上回るドフラミンゴへの忠誠を見せた。……無礼を承知で聞くが、俺と若様、どちらのために死ねる?」
「当然、若様よ」
「……悔しいが、見事だ」
一点の曇りもない忠誠心を見せられてはどうしようもない。
彼女はきっと、今ここでドフラミンゴに命令されたら俺を殺しに来るのだろう。
彼女は既にドフラミンゴのものだ。
それはきっと、変わらない。
俺に向けられている感情はきっと、ドフラミンゴに捧げているところとは別のところにあるものなんだろう。
「……だからさ、モネちゃん」
俺は無茶を承知でその願いを口にした。
「俺たちが敵になる日まで、俺と一緒に居てくれないか?」
「――――」
唖然。
正しくそういう顔をしていた。
「……あのねぇ、あなた相当無茶苦茶なことを言っている自覚はある?」
「あるよ。嫌なら嫌と言ってくれればいい」
「……ズルい」
はぁ、と深い溜息をついたモネちゃんはドレスローザ本土を眺めた。
「……ねぇ、あなたが私をドンキホーテファミリーから引き抜こうとしたのと同じように、私があなたをこちらへ寝返らせることもありよね?」
「好きにすればいいよ。でも、俺が揺らぐことはない」
「……意地悪を承知で聞くけど、私とその男、どちらのために死ねる?」
「その男のためだ」
「……不思議な話ね。お互いに本命が別だなんて……どうして私たち付き合っているのかしら?」
「さぁ? 好き合っているからじゃない?」
「……ばか」
すっとモネちゃんが近づいてきたのでそっと抱きしめた。
まぁ……なんだ。
色々と曖昧なままだが、一先ずは仲直りOKってとこかな?
「あぁ、そういえば、もう1つ教えて欲しいことがあるの」
「なに?」
俺の胸に顔を埋めていたモネちゃんが上目遣いで言った。
「あなたが最初に名乗った偽名……レオン。あの名前に由来はあるの? 七武海とバレたくなかったから適当に考えた偽名ならそれでもいいのだけれど……」
「……」
“いい? キリア。お母さんのこのお腹に向かって呼んでみなさい”
“さっき教えてくれた名前のことー?”
“そうよ。彼はね、あなたをお兄さんにしてくれる人。私の大事な息子で、あなたの大事な――”
「弟だ」
「弟さん?」
「あぁ……生まれてくることができなかった俺の弟の名前だ」
「……そう。教えてくれてありがとう」
優しく微笑むモネちゃん。
こうして、一応俺たちは仲直りすることができたのだった。
さて、モネちゃんは落ち着いてさえいれば、人の話をしっかり聞いてくれる人だ。
相変わらずコアラちゃんのことは俺の一時の気の迷いということでゴリ押すしかない状況だが、ヤマトのことは彼の鬼ヶ島での境遇も含めて色々と説明をした。
父親に爆発する錠を取り付けられ、長らく束縛されていたこと。
錠を外した俺にえらく懐いていること。
侍に憧れていることは本当のこと。
打倒カイドウを掲げ、俺と修業中のこと。
「……色々と訳ありの子だったのね」
俺の説明の末、モネちゃんはヤマトのことを極度の世間知らずで、身体だけ大きくなった子供と認識してくれた。
あながち間違いじゃないんだけど、本人が知ったら怒りそうだな……。
まぁ、そんなわけで仲直りもできたわけだし、子供に優しい(原作だと変なベクトルに、だが)モネちゃんはヤマトに対する態度を軟化させた。
向こうの態度が柔らかくなれば、ヤマトも困惑はしつつも突っかかることはしない。
2人は少しずつ歩み寄っていく。
さらにはこんな感動的なイベントまであった。
「はい。プレゼントよ、ヤマト」
「……これは何だ?」
「いいから、開けてみなさい」
修業を始めて約2週間後。
ちょくちょくグリーンビットに顔を出していたモネちゃんだが、ある日小包を抱えてやって来たかと思うと、それをヤマトに差し出した。
困惑しながらも袋を開けたヤマトは驚きながら震える手でそれを取り出した。
「こ、これは……日誌と筆と墨?」
「こっちでは羽ペンとインクというのよ。あなた、おでんという侍に憧れて航海日誌を読み込んでいるんでしょう? 憧れるのはいいけれど、どうせなら自分でも日誌を付けてみたらいいんじゃないかと思って……」
「モネッ‼」
「きゃっ」
ヤマトは大事に日誌とペンを抱えながらモネの右手を両手で握っていた。
その目には感動で涙が浮かんでいる。
「ありがとう! 一生絶対必ず大事にするよ!」
「お、大袈裟ねぇ……」
顔を赤くしながら照れるモネちゃん。
ヤマトは余程嬉しかったのか、グリーンビットの砂浜を駆けまわりながら大はしゃぎしている。
「そうだ! どうして思いつかなかったんだろう? 偉大なるおでんは自分の辿って来た旅の記録を記して後世に伝えていたじゃないか! であれば、後を引き継ぐ僕も同じように記録を残しておく必要がある! よーし、早速今日から日誌をつけていくぞ! 僕の伝説を書き記していくんだ!」
確かにヤマトの言う通り、俺の方も完全に盲点だった。
憧れを止めない手段としてこういうものもあったとはな……。
ここら辺は生真面目で自身も日誌をつけているモネちゃんらしい配慮だったと言えるだろう。
「ありがとうモネちゃん。俺じゃあ、こういう気の利いたプレゼントは思いつかなかったよ」
「どういたしまして」
そういって完璧なウインクをするモネちゃん。
うーん……美しすぎるんだが。
「――なんだ、随分と盛り上がっているじゃねェか」
「若様!」
「うっす、パイセン。モネちゃんがヤマトにプレゼント持ってきてくれたんですよ」
「そうか。気が利くな、モネ」
「そ、そんな……若様、過分なお言葉です」
なんか、俺に褒められた時より喜んでない?
まぁ、モネちゃんの中では恋人<若様らしいから仕方がないことなのかもしれないが……ちょっとムカつくな。
「おい、ヤマト! 今からパイセンをボコるぞ! 今日は徹底的にいこう!」
「了解だ! よーし、最初の日誌は相棒と一緒に桃色を討伐、でいくか!」
「あぁ? おい、どうした? 急にやる気を出して――」
「「覚悟!」」
「ちょ、ちょっと待――」
そうして充実した修業期間を送っていた俺とヤマト(ついでにパイセン)。
このまま順調に力を蓄えていくものだと思っていた。
何事もなく、グリーンビットで楽しくやっていけるのだと思い込んでいた。
しかし。
そんな俺たちの油断を嘲笑うかのように、その災害は突如飛来した。
◆◆◆◆
修業開始から約1か月後。
その日の天気は曇時々雷。
竜巻も発生し、不用意に外へ出るとかまいたちが襲い掛かってくるでしょう。
市民の皆さんは十分にご注意ください。
「ウオロロロ!」
ドレスローザ上空。
「俺の息子は無事なんだろうなァ、ジョーカー」
そこには、怒れる青龍が座していた。