七武海ですが麦わらの一味に入れますか?   作:赤坂緑

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悪魔の実が当たりだったので調子に乗っていいですか?

 あの悪魔の実を食ってから2年。

 

 俺は襲い掛かってくる追手を難なく撃退しつつ、適当な海賊を襲って財宝を奪い取る海賊狩り専門の海賊みたいなことをしていた。

 賞金稼ぎになることも考えたんだが、俺自身が賞金首である以上、賞金を貰いに行って逆に命を狙われるという可能性もある。

 変装すればいいという意見もあるかもしれないが、長期潜入するわけでもないのに変装するのは非常に手間が掛かるし――なにより、魂に刻まれた海軍への苦手意識が拭えず、能力の鍛錬も兼ねて独力で海賊を狩り続ける生活を送っていた。

 

 さて、悪魔の力を手に入れたことで久々(約12年ぶり)にゆとりある生活を手に入れた俺の中にはある一つの夢が生まれていた。

 

“麦わらの一味に入って冒険をする”

 

 この世界に生まれ変わったのであれば、誰もが一度は考える夢だと思う。

 もちろん、原作のお邪魔をするつもりは一切ない。

 強いて言えば、敵幹部との戦闘が俺のお陰でちょっとだけ楽になるかもしれないが、それ以外は基本的に原作通りに進んでいってもらいたいと思っている。

 ド至近距離で麦わらの一味に扮して感動を味わいたいのだ。

 

 仕入れた新聞によれば、まだ麦わらのルフィは表舞台に現れてはいないから原作前であることは間違いない。

 だが、決して時代が前すぎるということもなく、大海賊ゴール・D・ロジャーは既に処刑された後。つまり、世は正に大海賊時代真っ只中。

 

 あと数年我慢すればルフィが頭角を現し始めるはず。

 だから今のうちに力を蓄えておくのだ。

 

 合流はバラティエ辺りを考えている。

 ご飯おいしそうだし、悪魔の力を手に入れた今の俺なら鷹の目はともかく他の連中に手こずることもないだろうし。

 あと、ナミすわんと仲良くなれるイベントが間近に控えているし(ゲス顔)

 

 あの日食った悪魔の実は結果から言えば大当たりだった。

 原作には登場していないが、間違いなくこの世界の中でも強力な能力を手に入れられたと思う。

 その説明は後程するとして、今は――

 

「おい何してる⁉ さっさとあの化け物を殺せっ!」

「無茶言うな! あんな化け物をどうやって……」

「クソ! なんで俺たちがこんな目に……」

 

 のんびりと飛行している最中に見つけた海賊船。

 見るからに品がない船長のあほ面は手配書の写真と見事に一致。

 平和な島を襲っては略奪を繰り返している節操のない無法者たちだ。

 

 ――いいね。

 

 叩きのめしていい理由を用意してくれる奴は好きだ。

 

「お頭! また消えました!」

「またか……! 野郎ども! 周囲を警戒しろ! 奴がくるぞ!」

 

 不安そうに辺りを見渡す海賊たちを上から見下ろしつつ、俺は決着をつけるべく動き出した。

 風を切り、真っ逆さまに降下する。

 巨大な質量の塊と化した俺は海賊船のど真ん中に着弾し、数人を巻き添えにしながら甲板をぶち破った。

 

「「「ぎゃあああああああああ!」」」

 

 流石にこれ以上力を籠めたら底をぶち抜いて自分から海水に飛び込むダイナミック自殺となるため、絶妙な力加減が肝心だ。海賊船を三隻ほど沈めてようやく適切な加減を学ぶことが出来た。

 

「う、撃て! 奴は今真下にいるんだぞ⁉ 早く撃て!」

 

 船長命令で上から銃弾が撃ち込まれてくるが、痛くも痒くもない。

 そこまで精度が高いわけではないが、武装色の覇気を纏っているからだ。

 偶然にも覇気を使う海賊と海軍の戦いを目撃する機会があり、それを参考にちょっとずつ練習していくうちにそれっぽいことは出来るようになってきた。

 

 俺、この世界では結構才能あるほうなのかもしれない。

 

 ただ、幾ら覇気を使えるとは言え、上から撃たれ続けるのも鬱陶しいだけなのでそろそろ上がることにする。

 

◆◆名もなき海賊視点◆◆

 

 それは、突然やって来た。

 見張り役の俺がマストの上でボーッと空を眺めていた時のことだ。

 なんか、妙な鳥が飛んでいるなと思って望遠鏡をのぞき込み、そいつと目が合っちまったのが運の尽きだった。

 

 急に進路を変えたそれは凄まじい速度で俺たちの船に降り立ち、船長目掛けて襲い掛かって来たんだ。

 

 咄嗟に部下を突き飛ばして盾にしたおかげで船長は生きながらえたが、正直な話、全滅するのは時間の問題だと俺は思っていた。

 

「撃て! 撃ちまくれ! 弾丸は全部使っちまって構わねぇ! アイツを殺すんだ!」

 

 皆、青ざめた顔で大きな穴が開いた甲板の下に向けて銃を撃ちまくる。

 多分、無駄だと数人は気が付いていると思う。

 あんな怪物に銃が効くはずがねぇ。

 でも、そうするしかないんだ。

 みんな、絶対的な恐怖を前にして出来ることは泣きながら引き金を引くことだけなんだから。

 

 バキッ

 

 板が割れる乾いた音と共にそれは甲板の下からのっそりと現れた。

 

 

 まず目につくのは黄金の鬣。

 猛々しいそれは獣たちの王者の証。

 こんな海にいるはずのない獅子が牙をむいていた。

 

 胴体もまた殆どが獅子だった。

 人間など軽く引き裂けるであろう大きな爪、たくましい筋肉の集合体である胴体。

 だが、その後ろ脚だけは黒く、奇妙なことに山羊のものと思われる形をしていた。

 さらにもっと奇妙なことに尻尾は巨大な蛇となっており、ビビり散らす俺たちのことを冷酷に睨みつけている。

 

 そして最後に、その翼。

 空を悠々と飛んでいたそれは、俺の認識が間違っていなければ「()」のそれだった。

 

 獅子の顔と胴体、山羊の後ろ脚、蛇の尾。

 そして禍々しい竜の翼。

 この世ならざる異形の怪物。

 

 それを知識ある人々はこう呼ぶ。

 

 キマイラ、と。

 

「ひっ⁉ ば、化け物……」

 

『酷いことを言うじゃねぇか。傷つくぜ』

 

「「「しゃ、喋った⁉」」」

 

『あぁ、喋れるぜ。だが、お前らが喋れるのはこれが最後かもな』

 

 ニヤリとその顔が歪んだように見えた。

 

 銃を撃つ。剣を叩きつける。拳で殴る。

 その全てが効かない。

 ある者は爪で引き裂かれて、ある者は蛇に噛まれて毒で倒れ、またある者は山羊の後ろ脚に蹴られて気絶する。

 

「どうして……どうして、こんなことに……」

 

 男は絶望のままに呟いた。

 船員の数が片手で数えて足りるくらいになったころだった。

 船長はとっくの昔に前脚で殴られて気絶している。

 

『運がなかったのさ。俺も大概だが、お前らはもっとついてなかったな』

 

 返事を期待したわけではなかったが、怪物は律儀にそう返した。

 

「そうか……そうだな。この海では運がない奴から死んでいく。俺たちは、ついてなかったんだな。――なぁ、最後に一言いいか?」

『なんだ?』

 

 最後まで妙なところで律儀な怪物を可笑しく思いながら男は言った。

 

「テメェにとっておきの悪運を‼」

『最悪の遺言だなオイッ!』

 

 だが、最高に海賊らしい言葉だった。

 

 ――試してみるとするか。

 

 怪物は敬意を込めて彼を最近ようやく完成した最強の技で葬ることにした。

 大きく開かれた獅子の口から火炎が溢れ出る。

 それを放出することなく口内で一つのエネルギー体として凝集させ、的を睨みつける。

 

獅子竜王砲

 

 やがて放たれた極太の熱量は海賊船の大部分を消し飛ばしながら海を真っすぐに突き抜けていった。

 

 

◆◆海軍サイド◆◆

 

「奇妙な怪物が次々と海賊船を沈めている……?」

 

 とある海軍少将は海賊への尋問を終えた部下からの報告を聞き、怪訝な表情を浮かべた。

 

「はい。獅子の顔に竜の翼、蛇の尾を持つこの世ならざる怪物とのことで……」

「なんだ、その全部盛りみたいな適当な姿は」

「ですが、生き残った海賊連中に聞き取り調査をしたところ、全員がそのように回答しておりまして、信憑性はかなり高いかと思われます」

「ふーむ……何らかの悪魔の実の能力者か」

「はい。聞いたこともない能力ですが、そう考えるのが妥当かと」

 

 海軍少将は頭を抱えた。

 

「海賊を勝手に狩ってくれるのはいい。寧ろ、我々が感謝すべきなのだろうが……」

「はい。今は時期がまずいですね――」

「あぁ。考え得る限り最悪の時期だ」

 

 手元に置かれている資料を手に取る。

 そこにはこう記載されていた。

 

【天竜人航行ルート 警備強化の件】

 

「せめて、その件の怪物が海賊だけをターゲットにしてくれていれば非常に助かるのだが……」

「その怪物にも手配書を出しますか?」

「いや、下手に刺激して、それこそ天竜人の船を襲撃されてはたまったものではない。今は放っておこう」

「承知いたしました」

 

 部下が退出したのを見届けた少将は窓の外の穏やかな海を眺め、そっと呟いた。

 

「頼むから。大人しくしておいてくれよ、怪物」

 

 

◆◆主人公サイド◆◆

 

「よーし、大漁、大漁」

 

 一狩り終えた俺は拠点にしている島で先ほどの海賊から奪った財宝を数えながらにんまりと笑っていた。

 

「いやー、それにしても見事に悪魔の実ガチャに勝ったな」

 

 これまで集めた財宝の整理を尻の上辺りから生やした蛇に任せながら呟いた。

 竜の翼で飛行可能、胴体は獅子というだけあって頑丈で素早く、尻尾の蛇は毒持ちで口からは火炎と破壊光線を打てる。

 正直、この能力頼みで結構上の方まで上り詰められるくらいには当たり能力だと思う。

 ……完全変身した際の見た目の恐ろしさだけがネックだが。

 

 名前はなんだろう? 『動物系幻獣種 ネコネコの実 モデル キマイラ』とかかな?

 まぁ、悪魔の実図鑑なんて持ってないので知りようはないし、強けりゃどうでもいいので、その辺りは気にしていない。

 

 あれから悪魔の実と我流で習得中の武装色でごり押してきたが、この海ではほぼ敵なしだと思う。

 

「まぁ、よほど変なことをしない限りはこのまま稼ぎ続けられるな。うし、もうちょっと貯めたら奮発してデカい船でも買って、東の海に行くとするか! いやー、夢が広がるぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この馬鹿が間違えて天竜人の船をビームで焼き払い、海軍大将と地獄の鬼ごっこに興じるまであと一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【キマイラ】
獅子と山羊と蛇(または竜)を組み合わせた姿をしているとされ(これら3つの頭を持つとも)、巨大で力が強く脚も速く、口から火を吹くという。
参考:ピクシブ百科事典

うん。化け物ですね!

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