七武海ですが麦わらの一味に入れますか?   作:赤坂緑語

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大変長らくお待たせいたしました。
今回こそスーパー真面目回です。


四皇 百獣のカイドウ

 

突如ドレスローザに飛来した龍――四皇の一人である百獣のカイドウはドレスローザ中に響き渡る大声で言った。

 

『どこにいるジョーカー! 俺の息子を連れて行ったのはお前だろう⁉ さっさとヤマトを俺の前に差し出せ!』

 

まさかの四皇登場に一気にパニックに陥るドレスローザの市民たち。

確かに今日は避難訓練があるとは聞いていたが、本物の災害が来るとは聞いていない。

カイドウが放つ圧倒的な覇気に怯え、恐怖が伝播していく中、彼らの不安を払拭するかのように王宮から飛び出した1つの人影が天へと昇っていく。

 

「見ろ!」

「あれは……国王様⁉」

「ドフラミンゴ様だ!」

「俺たちの国王様が四皇の説得に出向いてくれたぞ!」

 

国民たちの期待を背負い、桃色のコートを羽ばたかせながらドフラミンゴはカイドウの目の前で静止した。

 

「よぉ、カイドウ」

『ジョーカー……』

 

思いがけず冷静な様子のドフラミンゴに目を細めるカイドウ。

ドフラミンゴは泰然自若とした態度で告げる。

 

「そんなに慌ててどうした? この間の酒の席の件なら今度手土産を持って詫びに行こうと思っていたんだ」

『俺の声が聞こえていなかったのか? 俺の息子はどこにいるかと聞いてんだ。テメェか、もしくはあの傍迷惑な新人の仕業なんだろう? 今なら半殺しで済ませてやる。いいからさっさとヤマトを俺の前に連れて来い』

「だからヤマトってのは誰だ? この国には俺の部下と民たちしかいねェよ。息子探しに協力したいのは山々だが俺も忙しくてなァ……悪いが他所をあたってくれ」

 

その堂々とした態度は何も知らなければ彼の言葉が本当に正しいと思い込んでしまうほど立派なもの。

しかし、カイドウは優れた見聞色の覇気と部下たちの報告から確信していた。

息子を誘拐したのは彼らであることを。

 

『――そうか。それがお前の誠意か。ジョーカー』

「あぁ、これが俺の誠意だ」

『良く分かった。テメェと話していても埒が明かねェな』

 

天を覆いつくさんばかりの巨体が蠢く。

いつでも熱息(ボロブレス)を撃てる体勢になったカイドウが吠えた。

 

『おい! 聞こえているんだろうヤマト! どうやって錠を外したのかは知らねェが、もう帰るぞ! テメェに拒否権はねェ! 従わないならこの国を滅ぼし更地にしてからテメェを連れて帰るぞ!』

「あぁ? 何言ってんだカイドウ。勘違いで俺の国を滅ぼされちゃあ、困るぜ」

『黙れジョーカー! テメェの虚言はもう聞き飽きた! 取引は凍結! ヤマトを差し出さないならこの国を更地にして奴を連れ帰るだけだ!』

「……随分と息子思いなんだな、カイドウ」

『馬鹿を言え! これは体面の問題だ! 仮にもこの俺の息子がどこぞの海賊に誘拐され、あまつさえ匿われるだと? ふざけるんじゃねェ!』

 

怒りと共に無差別に放たれた覇王色の覇気が市民たちの意識を奪う。

さらにカイドウの機嫌を表すかのように空模様もまた荒れていく。

天災そのもののような理不尽な存在感を示しながら龍は最終通告を行う。

 

『これが最後だヤマト! いいからさっさと俺の前に姿を見せろ! これは遊びじゃねェ! 俺は本気だぞ!』

 

 

「奇遇だな。僕も本気だ」

 

 

空に響き渡る息子の声にカイドウが反応する。

咄嗟に声の方向に頭を向けるとそこには獅子、山羊、竜の3つ頭を持つ化け物の背に乗って空を駆け、金棒を振りかぶるヤマトの姿が――

 

「……僕を庇ったというだけで一体何人の命を奪えば気が済むのか……だが、その暴虐も今日までだ」

「ッ⁉」

 

息子の金棒に宿る雷の覇気を見たカイドウは目を見張った。

一か月前に見た時よりも遥かに洗練されているその力。

自分を縛り続けた親に向かってヤマトは離別の一撃を放つ。

 

「雷鳴八卦!」

「ぐぅ⁉」

 

カイドウの顔面にクリティカルヒットするヤマト渾身の一撃。

怒り、失望、覚悟、信念。

様々な思いが乗せられたヤマトの一撃は物理的なダメージを超え、カイドウの防御をすり抜けて芯にダメージを与えた。

 

さらに攻撃はそれで終わりではない。

 

『この間は失礼したね。――でも、今日も失礼をするからもう謝らないでおく』

 

ヤマトを乗せて羽ばたいていた怪物がいけしゃあしゃあと言ってのけた後、獅子と竜の口が大きく開いた。

溢れ出す膨大なエネルギーは収束し、2つの熱線となって放たれる。

 

『獅子竜王双砲』

「ぐわあぁぁぁぁぁぁ――!」

 

ヤマトがダメージを与えた箇所を狙い撃ち、強烈な攻撃がヒットする。

たまらず吹き飛ばされるカイドウ。

 

だが、それでも攻撃は終わらない。

 

ドレスローザの市街地に落ちてくるカイドウの巨体。

あんなのに踏みつぶされてしまえばただの一般人たちに生き残る術はない。

さらにカイドウの覇気で気絶させられ、身動きがままならない者たちも多数いる。

 

それを阻止すべく、ドレスローザの大地が隆起する。

 

カイドウの巨体には及ばないものの、巨人と呼ぶに相応しい大地の守護神が市民を守るべく君臨する。

 

『くらえ四皇!』

 

大地と融合し、巨人と化した岩人間、ピーカが放った強烈なアッパーがカイドウの顎に直撃した。

まさかの一撃に虚を突かれたカイドウはグルグルと回る視界の中で何とか体勢を立て直そうとする。

 

だが、彼らの攻撃はまだ終わっていない。

 

「やれやれ、ドフィもどうして俺みたいな奴に四皇への攻撃を任せたのか……」

「……これ、俺が言わなきゃダメなやつか?」

「おい、どう思うグラディウス」

「はぁ……アンタにしか頼めないからボスも任せたんだと思うぜ」

「馬鹿を言うんじゃない。俺には無理だ、こんな大役……」

「いや、アンタにしかできないと思う」

「よせよ、人を天才みたいに……」

「そうか、じゃあ辞め……」

「そこまで言うなら引き受けよう‼」

 

(めんどくせー……)

 

攻撃力が高いという理由でコンビを組まされたグラディウスは内心溜息をつきながらカイドウの首を掴んでいるピーカの腕を進みながらディアマンテの背中を追う。

 

「殺し合いは好きか四皇? コロシアムの英雄の剣技を食らっていけ! ――半月グレイブ!」

「パンク岩 スーパーアリーナ」

 

謙虚さと傲慢さが混ざり合った奇妙な性格でありながらその実力は本物。

ディアマンテの強烈な剣技が炸裂し、さらに事前の打ち合わせ通りピーカの岩腕を爆裂させたグラディウスの攻撃が追撃でカイドウを襲う。

 

そして、最後の攻撃。

 

「正当防衛だ。悪く思うなよ、カイドウ」

 

ドレスローザの国王にして王下七武海が本気を出す。

 

神誅殺(ゴッドスレッド)

 

クソ馬鹿に教わった内部破壊の覇気を纏わせ、凶悪さを増した16発の聖なる凶弾がカイドウに直撃した。

 

「ぐわあぁぁぁぁぁぁ――!」

 

 

数々の連撃を食らったカイドウは当初の予定通りにドレスローザの郊外へと吹き飛ばされた。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

予想外だった。

全てがカイドウの予想外であった。

 

ドフラミンゴが人造悪魔の実が造れなくなったことも、死ぬほど厄介な新人を連れて大暴れされたことも、息子がいつの間にやら錠を外して逃げ出したことも、そして自分がこうして倒れ伏していることも。

 

「……ウオロロロ」

 

人型に戻ったカイドウはゆっくりと立ち上がってから自分を追ってやって来た敵たちを眺めた。

その覚悟を決めた瞳を見て予感は確信に変わる。

 

「おい、テメェら……()()()()()()()()()()()()()?」

「何のことだ?」

「とぼけるんじゃねェ! この配置、連撃、明らかに俺を仕留めるために用意されたものだ。ジョーカー、テメェ……見聞色でも鍛えたか?」

「さぁ、どうだろうな」

 

ドフラミンゴは不敵に笑う。

 

そう――カイドウが来ることは()()()()()()

 

それは、ドンキホーテファミリーの一員であるヴァイオレットが持つ超人系ギロギロの実による千里眼の力もあるが、それ以上に(主にキリアのせいだが……)あれだけのやらかしをしてカイドウが黙っているはずもないというドフラミンゴの読みもあった。

敢えて回収しなかった百獣海賊団に潜入させているスパイからの報告もあり、ドフラミンゴは今日が襲撃日であることを事前に把握していた。

 

……それでも、連撃が殆ど効いていない様子には内心驚愕していたが。

 

「――で、どうするカイドウ? うちにいるのはおでんとかいう頭のおかしな女だけだ」

「僕は女じゃない!」

「いいから黙ってろ! ……ここで立ち去るなら見逃してやってもいいが?」

「ほざけ」

 

カイドウはドフラミンゴの戯言を一言で切って捨てながらも内心笑っていた。

息子の癇癪に頭を痛めつつも錠を外した者に興味がわき、先日の無礼も含めて少しお礼参りに来ただけだったが……随分と面白いことになっている。

 

「……始める前に一応聞いておくが……テメェら、俺が誰か知って挑んでいるんだろうな?」

 

 

「知るか」

「百獣のカイドウだろう?」

「四皇に挑むのが俺のようなもので本当にいいのだろうか?」

「カイドウ」

「正直名前、ダサいよね」

「逆に俺が誰か知ってるのか?」

 

「……」

 

 

6人同時に喋ったので全然聞き取れなかった。

 

あと誰だ? 名前ダサいって言ったの。

 

でも、何となくニュアンスは伝わったと思ったのでカイドウは金棒を構えた。

 

 

 

「時世じゃねェがよ……死は人の完成だ。そうだろう?」

 

 

「五月蠅いんだよクソ親父」

「そんなわけあるか」

「俺は死にたくない……なんて小心者なんだ」

「俺は死なん!」

「あっ、くしゃみ出そう」

「くだらねェな」

 

「……」

 

やっぱり6人同時に喋ったので全然聞き取れなかった。

 

カイドウはぶちぎれた。

 

「テメェら……一人ずつ喋れよッ‼」

 

こうして、後に世界を大きく変えるきっかけとなるドレスローザ事件は始まった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

カイドウ襲来を確信した時、ドフラミンゴには2つの選択肢があった。

 

1つはこのドレスローザで迎え撃つこと。

そしてもう1つはドレスローザから逃げて一時的に姿を隠すこと。

 

この一か月間、死に物狂いで修業に励んでいたドフラミンゴたちではあるが、流石にこれだけでカイドウに勝てると思いあがっているわけではない。

現実的に考えれば即ドレスローザから逃げ出してヤマトと共に身を隠すのが最善手だったはずだ。

 

しかし、そうなると今度はドフラミンゴたち目当てにドレスローザに攻め込んできたカイドウが何をしでかすか分からない。

相手は四皇で、見せしめに国を滅ぼすくらいは容易にやってのけると想像がついた。

 

ドフラミンゴにとってもドレスローザは拠点として重要な場所だ。国民からの支持も含め、まだ失うわけにはいかない。

 

よってドフラミンゴは決断した。

カイドウと戦うことを。

 

計画を立て、万が一の時の秘策も用意し、ドレスローザ市民には避難訓練と伝えて危機感を煽り、万全の態勢で迎え撃った。

初撃があまりにも上手くいったため、ドフラミンゴの中にも少しだけ油断があったことは否定できない。

このままいけば勝てるんじゃないかと言う思いが芽生えたことも事実だ。

 

しかし、やはり四皇は異常だった。

 

「ヤマト! もう一回だ! カイドウの動きを止めろ!」

「分かった!」

 

ドフラミンゴの指示でヤマトが人獣形態で氷を放つ。

ほんの一瞬だけ動きが止まるカイドウ。

その隙を逃さず突撃するキリアとディアマンテ。

 

「竜王鉄槌!」

「半月グレイブ!」

 

カイドウは以前の酒の席で自身を殴り倒したキリアの技を警戒し、そちらを優先的に武装色で対処。ディアマンテの技は素の耐久力で受け止めて見せた。

 

(堅っ⁉ コイツの身体、どうなってやがんだ……!)

 

「ウオロロロ……この間は油断したが、テメェじゃまだまだ俺には及ばねェよ、新人」

「ぐっ……!」

「前みたいに吹き飛びな! 雷鳴八卦!」

 

雷を纏わせたカイドウの金棒がキリアを殴り飛ばし――

 

(あん? なんだ、この手ごたえは……)

 

その場にギリギリでとどまったキリアに違和感を覚えた。

以前よりも明らかに()()

それに、気のせいでなければ一瞬()()()()()()()()()()()があったような……

 

だが、多勢を相手に気にしている余裕は流石のカイドウにもない。

動きが止まったキリアを金棒を握っていない左腕を使って全力で殴り飛ばし、効かないながらも目障りな剣士に目を向けた。

 

「そこのひらひら剣士、鬱陶しいな」

「ッ⁉」

 

凄まじい速度で移動したカイドウが金棒を振り上げる。

 

「ディアマンテ!」

 

ギリギリで危険を察知できていたドフラミンゴがディアマンテに糸を絡ませ、後ろに思いっきり引いた。

カイドウの一撃が地面に大きな亀裂を生む。

何とか無傷で回避できたディアマンテは内心冷や汗を掻きながら主君に礼を述べた。

 

「すまねぇ、助かったぜドフィ」

「礼を言っている場合じゃねェぞ。さっさと次に備えろ!」

 

ドフラミンゴの指示が飛び、ディアマンテは剣を構えなおした。

 

「おいキリア! テメェさっさと戻ってこい!」

「……人使いが荒いっすよ、先輩」

 

竜の翼で吹き飛ばされた先から戻ってきたキリアは文句を言いながらも再び最前線へと突撃していく。

そこへヤマトも合流し、ピーカとグラディウスのタッグも岩と爆裂のコンビ技を合間に浴びせていく。

 

(今のところ、何とかカイドウを抑え込めてはいる。だが……決定打に欠けるな)

 

金棒を振り上げたカイドウの右腕を超過鞭糸(オーバーヒート)で絡めとって僅かながらもカイドウを押しとどめながらドフラミンゴは思考する。

 

現在、カイドウ迎撃組のフォーメーションは指揮官であるドフラミンゴを中心に以下のようになっていた。

 

タンク:キリア、ピーカ。

足止め:キリア、ヤマト、ドフラミンゴ。

アタッカー:キリア、ヤマト、ドフラミンゴ、ディアマンテ、グラディウス。

 

キリアだけ役割が多すぎる気がするがそれは置いておくとして、基本的にはカイドウの攻撃をキリアの耐久力とピーカの岩で受け止めつつ、ヤマトの氷や人獣形態によるキリアの馬鹿力、ドフラミンゴの糸で動きを鈍らせ、その隙に全員で攻撃という形になっていた。

 

しかし、知っての通りカイドウの防御力は異常だ。

当然攻撃が通らず、逆にカウンターを食らう場面も増えていく。

仲間が危機に陥れば即ドフラミンゴが糸で引っ張り、撤退させながら自身も突撃して何とか習得が間に合った流桜の力を使って格闘戦に挑む形で何とか均衡を保っていたが――

 

「……ウオロロロ、まぁ、待てよお前ら」

 

突如強烈な覇王色の覇気を放ったカイドウによって有利に進んでいた戦況は一旦仕切り直しとなった。

 

「まずは謝罪するぜ。正直言って、テメェらのことを舐めていた。この俺を相手に中々いい戦いをするじゃねェか。おいヤマト! お前の入れ知恵か?」

「……だったらどうする?」

「どうもしねェよ、単純に褒めてるのさ。俺の動きをよく調べ、そしてきっちり共有できている。統率も取れていて、連携も悪くない。良くここまで鍛え上げた」

 

国を滅ぼすと言った口で急に自分たちを絶賛し始めた四皇に全員が戸惑う中、カイドウは寛大に笑いながら告げた。

 

「ついてはテメェらに提案だ。()()()()()()()()()()? 今ならこれまでの無礼は全て水に流そう! 特にそこの怪物野郎! テメェには酒の席で随分とコケにされたが、全部なかったことにしてやる! どうだ? 俺と一緒に世界を取らないか!」

「「「「「「――――」」」」」」

 

その圧倒的な強さ。無礼を全て水に流すと言い切る器の広さ。飽くなき力への渇望。

各自色々と言いたいことはあるが、それでもこれだけは認めるしかなかった。

この男――百獣のカイドウは間違いなく四皇に相応しい男であると。

 

「返答は如何に――!」

 

だが、ここに集ったのは相手が四皇と認めたうえでなおそれを超えていくと決意した者たちだ。

1人は野心のために。1人は友のために。1人は憧れと正義のために。

そして3人は忠義のために。

返答は決まっていた。

 

「「「「「「断るッ‼」」」」」」

 

6人が口を揃えて断言する。

カイドウは誘いを無下にされたにも関わらずどこか嬉しそうに笑った。

 

「そうか――残念だ!」

 

改めて互いの立ち位置が明確となったところで、カイドウは本腰を入れることを決めた。

戦力にすれば真打はおろか、大看板たちの地位も脅かすほど強力な人材たちだったが、従わないのであれば仕方がない。

今は恥を晒し続けるドラ息子への対処が先決だ。

 

「その選択を後悔しないことを祈るぜ……」

 

(あの姿は……⁉)

 

カイドウの姿が変化していく。

巨大な龍の姿でもなければ、人型でもない、異形の姿へと。

 

「まずい! 人獣形態が来るぞ! みんな、構えろ!」

「ウオロロロ……もう遅い。世界最強の武力を見せてやるよ」

 

唯一その姿の危険性を知るヤマトが大声で警鐘を鳴らすが、カイドウの言う通り勝負はもう付いていた。

 

「まずは1人」

「あっ――?」

 

見聞色の覇気でも見切れないほどの圧倒的な速度で移動したカイドウは、雷を纏わせた金棒を思いっきり移動した先にいたディアマンテの頭上に叩きつけた。

 

「ディアマンテ!」

 

遅れて気づいたドフラミンゴが視線を向けた先では、大事な家族が白目を剥きながら地面に倒れていく様子が映っていた。

脳天が割れ、溢れてはいけない液体が溢れ出ている。

間違いなく、致命傷だ。

 

(すまねぇ……ドフィ……)

 

言葉を発することもできないディアマンテは薄れゆく意識の中で主君への謝罪を述べる。

 

「2人目」

 

本編において未来予知の見聞色を手に入れたルフィでさえ完全に避け切ることは難しいとされる高速移動にてカイドウが次の獲物までたどり着く。

 

「避けろ! グラディウス!」

「ッ――⁉」

 

キリアもヤマトも優れた見聞色の使い手ではある。

しかし、一人で戦い続けてきた経験からか、どうしても自分への危機には敏感だが、他の人間をカバーしながら戦う方法には慣れていない。

仲間を思う気持ちからか、二人よりも早く反応したドフラミンゴが声を上げるが、こちらも既に手遅れだった。

 

「雷鳴八卦」

「がっ―――」

 

本気の一撃がグラディウスの脳天に叩きこまれる。

キリアの馬鹿げた耐久力のせいで認識が甘くなっていたが、この技は本編において麦わらのルフィを一撃で失神させた必殺の一撃である。

グラディウスとて決して弱いわけではないが、四皇の一撃を食らって無事で居られるはずもない。

 

ぐちゃり、と何かが潰れた音を発しながら静かに地面に倒れこんだ。

 

「3人目」

 

「おい! 次はピーカだ! キリア、ヤマト! ピーカを守れ!」

 

カイドウが見聞色の習得が甘く、戦闘能力が低い面々から潰していることに気が付いたドフラミンゴが必死に指示を出しながら自身も空を駆ける。

指示を受けたキリアとヤマトは自分たちを狙っているわけではないカイドウの気配を探り当てることに苦戦しつつもピーカの元へと駆け寄ろうとする。

 

だが、やはり手遅れだった。

 

「テメェの核はそこだな? 雷鳴八卦」

 

難なく岩と同化していたピーカの本体を探り当てたカイドウは岩ごと雷鳴八卦で打ち砕き、一瞬でドレスローザの守護神を打ち砕いた。

 

3人。

 

一瞬で、ドフラミンゴの部下たち3人は瞬殺された。

それは、口にするのも憚られるほどの圧倒的な力の差だった。

 

ディアマンテ。

グラディウス。

ピーカ。

 

ドフラミンゴの大事な家族たちが瀕死の重傷を負いながら無惨に横たわっている。

 

ブチっと何かが切れる音がした。

 

「クソ――――ッタレがァァァァ‼」

 

激怒したドフラミンゴは空中を駆ける。

糸を使った切断攻撃や味方の救出、足止めがメインだった彼が我を忘れて接近戦を挑んできている。

 

「やめておけ、ジョーカー。テメェの拳は俺には――」

 

油断していたわけではない。

だが、人獣形態のカイドウは攻撃力、防御力ともに世界トップクラスだ。

糸を操るしか能がないドフラミンゴの攻撃など効くはずがないと心のどこかで慢心していたのだろう。

 

バチバチ、と奇妙な気配を纏いながら放たれたドフラミンゴの拳は確かにカイドウの顔面を歪ませ、数歩後ろへとその巨体を後退させた。

 

(今のは……()()()……?)

 

極一部の強者にのみ許された覇王色の纏い。

この一か月間、キリアとヤマトの2人とどれほど鍛錬を積んでも習得できなかったそれが不格好ながら僅かに顕現していた。

 

普通であれば喜ぶべき場面であっただろう。

だが、今はタイミングが最悪だった。

 

「ふん……覇王色か」

 

未だに頬にめり込んでいるドフラミンゴの右腕をがっちりと掴み、カイドウは矮小な人間に怒りの感情を向ける。

覇王など何人でもいるのだと主張するかのようにあちこちで現れる節操のない王の覇気。

 

「……いらねェんだよ。覇王は一人で十分だ!」

 

カイドウは強烈なボディーブローをドフラミンゴの腹部に叩きこみ、吐血した彼を宙に放り出した。

 

「先輩!」

 

嘗てない悪寒と全身にのしかかる圧倒的なプレッシャーにキリアが叫ぶ。

まずい。あの技は()()()()()()

 

ヤマトの氷がカイドウの脚を凍らせるが、何の意味もなさずに一歩を踏み出される。

キリアの獅子竜王砲が炸裂するも、気合で持ちこたえられる。

 

そして、カイドウはその一撃を宙から降って来たドフラミンゴにぶちかました。

 

「大威徳雷鳴八卦」

 

世界が壊れたような音がした。

圧倒的な覇気と膂力が込められた一撃がドフラミンゴを捉え、彼の身体を野球ボールか何かのようにドレスローザ市街に吹き飛ばした。

 

「ッ! ヤマト! 合わせろ!」

「あ、あぁ!」

 

原作において能力が覚醒したルフィですら明確にダメージを負わされた雷鳴八卦の強化版だ。

当たりどころが悪ければ最悪……。

 

脳裏に過った嫌な予感を振り払うように大技を放った直後で硬直しているカイドウに2人は駆ける。

 

「雷鳴八卦!」

「竜王鉄槌!」

 

「あぁ……テメェらもいたなァ」

 

ここで、キリアは幾つか致命的な誤算をしていた。

 

1つは大技の直後は硬直するという勝手な思い込み。

憧れであるルフィの戦いを多く見過ぎた影響か、彼の中では必殺技とはそれなりにリスクを背負って放つものというのが固定概念として存在していた。

実際にカイドウの大技とて体力の消耗が激しいなどリスクが存在しないわけではないが――ここでもう1つの致命的な勘違いに繋がる。

 

誤算その2。このカイドウは連戦というほど連戦をしておらず、体力も有り余っている状態である。

 

「大威徳――」

 

(嘘だろ⁉ ()()()()()()()()()()()()()()()⁉)

 

優れた動体視力が次のカイドウのモーションを捉え、キリアは内心で悲鳴を上げた。

このままいけば自分たちはあの技の餌食となってしまう。

この瞬間、キリアの中には2つの選択肢があった。

 

チラリと、自分の少しだけ先を走るヤマトの横顔を見る。

 

(……しょうがない、か)

 

「ヤマト! ごめん!」

「えっ――――」

 

ヤマトは突如後ろから聞こえてきたキリアの謝罪に驚き――そして、自分を抜かしたキリアによって横に突き飛ばされたことに驚いた。

 

「キリ――」

 

あの鬼ヶ島を出る時に見た光景と重なる。

そうだ、あの時も彼が自分を助けるために右腕を犠牲にして爆弾を抑え込んでくれたんだ。

 

(待って! もうこんなのは嫌――――)

 

咄嗟に伸ばした手の先が酷く遠い。

 

「――雷鳴八卦」

 

 

そして、その一撃はキリアに放たれた。

 

 

 




これは......死んだな(確信
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