七武海ですが麦わらの一味に入れますか?   作:赤坂緑語

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タイトル名について思ったことがあるはずです。
えぇ、そうです。
では読者の皆様、ご唱和ください。

おまえが言うな!(定期



人に迷惑掛けちゃいけませんよね?

 

四皇 百獣のカイドウ ドレスローザ襲撃。

 

そのニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。

どこぞの国が四皇の気まぐれで滅ぼされるというニュースは度々報じられるも、今回は襲撃された国が国だ。

 

ドレスローザ。

そこは世界政府加盟国にして――七武海 天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴが治める国である。

カイドウはそこまで深く考えていなかったが、これは世界政府および七武海に喧嘩を売ったに等しい行為だ。

……まぁ、その事実に思い至ったところでカイドウは気にも留めないだろうが。

 

この事態を受け、ドレスローザ国王にして七武海であるドンキホーテ・ドフラミンゴはカイドウの蛮行を強く非難すると同時に世界政府を通じてとある号令を出した。

 

【王下七武海招集】

 

一癖も二癖もある連中をどうやって纏め上げるつもりなのか。

そもそも招集に応じるような面子なのか。

 

分かっていることが1つだけ。

 

ドレスローザ事件をきっかけにして発足したこの会議の結果が今後の世界の行く末を大きく左右するものであるということだけである。

 

 

 

◆◆ドレスローザ事件より一週間後◆◆

 

 

 

新世界に浮かぶとある島。

 

気候が素晴らしく、波も穏やかで、素晴らしい豪邸が立っているその島は、とある大富豪の所有物として界隈では有名だったが、つい最近とある国の国王が買い上げたことでさらに有名になったリゾート地である。

 

更なる改良が加えられ、9人掛けの円卓を備えたその豪邸には現在、ドフラミンゴ、キリア、ヤマトを除き、5名の人物が滞在していた。

 

「……で、気まぐれなお前さんが顔を出すとはいったいどういう風の吹き回しじゃ?」

 

“王下七武海 海侠のジンベエ”

 

「そういうお前こそどういった要件だ?」

 

“王下七武海 鷹の目のミホーク”

 

「キシシシシ……俺はテメェらよりも(・)っ(・)と(・)珍(・)し(・)い(・)奴(・)が来ていることにビックリしているけどなァ!」

 

“王下七武海 ゲッコー・モリア”

 

「……」

 

“王下七武海 暴君バーソロミュー・くま”

 

「……なんじゃ、その不快な視線をわらわに向けるな、下郎」

 

“王下七武海 海賊女帝ボア・ハンコック”

 

世界に名を轟かせる悪党たち。

しかしながらその所属は世界政府。

7人のみが選出され(例外的に今は8人だが)世界の均衡を保つ巨大戦力と認識されている化け物たち――それが5名も。

 

頂上戦争が起きていない今の海において、それは異様な光景であった。

 

政府管轄の海賊でありながら滅多に招集に応じることがない彼らがここに集っているのには訳がある。

 

「不動の“女帝”が現れるとは……七武海の称号でも惜しくなったか?」

「海峡のジンベエ。わらわにはわらわの理由がある。詮索は止せ」

 

ジンベエがそう言うのも無理はない。

彼らの元に届いたのは下記の招集状だったからだ。

 

【王下七武海 各位 

四皇 百獣のカイドウと交戦すべく七武海連合結成会議を実施する。

同封のエターナルポースを辿り、直ちに指定の島まで直行されたし。

なお、天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴと怪物キリアは既に連合への参加に同意している。

今回の招集に応じない場合、王(・)下(・)七(・)武(・)海(・)と(・)し(・)て(・)の(・)役(・)割(・)を(・)放(・)棄(・)し(・)て(・)い(・)る(・)と(・)み(・)な(・)さ(・)れ(・)る(・)場(・)合(・)が(・)――以下長文】

 

「キシシシシ……ドフラミンゴと噂の新人がドレスローザでカイドウとやりあった話は聞いていたが、称号を盾に俺たちも招集するとはなァ!」

「いよいよ四皇との本格的な戦争を政府が決意したということかのう……」

 

ジンベエが思考を巡らせる中、唐突に彼らが招待された円卓の間の扉が開いた。

 

「よぉ、皆さんお揃いで」

 

逆立てた金髪に不気味なサングラス。

ビシッと決めた赤いスーツの上からトレードマークのピンクジャケットを羽織り、遅れてこの会議のキーパーソンが登場した。

 

“王下七武海 天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴ”

 

以前と違うファッションや雰囲気に面識があった面々が戸惑う中、鷹の目のミホークは目を細めた。

 

(……気配が強くなっているな)

 

以前の軽薄な気配は見る影もない。

どうやらこの男に何かしらの転換点が訪れたらしい。

 

ジロジロと観察されていることを気にも留めずドフラミンゴは円卓の席を見渡してから溜息をついた。

 

「やはりワニ野郎は欠席か。ったく、何が忙しいだ。暇なくせによ」

 

唯一の欠席者となったクロコダイルを愚痴りながら自分の椅子を引き、腰掛ける。

 

「……おい、天夜叉の」

「アン? ジンベエか。久しぶりだな」

「あぁ、そうじゃの。ところでお前さんと同盟を組んでいるとかいう新人はどうした?」

「どうしたんだろうなァ……どういうわけか部屋にはいなくてな。まぁ、そのうち来るだろう。それよりも――」

 

ドフラミンゴは円卓に座る面々を見渡した。

 

「うちの同盟相手以外は面子が揃っていることだし、先に謝(・)罪(・)だけ済ませておくか」

「謝罪じゃと? 何の話じゃ」

「招集状の件さ。称号剥奪がどうのこうの、ややこしい書き方をして悪かったと思ってな」

「ややこしい書き方じゃあ……?」

 

ドフラミンゴの言い方が気になったジンベエは急いで懐から自分向けの招集状を取り出してもう一度じっくりと読み込んだ。

不必要なほどに文章が長く、おまけに字も小さくて分かりにくいが、そこにはジンベエが危惧している単語は1つも乗っていなかった。

 

「ま、まさか……!」

「あぁ。別にここへ来なくても称(・)号(・)剥(・)奪(・)な(・)ん(・)て(・)こ(・)と(・)は(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)んだ。あくまで七武海としてのスタンスについて書いてあるだけだからな」

 

ぐしゃりと招集状を握りつぶし、ジンベエは首謀者を睨みつけた。

 

「では貴様! わしらを騙したのか‼」

「フッフッフッフ、人聞きの悪いこと言うなよジンベエ。書き方は紛らわしかったが、文章をきちんと読めば分かったはずだぜ?」

「ぐぅ……!」

 

こういわれてしまっては言い返す術がない。

現に丁寧に書面を読み込んでドフラミンゴの意図に気づき、この場を欠席したのがクロコダイルであった。

 

「称号剥奪など欠片も気にしなさそうな奴らも来ていることには驚いたが……どうせここに集ったお前たちの目的は2(・)つ(・)あ(・)る(・)う(・)ち(・)の(・)ど(・)ち(・)ら(・)か(・)だ(・)ろ(・)う(・)? カイドウか、怪物キリアか」

 

円卓に座る七武海を順番に眺めていく。

誰も否定はしない。

称号剝奪を恐れてやって来たジンベエですら、怒りの表情を浮かべながらも否定はしない。

そして、不動のボア・ハンコックすらも。

 

ドフラミンゴの言う通り、ここにいる面々の殆どは各自に届いたその2つの名のどちらかに――或いは両方に興味を持ってここに集った。

 

(相変わらず人気者だねェ、うちの後輩は)

 

「……ドフラミンゴ」

「なんだ? ボア・ハンコック」

「ジンベエと違ってわらわはしっかりと招集状の中身を読み込んできた。そこに記載されている内容によれば、今回の招集に応じたからと言って四皇との戦いに同意したとみなすわけではないとあったが」

「あァ、その通りだ。別にここに来ただけじゃあ、四皇との戦いに同意したとはみなされない。……それはジンベエも含め、全員が知っているようだな」

「当たり前じゃ」

「結構。……不思議そうな顔をしているな、ボア・ハンコック。だが俺からすれば当然のことだ。やる気のない七武海なんざ戦力には数えられねェ。今回の戦争に半端な奴はいらねェんだ」

「……貴様、何が目的じゃ?」

「目的はその招集状に書いてある通りだ。俺は戦力が欲しい。だから、参加するかどうかは俺たちの話を聞いてから決めれば――」

 

プルルルル、プルルルル、プルルルル、

 

「あァ?」

 

その時、ドフラミンゴの話を遮るかのように彼の懐から電伝虫の音が鳴り響いた。

 

「ちょっと失礼。どうしたヤマト。あァ? なんだ泣いてんのかお前? 何を言ってるのか分からねェよ。ちょっと席を外すから待て」

 

七武海の面々に断りを入れてから立ち上がって円卓から離れたドフラミンゴは少しの間電伝虫越しに誰かと会話をしていたが――

 

「……おい、それは本当か? あのバカが……」

 

何の報告を受けたのか。

何かに耐えるようにプルプルと身体を震わせると、次の瞬間には身体の底から絞り出した大声で吠えた。

 

「あのクソ馬鹿がッ‼」

 

怒りのあまり放たれた覇王色の覇気が部屋を揺らす。

この場には彼の覇気で気を失うような者はいないがしかし、以前よりも格段に威力が上がっているその力に何名かは驚いたように目を見開いた。

 

「――失礼。テメェら、ちょっと茶でも飲んで待っていてくれ」

 

そう言ってドフラミンゴは風のような速さで部屋から出ていった。

 

 

そして数分後――

 

「おい、いいからそ(・)れ(・)を持ってこっちへ来いヤマト!」

「うわーん! キリアがァァァァ!」

「みっともなく泣いてんじゃねェ! ったく、テメェらはいつもいつも……! 俺の面子ってもんを考えたことあんのか⁉」

「うわーんぁぁぁぁぁぁん! そんなのないよぉぉぉぉぉぉ!」

「だろうな!」

 

 

 

「……なにやら騒がしいな」

 

扉の向こうから聞こえてくる騒々しい声にミホークが反応する。

5人の視線が集まる中、円卓の間の扉が開いてドフラミンゴと銀髪の美女が部屋に入って来た。

何故か泣きわめいている美女の両腕には大事そうに奇妙なものが抱きかかえられている。

 

「おい、ここにそれを置け!」

「うわーん! キリアが! キリアがぁぁぁぁぁぁぁ―――‼」

 

泣きながらもドフラミンゴの指示に従って美女が両腕で抱えていたそれをそっと置く。

 

「――――石になっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

そこには、目にハートを浮かべた状態で石化している男の姿があった。

 

「「「「「……」」」」」

 

部屋の中が沈黙に包まれ、全員の視線がとある女性に集まる。

視線を向けられた彼女は震える指で石像を指さして言った。

 

「……こ、これが、怪物キリアじゃと?」

 

クソ馬鹿を石化させた張本人、海賊女帝ボア・ハンコックの信じたくないと言った様子の問いかけに対し、ドフラミンゴは神妙な顔で頷いて言った。

 

「あぁ、これが怪物キリアだ」

 

「「「「「……」」」」」

 

“王下七武海 怪物キリア”

 

こうして、円卓の間に七武海連合結成会議のメンバーが揃った。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「キリア! 無事でよかった!」

「おっとっと。どうした急に? しかも泣いてるじゃないか⁉ クソ! 一体誰がヤマトを泣かせやがったんだ!」

「「「「「……」」」」」

「っていうか、あれ? ここどこだ? 俺はさっきまでヤマトとジェンガをしていたはずなのに……今度は何をやらかしたんだ俺?」

「いつも通り馬鹿をやってたんだクソ馬鹿が。すまねぇなハンコック。コイツに代わって謝罪させてもらうぜ。どうせコイツが口説いてきたんだろう?」

「……あぁ、そこの廊下ですれ違った際にな。鬱陶しかったので反射的に石にしてしまったが、まさかこれがあの怪物キリアとは……」

 

何とも言えない表情でキリアを見るハンコック。

その瞳には失望の感情が浮かんでいる。

 

ドフラミンゴは深く頷いた。

分かる。分かるぞ、ボア・ハンコック。

コイツのファーストコンタクトはだいたい人を失望させることから始まるからな。

 

「うわっ⁉ めっちゃ人いる……しかもよく見たら俺の先輩方じゃないですか……」

 

石化された前後の記憶は飛ばされてしまう。

キリアからすれば目を開けた瞬間には何故か円卓の間にいたようなものだろう。

さらに集まっているのが王下七武海の面々であることに気が付いたキリアはこの島にやって来た理由を思い出すと同時に、とある可能性に思い至った。

 

「いや、待てよ。七武海の先輩ってことはもしかして――」

 

キョロキョロとキリアの視線が動き、やがてとある女性をロックオンした。

 

「あ、あなたはまさか! せ、世界一の美女‼ ボア・ハンコックさんではありませんか⁉ う、美しすぎる……! あぁ……神よ! 俺が七武海になったのはこの時のためだったのですね! 感謝し、存分に口説かせていただきます! というわけで、ミス・ハンコック。良ければ俺とお茶でも――」

 

ガチンッ

 

再び元に戻ったはずのキリアの身体が石化した。

ハンコックによって石化が解除されてから実に30秒後のことだった。

全員の視線がまたとある1人に集中する。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

「す、すまぬ。つい反射的に……」

 

謝罪するボア・ハンコックという非常に珍しい光景が見れたが、誰も彼女を責めることはしない。

ただ一人の猪武者を除いて。

 

「キ、キリア~~!」

 

再び石になってしまった相棒を見て嘆くヤマト。

これが誰の仕業か分かった彼女はずかずかとボア・ハンコックへ歩み寄っていく。

 

「おいそこの女! キリアになんてことをしてくれるんだ!」

「待てヤマト。これは100%そこのアホが悪い。また迷惑を掛けてすまねェがハンコック、コイツをもう一回元に戻してくれないか?」

「……」

 

滅茶苦茶嫌そうな顔でキリアを見るボア・ハンコック。

 

「……言っておくが、次またふざけ倒すようなら石化させた上で砕くからな」

「あぁ、次は大丈夫だ。俺に任せておけ」

「……」

 

渋々無言で石化を解除する。

頼りになる先輩と海賊女帝の慈悲で再び野に放たれた害獣はキョロキョロと辺りを見渡し、首を傾げた。

 

「あれ? 俺は何を――」

「キリア! 無事でよかった!」

「ヤマト! ところで、俺はここで何を――」

 

状況を確認すべく辺りを見渡していたキリアの視線がとある女性をロックオンする。

眼がハートのマークになり、お約束のようにボア・ハンコックに駆け寄っていく。

 

「あ、あなたはまさか! せ、世界一の美女‼ ボア・ハンコックさんではありませんか⁉ う、美しすぎる……! あぁ……」

「……モネ」(ボソッ)

「お初にお目にかかります、ミス・ハンコック。俺の名前はキリア。以後お見知りおきを」

「……」

 

ドフラミンゴに小声で何かを吹き込まれたキリアはスッと真顔になって凛々しく挨拶をした。

そしてハンコックに背を向け、ドフラミンゴの方へ振り向く。

 

「やぁ、ドフラミンゴ先輩」

「よう。ちなみに今日のことはしっかりモネに伝えておくからな」

「も~、先輩、冗談キツイっすよ?」

「冗談じゃないが?」

「……本っ当に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

土下座も辞さない覚悟で頭を下げる七武海の新人。

 

「……これが、怪物キリア……」

「気持ちは分かるが気にするなハンコック。コイツはこういう奴だ」

「……そうか。期待をしてここへやって来たわらわが愚かであったということか」

 

失望と共にそう呟いたハンコックはスッと席から立ち上がった。

 

「おい、どこへ行く気だ?」

「――興醒めだ。帰る」

「ちょ、ちょっと待て! まだメインの話を聞いちゃいねぇだろ? それとも本当にそこの馬鹿だけが目的だったのか?」

「貴様にわらわの目的を話したところで何になる?」

「……なぁ、確かにコイツはお前の期待したような男じゃないかもしれない。だがな、ちょっと気に食わないことがあっただけで早々に評価を決めつけるのはどうかと思うぜ?」

「……」 

「おい、キリア。お前からも弁明をだな――」

「これで許してください」

「土下座はやめろ!」

 

ドフラミンゴはプライドをかなぐり捨てて土下座をしているクソ馬鹿を全力で蹴り飛ばした。

 

「ハァ、ハァ……馬鹿が! せっかくの俺のフォローを台無しにしやがって……!」

「ふん、やはりな。下劣で、プライドがなく、卑しい。……わらわは帰るぞ」

「おい! ……って、もうフォローもしきれねェか」

 

完全に機嫌を損ねてしまった海賊女帝は円卓の席を立ち、扉へと向かう。

如何にドフラミンゴといえども、今の彼女を引き留めるだけの言葉は持っていなかった。

 

「あれ? もう帰るんですか? ミス・ハンコック」

「……そこをどけ、下郎」

 

蹴り飛ばされたキリアがちょうど扉の前にいたため、退出しようとするハンコックに見下ろされる形となる。

軽蔑に満ちた瞳で睨まれたキリアはのんびりとした調子で起き上がった。

 

「おっと、すいません。どうぞ」

 

そそくさと立ち上がり、ハンコックに道を譲る。

その誰にでもへりくだっていそうな態度にも腹が立つ。

 

「……ふん」

 

ハンコックは歩き出す。

 

(……何が怪物じゃ)

 

ギリっと唇を噛み締め、行き場のない怒りを堪えながら出口へと向かう。

 

(……何が、天(・)竜(・)人(・)殺(・)し(・)じゃ……!)

 

背中に刻まれた竜の蹄が疼く。

何故か酷く裏切られたような気分だ。

怒りと同時に悔しさすら感じる。

 

(……こんな男じゃったとはな……失望したぞ)

 

出口へ向かう海賊女帝と円卓へ向かう怪物がすれ違う。

お互いに視線を合わせることもしない。

だが、2人の身体が並行に重なった時、怪物はハンコックだけに聞こえる小さな声でポツリと呟いた。

 

「――レイリーによろしく」

「ッ⁉」

 

ピタリ、と迷いなく扉へと向かっていたハンコックの脚が止まる。

この男、今何と言った?

 

「……貴様――」

「帰りにシャボンディ諸島に寄ったら伝えておいてもらえませんか? あの時はよくも見捨ててくれたなって」

「……」

 

ハンコックの聞き間違いではなかったらしい。

間違いなくこの男は冥王シルバーズ・レイリーを知っている。

 

いや、もっと正確に言うのであれば――

ハ(・)ン(・)コ(・)ッ(・)ク(・)が(・)レ(・)イ(・)リ(・)ー(・)と(・)関(・)り(・)が(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

(こやつ……)

 

レイリーやシャッキーが簡単にハンコックたちのことを喋るとは思えない。

 

(どこまで知っている?)

 

ハンコックの中に疑念が生まれる。

事と次第によってはこの男を――

 

「あれ? お帰りにならないんですか? ミス・ハンコック」

「……貴様、何を考えている?」

「さぁ? 逆に何を考えていると思います?」

「……ふざけた男だ」

「よく言われます」

 

ニッコリと爽やかな笑みを浮かべる怪物。

 

「そうか……では、質問を変えよう。何を知っている?」

「何を、とは? 抽象的でいまいちよく分かりませんね」

「……レイリーからわらわたちのことを聞いたのか?」

「いいえ、違います。正確に言えば俺はま(・)だ(・)彼と出会ってませんから」

「意味の分からないことを――」

「あぁ、でも。あなたのことなら知っていますよ」

「……だから、何を知っているのかと聞いておるのじゃ」

「全てを」

「ッ⁉」

 

全(・)て(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)ま(・)す(・)よ(・)。

 

怪物はそう言った。

 

 

 

殺さねばならない。

 

 

コイツは絶対に殺さなければいけない。

反射的に怪物の首を撥ねようと脚を動かしかけたハンコックだが――

 

(なんじゃ……その眼は……)

 

気持が悪いほど透き通った黄金の瞳を前に動きを止めた。

反射的に石化させた時と同じく、美しいものを前に純粋な喜びを表しているようなその瞳。

邪気の欠片もなく、ハンコックが臨戦態勢に移ったことも分かっているだろうに敵意の欠片もない。

これでは動揺している自分が愚かに見えてしまう。

 

「……」

 

この男が何を考えているのかさっぱり分からない。

そして、“全て”とは言っていたが何を知っているのかも今の段階では不明だ。

洗いざらい吐かせてやりたいところだが、ここは人が集まりすぎている。

ハンコックは警戒心をそのままに臨戦態勢を解いた。

 

「……後で話がある」

「2人きりで? ……これは期待してもいいですか?」

「石にするぞ下郎が」

「あなたにならされてもいいです」

 

(もう2回しているが……)

 

ただこの不可解な男との会話でこの場でこれ以上の問答は無用と判断したハンコックは喉まで出かかっていた言葉を押しとどめた。

 

「楽しみにしてますね、ミスハンコック」

「……」

 

ボア・ハンコックは踵を返し、先ほどまで自分が座っていた円卓の席まで歩いていく。

 

(何を知っているにせよ……)

 

背中に刻まれた竜の蹄がまた疼く。

ハンコックですら美しいと思うあの黄金の瞳。

キラキラと輝くあの瞳には――

 

(わらわに対する軽蔑は、なかった)

 

その事実に酷く安堵して……海賊女帝は静かに円卓の席に腰を下ろした。

 

「キリア、お前……」

「さぁ、先輩。僕たちも席に座りましょう」

 

2人の間でどのような会話があったのか知らないドフラミンゴは困惑した様子で後輩を見る。

キリアはニッコリと笑って着席を促すのみ。

 

(詳細は良く分からねぇが……ボア・ハンコックを引き留めるとはよくやった。――いや、追い出しかけたのもアイツだからよくやったも何もないが……)

 

いまいち釈然としない思いを抱えながらドフラミンゴは自身の席に着いた。

後はキリアとヤマトが席に着けばようやく会議を始められる。

 

「失礼いたします。飲み物をお持ちしました――」

 

その時、扉が開いてお盆に飲み物を乗せた使用人が入室してきた。

 

「……男か」

「女だったら良かったのか?」

 

恨めしそうな表情で使用人を見るキリア。

呆れた様子でドフラミンゴは早く席に着くようキリアに言う。

七武海たちの席にそれぞれ飲み物を置いていく使用人は明らかに気合いを入れて作ったであろうカクテルをボア・ハンコックの前に置いた。

 

「ボア・ハンコック様。こちら、当島自慢のスペシャルカクテルになります」

「……あぁ」

「是非ハンコック様にご賞味いただきたいと思いまして」

「……あぁ」

「アイツ、ミス・ハンコックに媚び売ってやがる……!」

「いいから早く座れ」

 

どこか上の空なハンコックはそれでも老若男女を魅了する妖艶な仕草で運ばれてきたカクテルを一口。

 

「ふむ……なかなか美味じゃ。褒めて遣わすぞ、男」

「お気に召されたようで何よりでございます」

「アイツ、ミス・ハンコックに褒められてやがる……!」

「早く座れ」

 

ぶーぶーと唇を尖らせるキリアにドフラミンゴが言う。

渋々席に着くべく移動するキリアはハンコックに媚びを売っている使用人を見てあることに気が付いた。

 

(……あれ、コイツ……)

 

「さて、皆様もドリンクのご希望がありましたら私にお申し付けください」

 

(……いや、そ(・)れ(・)も気になるけど、それ以上にコイツ……!)

 

「お呼びいただく際にはそちらのベルを鳴らして頂ければ――」

 

(モブの分際で腹立つくらいにイケメンだ……!)

 

「……おい、お前」

「はい。どうされましたか?」

「――俺以外のイケメンはいらねェんだよ」

「は、はい?」

「きゃっ、急にどうしたのキリア?」

 

何故か近くにいたヤマトを抱きしめたキリアは彼を庇うようにしながら凄まじい眼力で使用人を睨みつけ、何の躊躇もなく王の力を発動させた。

 

「失せろッ‼」

「ひっ⁉」

 

突如放たれた覇王色の覇気に皆が驚愕する。

顔を青くした使用人は急いで敬礼をしてから立ち去った。

 

「……急にどうしたお前?」

「いや、何となく」

 

七武海たちを代表して尋ねたドフラミンゴに素っ気なく答えるキリア。

彼は現在20歳。

絶賛、シャンクスごっこに嵌っているお年頃である。

 

「……もういい。頼むから黙って席についてくれ。それだけでいいから……」

「うい」

「あっ、キリア。この椅子凄い座り心地いいよ!」

「マジか! 俺にも座らせてくれ!」

「円卓は全部同じ椅子だボケどもッ! いいからさっさと座れッ!」

 

ドフラミンゴ必死のツッコミ。

彼はもう叫びすぎて喉が枯れそうだった。

必死の訴えが届いたのか、ようやくキリアとヤマトは席に着く。

紆余曲折(主にキリアのせいで)あったものの、これでようやく円卓の8席が埋まった。

 

「ふぅ、これでようやく会議を始められるぜ……なんだテメェら、その眼は」

「「「「……いや」」」」

 

集った七武海たちは思った。

今後はドフラミンゴにはちょっとだけ優しく接しようと。

 




良かったね若! オフ会0人は避けられたよ!
キリアのせいで全員帰りかねないけどネ!
しっかりコントロールしてください(鬼畜命令

さてちょっと真面目な話をすると、七武海たちはドフラミンゴの称号剥奪脅し(嘘)とカイドウ&キリアの名前でおびき寄せられて、忙しい(ガチ)上にドフラミンゴ嫌いなクロコボーイ以外は来てくれた感じです。
クロコボーイはプルトンで釣れるというご意見もありましたが、基本的にドフラミンゴはプルトンの存在を誰にも知らせず独占したいと思っていますので……。
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