七武海ですが麦わらの一味に入れますか?   作:赤坂緑

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何でもするのでいい加減に助けてくれませんか?

 

『クソっ! 今日は特にしつこいな!』

「わっしも暇じゃないんでねぇ。いい加減に捕まってもらうよぉ~」

 

黄猿との追いかけっこは熾烈を極めていた。

海軍の面子がどうたらは結構ガチ目の話らしく、いつも以上に気合い入れて襲い掛かってくる。

海軍大将相手に一か月生き残っているだけでも凄い! って思われるかもしれないが、それはあくまでも逃げに徹した場合だ。

反撃なんてとんでもない。今の俺では逃げ回るので精いっぱいだ。

 

まぁ、あの黄猿から逃げられているだけで凄いのかもしれないが。

 

“天岩戸”

 

「うおっ⁉ ちょっと! 勝手に島を破壊しまくっていいのか⁉」

「ん~、君が避けたせいだねぇ」

「ちょっ⁉ 俺に負債を全部負わせる気か⁉」

「総額幾らだろうねぇ~?」

「これが海軍のやり口かよ……!」

 

獣人形態で飛んでいたら後ろから極太ビームが飛んできたので咄嗟に躱すと、目の前でヤルキマンマングローブが大爆発を起こして折れてしまった。

背中から生やした竜の翼を全力で動かし、さらに上を目指す。

そうだ。先に撃ってきたのは向こうなんだから、こっちにも撃ち返す権利くらいあるだろう。

撃っていいのは撃たれる覚悟ある奴だけ。ちなみに俺に覚悟はない。

 

『竜王砲』

 

()()()()()()()()()()()、下にいる黄猿に向かって極太ビームを放った。

覇気もきっちり乗せていたが、案の定さくっと躱されてしまう。

 

ちえっ、何でこっちが有利なはずの空中戦でも向こうが有利なんだか。

 

 その後もジグザグと地面から生えている巨大なマングローブを避けながらシャボンディ諸島を滑空し、黄猿とレーザーの撃ち合いを繰り返す。

 某スペースファンタジーばりにビームが飛び交っているが、これが人間による仕業というのだから恐ろしい。片方は俺だが。

 

 だが、流石に痺れを切らしたらしい黄猿は戦いの中で八咫鏡を発動。

 不規則にマングローブの間を高速で移動し、集中力が落ちた俺の見聞色の覇気をすり抜けて背後を取られた。

 

『しまっ――』

「光の速度で蹴られたことはあるかい?」

 

 あんたのであれば何度も。

 

 なんて軽口を言う暇もなく強烈な蹴りを叩きこまれる。

 俺はインパクトの瞬間、咄嗟に完全獣状態へと移行した。

 身軽なのは獣人形態の方だが、防御力と生命力はこっちのほうが上だ。

 

 凄まじい速度で地上に落とされる最中、少しだけ残っていた良心が人混みを避けろというのでグルグルと回る視界の中で人が少ないところを選んで落下した。

 

『痛っ……容赦ないなぁ……ん?』

 

 猛烈な痛みに耐えながら起き上がると、そこは市街地の真ん中。

 辺りには俺を遠巻きに見る群衆の姿があった。

 彼らは顔面蒼白で俺の方を指さしている。

 

 ……まぁ、確かに完全獣状態の俺は凄い見た目してるけどさ、そんなに怖がることはないんじゃない?

 一人なんて、完全に涙を流しながら俺の下を見て――

 

 

 下?

 

 

 そういえば、人混みはきっちり避けていたんだが、衝突の瞬間は視界が地面ではなく

 空中にいる黄猿の動向を捉えていたので人がいたかどうか確認できていなかった。

 

 後、今少しだけ前脚を動かしたんだが、肉球の先にべちょっとした感触があった。

 

「……」

 

 恐る恐る下を見る。

 

 

 

 

なんか、もの凄い見覚えのある金魚鉢みたいなヘルメットが転がっていた。

 

 

「……」

 

 

 うん。見間違いだな。

 血と肉がこびりついた前脚で目をこすってからもう一度下を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、もの凄い見覚えのある金魚鉢が転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、やっぱり金魚じゃないか

「「「いや、違うだろ――⁉」」」

 

 群衆から息の合ったツッコミを頂きました。

 でも、ちょっと待ってほしい。

 これ、明らかに金魚鉢だろ。こんな変な形の被り物をする人類がこの世界にいるはずがない。

 バッキバキに割れた金魚鉢の向こうに赤い肉の塊みたいなのが見えるが、これもどうせ金魚だろう。

 金魚鉢の中にいるのはだいたい金魚。これ、グランドラインの常識ね。

 

 金魚を殺したところで罪には問われない。

 俺は人なんて殺してない。

 

 いいね?

 

 

 

「や、やりやがった⁉ ()()()()()()()()()()()()()()()()()()~‼」

『』

「お、おやおや~お前さん、またやっちまったのかい?」

 

 ピカっと光って地上に降り立った黄猿はちょっと震える声で俺を指さしながらそう言った。

 おい、お前が引いてどうする。

 

『あぁ、やっちまった……おい、この金魚誰のだい? 俺が弁償するよ

「「「「テメェはいい加減に現実を見ろッ‼」」」」

 

 民衆の息の合ったツッコミを再度頂きました。

 

『金魚ごときで騒がしい民衆だな。俺は動物園から逃げ出してきたただのしがないライオンだ。もう帰るから、コントはその後でやってくれ』

「「「「お前みたいなライオンがいてたまるかッ‼」」」

 

 失敬な。今どきのライオンは全員こんな感じだ。多様性の時代だぜ? そりゃあ、背中から竜の翼は生えるし、尻尾は蛇だし、後ろ脚は山羊のライオンくらい普通にいる。

 だから、俺はこれで失礼を――

 

 プルルルル、プルルルル、プルルルル、

 

『……電伝虫なってるぞ、黄猿。その左腕のやつだ』

「はいはい、腰のだね。もう騙されないよぉ~あと、逃げようとしたら撃つからね~」

『ちっ』

 

「はい、こちら黄猿ぅ~」

 

 不意をついて逃げ出したかったが、黄猿の指はきっちりと油断なく俺を狙っている。

 ここは被弾覚悟で逃げ出すべきか。

 痛いのは嫌だが、どうせすぐに再生するんだ。

 ここを切り抜けたらレイリーさんと合流して、さっさとこんな島おさらばしよう。

 修業のためとはいえ、やはり天竜人がいる島をうろつくのはアウトだ。

 

 俺自身が天竜人に思うところは……まぁ、人生を壊された相手なのでそれなりにあるが、だが少なくとも殺すつもりなんて一切なかった。

 なのに、ちょっと着地に失敗しただけでこの仕打ち。

 

 多分だが、俺はこの世界で天竜人と徹底的に巡り合わせが悪いのだろう。

 そうに違いない。きっと、敵に向かって撃ったレーザーも天竜人が近くにいればそっちに90度の角度で曲がって命中するくらいの因果律を感じている。

 ついてないぜクソッタレ。

 

 だが、やっちまったもんはしょうがない。

 

 また海軍大将に追いかけられる日々が始まるが、なーに、やることはこれまでと何も変わらない。

 今まで通り、黄猿から逃げ回れば――

 

「――つきましては海軍大将、青雉がシャボンディ諸島に出撃されました。大将二名で協力し、何としても怪物を捕縛せよとのことです!」

今なんて?

 

なんか、聞こえてはいけない単語が聞こえた気がする。

青雉、大将二名で協力。

 

「……お前さん、いよいよ終わったねぇ~どうやら、怒らせちゃいけないところを本気で怒らせちゃったみたいだよぉ~?」

『――――』

「おや~、顔が死んでるね~」

 

 そりゃあ、死刑宣告されれば誰だって顔は死ぬ。

 未だかつてない状況に頭が追い付けていない。

 なに? ここは頂上戦争でっか?

 ははっ、頂上戦争も見てみたかったなぁ……

 でも、俺はここまでだ。ここで死んで、麦わらの一味にも会えずに新聞の一面を飾って死ぬんだ――

 

『いや、まだだ』

「ん~?」

『俺には、夢がある。夢が出来たんだ。ここで死ぬわけには、いかない!』

「……随分と、生意気な目をするねぇ。大将二人を相手にして生き残れるとでも?」

『今はまだあんた一人だろ? ここであんたを潰せば残りは一人。やることは、これまでと何も変わらない』

「――怖いねぇ。その若さ、自信、潜在能力。ここで摘まないと、後々面倒なことになる。死ぬ覚悟はできたかい? 怪物」

『だから、死ぬのはあんた――』

 

 

「あらら、こんな衆目が集まる場所で天竜人の死体を踏んづけて……なかなか豪胆な奴じゃないの」

 

 

 ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには海軍大将の一人、青雉がいた。

 

 

「青雉ぃ~、なんでもうここにいるんだい~?」

「この格好を見て分からねぇか? あれだ、あれ……なんだったかな?」

「「「「ハッキリしろよ! どうせ休暇だろ‼」」」

「あ~、それだ、それだ」

 

 

 アロハシャツにサングラス、右手に大量の買い物袋を持っていれば目的は一目瞭然だ。

 民衆からのツッコミでシャボンディ諸島来訪の目的を思い出した海軍大将「青雉」はサングラスを外し、トレードマークのアイマスクを装着してから休暇の邪魔をしてくれやがった犯人を睨みつけた。

 

「それで、こいつが天竜人を殺した犯人か? 黄猿」

「そうだよぉ~、随分と手こずらせてくれたけど、その悪運も今日までだね~」

「――――」

 

 思えば、数奇な人生だった。

 せっかく憧れの世界にやって来たと思ったら天竜人のせいで台無しにされ、ようやく麦わらの一味に合流できると思ったらやっぱり天竜人のせいで台無しにされ、それでも逃げ切れるかと思ったらやっぱりやっぱり天竜人のせいで台無しにされ――

 

 あれ? 俺の人生これでいいのか?

 

 目の前で何やらごちゃごちゃ言っている海軍最高戦力二人を前に思う。

 

 誰にも(天竜人以外)迷惑掛けていないのに、善良な人間であるこの俺が理不尽にもここで殺されて終わる?

 

 ダメだろ、そんなの。

 

「……やってやろうじゃねぇか」

「ん~?」

「あん?」

 

 光と氷の化身に向かって俺は叫んだ。

 

「雑魚大将が二人揃ったからってなんだってんだ! 海軍も天竜人も全員クソだ! 俺は絶対に生き残ってやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

「……怖いねぇ、その絶対に折れない精神力。クザン、油断しちゃダメだよぉ~、コイツ、凄い速さで強くなるから」

「やれやれ、バカンスは終わりか。――仕事の時間だ」

 

 怪物が竜の翼を広げ、獅子の顔が雄叫びを上げる。

 どっちつかずの正義を掲げる中立の男が破滅の光を指先に宿し、

 だらけきった正義を掲げる誰よりも熱い男が氷河時代を具現化させる。

 

 

 怪物VS海軍大将二名による衝撃の大怪獣バトルのゴングが鳴らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やめて! 勢いで啖呵切ったけど、青雉の氷で足止めされて黄猿のビームを撃たれたらいくらタフとはいえ、身体が燃え尽きちゃう!

 お願い、撃たないで黄猿! あんたが今ここで本気出したら、麦わらの一味との再会の約束(してない)はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、(逃走前提で)海軍大将二人に勝てるんだから!

 

 次回、「キリア死す」。デュエルスタンバイ!

 




師匠その2(青雉)、到着。

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