◆◆聖地マリージョア◆◆
世界政府の要職につくその男にとって、その日は正に最悪の厄日だった。
『――ちょっと話がある。明日、向かう』
厄介ながらも使える取引相手であるドフラミンゴから一方的な連絡があった時点で嫌な予感はしていた。
だが、どうせしょうもない儲け話だろうと高を括っていたのが良くなかった。
奴が連れてきた男を見た瞬間、男は本気で眩暈がした。
「フッフッフッフ、よう、久しぶりだなァ。忙しいだろうに急に悪いな」
全く悪びれる様子なんて見せずにトレードマークのピンクジャケットとサングラス姿で登場したドンキホーテ・ドフラミンゴ。
そして――
「こっちは俺の後輩になる予定の男だ。今日はアンタにコイツのことを紹介したくてねェ……ほらキリア、挨拶しろ」
「フッフッフッフ、キリアだ。以後よろしくぅ」
ドフラミンゴの色違いのような派手な金色の羽毛ジャケットを羽織り、似たようなサングラスを掛けたスーツの男がニヤニヤ笑いで挨拶をしてくる。
怪物キリア。
最近の頭痛の種がドフラミンゴそっくりな格好で目の前に現れたのだ。
男は眩暈に加えて吐き気をこらえるのに必死だった。
ダブルドフラミンゴシステムとか卑怯だろお前……!
動揺しきりの男を前に、勝手にソファーでくつろぎ始める2人。
最初にインパクトを与えて交渉を有利に進めるつもりだと悟った男は何とか主導権をこちらに手繰り寄せようとするが、それよりも先にドフラミンゴの一方的な話が始まった。
“今の世界情勢”
“怪物キリアの危険性”
“だが、彼は条件次第では世界政府に忠誠を誓うと言っていること”
“彼を仲間にするには今しかないということ”
「――そういうわけで、コイツを俺の後輩にしたいんだ。構わねぇだろ?」
「ふざけるな! 七武海はそう軽々しくなれるようなものではないぞ!」
「軽々しくないさ。新聞見てねェのか?」
「あれもどうせ貴様の仕業だろうが……! 海賊風情が、あまり調子に乗るなよ!」
「――おい、言葉遣いには気を付けろよ」
ドフラミンゴは男の机まで詰め寄り、机の角に腰を掛けてその掌を男の顔に向けた。
「俺が興味あるのはテメェの権力だけだ。四の五の言わずにさっさと上を説得してコイツを七武海にすりゃあ、いいんだよ。テメェにできないならさっさと首を飛ばして別の奴に頼むだけだ」
「きょ、脅迫か……? こんなことをしてただで済むと思っているのか……!」
「あぁん? まだ状況が分かってねぇのか? おいキリア、お前の今の気持ちを教えてやれ」
「うーん、そうだなァ……」
勝手に部屋のウイスキーを飲んでいた怪物がグラスを置き、ドフラミンゴと同じように机まで詰め寄って来た。
「なんか今、無性に暴れたくなってきたっすわ」
「ッ⁉」
「おいおい、それだけか?」
「あれっすね。復讐心が燃え上がって来たっすわ……天竜人、もっと殺っちゃおうっかな?」
「ッ⁉」
「フッフッフッフ、そりゃあ、まずいな。コイツはやると言ったらやる男だ。どうする? お前の決断一つで救われる命があるんだぜ?」
「い、いや……そういわれても……」
確かに自分のコネクションを使えば七武海に推薦することも可能だが……それにしたって上への説得が……労力が……。
そんな男の葛藤を見抜いたのか。ドフラミンゴは先程までと打って変わって優しい声で語り始めた。
「――逆に考えようぜ。今ここでコイツを七武海にすりゃあ、お前は制御不能の怪物を手懐け、天竜人の命を守り、革命の動きを抑えた英雄になれるんだぜ?」
「だぜ」
「えい、ゆう……」
男の脳裏に様々な人間から祝福される様が思い浮かんでくる。
それに、ドフラミンゴの言っていることは決して嘘ではない。
怪物は理解不能で、制御不能で、殺せないからこそ恐れられている。
逆に言えば、理解はできず海軍大将で殺すことができなくとも、制御することさえできれば世界政府としての面子は保てるのだ。
……これから自分が説得しなければならない人間を考えれば今すぐにでも断りたい案件ではあるが。
「よーく考えてみろ」
「みろ」
「これはまたとない絶好の機会なんだぜ?」
「だぜ?」
「冷静に自分のキャリアを考えるのであれば」
「あれば」
「ここで乗らない手はねェ」
「ねェ」
「キリア、お前はちょっと黙っておけ」
「OK」
交互にダブルドフラミンゴが語り掛けてくる。
(片方はドフラミンゴの語尾を復唱するだけだが)
男は必死に頭を回転させた。
ふざけた奴だが、世界に与える影響力は尋常ではない。
手間は掛かるがやるしかないのだろう……。
「……分かった。上に取り合ってみよう」
「そうこなくっちゃなァ! よろしく頼むぜ!」
「頼むぜ!」
「邪魔したなァ!」
「なァ!」
「「フッフッフッフ」」
「「フッフッフッフ」」
こうして、嵐のような2人は上機嫌で男の元を去っていったのだった。
ステップ2完了。
◆◆ドフラミンゴの屋敷◆◆
「さて、最後のステップ3……に移る前にだ」
「はいはい。プルトンに関する情報でしょ? 何を知りたいんすか?」
パイセンから渡されたクソださグラサンとコートを脱いだ俺はソファーでくつろぎながら答えた。
「そうだなァ……戦艦というくらいだ。そのプルトンとやらには設計図が存在してるんじゃねぇのか?」
「まー、あるらしいっすね……」
「その設計図の場所を知ってるのか?」
「いや、そっちは
「ちっ、何だよ。使えねー奴だな。……だが、現物が手に入るなら設計図もいらねぇか。せっかくなら手っ取り早く量産させようと思ったのによォ……」
「……」
何て恐ろしいことを考えるんだこの人。
これは設計図の場所を言わなくて正解だったな。
流石にトムさんを始め、ウォーターセブンの方々が命懸けで守り抜いた設計図を売るほど非道になったわけではない。
ま、どうせフランキーが燃やしちゃう設計図ではあるんだけどね。
そして現物の方だが、パイセンが死ぬほどビビり散らかしているカイドウが治めるワノ国にあるうえ、海底に封印された状態で取り出し方が俺にもよく分からないような状況だ。
(開国がキーワードだっけ? ワノ国編最後まで見届けられずに死んじゃったからよく分からないや)
もしパイセンが海底からの取り出し方を思いついたとしても、かなり大掛かりな作業が必要になるだろう。
つまり、ワノ国に眠っているプルトンを手に入れるには次の条件が必要になる。
①具体的にワノ国のどこにプルトンが眠っているかを探る。
(俺は海底に眠っていることまで伝えるつもりはない)
②ワノ国を開国させ、海底から戦艦を浮上させる。
(……良く分からないけど多分無理そう)
③作業の邪魔になるカイドウの排除。
(パイセンには無理でしょ)
ドフラミンゴ先輩が思ったよりしっかりと俺の七武海加入に向けて動いてくれているのはありがたいが、残念ながらパイセンには泣きを見てもらう必要がありそうだ。
ま、場所は教えるとは言ったけど、使えるなんて一言もいってないし、ここは早とちりをしたパイセンの方が悪いってことで一つよろしくぅ!
世界を滅ぼすなんて物騒なこと言っちゃダメっすよ。
◆◆数日後◆◆
モネちゃんとの2回目のデートも無事に終えた次の日。
またもやノックなしでドアが開いてパイセンが入って来た。
プライベート(ry
「出掛けるぞキリア、ステップ3だ。……今日はデートの約束入ってねぇだろうな」
「大丈夫っすよ。どこへ行くんです?」
パイセンはニヤリと笑って言った。
「海賊狩り」
【ステップ3:政府への忠実性の確認】
俺とパイセンは今、並んで空を飛んでいた。
流石に本気を出せば俺の方が圧倒的に速いので、雲に糸を引っかけて移動しているパイセンに俺が合わせている形だ。
どうせならと「獣状態の背中に乗りますか?」と聞いたんだが、
「お前の変身後の姿気持ち悪いから嫌だ」というシンプルな悪口で断られたので、並んで飛んでいる。普通に凹むんだが……。
さて、ステップ3についての詳細だが内容としては簡単で、世界政府が手を焼いている新世界の海賊を退治し、俺にきちんと任務遂行能力と忠実性があるかどうかを確認したいらしい。
ちなみにドフラミンゴ先輩は七武海の先達として俺がきちんと任務をやるかどうか監視する役だそうだ。
まぁ、パイセンが俺に不利な報告をするはずもないので、これは殆ど出来レースってやつですな。
「おい、見えたぞキリア。あれがターゲットの海賊船だ。新世界で好き勝手に暴れては略奪行為を繰り返している連中だ。出来る限り生け捕りでいけ」
「ういっす」
まぁ、これも七武海になるためだ。
さっくり終わらせますか!
◆◆ドンキホーテ・ドフラミンゴ◆◆
強い。
俺は雲に引っかけた糸に腰かけ、眼下で繰り広げられている一方的な戦いを眺めながら素直にそう思った。
今下で戦っているのは俺が
空を飛んでいる間は普通に竜の翼を生やしていただけだったが、海賊を見つけて俺からゴーサインが出るや否や、すぐさま異常な姿に変身して海賊船へ突撃していった。
完全獣形態は見たことがあり、その時点で十分に化け物だと思っていたが……今の姿も大概だな。
「あ、悪魔……悪魔だ!」
下から聞こえてくる海賊の声に同意する。
アレは、
竜の頭に変形した右腕に、獣の凶悪な爪が生えた左腕。
こめかみ辺りからは山羊の角が2本、悪魔のように生えている。
そして背中には大きな竜の翼。
上半身は鍛え上げた肉体がそのまま晒されており、下半身は黒色の体毛で包まれ、脚は山羊のように変形している。
さらに毒を持った蛇の尾まで生えてやがる。
金色の髪を靡かせ、獅子のような牙を剝き出しにして嗤う姿は正に悪魔の如し。
「あー、はいはい。悪魔ですよっと。――どうでもいいけど早く沈んでくれない?」
竜の頭に変形した右腕から熱線が放たれる。
ただの一撃で海賊船に致命的なダメージが入り、海賊旗が一瞬で燃え尽きる。
「テメェ……良くも!」
ここは新世界。それなりに腕の立つ連中が生き残っている場所だ。
当然のように覇気を使える連中が反撃に打って出る。
剣で切りかかるが、獣のように変形した鋭利な爪に受け止められ、逆に山羊の脚で強烈な蹴りを入れられて吹っ飛んでいった。
「クソッタレ!」
覇気を込めた銃弾が放たれる。
「ちょっと! 痛いじゃないか」
「う、嘘だろ……傷が一瞬で」
攻撃を受け、被弾しようともすぐさま回復する様は自然系の理不尽さを思い起させる。いや、ダメージを受けてから超回復を行っているからそれ以上か。
「ふざけんな化け物がァァァ!」
「おっと。その刀、鈍らだね。替えた方がいいと思うよ」
さらに、そもそもの身体が異常に頑丈だ。
生半可な剣では傷をつけることも出来ない。
そして極めつけは――
「バカ野郎! ただの能力者だ! 致命傷を受けりゃあ、死ぬに決まってんだろ! いいから撃ちまくれ!」
「あぁ、悪いけど、
「はぁ……? 何を言ってやがる! そんなことが――」
「ほら」
先程は身体を貫通した筈の弾丸はしかし、容易くキリアの左手で受け止められていた。
これだ。この
各地に派遣しているスパイたちに命じてコイツに関する資料を片っ端から入手したが、黄猿と青雉という海軍最強戦力2名がコイツへ猛攻を仕掛けるも止めを刺しきれなかったのは、この異常な能力のせいらしい。
一度食らった攻撃は効かない……というほど理不尽なものではないらしいが、少なくとも初撃よりも威力が落ちるのは間違いないらしい。
それは防御力/回復力の両方に作用し、能力者の攻撃を受けても2回目はダメージが通りにくくなり、さらに回復速度も速くなるそうだ。
……化け物だな。
少なくとも、初撃で大ダメージを与えられなきゃ、それ以降は圧倒的に向こうが有利になる。
同じ技の定義が曖昧だが、生憎とコイツは誰の技を食らっても五体満足でいる強烈な生命力がある。
一度命懸けで戦えば、次の戦いからは殆ど全ての攻撃に対する耐性を得ているとみて間違いないだろう。
俺はコイツに勝てるのか? 自問自答するが……正直言って、厳しい気がする。
認めるのも癪だが、アイツの力は反則級だ。
それにプルトンの件もある。
“今は”戦わずに味方にする方が得策だろう。
「……今、か」
アイツと接触してからずっと続いている奇妙な関係性に思いを馳せる。
出会ってからまだ一週間も経っていないが、アイツが何か隠していることには気が付いている。だがそれは構わねェ。俺だって似たようなものだしな。
俺たちはお互いの腹の内を(雑に)隠しながら自分の利益だけを追い求めている。
アイツは厄介だし、面倒だが、使える男だ。
“今は”先輩顔をして仲良くしておくに越したことはないだろう。
『ドフラミンゴ先輩』
誓っていうが、情が湧いたわけじゃない。
アイツは仲間ではないし、ましてや友人ではない。
ただの……クソ迷惑な後輩だ。
だが、暫くは面倒を見てやってもいいかもしれない。
今は、今だけはそう思っている……。
「あっ、モネちゃんから電話だ! ストップ! みんな一回戦闘ストップでお願いします! もしもし、モネちゃん?」
「……」
この時、ドフラミンゴはこう思っていた。
コイツ、本当の本当にマジでぶち殺したろうかなー、と。
モネちゃんとの出会いについては番外編でやるつもりです。
主人公の獣人形態は、ざっくりとですがBLEACHのウルキオラの刀剣解放第二階層に近い感じです。
強そう(小並感