ガリレオの従姪 作:けーてぃー
聡明で理知的な女性に育ってほしいという願いを込めて、両親は彼女に
玲於奈は、自分の名前を気に入っていた。
たとえ名前に関して、どれほど辛辣な言葉をいわれたとしても、それがどうしたと一笑に付す気概があった。
幼い頃から同級生たちには、外国人みたいだと揶揄われることがあったし、年配者には、今風の名前ね、と遠回しに嘲弄されることもあった。
幾分の教養がある相手には、玲於奈は男の名前だと苦笑されたこともある。しかし、それでも玲於奈は自身の名前を嫌いにはならなかった。
玲於奈という名前は、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈博士にあやかって名付けられたものだ。
彼の名を由来に付けられた自分の名を、誇りこそすれ、厭うことなどなかった。
あやかった対象の高名さと、そこから推し量られる両親の期待感に、多少の重圧を感じないこともない。しかし幸いにも、彼女は概ね健やかに、大層賢く、すくすくと育っていった。
玲於奈が自分の名前を気に入ったのは、彼女がまだまだ幼い、未就学児だったころのことだ。
そのころの彼女は、紙飛行機に凝っていた。
母親に折り紙をねだっては、買ってもらったそれをすべて、紙飛行機を折ることに費やした。
そんなに沢山折るなら、わざわざ折り紙を使わなくとも、新聞の折込広告の紙を使えばいいのにと母親には注意されたが、広告の紙では意味がなかった。
広告の紙は一枚一枚材質も微妙に違うし、大きさや厚さにも差がある。それでは駄目だった。
当時の玲於奈には、言葉にして論理的に理解できているわけではなかったが、彼女は、すべての紙飛行機の素材条件を均一にしたかったのだ。
どの紙飛行機も素材を同じにした上で、折り方、形状の工夫のみでどれだけ飛行に変化が現れるかに、興味の焦点があった。
そんな、研鑽というほどでもない試行錯誤の日々が続いていたある日、家に親戚の男が訪ねてきた。
玲於奈の父親に招待されてやってきたその男性は、父親の従兄弟らしい。
皆で一緒に昼食を摂るというので、食卓での団欒には付き合った。しかし、食事中の会話は、幼い子供にはわからない大人同士の近況報告と世間話に終始していたので、あまり楽しいものではなかった。
しかも、日中からお酒を飲んで醜態を晒している父親を見るのがどうも忍びなく、居心地が悪い。親戚の男に対して、上機嫌で騒ぐ様はなにやら恥ずかしかった。
相手の男が、感情の読みにくい表情をしているところなどを見ると余計に、楽しんでいるのは父だけではないのかと疑ってしまう。
食事を終える頃には嫌気がさしていた玲於奈は、ご馳走様の合図と共に、玩具箱を引っつかんで庭に跳び出した。
庭は、幼い玲於奈ならば走り回って遊べるほどの広さだった。広い庭も含めたこの家は、医者を生業にしている父方の祖父が用意したものだ。
父親も勤務医ではあるが、まだ若い彼にはそこまでの資産はない。
青々とした芝生の張られた庭に玩具箱を置き、中身をガサゴソと探る。
箱の中には様々な形をした紙飛行機たちが詰まっている。
最近作った中でも、最も出来の良い細身の紙飛行機を箱から取り出した。右翼部分に、あまり綺麗とはいえない文字で、『まっすぐ31ごう』と書いてある。
小さな右手でその紙飛行機をしっかり持ち、家の塀に向かって飛ばした。
紙飛行機は風の抵抗を物ともせずに、ほとんど地面と平行に飛び、塀に当たって落ちた。いつも通りの結果に満足して口元を綻ばせると、玩具箱から鉛筆とノートを取り出す。ノートをぱらぱらと捲り、まっすぐ31ごうと書かれたページに丸を付け足した。
その後彼女は、次々に紙飛行機を飛ばした。まっすぐに飛ぶものもあれば、右や左に曲がるものもある。また、すぐに地面に落ちたり、逆に浮き上がったりと、紙飛行機たちは多種多様な飛び方をみせた。
ひとつ飛ばすたびに、ノートに記号を付けていく。付ける記号は、彼女なりの法則に則っていた。
「その箱の中にある紙飛行機は、全て君が作ったのか」
不意にかけられた声に、玲於奈は振り返った。いつの間にか、親戚の男が庭の見える玄関先に立っていた。
玲於奈に話しかけているはずなのに、なぜか、彼女の近くには寄ってこない。男と玲於奈の距離は、優に三メートルは離れている。
親以外の大人の男性を警戒する年頃だった玲於奈は、言葉を発するのを躊躇した。
しかし、どうやら自分が作った紙飛行機に興味を持ったらしいと理解した彼女は、仕方ないから見せてあげよう、と玩具箱を抱え上げて彼の方へ歩み寄った。
だが、彼女が近付くと、何故か男は後退りして距離を取った。
奇妙な動きに玲於奈は考え込む。とりあえず、近付いて欲しくないようだと判断した彼女は、玩具箱をさっきまで男が立っていたあたりに置いて、自身は離れて距離を取った。
その行動はどうやら正解だったようで、彼は玩具箱に歩み寄り、中から適当な紙飛行機を選んでひとつ取り出した。
それは——と、玲於奈は声を上げた。男の視線が、彼女の方に向く。
「それは、空に向かって飛ばすヤツです」
「空に?」
「このくらい」
玲於奈は腕をまっすぐに伸ばし、斜め上の宙空を指差した。腕の角度は地面から見て、大体六十度くらいだった。
男は頷き、数歩ほど歩いて芝生の上に立つと、スムーズなフォームで斜め上の方向に紙飛行機を放った。
両翼の先端を折り曲げてあるその紙飛行機は、旋回しながら舞い上がったあと、クルクルと螺旋状に緩いカーブを描いて高度を下げていく。ちょうど男の近くに飛んで戻ってきたので、彼はそれを優しくキャッチした。
「素晴らしい。これは、本か何かを参考にして作ったのか」
「……いっぱい、色んな折り方をしたら、たまたま出来ました。同じような折り方でも、ほんの少し変えるだけで、ちがう飛び方をするんです。ちょっとずつ変えて、たくさん試しました」
玲於奈が答えると、男は突然、闊達に笑った。彼女の言葉に、確かな知性の芽吹きを見たからだ。
彼女は不思議そうな目で、彼の端正な顔を見上げた。一瞬視線が合うが、彼はすぐに目を逸らしてしまう。
彼は本来、子供が嫌いだった。余程の理由がない限り、子供と話したりするようなことはない。
そんな彼が、今日は自分から、幼い従姪に話しかけていた。
リビングの掃き出し窓から見えた、紙飛行機を飛ばしては、ノートに何かを書き込んでいる彼女の姿に興味を覚えたからだ。
彼の目には、玲於奈のその行為が、研究に勤しむ科学者のように見えた。
「君の取り組んでいる事は、物理学という学問の道への端緒といっていい。多大な実践によるデータの蓄積は、研究の第一歩だ」
「ムズかしくて、よくわかんない、です」
最近ひらがなを覚えたばかりの幼い女の子には、男の言い回しは難解に過ぎた。彼は目を細めて苦笑した。
「つまり、君の名前は、君によく似合っている。そういうことだ」
「そうですか、ありがとうございます」
この日、この瞬間、玲於奈は自分の名前を気に入った。
そして、自分の名前を、よく似合っているといってくれた男の顔を初めてしげしげと観察してみた。
父の従兄弟とのことだが、顔立ちはあまり似ていない気がした。背丈にも随分差がある。玲於奈の父は小柄だが、この男は180センチはありそうな長身だ。
玲於奈は顎を擦りながら、小首を傾げた。
「あなたは、パパとはあまり似てませんね」
子供という生き物は、思いがけず、真実を突いてくることがある——男はそう思った。
「似ていない従兄弟など、珍しくはない」とりあえず男は、そういっておいた。
玲於奈は彼をじっと見つめて、なるほど、と呟いている。何をどこまでわかっているのかは、窺い知れない反応だった。
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二限目の終了時刻まで、残り五分ほど。まだチャイムが鳴っていないうちに、講師は授業の終了を告げた。ほとんどの学生達は、早々に筆記用具とテキストを鞄にしまい、講義室をあとにする。
「ねえ、玲於奈、なんか手品みせてよ」席を立った玲於奈の腕を、隣に座っていた
「また?」口の片端を上げて、玲於奈はいった。
「いいじゃん、お願い」
小夜子は顔の前で手のひらを合わせた。いたずらっ子のような笑顔を浮かべている。
玲於奈は、仕方ないな、と呟き、少しずれた銀縁眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げた。
彼女は鞄から、使い込んだトランプデッキを取り出す。そして、トランプの数字が見えないよう裏向きで扇状に開き、小夜子に差し出した。
「さあ、どれか一枚お好きなカードに、その細く長い指で触れてください、お嬢さん」
気取った物言いに小夜子はくすくすと笑いながら、一枚のトランプに触った。
こちらでよろしいですか、と、玲於奈は自身には表側が見えないようにして、選ばれたカードを小夜子に掲げた。
それは、ハートのエースだった。
「それじゃあ、簡単なカード当てでもやりましょうか」玲於奈は小夜子が選んだカードをデッキに差し込んだ。慣れた手つきでカットとシャッフルを数回繰り返す。「カード当ては、色々なトリックと様々な見せ方があるポピュラーなマジックだけれど、今回は、私が当てるのではなく、カードに自ら飛び出してきてもらうわ」
シャッフルを終えると右手にデッキを持ち、それを軽く振った。すると、デッキから一枚のカードが高速で飛び出した。玲於奈は飛んだカードを左手でキャッチして、小夜子に手渡した。
「あなたが選んだカードは、こちらですね」
「いや、違うよ」
そのカードはダイヤのエースだった。ハートのエースとよく似てはいるが、違うカードだ。
「あれ、じゃあ、こっちか」
今度はデッキから二枚のカードを素早く抜き取り、小夜子に渡す。スペードのエースとクラブのエースだ。
小夜子の手元に三枚のエースが揃ったが、残念ながらどれも彼女が選んだカードではない。首を振って、違う、といった。
「では、こちらのカードはどうでしょう」
デッキを丸ごと裏返しながら左手に乗せて、一番下にあったカードを見せた。しかし、それすらも違う数字のカードだった。
ひょっとして、失敗したのだろうか、と瞬きしてカードを眺める小夜子だったが、玲於奈は慌てずに、空いた右手をそのカードに被せて、そっと擦った。
「お待たせしました。あなたが選んだのは、こちらのカードですね」
被せられた右手が退けられると、待ち望んだハートのエースが現れた。
「わあっ、すごいすごいっ」
子供っぽく、はしゃいで喜ぶ小夜子の反応は素直で可愛らしく、悪い気はしない玲於奈だった。
「ねえ、玲於奈、私も玲於奈みたいに、手品やってみたいな」
「練習する気があるなら、教えてあげてもいいわよ」
「マジ?」
「本当に、練習する気があるならだけれど」
玲於奈は、帝都大学に入学したばかりの新入生だった。
内向的なわけではないが、さほど社交的とも言い難い彼女にとって友人が出来るかどうかは、これから始まる長い大学生活における、それなりに大きな懸念材料だった。
基本的には、勉学の為に進学したわけではあるが、孤独にひとりぼっちで学問に打ち込むというのは、自分の性向には向いていないと思っている。
彼氏だ男だ、と、恋愛にがっつくつもりは無いが、気安い関係で話せる女友達の一人や二人は欲しい。しかし、入学を選択した先は理工学部だったので、そもそもの男女比で、女性の方が少ない。
ただでさえ少数派である女性たちの中から、気の合う友人を見つけるのは難しい。
しかも、ある程度の時間が経ち、グループが固定化されてしまったあとでは、あとから割って入るのは難しくなる。
さてどうするかと、ぼんやり迷いながら入学式に出席していた玲於奈に、偶然隣の席になった高野小夜子が話しかけてきたのは、先々週のことだった。
簡単な自己紹介でフルネームを告げた玲於奈に対して、「玲於奈って、良い名前ね」と、コケティッシュな笑顔で小夜子はいった。「玲於奈って呼んでもいい?」
玲於奈はその問いにひとこと、どうぞ、とだけ答えた。それから何となく、同じ講義を受ける時は隣に座るし、休み時間は予定が合えば一緒にいることが多い。
趣味嗜好を訊ねられて、子供の頃から手品を演るのが好きだったと答えてからは、頻繁に実演をねだられた。
子供の頃から、不思議な物理現象や奇妙な超常的事象に対して異常な程の好奇心があった玲於奈は、それが高じて、物理学者を目指して勉強しつつ、一方で数々の手品を覚えることにも時間を費やした。
トランプやコインなどの小道具を用いたトリックを特に好んだが、興味が湧けば、イリュージョンなどのステージマジックの仕掛けを調べたこともある。
持ちネタの数は、細かい物も合わせれば既に三桁近いし、新しいトリックを仕入れるのも好きなのだが、小夜子のリクエストの頻度は新技を覚えるスピードを遥かに凌駕していた。
手品を見せること自体は別に嫌なわけではないのだが、あまりハイペースに次々と見せてしまうと、早晩ネタ切れの憂き目にあうことは間違いなかった。
しかし、まあ、それもいいか、と玲於奈は思っている。
ネタ切れしたからといって切れるような友人関係でもないだろう。仲良くなって日は浅いが、その程度には、高野小夜子の人となりを信頼していた。
春からの新生活や、大学の講義ペースにも少しは慣れたある日の昼休み。ランチを終えた小夜子は、鞄から取り出した一枚のチラシを玲於奈に見せた。
「帝都大学奇術研究会?」玲於奈はチラシに書かれたサークル名を読み上げる。
「ラウンジのところで上級生の人がチラシ配っててさ。こういうの興味あるかなって、一枚もらってきた」快活に、小夜子がいった。
「興味無いわけではないけれど、どうかしらね。小夜子は入りたいの?」
「うん、素人一人でってなると躊躇するけど、玲於奈が一緒に入ってくれるならアリかなってね。わたしも手品覚えたいし」
玲於奈の手品は、誰かに習ったわけではなく、教則のDVDや動画サイトなどを手本にした独学だった。今までの人生に同好の士は一人もいない。中学や高校でできた友人に披露することはあっても、自分も覚えたいという子は稀だった。
ごく偶に、教えてくれと頼まれたことはあったが、そういう子は大抵トリックのタネを知りたいだけで、実演にはそれなりの練習が必要だということを理解すると、途端に飽きてやめてしまった。
「大丈夫? 手品なんてすぐに飽きちゃうかもしれないわよ?」玲於奈は娘を心配する母親のように、眉根を寄せた。
「大丈夫、大丈夫。飽きたら飽きたときだよ。それにほら」小夜子はチラシの文言を指差して、「未経験者、初心者はもちろん、見る専も大歓迎って書いてるじゃん。わたし、練習するのは飽きちゃっても、見るのは飽きないと思う」といった。
「そう、じゃあ、とりあえず見学だけ、覗くだけでもしてみようか」
「よし、決まり。そんじゃ、早速いこうよ」
「えっ、いま?」
「善は急げって言うじゃん」
急かす小夜子に連れられて、チラシに場所が書いてあった部室へと行く。
部室のドアには、奇術研究会、と少々癖字で書かれた張り紙があった。
一応ノックをしてみると、どうぞ、と朗らかな声が返ってきた。
失礼します、と二人が声を揃えて入室すると、あまり広くはない部屋の中央に、長机が置かれていた。学生らしき女性が一人座っている。
「こんにちは、新入生よね? 入会希望ってことでいいのかしら」女子学生は、柔和に微笑んだ。
「こんにちは、ええと、新入生なんですけど、入会希望といいますか、少し見学を、と思いまして」玲於奈がいった。
「そう、初めまして、私、
琴音は、入会希望者が来た時のために待機していたらしい。彼女に椅子を勧められた二人は、長机のパイプ椅子に腰掛けた。
「初めまして、高野小夜子です。隣のこの子は玲於奈。格好いい名前でしょう。玲於奈って呼んでください」
「ちょっと小夜子、なんで貴方が勝手に私の呼び方を決めるのよ」
「いいじゃん、別に。玲於奈って下の名前で呼ばれるの好きでしょ?」
「いや、まあ、嫌いじゃないけれど」
二人のやり取りを聴いて、琴音は思わず相好を崩した。
「仲が良いのね。高校から一緒なの?」
「いいえ、大学に入ってからの仲ですよ」玲於奈の肘に腕を絡ませて、小夜子はいった。琴音は少し驚いたように眉を上げて、「そうなの、いいわね。そういうの」と呟いた。
彼女のいう、そういうの、なるものがなんなのか、玲於奈には正確に掴めなかったが、内心で静かに同意した。
多分、いいのだ。こういうのは。
「入会してくれるかはともかく、私とも仲良くしてくれると嬉しいわね」
「こちらこそよろしくお願いします。突然ですけど、もしよろしければ何かマジックを見せてくれませんか。琴音さん見る専じゃあないですよね? 醸し出す雰囲気が、ミステリアスな女マジシャンっぽいです」玲於奈に絡ませた腕をほどいて、小夜子がいう。
「ちょっと、初対面でいきなり、失礼よ」玲於奈は慌てて制した。
「あら、私のマジック見てくれるの? いいわよ、演ってあげる」
小夜子の急なお願いにも快く答えた琴音は、トランプを使ったマジックを見せてくれた。
琴音はおもむろに、左手で十枚のトランプカードを構えた。右手で一枚抜き取り、流麗な動きでそれを揺らしたかと思うと、カードは一瞬で消えてしまった。
ゆらゆらと、まるで陽炎や、生きている蛇のように揺れながらカードを抜き取る右手。その動きに見惚れていると、カードは一枚、また一枚と次々消えていく。
全てのカードを消したかと思えば、今度は一転して、何も持っていないはずの手からカードが一枚突然現れる。
現れたカードは指で弾かれて、長机に舞い落ちた。それを皮切りに、一枚、二枚、三枚と、どんどんカードが現れては長机に落ちていく。裏面の模様が、綺麗な新緑色のカードを使っているので、まるで、深い森の中で舞い散る木の葉を眺めているような錯覚に陥る。
このマジックは、手のひらや手の甲で物を隠す技術、いわゆるパームを利用している。わりと熟練者である玲於奈の目から見ても、琴音のパームは見事な手捌きだった。
「はい、どうかしら。我ながら、結構上手くできたと思うけど」
「すごいです!」小夜子が手放しで褒める。
「ふふっ、ありがとう」
「わたし、未経験なんですけど、入会したら、わたしもそんなふうにマジック出来る様になりますか?」
「ええ、練習すれば、私くらいならすぐに追いつけるわよ」
「わかりましたっ、わたし頑張って練習します。ねえ玲於奈、やっぱり入会しちゃおうよ」
小夜子は隣に座っている玲於奈を肘でつつく。
つつかれた彼女は、まあ、それもいいか、と頷いた。
琴音から入会届けを受け取った二人は、必要事項を記入していく。
琴音以外の会員は、顔も名前も知らないどころか、この奇術研究会というサークルのメンバーが総勢何人いるのかもわからない玲於奈だったが、この選択は悪くないと思っていた。