翳り裂く欲望   作:火野ミライ

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2:不幸と出会いと復讐の狂歌

シトシトと雨音が響く大通り。グレーのフードを深く被った少女が歩いていた。

まだまだ朝早い時間、視線を足元へ向けて少女は目的も無く歩き続ける。

 

ーなんであなたが生き残ったのよ!ー

 

ー近づくなよ!人殺し!!ー

 

ー怪物め、僕が倒してやる!ー

 

ーあなたなんか、産まなければよかったー

 

ーさよなら、響ー

 

少女の脳内に響き続けるのは少女の事を罵倒するクラスメイトや見知らぬ子供、さらには家族や親友からの拒絶の言葉。

 

ノイズと呼ばれる生きる災害に遭遇した響は重傷を負うもなんとか生存。リハビリの末、学校に復帰した彼女、響を襲ったのは【生存者は人殺し】と言う記事のうたい文句に乗っかった人々の正義と言う名の暴力。

 

学校で見知った人から見知らぬ人まで悪口や暴力は当然、教員は響を守ることはせずむしろ他の生徒に同調。家の塀にはいわれのない言葉を書かれ、窓から石を入れる人もいた。

 

家族や友人も最初は響を助けていたがまた一人、また一人と響の敵となっていく。やがて身内からもさげすんだ目で見られるようになった響は、最低限の荷物を手に失踪したのだった。

 

どこかに向かうわけでも無く唖然と歩く響。その瞳には濁っており、他人の視線から逃げる様にフードを深く被り、視線を足元に向けている。そして数歩進んだところで自分の目の前に人が立っている事に気が付いた。自身に降りかかる雨水が目の前の人物が持つ傘によって遮られている事に気が付き気だるげに視線を上げる。

 

そこに居たのは茶色交じりの髪にどこかの民族衣装を思わせる服の上からレインコートを羽織り、肩には大量の新聞が詰められた鞄、手には透明のビニール傘を持つ20代前半ぐらいの男性 _火野映司_ だった。

 

「良かったらこれ使って」

 

優しく傘を差しだす映司。普段の響なら受け取る事はなかったのだが、映司の持つ不思議な雰囲気からか、無意識に差し出された傘を受け取っていた。そこ事に満足した映司は去り際に一言呟いてから新聞を抱え走り出す。その後姿を唖然と見つめてた響は目を逸らすかのように反対方向へと走り去った。これが映司と響の出会い。

 


 

時は流れ時計は正午を超えた時間を示すころ、響はあいも変わらず周囲からの視線を遮るなめフードを深くかぶり公園のベンチで座っていた。

 

(ここ、どこなんだろう………?)

 

顔は下に向けたままに視線だけあたりを見まわした響がふと心に思う。知らない公園、知らない道、知らない店、知らない街並み、あげれば知らないもの尽くめの光景。その事に不安と安心感、二つの相対する感情が響の中で生まれる。

 

(でもどうせ、私だってバレたら怪物の私は____)

 

響の脳内で蘇る二つの記憶。一つは死にそうなぐらい男子高校生からの暴力を受けた時に多々また近くにいた警官に助けを求めた時のいやいや止めてくれた時に言われた一言、「警官として止めるけど、私的に息子を見殺しにした君は助けたくない」。その時の言葉を響の心に深く突き刺さり、今も消えない傷の一つとなっている。

 

そしてもう一つは失踪する日の出来事。その日はいつも通り誰一人味方のいない教室で授業を受けていた。……正確には教室で座っていただろう。なぜなら教員は響にプリントを配る事が無いのはざらで響を置いてきぼりにする授業、更には響が入院中にした内容の問題を黒板の前で解かせようとするなど響の身にならないものばかり。

 

その時も響は指名されみんなの愉悦のため、黒板の前に立たされている。これから何をされるのか恐怖で一杯だったころにそれは現れる。派手な色彩の体に目の代わりに輝くディスプレイを持つ生物でありながら、災害と呼ばれる人類の天敵。

 

ノイズと呼ばれるモノたちが次元を超え、胸の中に満ちたソレを果たすため人々を灰へ変える。阿鼻叫喚となり我さきへと逃げる人々。彼らは攻撃をする瞬間のみこちらの次元層に存在を置き、それ以外は手出しの出来ない次元層の向こうへと体を置いているだ。つまり逃げている人々は蜃気楼を見ていると言ってもいいのかもしれない。

 

「__っえ………!」

 

逃げる人々の中に響もいた。しかしながらそれを阻止としなかった誰かが響の後ろから襟を掴み、ノイズの方へと投げ飛ばす。幸いだったのは響は最後尾に近い位置を走っており、且つ宙を舞い人々の頭上を越えて誰もいない地点に落ちた事。

 

不幸だったのは咄嗟に受け身を取れず脳震盪が起こり、なんにが起きたのか判断するのに時間が掛かった事だ。スローモーションとなる景色。迫りくるノイズを唖然と見つめる中、響の脳裏に浮かび上がったのはツヴァイウィングのライブでノイズと襲われた時の事。

 

今と同じく力なく倒れる響に迫るノイズを不思議な鎧に身を包み、これまた不思議な槍で防ぐアイドルの姿。彼女の悲願するような声が響に語りかける【生きるのを諦めるな!】と……

 

(__ッ! まだ死ねるかーーぁああ!)

 

響の中で闘志が燃えたその瞬間、響は胸の内から流れる旋律を紡ぎ、身体を光に包ませノイズを殲滅した。ノイズと拳で戦う響の姿に生徒も教員も恐怖し響に指さし言うのだった、「怪物」と__

 

その日より響を見つめる視線は軽蔑から恐怖へと変わり、それに耐えきられなくなった響はついに家出。誰も自分がいない安住の地を探すためか、死に場所を探すためか、本人すらも分からず闇雲に歩き続けるのだった。

 

頬に流れる小雨を手の甲で拭い、過去の記憶から現状の空腹をどうするかに思考を変えようとしたその時、周囲に響き渡るアラートの音。ノイズの出現を知らせる音色が周囲に響き渡る。周囲の人々がシェルターへ向けかける中、響は胸に広がるどす黒い欲望に身を任せ、人混みを逆行していく。

 

「………なにアレ?」

 

ノイズの元にたどり着いた響が目にしたのは上下三色の人型が緑の瞳を輝かせ、黄色く煌めく手の爪でノイズを切り裂く姿。異形の人型が地面を力強く踏みしめると緑の衝撃波を出しながら跳躍、そのまま宙で態勢を整え放たれる急降下蹴りがノイズの図体に風穴を開ける。

 

(関係ない…… 私はノイズを殺すだけ!)

 

目の前で何事も無く戦闘を繰り広げる畏敬の人型を思考の隅に追いやり、響は歌を紡ぐ。その旋律によりライブ事件の際に響の心臓に刺さった戦士の忘れ形見が復讐の為の力を与えるのだった。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

マフラーの様な物を首尾もとに巻き、白を基調とした装甲に身を包んだ響。手首に装着されたガントレットがうなる中、ノイズへ向けて拳を一突き。今この瞬間、この世界の戦士と異世界の戦士が図らずしも共闘を始めた!




〈補足〉

・本作のグレ響(another響)は未来に直接拒絶された事もあり、廃人同然の精神状態。それを支えているのは「ノイズを殺す」と言う欲望のみ。紡がれる旋律は周囲を不安にさせる狂った音色。

P.S. お待たせしてすいません
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