それはそうと、うちのアルゴニアンはアルゴニアンっぽくないね、って言われましたが、ノルドの教育下なので他のアルゴニアンよりも感情を表に出し、脳筋にしていこうと思っています。ノルドとアルゴニアンの考え方や価値観など都合良く使い分けており、半端者って言われても当人は言われ慣れてる感じです。
「驚いた、あんたホントにどっから来たのよ。獣人だからミスミドから来たのかなって思ったけど、まさかホントに共通言語も読めないだなんてね」
「ブラックマーシュ地方……聞いたことないところです」
ギルド酒場のテーブルで果実水を飲みながら、姉のエルゼは呆れ気味に、妹のリンゼは興味と心配が入り混じりながら、冒険者手続きでグデーっと突っ伏すローグを眺めていた。
「すまん……ほんと……助かった……」
その身に流れる竜の血脈によって理解できる言語の羅列であれば、どんな難書や呪文書だろうと一瞬で会得が可能ではあるが、流石に右も左も分からない異世界言語は文字通り話にならなかった。まるで幼子のように、しかも自分よりも年下の姉妹の
「あの、ローグさん。私達と、その……パーティを組んでいただけないでしょうか?」
「……あ?」
突っ伏している間、姉妹間でコソコソと話し合った末に出された提案に、意図が掴めなかったローグは思わず聞き返した。
「実は私達ついこの間、冒険者になったばかりなの。そしたら路地裏のあいつ等みたいに女だからって舐められたりすることも多いのよね~。心強い仲間は居るに越したことはないからさ」
「……良いのかよ、いくら助けたからってこんな素性もよく分からねぇアルゴ―――・・・・・・竜人をよ?」
「それだってほら、あんたこそ右も左も分かんないでこの先やってけないでしょ? 今のとこ良い奴そうだし、珍しく人見知りな妹も賛成してるしさ」
「私からもお願いしたいです。男の人は怖いです、けど・・・・・・ローグさんがいてくれると心強いって言うか…・・・」
顔を上げて双子の表情をじっと見つめ、真摯に向き合っていることを確認してから、なおもローグは考え込んだ。ザナックといいこの双子といい、ヒトを疑いもせず真っ直ぐすぎるのだ。
スカイリムの地でアルゴニアンは基本的に信用されない。町に入れば常に衛兵の監視下に置かれるほどだ。言葉を真っ先に掛けてくるものがいるとすれば、大抵ワケありか騙して生皮を剥ごうとする者ばかり。ドラゴンボーンと知られてからもソレは変わらない。タムリエルでの種族差別は根深く、だからこそローグも人の暖かみなる期待などとうに捨てていた。
しかし、ここは異世界。価値観を引っ張られているのは彼なのだ。現にこの町の衛兵達も、ローグが獣人であるから怪しんだわけではない。体格が一回り大きく、全身を黒い重装の鎧を纏った物々しい雰囲気の見知らぬ者が現れれば、例え人間だろうと対応は同じなのだ。
「……武器は基本何でも使える。離れてる敵なら弓だって自信があるが、基本は前で戦うことが多い。魔法も使えるが……まあ、あんまし期待はすんなよ。お前等は?」
「えっ! ……そうね。アタシも前衛かな、このガントレットでね。リンゼは後衛、こう見えて凄腕魔法使いよ。アタシの自慢の妹なんだから」
「そ、そんなお姉ちゃん! あ、えっと……火と水と光の攻撃と回復、両方の魔法が使えます。得意なのは水で、光の魔法はちょっと苦手ですけど、頑張ります!」
何より期待と、断られたらどうしよう、という不安の入り混じった目線に耐えられるほど、彼は非常になりきれなかった。
「魔法使いか、良いねえ。前衛が増えることに越したことはねえな」
「「じゃ、じゃあ!!」」
「おう、任せな」
快く二つ返事で承諾し、晴れてここに美女とトカゲのチームが結成された。
そうした彼等が初めて挑む依頼が、『リフレット東の森で一角狼10匹の討伐』初級依頼である。チームを組む冒険者向けで手始めにはもってこいの依頼だ、と選んだのはエルゼだった。腕っ節の確認と言うわけである。
「そういやよ、エルゼのそれって武器なのか?」
目的地である東の森へ徒歩で向かっている道中、彼はエルゼの篭手に興味をぶつけた。彼女が腰にぶら下げている物に指を差しながら尋ねると、エルゼは苦笑しながら答えた。
「これはガントレットって言って私みたいな『武闘士』が使ってる武器よ。相手をぶん殴ったりするのには丁度良いんだけど……まあそうね、殴ることに特化してる分、防具の意味合いでは心許ないから、私自身もあんまり使ってる人は見たことないわ。こっちでは需要がないから武器屋でも見かけないしね」
「なるほど、ノルドの連中が好き好みそうなもんだな」
「……言葉の意味はわかんないけどさ、な~んか馬鹿にしてない?」
とどのつまり、攻撃は最大の防御を地で行く者にしか扱えない武器ということだ。本人の性格も相まって実にゴリ押し好きなノルド的である。鍛冶術を習得している身としてはバラして造りを見てから打ちたい一品である。
「リンゼのそれは……随分と小ぶりだが、杖か?」
次に彼の目にとまったのはリンゼの腰に掛けてある杖だ。銀で造られているであろうソレはスカイリムで見たことのあるどの杖よりも短く、心許なさそうに見えてしまう。
「は、はい。お姉ちゃんと一緒に村を出発したときに貰った物です。魔法を唱える際に必要な魔力量を抑えてくれたり、威力を底上げしてくれます」
「……そうか、俺の知ってるのとはまるっきり別物だ。俺もそんなのがあれば真面目に魔術の勉強したかもな」
前の世界にいた時の杖とは仕組みが全く違うらしい。タムリエルの杖はあらかじめ魔法が仕込まれており、その魔法を無詠唱・無魔力で発動できるため、誰もが魔法を使えるという値打ちな代物だったが、魔術師ならばこちらの杖の方が圧倒的に使い勝手が良さそうだ。
「ギルドの酒場でも言ってましたけど、ローグさんも魔法の適性があるんですか?」
「適性かぁ……役立ってんのは回復魔法くらいだな。破壊魔法打つより剣で斬った方が早いだろ? って、ここがそうか」
そんな東の森はリフレットの町から歩いて二時間ほどの距離だった。目的地に辿り着くや否や鬱蒼と広がる森に、ローグは感嘆の声をあげる。見たこともない植物やキノコや虫など、錬金術に生かせるであろう材料が目の前にバーッと広がっているのだ。ローグは無意識のうちに発見しては足を止めて、一通り採取していった。
「こっちの青い花は、体力治癒。黄色い花は、ふむ、毒耐性か。こっちの紫の花は……ゲッ、ペッ。マジカが減退しやがった……お? 蝶だ。どれどれ……うーん治癒だな、悪くない。このキノコは、見る限りヤバいが……そうでもないな。毒と薬効が入り混じってやがる。あれと混ぜればギリいけるか?」
魔法があまり得意ではない彼が重きを置くのが錬金術である。独学から始まり、様々な町でレシピと手腕の学びを重ね、彼は立派な錬金術師となった。彼の手に掛かれば道行く雑草も名も無き虫達もたちまち薬や毒と成り果てる……のだが。
「お、お姉ちゃん。ローグさんが何やってるか分かる?」
「物知りなあんたが分かんないんだから、あたしが分かるわけないでしょ」
「お腹が空いてたわけじゃないよね? ギルドでご飯食べたばっかりだったけど」
錬金術そのものを知らないエルゼやリンゼからすれば、蝶やトンボなどの羽や腹をむしり取り、手当たり次第に植物を掴んでは、それら全てを口に入れて吟味し、何かを確かめているローグの姿はどう考えても奇行にしか見えなかった。
「てゆーか、道草が長い!! ほらトカゲ! 本当に道草食ってないでさっさと歩く!」
「何だよ、今集中してるとこ……痛て痛てぇ! その籠手で尻尾を引っ張るな! 分かった行くっての!」
あまりに足を止めるため、しびれを切らしたエルゼがローグの首根っこを掴み、何を言っても 無視して無理矢理にでも歩みを進めさせた。
そんな緊張感の欠片もない雰囲気の最中、明らかな敵意、飢えた獣の気配が一行を囲む。
「ほうら犬っころ共が……来るぞ!!」
その言葉を待っていたかの如く、黒い影が飛び出した。咄嗟に身体を捻って躱しながら黒檀の剣を抜いて斬り流す。四肢の獣は腹を裂かれ、絶命した。黒色の体毛に額から伸びる黒い角、ターゲットの一角狼だ。
すぐさま別の方向からエルゼに向けて飛びかかる3匹目が見えた。彼女は慌てもせず正面から向かい合い、渾身の一撃を狼の鼻面に叩き込む。籠手の拳をまともに喰らい、一角狼はそのまま地面に倒れるとやがて動かなくなる。
あの細身でよくやる、と関心に浸っている間にも新手の狼が4匹ほど群れで現れ、そのうちの三匹がこちらへ向かってきた。
【炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイア】
詠唱と同時に襲いかかってきた狼の3匹に飛来した火の礫が直撃、炎に包まれ火達磨になる。後ろに下がっていたリンゼの破壊魔法だ。残りの1匹が飛びかかってきたところに膝蹴りを入れ、顎を砕いてから剣を振り下ろし、首を飛ばして片付ける。
「サンキュ、助かったぜ。にしても凄い精度だな、かすりもしなかった」
「どういたしまして、です。魔法は小さい頃から練習してましたから……ローグさん前!」
よそ見をしていた隙に群れの中でも一際大きな個体が、血の染み込んだ一角を突き出して突進を仕掛けた。咄嗟に空いた左手に黒檀のダガーを逆手で装備し、角を寸前で受け止め巨体を押し返す。群れの長が目を血走らせながら涎を垂らし、牙をちらつかせ獰猛な笑みを浮かべていた。
【氷よ来たれ、凍てつく戦槍、アイスパイク】
詠唱とともにリンゼの周囲に氷の槍が3本浮遊し、一気に放たれる。しかし巨体に似つかわしくない俊敏な動きで長は全てを躱し、再び凶器をローグへと向けた。そして長が飛びかかると同時に、どこからともなく2匹の一角狼が合わせるように牙を剥いて追随する。
「ローグさんっ!」
「任せろって言ったろ!!」
リンゼの悲痛な叫びを余所に、ローグの対処もまた早かった。
彼もまた二刀を構えたまま前へ飛び出し、飛びかかる長の一角をダガーで弾き、身体を回転させた勢いで後方の2匹を捌く。空中で事切れる2匹と、バランスを崩し勢いのまま地面に激突する一頭。
まさに“二連疾風”である。
自慢の大角にヒビが入り、怒りで顔をあげたその時、野獣の目には後衛の魔女が映った。血走った目に当てられたリンゼは「ひっ」と声が漏れ、足が竦んでしまう。別な獲物を見定め舌なめずりをした、その瞬間に勝負は決まっていた。
「オラッ!!」
「ギャンッ!!」
後ろから飛び乗ったローグが二刀を狼の首に突き刺した。突然の奇襲と迸る激痛にのたうち回るが、深々と刺さった剣は動き回るほどに食い込んでいく。そして動きが鈍った瞬間、ローグは握り手に力を込め、剛力のまま長の頭を捻り斬った。
飛び散る鮮血、まさに“二連猛撃”である。
「だ、大丈夫ですか!?」
怖じけた足を無理に動かしたリンゼは今にも転びそうな足取りで慌てて彼に駆け寄り、回復魔法を掛けた。当の本人は無傷ではあったが、返り血をもろに浴びていたため怪我の判別ができなかったのだ。
「おう、ありがとよ。そういやエルゼは?」
彼女の方に視線を向けると、飛びかかる狼の腹に回し蹴りを喰らわして吹き飛ばしていた。それが最後の群れの1匹だった。
「片付いたー。10匹以上は居たんじゃない? そっちは大丈夫……て、デカッ!? なによこいつボス級じゃないの!? これはギルドから追加で報酬を貰わないとね」
「ああ? コイツ込みの依頼じゃねえのか?」
「数合わないでしょ。それに単体ならともかく、初級の依頼でこんなのきついって。アタシ一人でも無傷で倒せる自信は無いわよ。報酬は銅貨20枚だけど、コイツなら銀貨が何枚か貰えるんじゃないかしら」
「ふ~ん、そんなもんかね。まあ、リンゼの援護があったからかもな。お前が自慢するだけある。あんなに精度が良い魔法なら安心して背中を任せられるってもんだ」
黒檀の二刀にべっとりと付着した血を振るいながら、しみじみと彼は語った。前衛に出る分、効果範囲の広いが故、味方魔術師からの誤射はある程度覚悟しておくものだ。何度その背中に従者の氷の槍が突き刺さり、何度鎧越しに鱗を炎と爆発で焼かれたか分かったもんじゃない。ソレで言えばリンゼの魔法の評価は彼の中で及第点以上であった。
何より苦手だと言っていた回復魔法をいの一番に掛けに来きたその行動こそ、彼女の心の優しさを実感できる。文句の付け所があるだろうか?
しかし、彼に声を掛けられたリンゼの顔色が段々と青ざめていくのに気が付く。何か悪いことを言っただろうか。
「ご、ごめんなさい……です」
「なっ!? なんで謝るんだよ!? 俺、何か不味いこと言ったか?」
「いえ、だって、最初の魔法以外、当てられませんでしたし。怖くて、足が竦んでしまって、結局助けられてしまって……」
「なーに言ってんだよ」
小ぶりな杖を悔しそうに握りしめ、シュンと顔を落としてしまった彼女の背に軽く手を当てる。
「おんなじパーティになるんだろ、俺らは。そんな固っ苦しいこと考えてたら息が詰まるってもんだ。お前はよくやったよ。それにお前の姉ちゃんはともかく、言っちゃ何だが冒険者としては俺より先輩でも実戦慣れはしてないだろ。これから経験積んでいきゃ何とかなるさ」
「ローグさん……ありがとうございます! 私、これからも頑張りますね!」
彼女は顔を赤らめながら、パァーッと笑顔を咲かせて見せた。コロコロと表情が変わってくリンゼに思わずローグの口角も上がっていく。
しかしいつもの妹を慰める役割をとられ、何だったら自分よりも上手く言いなだめているように感じたエルゼは面白くなさげに尻尾を引っ張った。
「ほら、ギルドに討伐証明の素材を剥ぎ取らないといけないんだから。いつまでもボサッとしてないの!」
「痛って! てめえエルゼ! 尻尾はやめろって言ってんだろうが!」
「あんたと違って私は一人で相手してたんだから、疲れてんのよ! さっさと帰ってギルドの酒場でパーッとやりましょ。チーム結成の記念にね!」
「……だな。それに関しちゃ同意見だ」
挑発的な言動に乗るがまま、ローグはエルゼの元へと、そしてそんな彼の後ろをちょこちょこと着いていくリンゼ。帰りの道中まで喧騒は収まらなかったが、それは互いに心地の良いものだった。
ブラック・マーシュ
タムリエル大陸の東南にある奇妙な植物や生物が跋扈する劣悪な環境の異界じみた沼地。主な種族はアルゴニアン……と言っても、アルゴニアンの中でも様々な部族でテリトリーが分かれている。詳しく知りたい方は書籍「アルゴニアン報告」を。
錬金術
いくつかの素材を組み合わせて薬や毒を作り出す術。素材を直接食べることで効果を知ることができる。符呪、鍛冶と合わせて公式チートと言われているスキル。麻痺毒や回復ポーションの量産など恐ろしく強力なアイテムを生成できる。反面、素材の収集や薬の調合作業などが地味で根気が必須。
鍛冶術
武器や防具を生産、強化する術。前作では武器や防具の状態を適正に保つ打ち直しもできていた。更に金や銀のインゴットに加え宝石があればネックレスや指輪も鍛造できてしまう。凄く器用。
二連疾風
二刀流時の攻撃スピードが上がるスキル。あるのと無いのとではDPSは全然違う。
二連猛撃
二刀流時の強力な攻撃が強化されるスキル。これを取った日の境に殆どの敵は即死するほど笑える威力が出る。ドラゴンの厚い鱗もなんのその。防御を捨てた二刀の前のめりな戦闘スタイルの局地とも言える。