異世界は竜の血脈とともに   作:じーくじおん

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なんか書きたいことが暴走して長くなりました。


EP3 マジカと魔力と魔法とともに

 晴れてパーティ結成後、ローグ達は順調に依頼をこなして功績を重ね、異例のスピードで冒険者ランクを上げていった。

 

 スカイリムにおいて様々な雑用を任されたアルゴニアンにとっては欠伸が出るほど退屈な依頼が多かったが、ランクが一つ上がった途端に危険度の高いモンスターの討伐依頼や賊の捕縛など、命の懸かる依頼が増えていく。

 

 また、冒険者としての適性が認められれば、受付のギルド嬢と交渉の上で飛び級が可能となり、本来のランクより上の依頼が受注できるようになった。効率よく出世街道に乗るなら、まさにここからと言ったところだろう。

 

「あ、あの! ローグさんの魔法について確認しておきたい、です」

 

「んあ?」

 

 そして、彼等が供に寝泊まりしている宿屋『銀月』の朝食を味わっている最中、珍しく真剣な顔つきのリンゼから提案が飛んできた。咀嚼していた鶏肉をトマトスープで流し込み、彼女の話に向き合う。

 

「どうした急に。言ったろ、回復魔法以外は期待すんなって。大体それだって薬をケチってるうちにいつの間にか上達したようなもんだしよ」

 

「その回復魔法です! 先日初めて見ましたが、ローグさんは無詠唱で発動していましたよね!!」

 

 そう、早速キングエイプというスカイリムで言うところのトロールに近しいモンスター5体の討伐依頼を飛び級で受けた際、最後の一体で一騎打ちしたエルゼが負傷した時のこと。咄嗟に【治癒の手】を使ったが、その時のリンゼが目を白黒させていた理由が今になって分かるとは。

 

「あー、確かにパッと暖かい光がきてサッと痛みが引いたっけ。アタシ魔法はてんでわかんないけど、あんたって相当凄いことしてるんじゃない?」

 

「んなわけ。まあ、もとから詠唱は必要なかったしな」

 

「魔法を無詠唱で唱えられるのは無属性魔法くらいなんですよ。属性魔法を無詠唱なんてマスターウィザードと呼ばれる人達くらいじゃないと」

 

「ふ~ん……あっ、ミカ。スープのおかわり頼む」

 

 はいよー、と毎度いい食べっぷりに銀月の若女将兼作り手のミカは笑顔になりながらスープをよそうが、反面あからさまに話題を逸らされたリンゼはぷくーっと頬を膨らます。

 

 彼自身、こういった魔法の話は得意ではない。前の世界の魔法学校ではアークメイジの称号を持つローグでも、あくまで成り行きでなってしまっただけのこと。彼自身も気が付いていない事だが、ノルドに育てられた根幹に“魔法は軟弱者の技”というのが深く根付いてしまっている。

 

 だからこそ、様々な魔法書を読み解き、様々な魔術を会得しているにも関わらず、それらの殆どを彼は持ち腐れているのだ。

 

「ローグさんもお姉ちゃんも、魔法に無頓着すぎます。ローグさんだって、そんな才能があるなら絶対凄い魔法使いになれると思う、のに」

 

「そういうのはガラじゃないんだよ。剣と鎧があれば俺はそれでいい。それに、ウチには充分頼りになる魔術師がもう居るじゃねえか」

 

「そっ!? そういう……ことじゃ、なくて……ですね……」

 

 実際頼りになるというのは、紛れもない本心である。例えばタムリエルで熟練魔法の【ファイアボール】をリンゼは一度に何発もの連射が可能であり、唱えるために必要な魔力が膨大な達人魔法であるはずの【ファイアストーム】も、攻撃範囲や位置を調整しながら撃てるのだ。

 

 これが頼りでなくて何と言う。地元で妹の右に出る魔術師はまず居なかった、というエルゼの談も納得がいくものだった。

 

 しかしながら、彼女は熟れたイチゴのように頬を赤く染めて俯いてしまう。ただただ真っ直ぐでひたむきな彼女が、裏表のない彼の素直な称賛に慣れることは一生無いのだろう。無論他意など一切無いが、そんな彼をジトーッと見つめる姉が一人。

 

「あんたさ……加減しなさいよ。リンゼはそういうの慣れてないんだから」

 

「なんだよ、優しいお姉ちゃんはあんまり褒めてくれないってか?」

 

「んなわけないでしょ! 他人に、ましてや男に褒められ慣れてないってことよ」

 

「別に良いだろ、思ったこと口にして何が悪いんだよ……まあ、話を戻すわけでもないが、実際特別困ってるわけでもないんだ。無詠唱っていっても、俺の居た所とこっちじゃ魔法のつくりが全然違う。今更、一から学んだって仕方ないだろ?」

 

「……でも」

 

「じゃあ、リンゼちゃんに教われば良いじゃないのさ」

 

 思わぬ方向からの助け船が、ローグのトマトスープと供に運ばれてきた。

 

「な~んで、ミカが口を挟むんだよ。それにリンゼは既に―――」

 

「読み書きの先生なんでしょ。私も魔法使いじゃないから分かんないんだけどさ、魔法も言葉の勉強の一環でしょ? リンゼちゃんって頭が良いから教え方も上手いし、近所の子供達と一緒になってちょっとした授業にもなってるじゃない」

 

「そりゃそうだが、にしたってリンゼの負担が―――」

 

「私なら大丈夫です! 私がやりたくてやってることですし。それにローグさん、覚えるのが早いから全然大変じゃないですし……」

 

 最初はローグに頼まれて読み書きを教えていただけだが、気が付けば珍しい竜人の彼に興味を持って集まってきた子供達にも分かるよう授業形式に。いつの間にか彼女等の言う通り、リンゼはちょっとした先生として有名になっていた。

 

「ほら、良いじゃないの。今日はギルドの仕事を休んで付き合ってあげなさいよ。アタシは薬草集めとか簡単なのを受けてくるから。姉からの忠告だけど、こうなったリンゼは頑固なんだからね~」

 

「もう、お姉ちゃん! あ、でも、ローグさんが嫌なことはしたくない、です。だから無理しなくても……」

 

「うっ……い、嫌とは、言ってない……だろ」

 

 そこで急に退くのはずるいだろ……なんて思いながら、ローグは首を縦に振るしかなかった。図体のでかいトカゲが気の小さい彼女の後ろを歩く、またその逆も然りなその光景は早くも恒例となっているのだった。

 

 

 

「えっと……では、始めます」

 

「「「はーいっ! リンゼ先生!」」」

 

 宿屋の裏庭、店で使わなくなった古い長テーブルと椅子に座り、リンゼ先生の魔法講座が開かれる。エルゼは宣言通り薬草の採取の依頼に向かったため、錬金術に必要な材料の調達も頼んでおいた。報酬は今晩のデザートをローグの奢りで一品追加だ。

 

 それはそれとして……

 

「なーんで昼間っから居るんだよ、がきんちょ供。学校はどうした学校は?」

 

「ローグ知らなかったの? 今日は休みなんだよ!」

「学校じゃ、まほうの授業なんておもしろそうなのやらないんだもん」

「おれは風のてきせいがあるって父ちゃんから言われたんだぞ! どうだすげーだろローグ!!」

 

「へいへい、すげーな。すげーよ」

 

「アタシはお母さんに光と火の適性があるって言われたわ。だからアタシの方がすごいしえらいのよ!」

「何をー!!」

 

「ん゛ん゛ッ!」

 

 咳払い一つで皆の気が引き締まり、シーンっと静寂に包まれる。普段大人しい子が放つ威圧ほど効果てきめんな物はない。

 

 にしても……と、ローグは改めてリンゼを見やる。今までその性格上、人前に出て何かをした事もなければ、人に物を教えることも苦手だったと姉のエルゼは語っていた。ところが今の彼女は赤ふちの眼鏡まで掛け、日々気合いを入れて彼と子供達に教えている。

 

 当人曰く、ローグさんがスラスラ吸収してくれるから自信がついた、とのこと。実際は竜の血脈のお陰だろうが、彼女のためになってくれるのであれば悪い気はしなかった。

 

「ではまず、基本的なところからです。魔力は誰もが持っていますが、使える属性は生まれ持った適性によって決まります。私は3つの適性を持っているので、3種類の属性魔法が使えます。そして魔法は、自分の持つ魔力と適性、そして呪文の詠唱が揃うことで初めて魔法が発動されます。見本をみせますね」

 

 リンゼは杖を構え、予め用意していた薪の的に狙いを定める。

 

【水よ来たれ、飛翔の水弾、アクアショット】

 

 杖の先から魔方陣が形成され、水の魔弾が薪のど真ん中に命中。相変わらずの精度に感心する一方、なまの攻撃魔法に子供達には興奮の熱が再度昂ぶっていた。

 

「さて、魔法には『属性』がいくつかありますが、皆さんは何かご存じですか?」

 

「はいはーい! 『火』と『水』と『土』と『風』と……」

 

「あとなんだっけ?」

 

「『闇』と『光』よ!」

 

「えっと、光がケガをなおす魔法で、闇はどういうのだっけ?」

 

「しょうかん魔法だよ! 学校のこえー先生がいっつも連れてるモンスターがそうなんだって!」

 

「みんな偉い! よく勉強していますね。光は別名を神聖魔法と言って、治癒魔法だけではなく、アンデット……おばけを退治するのに使われたりもします。闇は召喚魔法と言って精霊やモンスターを呼ぶことができます。その怖い先生は多分主従の契りを結んでいますね。モンスターと先生との間で約束を決めて、お互いが納得すればずっと傍に居ることができるんです」

 

 すげーっ! と、子供達が感嘆の声を挙げるなかで、蚊帳の外になりつつあるローグは心中でタムリエルとの魔法と分けて整理する。

 

 タムリエルでの魔法の種類は主に、冷気、炎、雷撃等の攻撃に用いられる『破壊』、他者や自身の治癒、アンデットに対して効果を発揮する『回復』、相手の感情を意のままにできる『幻惑』、オブリビオンから精霊を使役する召喚術や死体を生き返らせる死霊術、魔力武器精製等ができる『召喚』、術者の防御力上昇や念動力等、その他諸々便利な『変性』の5種に分かれている。

 

 これらの発動にはエセリウスから発せられる『マジカ』と呼ばれるエネルギーが必要なのだが、マジカの流れが近しいためかローグもタムリエルの地と変わりなく回復魔法が使えた。

 

 と言うことは、こちらの世界の魔法や、『風』や『土』属性の魔法も魔法書を読み解けば使えないことはないだろう。彼女のいう適性もウィンターホールド大学での授業で何となく聞いた覚えがある。だが、これもアカトシュの加護を宿すローグには関係のない話だ。

 

 当の本人に新たな魔力への探求が無いのは、また別の話ではあるが。

 

「リンゼ先生、質問! 適性ってどうやったら分かるんですか?」

 

「良い質問ですね。みんなの年齢だと魔法の適性検査は近々学校で行われるとは思いますが、ちょっと予習しておきましょうか」

 

 彼女はポケットから麻袋を取り出すと、色とりどりの小さな結晶をごろごろとテーブルの上に転がした。極小魂石の様にも見えるが、結晶からは魂とは違う、薄らとした魔力が感じ取れる。

 

「なにこれ、もしかして先生の宝石?!」

 

「あたし知ってる! 魔石でしょ!」

 

「そう、主に魔法の杖に使われている魔石の一部です。魔石は持っている人の魔力を増幅、蓄積、放出の補助を行ってくれるんです。これだけ小さいと大きな魔法は出せませんが……」

 

【炎よ来たれ】

 

 リンゼが赤色の魔石をつまんで詠唱すると、魔石からロウソクの灯火程度の火が着火した。直火で熱そうにも見えるが、何事もなくケロッとしてる。

 

「うわっ!?」

「先生! 火、火が!」

 

「大丈夫ですよ。炎に見えますが実際は炎の魔力が集中しているだけですので、このぐらいなら暖かいぐらいですよ。近くに寄ってみて見ても良いですよ。触っても大丈夫です」

 

「ほんとに…? ホントだ!!」

「ちょっとあたしもあたしも! ……きれいな赤ね、確かに火とちょっと違うかも」

「火だけど火じゃない……魔法ってむずかしいね」

 

「へー、熱くないんだな? ……それなら俺だってできるぞ?」

 

 ボウッ! とローグの右手が勢いよく燃え上がり、子供達はびっくり仰天だ。実際はリンゼとやってることは変わりない。ただ破壊魔法のマジカを右手に集中しているだけなのだが、リンゼのを火と表現するとローグのは炎。迫力はだんちで、子供達をビビらすのにはうってつけだった。

 

「うわーーーっ!?」

「危ない! すっごい危なそうに見えるわ!」

「すげー、手が燃えてる!」

「ローグさんも魔法が使えるんだね!」

 

「ハハッ、ビビりすぎだぞガキンチョ共」

 

 魔力の調節に関してはリンゼの方が繊細なだけで何も凄いことはないのだが、あまりに子供達の反応が良いため牙を見せるほど笑っていた。

 

 ……しかしリンゼだけは気が付いていた。彼がまたも魔石を用いず、詠唱もなしに魔法を顕現させたことに。幼少の頃から絵本の魔術師に憧れて、本格的な魔術の基礎を叩き込んできたつもりの彼女だったが、彼のような魔力の使い方はまさに絵本の中でしか聞いたことのないものであった。

 

 一方、そんな事は露も知らないローグは神妙な面持ちのリンゼ先生と目が合ってしまった。調子に乗りすぎて子供達をビビらせすぎたか、と叱られることを予知した彼はたまらず咳払いを1つして誤魔化す。

 

「ん゛ん゛っ! わりぃ邪魔した。リンゼ先生、続きを頼む」

 

「……へっ!? ああ、いえ、その……ご覧の通り、魔石は適性が揃っていればこのように魔法を発動することもできます。私は火と水と光の適性がありますが、逆にそれ以外の魔石では触って魔力を流し込んでも何も反応しません。では、みなさん。気を取り直して自分の適性を―――」

 

 その後もたびたびローグが茶々を入れ、ときどき怖い雷が落ちることはあれ、子供達の笑顔が絶えることのない有意義な授業が進んだ。途中、ミカの差し入れでクッキーを頬張りつつ、子供達は実に楽しく刺激的な時間を過ごすことができたであろう。

 

「「「リンゼ先生! 今日もありがとうございました!」」」

 

 おやつ時を過ぎてから子供達は散り散りに解散していく。しかしリンゼ先生からすれば、ここからがまさに本番であった。こそりとギルドへ足を運ぼうとするローグの尻尾を掴み、彼の逃げ道を防いだ。

 

「ローグさん、最後に1つ確かめたいことが……」

 

「属性魔法の“全部’’に適性があったこと以外にか? ちなみになんだが、俺みたいな奴に会ったことは」

 

「勿論ないです。聞いたこともないんです」

 

 そう、ローグの読み通り彼の手の中で全ての魔石が反応を示した。もっとも、どれも反応は子供達と背比べする程度には微弱であったが……それでも全てに適性を持つという事実事態が規格外であることに変わりはない。

 

「わかったよ、これで最後なんだろ。付き合うよ……だからリンゼ、その……尻尾」

 

「へ? あわわっ!? すみませんっ! 私ったらつい……」

 

 姉と違って痛くないよう気を使って把持していたが、やっぱり姉妹なんだなと感じさせる。観念したローグは、ササッと丸いすに座ってリンゼの指示を待つことに。

 

「最後に試して欲しいのは、これなんです」

 

 そう言ってリンゼが取り出したのは、授業中に見ることのなかった新しい種類の魔石だった。色は白色で透き通り、試しにつまんでも他の魔石と違って魔力の気配も感じられない。

 

「こいつは? 何にも起きないみたいだが?」

 

「無属性魔法の魔石です。別名、個人魔法とも呼ばれています。その殆どが魔法名のみの詠唱で発動し、名前の通り個々によって魔法が違うんです。そして、同じ無属性魔法を使える人は滅多に居ないとされています」

 

「あー……よく分かんねえけど、俺の【ストレージ】なんかが、もしかしてそれか? 待てよ、戦闘中にエルゼが【ブースト】って唱えてんのもそれか!」

 

「そうですね。お姉ちゃんのブーストは身体強化で、身体に負荷が掛かる分以上のパワーが出せるんです」

 

「ハッ。まさに生粋のノルドだな……そういやリンゼは? 聞いたことねえな」

 

「私は……多分、適性がないんだと思います。無属性魔法は、あるときパッと頭の中に思い浮かぶってお姉ちゃんが言ってましたから。人の数ほど魔法の種類があって、その殆どの魔力のメカニズムは解明されていないんです……でも、ローグさんなら!」

 

 随分といい加減で、いかにもあのジジイ神が好きそうな魔法だな……なんて考えていると、ドンッ! とローグの目の前に分厚い魔法書が突き付けられるように置かれた。

 

「リンゼ……まさか、全部試せ、なんて言わねえよな?」

 

「いえそんな……でも、魔力の流れがみんなと違うローグさんなら、もしかしたらがあるかもしれないんです。ローグさんの役に立ちそうな無属性魔法の項目を自分なりにまとめてみました。その中から選んで試してみて欲しいんです」

 

 手書きのメモを手渡されてずらりと確認してみると、確かにどれも実用性のある物ばかりであった。いつのまにこの分厚い本から……ご丁寧にページ数と魔法の説明まで書かれている。自身の探究心もあるだろうが、少なからず彼のことを思って一生懸命選んでくれたのも確か。無下にするわけにはいかなかった。

 

(どれどれ、一時的な筋力増強効果の【パワーライズ】、魔法の同時詠唱を可能とする【マルチプル】、遠くの物を手元に引き寄せる【アポーツ】、どれも便利だが使えたらの話だしなあ……お? 一度行った事のある場所に移動できる、か。いいな、この魔法)

 

 めぼしい魔法を見つけ、該当のページを開いて読み解く。習いたての言語でおぼつかないところもあるが、それでも身体に宿る血脈の加護は伊達ではなかった。『魔法への探究心は貪欲であるべし』 ウィンターホールド大学の学友ジェイ・ザルゴの言葉を思い出しながら無色の魔石を持ち、半ばやけくそ気味に唱える。

 

「駄目で元々ってな! 【ゲート】」

 

 反応は、あった。

 

 魔石から光が放たれ、ローグの手先の空間が歪み、淡い光を放つ半透明の膜が現れた。大きさは姿見の鏡一枚くらいで、厚さは一センチもない。これが成功かどうかはまだ分からない。

 

 驚愕もままに、リンゼは恐る恐る膜に手を伸ばす。抵抗はなく、波紋をなびかせながら彼女の手はするするっと入り込んでいく。身体半分が入ったところで辺りを見渡すと、そこは見覚えのある森であった。

 

 「り、リンゼ!? あんた一体どっからっ!?」

 

 声のする方を見やると、背負い籠いっぱいに薬草と錬金材料を敷き詰めた姉が顔を青ざめ、地に腰を抜かしていた。東の森での薬草採取に出かけた姉が目の前に居るということは……。

 

「お、お姉ちゃん! 凄いんだよ、ローグさんの無属性魔法が―――」

 

 そこで彼女の言葉は途切れた。不意に後ろをドンッと押され、前から倒れ込んでしまった。瞬時に姉が受け止め事なきを得るが……刹那、背後のゲートが緩やかに小さくなっていき、完全に閉じてしまった。

 

「……で? これ、あいつがやってんの?」

 

「う、うん。でも、何かあったのかな」

「何か……て、なんで分かるのよ。あんたを置き去りにしてまでさ」

 

「様子が変なの。ゲートの魔力が安定してないっていうか、苦しそうだったよ? あっ!」

 

 また姉妹の前方の空間が歪み、同じくゲートが開かれた。ただし今度のゲートはより(いびつ)で、素人目ながらでも不安定な印象を受ける。

 

 『来いっ!! 早くしろっ!!』

 

「っ!? お姉ちゃん、飛び込むよ!」

 

 ゲートの向こう側から響く彼の声。いつになく切羽詰まった彼に扇動されるがまま、リンゼは姉の手を掴み、不安定な歪みへ一心不乱に飛び込んだ。受け身などとっている暇も無く、姉妹は銀月の地へ前のめりで不時着する。特にエルゼは顔から突っ込んで、籠につめた薬草もぶちまけていた。

 

「った~。もうローグ! いったいあんたどういうつもり……っ!?」

 

 状況が飲み込めず一方的に振り回されている様な感覚に陥ったこともあり、一気に怒りが沸騰したエルゼだが、当の原因であるローグを視界に移したその時、思わず息を呑んでしまった。

 

 彼は両手両膝を地に着けて倒れ込み、ゼーゼーと息を荒げている。足下には細長い青色の空瓶が2つ転がっていた。大量に冷汗をかいているせいか顔色が悪く、いつも彼女が引っ張る尻尾も力なく垂れ下がっていた。

 

「きゃあ!!ろ、ローグさん!?」

 

「ちょ、ちょっとあんた大丈夫!?しっかりしなさいよ!」

 

 

 二人は慌てて駆け寄り、そのまま二人がかりで肩を貸しながらローグを銀月の中へと移動させる。何事かと駆け付けたミカも慌てて空席を用意し、とりあえず水をピッチャーに入れて用意する

 

「わ、わわ、私、薬か何か取ってきます」

 

「いや……いい。それより、どっか……座りてぇ…」

 

 息も絶え絶えながら、なんとかローグは答えた。言われたとおり二人は食堂の椅子にローグを降ろし、腰掛けさせた。そうやってしばらく休んでいると、彼はストレージから足下に転がっていた青い薬瓶を取り出し、喉を鳴らしながら一気に飲み干した。

 

すると次第に顔色も良くなり、いつもの様子を取り戻す。フーっと大きな息を吐き出した後、もう大丈夫だと告げると、エルゼはホッと息を漏らし、リンゼは落ち着きを取り戻した。

 

「なんだったのよ、一体」

 

「……魔力切れだ。前にも何度か覚えがあるが、あんなに酷いのは初めてだ。ゲートの発現と維持で馬鹿みてぇにマジカを喰いやがる」

 

 スカイリムから持参の魔術の薬を飲んでも息が上がっているところを見るに辛そうではあるが、これは単にローグの元の魔力不足にも起因する。今まで魔力を鍛えてこなかったツケがここでくるとは思いもよらなかった。

 

 

 

 

「ご……ごめんな…さい」

 

「ああ? あっ!?」

 

「ご、ごめんな……さい……私、またローグさんにご迷惑を…私の、私の我が儘のせいで」

 

しばらくしてから聞こえてきた謝罪の声。元気になりつつローグとは対照に、ボロボロと嗚咽と供に涙が溢れ出るリンゼ。元はと言えば、嫌がるローグに強制するように唱えさせたのは自分だ、と彼女は自責の念に駆られていた。

 

泣いてもどうしようも無い事は分かっているのに、困らせるだけだと分かっているのに、それでも溢れる涙を止められない。昔からこんな鈍くさい自分が嫌だった、男子達にイジメられても仕方がないと思っていた。

 

先生と言われて調子に乗っていた部分もあるのかも知れない、成長したと思った途端にこれだ。自分はやはり迷惑ばかりを掛けてしまう、と。どうにも思考が負のスパイラルに呑まれていってしまう。

 

「なーに言ってんだよ」

 

そんな彼女に、初めて依頼をこなしたあの時と同じ声色で、ローグは彼女の頭を撫でた。

 

「言ったろ、普段言語を教えてもらってる礼だって。それにこうなるって事は知らなかったし、リンゼの所為じゃねえよ。恥ずかしいが、魔力の鍛練を怠ってた俺のツケっていうか……あー、とにかくお前が気にすることじゃねぇ! とにかく俺はもう元気だ!!」

 

行き当たりばったりの慰めしか思い浮かばず、ローグは彼女の銀髪をわしゃわしゃと撫で回した。流石のエルゼとミカも茶々を入れず、その場で見守りに徹している。

 

「ローグさん、でも……」

 

「でもも何にもなし! 気にしすぎなんだよお前は。死んだわけじゃあるまいに。それに、リンゼ先生のお陰で大収穫じゃねえか。あの魔法書があれば、俺は他の無属性魔法も使えるかもって事だろ。普段使いはできないにしろ、ゲートなんて便利ってもんじゃねぇぞ!」

 

だから気にすんなよ、な? 獰猛そうな牙に似つかわしくない笑顔をみせるローグに、ぼさぼさ髪のリンゼの涙は自然と収まった。裏のないローグの真っ直ぐな言葉は、その一言一言が太陽の如く、的確に心の曇りを晴らしていく。

 

彼の無骨で大きな手から伝わる熱が、彼女の心も暖めていった。

 

「ローグさん……ありがとう…ございます」

 

「おう、いいってことよ。そういや突き飛ばして悪かったな。ああでもしねぇと、ゲートが途切れて上と下が分かれ――――」

 

「はーい、とりあえずここまで。あんた、ちょっと着いてきなさいよ。庭に散らばした薬草拾わないといけないんだから」

 

 デリカシーがぶち壊れそうなところを見かね、エルゼがいつも通り尻尾を掴んで連れて行く。名残惜しそうにローグの手を見つめるぼさぼさ髪の妹を放っておきながら。

 

「痛っ! てめえ性懲りも無く。ああ、まじか。通りで草臭いと思ったら、悪いな」

 

「えっ!? うっそ!? って、何嗅いでんのよ!」

 

「アガッ!? よっくも殴りやがったな!? 持ってる無属性魔法といい、やっぱりテメエはノルド女だ!」

 

「何よ! 言葉の意味はわかんないけどやっぱりむかつくわね!」

 

そしてまた、いつもの日常に戻っていくのであった。

 




皆様の感想、ご意見、評価は大歓迎です。作者のモチベにも繋がります。リアルが多忙で不定期更新ですが、どうかこれからも当作品をよろしくお願いします。

トロール
3つの目を持つ猿のようなモンスターの一種。驚異的な回復能力と攻撃力を持ち、序盤においてはかなり危険な敵となる。肉食に限りなく近い雑食性で、彼等の住処では人骨が散らばっている。

アークメイジ
ウィンタホールド大学の最高責任者のこと。魔法大学の顔としての仕事の他、各要塞の王宮魔術師が対処しきれない魔術的トラブルを直々に解決したりもするようだが、ポッと出の新米魔術師がいきなり後任に任命されるのも、政治的手腕よりも華々しい英雄的業績を重視されるからかもしれない。魔法の才能皆無な脳筋主人公でも、一連のクエストをこなすだけでアークメイジになれてしまう。

マジカ
エセリウス(天界・非物質界)より発せられる生命のエネルギーである。エセリウスからの力がオブリビオン(魔界・半物質界)の穴を通り、ムンダス(人間界・物質界)へ到達したものが、太陽および星々の光であり、マジカの素であるらしい。

魂石
別名ソウルジェム。魔法少女にも魔女にはならない。生物の魂を捕らえるための石。ただし人間やエルフ、カジート、アルゴニアン、ドレモラの魂は大きすぎて通常の魂石では捕らえられない。魂縛の魔法かけた生物を効果時間内に倒すことで、魂石にその生物の魂を入れることができる。魂が入った魂石は付呪を行う際に使用する。
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