デッドマンズジェイルの囚人   作:御魚天国

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悪夢のように弾け飛ぶ

「……あそこだな。あそこに、目的のブツが……」

 

 展示物の近くに寄って少し離れた、特別展示の入り口のような場所を注視する。

 博物館の奥の方にある、厳重な警備がされた場所。

 一応先には進めるようになっているものの、通る通路の脇には警備員が二人立っている。

 ほんの少し視線を周りに移してみると、見えただけでも監視カメラは十台以上。

 入り口脇の警備員意外にも、少し視線を巡らせれば警備員は十人は軽く超えていた。

 

「そんなに警備を厳重にするぐらいなら、普通に考えて展示する必要ねぇだろ……まぁ、普通じゃねぇんだろうな」

 

 それほどのものをここに収容する理由はなにかしらあるのだろうが、ゲーム内でも語られることのなかったことだ。

 気にしても仕方ない、ってやつだろう。

 どっかで知る機会があればいいのだが。

 まぁ、多分ない。

 

「んなことより、どうやって入るかだな……重装備の看守が入り口に二人。能力は不明。俺のすり抜ける奴の発動条件が不明瞭である以上、真っ向から進むのは超危険」

 

 さて、どうしたものか。

 仮にあの二人をなんとかできたとして、その看守を見張る看守たちをどうするかだ。

 あの二人をなんとかした時点で、その看守たちがやってきてあっという間に捕まってしまうだろう。

 と言っても、正直な話、中に入れれば入り口を閉鎖して、アレを開けることに集中できる。

 アレを開ける時間がどのくらいかかるか、という問題もあるが。

 

「アルキナがいれば、早く終わったんだろうが……まぁ、そもそも制御できるような奴じゃねぇし」

 

 あんなイカレ野郎を制御しようとする奴はいないだろう。

 普通に話してるだけでも切ってこようとしてくる奴だ。

 まず関わりたくないってのが普通だろうな。

 まぁ、今はそんなことはどうでもいい。

 

「今はそんなことより向こうだが……ん? なんだ……?」

 

 入り方を考えていると、少し外の方から音が響いてきた。

 外の喧騒が聞こえなかったことを考えると、かなりの音であることは間違いない。

 少しすると、何人かが慌てた様子で、特別展示入り口の警備員のもとに走ってくる。

 何か数回会話を交わすと、他の警備員を連れて外に向かって行ってしまった。

 端的に言えば、博物館の中は俺一人取り残されてしまったってわけだが。

 

「……え? マジ?」

 

 運がいいとかそういうもんじゃねぇだろ、これ。

 あからさまに何かあったろ、外で。

 

 まぁ予想はできなくもない。

 あの戦いがこっちまで来た可能性は十分あるだろう。

 博物館に被害が及ばないように、警備員が対応しに行った、ってならわかるが、これは。

 

「……まぁいいか。細かいことは考えねぇ。脱獄することだけを考えるぞ、俺!」

 

 少し急ぎ目で走って、ガラ空きになった特別展示へと入って行く。

 監視カメラが数台、目についたがそんなものは気にしない。

 無視だ、無視。

 距離的なことを考えれば、閉めれば追ってこれないだろうしな。

 

 しばらく奥へと進んで行くと、大きく開けた場所へと出る。

 天井を見上げれば、ガラスの天井から少し暗めの光が差し込んでいる。

 入り口の横にはレバーが一つ、緊急用シャッターと書かれている。

 

「これ下ろせば、いいのか?」

 

 レバーに手をかけ下ろすと、入り口のシャッターが降りてきて……警報が鳴り響いた。

 赤く点滅するランプ、緊急であることを示す放送。

 

「やっべッ……!? やらかしたッ!」

 

 俺は急いで走り出し、中央にある『アレ』に近づく。

 鉄格子で囲われる前になんとか辿り着いた俺はアレに触れた。

 

「あぶなっ!? 詰むとこだったぞ!?」

 

 アレ、って言うのはとある男の家にて見つかった、数千、いや数万という数でできた歯車の棺桶のことだ。

 

 曰く、世界を壊す最終兵器。

 曰く、全てを覆す終末装置。

 曰く、星を落とす破壊機能。

 

 巨大な棺桶で見ただけでも、三、四メートルはあると思われる。

 とにかくクソでかい上に、歯車は幾つにも重なって常に動き続けている。

 ちょっとうるさい。

 

 で、目的のやつだが、当然ながら棺桶じゃない。

 この中身だ。

 

「さてさてと……開け方は一応ゲーム内外で説明されてたな。ファンブックでもやってたが……考えてみれば無茶苦茶な賭けだなぁ」

 

 もしこれで開かなかったから俺は詰み。

 脱獄を企てた、ってことで殺される可能性は高いだろう。

 まぁ、それ以前の話でもあるんだが。

 

 とにかく、これを開けばもう戻れないところまで行くことになる。

 自首なんてできなくなるし、命を狙われることも多くなるだろうし、看守たちとは殴り合う日々も始まるだろう。

 だけど、こんなところで終わるわけにはいかない。

 あんな薄汚い最下層で、何も望まずして死ぬわけにはいかない。

 

「俺は生きるんだ。生きてこの、クソッタレ監獄塔から抜け出す。だから、頼むぞ。開いてくれ!」

 

 俺はそんな言葉を吐きながら、警報が鳴り響く中で棺桶へと触れる。

 二十一年以上前の記憶を呼び起こしながら、棺桶の歯車を外し始めた。

 この棺桶は特定の順番でパーツを外すことで外れるものなのだ。

 もの、なのだが、一つミスると、ちょっと……というか、めちゃくちゃというか、とにかく大変なことになる。

 要は死ぬ、俺が。

 

「確か、確か……これ……いや、こっちだったか? ……ち、違う! これだ!」

 

 一つ間違えれば死ぬパズルを解き続けること数分、突然シャッターの向こうで幾つかの怒声が響いた。

 俺は驚いて体を震わせて、シャッターの方を見る。

 シャッターには少し凹み跡のようなものができていた。

 アレじゃ壊されるのも時間の問題だ。

 

「ああクソ……死にたくねぇ、死にたくねぇよ。次は、これか!」

 

 カチッ、と言う軽い音ともに歯車は次々と外れて行く。

 だが外れるに連れ、シャッターの凹みは増えて行く。

 少しヒビも入ってきているところを見るに、開くまでもう少しなのは間違いない。

 

「……こ、これが最後! これを抜けば……!!」

 

 だが俺の方が少し早かった。

 俺は最後の、少し大きめな歯車を抜いて投げ捨てる。

 これで開くための歯車を全部、棺桶の歯車は動きを止めて開くはず、だったのに。

 歯車は確かに動きを止めた、だが棺桶は微動だにせず全く開きそうになかった。

 

「……おい、おいおいおい!!? なんの冗談だろ!? なんで、なんで開かねぇッ!? ま、まさか……」

 

 アルキナの発言を思い出す、武器を没収されたと言っていた時の話のことだ。

『ちょっと前に没収された武器を取り戻してから戻るわ』と、言っていた。

 外の世界的に時系列が合わないが、この監獄はそういう場所だ。

 

 つまり、主人公たちがこの監獄内で戦ったのは、監獄内の人間からすれば最近の話。

 その時この棺桶に触れている可能性がある。

 だから今、中身は修復期間に入っている可能性が高い。

 

「ふ、ふざけんじゃねぇッ!! クソッ!! なんで、なんでその可能性を考慮しなかった!!? 考えてみりゃわかることだろうがッ!!」

 

 俺は棺桶を殴りながら声を荒げる。

 だが響き渡る声も警報によって掻き消され、それと同時に響き渡る轟音で消えた。

 轟音の正体はシャッターを無理やり割って開けてきた看守たち。

 全員がこちらに武器、と言うよりも銃を向けている。

 

「貴様!! 何をしている!! 今すぐ、手を頭の後ろにしろ!! 射殺の許可は出ている!!」

 

 俺はどうしようもなく、言われた通りに手を頭の後ろに置く。

 死ぬかもしれないという恐怖心の中、打開策を割り出すべく考えを張り巡らせていた。

 

「あ」

 

 だが、それよりも前に、看守の誰かが間抜けな声を出した。

 その直後、棺桶から空気が抜け、音が響きながら動き始める。

 そして完全に開いた時、中から出てきたものを見て、看守の一人が呟いた。

 

「……お、女の子、か?」

 

 中から出てきたのは、ゴスロリな服を身につけた小学生ぐらいの少女だった。

 ショートボブな真っ黒な髪、宝石のような、と言うよりも宝石でできた眼球。

 滑らかな四肢に対して、剥き出しになっている機械的な背中。

 

「ウォードールEX(エクストラ)《ラストナンバー》……」

 

 俺は衝撃と感動と混乱のさなか、その名を呼ぶ。

 その名を呼ぶと瞬きを一つして俺の方に視線を向けた。

 

「おはようございます。封印解除者を仮定保有者として断定、どうかご命令を、マイマスター」

 

 少女は感情のない言葉で俺に語りかける。

 命令を、ってことは……つまり、この子は俺のもの、って事でいいのだろうか。

 仮定保有者とか言ってるし、まぁ多分、そう言う事だろう。

 なら、命令は一つ。

 

「全員ぶっ飛ばせぇッ!!!」

「了解しました」

 

 少女は端的に一言、そう言うと背中の機械の部分に触れる。

 そこから何か一つ取り出したかと思うと、その瞬間に全てが弾けた。

 博物館の殆どが消滅していたのだ。

 綺麗な断面とともに、博物館が横方向に一刀両断されている。

 

 看守たちの姿はもうどこにもなかった。

 死んだのかもしれないし、本当に吹き飛んだのかもしれない。

 ただ一つわかることは、隣に立つ少女は多分ぶっちぎりでヤベー奴ということだけだった。

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