デッドマンズジェイルの囚人   作:猫蜜缶

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囚人と解体魔と幼女とチンピラ

 ウォードールEX《ラストナンバー》。

 彼女についてだが……まぁ、端的に言うと人間ではない。

 喋り方も仕草も、何もかも人間そのものなんだけど、ち(・)ょ(・)っ(・)と(・)人間じゃない。

 じゃあ何か、って言われると、この辺の判別が本当に難しい。

 そもそもの話、強さが化け物級だしな、こいつ。

 

「次の命令は? マイマスター」

 

 隣に立つ小学生ぐらいの少女は、片手に身長よりも遥かに大きな大剣を地面に突き刺しながら俺を見た。

 この大剣は今、出した武器であり、同時にこの博物館を壊滅させた元凶である。

 俺死ななかったの奇跡じゃね? と思ってしまうぐらいには、恐ろしいものだ。

 実際は彼女の技量によって生き延びたのだが。

 

「……え、っとぉ……よし! とにかくついてこい!!」

「了解しました」

 

 頷いた少女は大剣の中心辺りに触れ、豆粒程度に大剣を収縮させると背中の機械の辺りに入れた。

 そして背後にある棺桶も似たような方法で一つの歯車に収縮させ、またもや背中に収納した。

 もうどうなってんのかよくわからない、ゲームじゃ最初から武装全開だったから。

 

 とにかく俺は殆ど吹き飛んだ博物館の中を少女もとい、ラストナンバー、略してラスナと共に走り出す。

 彼女は俺の少し後ろ、もう少し早く走れるだろうに、少し速度を落としてついてきていてくれた。

 それが彼女としての在り方だから、と考えるとなんとも言い難い。

 

 彼女は……さっきも言ったように、人間じゃない。

 人間に似せて寄せて、そうであるように定義づけられた、作られた人間の(・)よ(・)う(・)な(・)も(・)の(・)。

 人造人間(アンドロイド)、と言うより機械人形(オートマタ)と言うべきか。

 意思も感情もないが、学ぶ知能だけは存在する、命令を聞くだけの機械の人間。

 ある男によって、最後に作られた一体、それが彼女だ。

 

「ウォードール、か……」

「どうかなさいましたか?」

「いや、ちょっとな……あ、そうだ。ラスナ、って呼んでもいいか?」

「お好きなように」

 

 少し遅れて呼び名について許可を取る。

 と言っても、殆ど興味なさそうだったが。

 まぁ、ないんだろな。

 彼女にとって興味の対象となるものは、自分にとって有利となることなのだから。

 

 そんな彼女の無の顔を見て走っていると、突然ラスナが前に躍り出る。

 直後に背中の機械部分に軽く触れ、先程の大剣を取り出して前方に向かって振り下ろす。

 すると前触れもなく突然姿を現した男が、剣を手にその攻撃を受け止めていた。

 あの酷く威力の高そうな一撃を受け止めるって、どんなやつかと思ったが見たことのない男だった。

 ゲーム内でも見たことのないやつ、モブ敵に近い。

 

「なっ……だ、誰だ!?」

 

 俺が困惑している合間に、ラスナは更に力を込めて押し込む。

 だが男は剣で軽く流すとラスナの大剣が地面に落ちた。

 のはずだったんだが、その瞬間、姿勢を変えたラスナが地面に当たる瞬間に、剣を再(・)度(・)振り上げた。

 

「は?」

 

 男の困惑した声が聞こえるが、同感するしかない。

 はっきり言って困惑ものだ。

 振り落ちたはずの剣は宙で回転したラスナによって、再度振り上げられているのだから。

 普通できねぇよ、そんなこと。

 なんて考えていると、ラスナはポツリと一言呟く。

 

「【黒落(ブラックアウト)】」

 

 あ、まずい。

 なんて思った瞬間にはもう遅く、剣は黒い雷のようなものを纏いながら、再度防ごうとした男の剣に振り下ろされる。

 だが振り下ろされた大剣は男の剣を軽く粉砕し、そのまま男の顔面に入ったかと思いきや、そのまま真下へ直行。

 地面に叩き込まれた黒い雷撃に、俺は急いで近くの瓦礫の影へと避難した。

 

 次の瞬間、雷撃は辺りへと放出され、大きなクレーターを生み出す。

 衝撃波とともに黒い雷撃は飛び散って、辺りへと落ちて行く。

 

「し、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!? あ、あれ、あれがっ!? 【黒落(ブラックアウト)】!? 冗談も大概にしろ、って話だ!!」

 

【黒落(ブラックアウト)】、ゲームの戦闘中、彼女が使ってくる技の一つ。

 端的に言うと広範囲に向けて即死級の威力を叩き込む上に、黒い雷は相手の持つ機能を短時間奪う力を持っている。

 要はなんとか生き残れても、雷に当たった瞬間アウト、ってわけ。

 

 ちなみにだが下手すると消滅する。

 今の攻撃を受け止めようとした、男のように。

 

 本来はもうちょっと別の技なのだが、彼女独自の技に発達したと言ったところか。

 てか、こっちまで届かなかったのは運が良いのか、彼女がそうしたのか。

 

「お、おい?」

 

 俺は攻撃が止んだの聞いて、ほんの少しだけ瓦礫から顔を出しながらラスナを見た。

 ラスナはほんの少しだけついた返り血を顔につけながら俺の方を見る。

 

「もう少しお待ちください。まだ、隠れている敵はいますので」

 

 と言うと、大剣を手にしてぶん投げた。

 ちょっと離れた場所にあった瓦礫に突き刺さったかと思うと、その前に男が瓦礫の影から出てきて、手に炎をまとわせながらラスナの方に向かおうとした。

 だがラスナはとてつもない速度で、既に奴の目の前にいるとかかと落としを叩き込む。

 男が気絶したのを確認することもなく、男を地面のように蹴って剣に近づくと次の標的へと投げる。

 

 狙われないとわかっていても、いとも容易く能力者たちが消されていく光景はやはり恐ろしいものだ。

 息を潜めてラスナの作業が終わるのを待っていると、ふと近くの瓦礫の下から声が聞こえた。

 キョロキョロと辺りを見渡してみると、瓦礫の下に入るようにして少し顔を出した男が一人いる。

 

「……お前、グランか?」

「よかった、無事だったみたいすね……」

 

 そう言うと瓦礫から音もなく飛び出して俺の隣に来る。

 

「ま、まぁ。なんとかな。それよりも、お前どうしてここに? 外にいたんじゃないのか?」

「それがちと、外で抗争が起きやしてね。まぁそんな大きなもんじゃありません。小国の戦争程度さァ」

「それは十分大きくねぇか……?」

「ここじゃ日常茶飯事ですぜ。とにかく、ある組織とある信者どものちょっとした小競り合いが起きてたんすよ」

 

 組織と信者、かぁ。

 どっち聞いてもいいものが何一つとして思い浮かばない。

 それどころか絶対関わりたくない顔がいくつか思い浮かぶ。

 

「組織と信者って……碌でもなさそうなのがまた……それで? 目的は? アレ、か?」

「まぁそれは取れたら、ですね。目的は、兄貴、アンタですよ」

「…………え、俺ぇっ!?」

 

 いやなんで俺なんだよ、俺なんかした? してたな。

 でもアレ俺が悪いわけじゃなくない? だってアレ、ねぇ。

 ゴキブリに関してはしょうがないと言うか、どうしようもないと言うか。

 

「目的は兄貴の誘拐による、姐(あね)さん……アルキナさんとの交渉のようです」

「あいつと交渉? するような奴じゃねぇだろ。そもそも仲間とか言う間柄じゃねぇし」

「少なくとも協力関係って感じですもんね。ともかく姐さんを仲間に引き入れる為に誘拐する予定だったらしいんですが……あー……今、あんな状況でして」

 

 と言って瓦礫の山で大剣を振るって破壊と限りを尽くす幼女を指差す。

 破壊神と言っても遜色ないぐらいにはすごい光景だ。

 死ぬとかじゃなくて消滅だもんな。

 

 仲間にできてよかった、と改めて思う。

 まぁそもそも現状、開けられるのは俺ぐらいだから、そこまで問題ではないんだが。

 

「ウォードールシリーズ、聞いたことぐらいはあるだろ?」

「対反逆武装人形用兵器!! そりゃもう、知ってますよ!! 七人の姉妹から構成される人類の最終兵器。ま、まさかあの子がそうだって言うんですか!?」

「あ、ああ。博物館にあったアレ、あの中にいたのがあの子だ。取り敢えず、俺はマスターって扱いになってるらしい。多分」

「多分て……」

 

 少し不安そうな顔をしているが、正直どうしようもないってのが本心だ。

 なるようになれ、って状況だしな。

 

「……! 兄貴、音が止みました」

「終わった、のか?」

 

 俺は瓦礫から少し顔を出すと、大剣を納めず構えた状態で少し上の方を見ているラスナの姿があった。

 良い予感が一切しないのはなぜだろうか。

 絶対碌でもないことになるって言う確信があるのだ。

 

 大当たりだったわけなんだけどさ。

 

「……ん? なんか、落ちて、きて……あれ、は……」

 

 俺は口を開いて外から落ちてくるものを見つめる。

 あの銀色の頭、見たことがあるとかではなく。

 どこからどう見ても、アルキナであった。

 

「──ぅひゃあッ!!? いっ……たぁっ! なんなのよ、アイツ! 急にワープしたかと思えば、吹き飛ばして。絶対ぶった斬ってやるわ!! あんのクソ騎士!!」

 

 恨み言を吐き捨てながら刀をついて立ち上がる。

 そして少し周りを見渡して、いつの間にか飛び出していたラスナの大剣を、これまたいつの間にか抜いていた刀で受け止めながら俺のことを見つける。

 

「ん、ウィルターじゃない。こんなところでなにしてんのよ」

「こっちのセリフなんだが!? なんで飛んできた!?」

「色々あったのよ。それよりも、なんなの、この状況」

「……まぁ、目的は達成したってところだ。ラスナ! そいつは味方!!」

「了解しました」

 

 そう一言言うと、ラスナは大剣をしまう。

 アルキナは刀をしまいながら、訝しげにラスナの顔を見る。

 

「こいつがなんなのよ」

「ウォードールシリーズのラストナンバー」

「ふーん……へぇ! あのウォードールシリーズの……なんでアンタ、こいつのこと手に入れられたのよ」

「……その。ちょっとしたツテ、みたいな?」

 

 訝しげな顔のまま俺の方を見たが、ため息を一つ吐くと前の方を向く。

 

「まぁ、いいわ。それよりも、上に行く目処が立ったなら、早く行くわよ」

「お、おう。戦いはもういいのか?」

「ええ。ゴキブリのせいで負けたから、興が削がれたわ」

「負けたのか……」

「ゴキブリのせいよッ!! あの、あの巨大ゴキブリッ!! 三匹で私の方に来なくてもいいじゃないッ!!」

「ゴキブリのせいにするとは、実力不足は認めるべきでは?」

 

 俺たちは一斉に聞いたことのある声のした方を向く。

 そっちの方に視線を向けた時、アルキナは忌々しそうにその名を呼んだ。

 

「ネリシアァッ……!! なにしにきたのよ!」

「いえ、もう少し続けたくて。切り刻んでこそ、勝負、殺し合いですから」

「そりゃいいわね!! その顔面、二度と戻らないようにしてやるわッ!!」

「敵と判別しました。対象の抹消も開始。連携での戦闘を考慮します」

 

 武器を構えるアルキナとラスナ、そしてネリシア。

 俺とグランはその最悪な三人の戦いの始まりを、少し遠くの瓦礫の影から見届けるのだった。

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