デッドマンズジェイルの囚人   作:御魚天国

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地獄ならまだしも

 この世の終わりだ、と一般人ならば言うだろう。

 いや、一般人じゃなくても言うわ、これ。

 地獄の方がまだマシかもしれない。

 

「もうやだアイツら……なんかラスナまで戦い始めたし」

「姐さんを仲間認定したからじゃないですかね……」

「なるほど。仲間認定されてるやつが戦おうとしている相手は、俺の敵でもあると……アイツそのうち殺戮兵器になるぞ。いや、もうなってるんだけど……」

 

 彼女、ラスナがここに収容された経緯だが。

 ゲームではあるイベントをこなす事で戦闘し、勝利することでここに収容することになるのだが、それがまた大変で。

 とにかくお使いイベントと戦闘の連続。

 それをクリアしたかと思えば国家間の戦争イベ、直後に裏切り者の発覚によるウォードールシリーズの封印を解こうとするやつ。

 

 結局のところ、そいつは主人公たちに切り捨てられるんだが、そこで判明するのがウォードールシリーズは、ラスナを残して別の場所に移送されていると言うこと。

 そしてラスナの封印はもう既に、解けていたということ。

 

 で、その男の最後の命令を聞いて戦闘になるのだが、目覚めた直後で多少弱体化が入っている。

 そこと弱点である電気系統の属性を用いることで、なんとか勝利。

 その後は自己修復のために棺桶に入り、そこを拘束されて無事収監されたというわけだ。

 

 まぁ結局、主人公たちは何故か棺桶を開けて再戦闘することになるんだが。

 アレに関してはマジでよくわかんない行動だった。

 開けれそうだ➡︎開けてみよう、の精神だったからな、完全に。

 

「うおッ!? なんか飛んできたぞ!!」

「……人の腕が飛んできやしたぜ」

「潜伏してた奴らが攻撃に巻き込まれてんじゃん……もう哀れ通り越して可哀想だよ……」

 

 瓦礫の裏で隠れながら考え事していると、腕が飛んできた。

 それに反応して少し顔を出してみれば、もうそれは酷い有様だった。

 地獄の方がまだマシなのでは、と思ってしまうほど。

 

 潜伏している組織か信者の奴らが、次から次へと攻撃に巻き込まれて解体されて行くのだ。

 アルキナにバラされるならまだしも、ネリシアの刃に触れたら最期だからな。

 魔法で防御しようが、細部まで精密に練り上げられた一閃は防ぎきれない。

 しかもあの二人を相手にしてまともに戦えているような奴だからな、恐ろしい。

 

 ただこれを見といてなんだが、正直死体とかって言うのは慣れない。

 いや、慣れはしないが見慣れてはいる、スラム街なんかに住んでいたからだろう。

 

「……ん? そういや、フィーゼがいねぇな」

「フィーゼ……ああ。あのガキですね」

「ガキとか言ってるけどよ。噛み付かれた終わりだぞ。終わり」

「……えー……と。じゃあ、それは……?」

 

 と言ってグランは恐る恐る俺の右腕の方を指差す。

 右腕がどうしたんだ、と思って右腕を見てみると、そこには一人のオオカミ少女がいた。

 狼少女、フィーゼが俺の右腕に丸ごと噛み付いて……噛み付いてる。

 

 うん、噛み付いてるな、これ。

 もぐもぐと噛み付いてるぞ、こいつ。

 

「味、しない」

「うわぁぁあああああッッ!!!? お、おお、俺の右腕がぁぁぁああああああッッ!!!?」

 

 叫び声をあげながら、俺はフィーゼの口から勢いよく引き抜く。

 一瞬千切れているかと思ったが、ギリギリ先端の方の感覚はある。

 そして腕は抜けないかと思っていたのだが、案外簡単にスポッと抜けてしまった。

 噛みつかれたからこそ、だろうか。

 様々なことに驚愕しつつも、フィーゼから距離を取って右腕を見る。

 

「腕、腕が、俺の、腕がっ……ん?」

 

 これまた不思議なことに、何故か俺の右腕は無傷だった。

【悪食】によって噛み付かれたはずの右腕は傷一つなく、それどころかヨダレすら付いていない。

 とにかく無傷で綺麗だった、ちなみに服も千切れたりしていない。

 

「食べれなかった!」

「誰が食べさすかよ、この野郎ッ!!?」

「兄貴……!? ど、どうなってんすか、その右腕。なんで無傷で……」

「知らん! とにかくお前も離れろ!!」

「うわぁッ!!?」

 

 フィーゼが飛びつく寸前で、グランも飛び出してギリギリ噛み付かれるのを避ける。

 そして急いで俺の方に走ってくると、何故かそのまま俺のことを突き飛ばした。

 一瞬、意味のわからない行動に混乱したが、その混乱もすぐに解消されることとなる。

 なんせ目前ギリギリで細剣が飛んできたのだから。

 なんなら軽く鼻の上の部分を掠めてんの、血ぃ出てるし。

 

「チッ……ンで当たんねぇんだよォッ!! ……はぁ、行けませんね。激情に駆られては」

「……え、怖っ」

 

 あまりにも恐ろしい攻撃に、俺の口からそんな言葉しか出てこない。

 飛ばしたのは当然ながら、ネリシアである。

 倒れてネリシアの方を見れば、彼女は呟いてアルキナの刀が振るわれてた瞬間だった。

 

「よそ見、してんじゃないわよッ!!」

 

 防ぐ手段もないネリシアは、その攻撃を受けるかと思われた。

 だが当たる寸前で、その姿は一瞬にして跡形もなく消える。

 能力が判明している以上、予想は容易い。

 

「邪魔するなら、消えてください」

「して、ねぇだろうがぁぁぁあああああッ!!!」

 

 と、たった一瞬の合間に、そんな言葉とともに細剣を手に持ったネリシアが、倒れた俺の真上に転移してきて細剣を真下に向けて引いていた。

 俺は咄嗟に懐にしまっていたエルダーMD7を取り出して、ネリシアに向けて突きつける。

 たった一瞬だったが表情が歪んだのが見えた。

 だがそんな一瞬の隙、俺程度がどうにかできるようなものではない。

 俺程度が、って話だ。

 

「っ……ぶねぇッ!!? ナイス! ラスナ!!」

「なにを……この、クソスクラップがァッ!!」

 

 細剣が当たる寸前で一本の鉄の棒が飛んできた、

 そこらに落ちている崩落した建物の部品の一つ、それが飛んできて細剣の腹の部分に衝突したのだ。

 それによって真下に向かって突き刺そうとした細剣は、俺の顔面の真横の耳スレスレの部分に突き刺さったのだ。

 投げたのはラスナ、大剣をしまって鉄の棒を数本手にしている。

 妨害されたことにキレているネリシアは俺の腹を踏んで細剣を引き抜く。

 

「ぐぇっ」

 

 踏まれたことに変な声を出した俺に向けて、ネリシアは容赦なく剣を振るった。

 首が吹っ飛ぶかと思われたが、その前にラスナは一瞬で接近してきて二本の鉄棒で細剣を挟んで受けきる。

 それを受けて細剣を強く引き抜くと、二つの鉄の棒を真っ二つにして倒れている俺を挟んで対峙した。

 めっちゃ怖い、ヤベー奴ら二人を下から見上げるってとんでもない光景だな、おい。

 これでパンツの一つでも見れたら眼福つって死ぬだけなんだろうけどな。

 

「申し訳ありませんが、攻撃するのはおやめください」

「……へぇ。スクラップごときがよくやるものです。()()()()()()()

「はて、お会いしたことが」

「まさか。個人的に知ってるというだけですよ。まぁ、貴方よりも──」

「仲良しごっこ? 楽しそうね、私も混ぜてよ」

「はぁ、うるさいですね……クソ解体魔ッ!!」

 

 こいつ、なんでラスナのこと知って、そんな設定はなかったはず……なんて考える暇はない。

 アルキナがネリシアの背後から乱入してきて、俺の真上で混戦が始まってしまった以上、とにかく行動に移らなければならない。

 

 一応、こいつの能力の限界を突いた突破口はある。

 奴は俺たちがそれを知らないと思っているからこそ、できる。

 俺はこいつらの戦いがほとんど見えないのだが、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ見える。

 倒すことはできなくとも、少なくとも撤退はさせられるはず、多分。

 

 ちなみにフィーゼの方だが。

 何故か逃げ回っているグランの方を追いかけているので、放置で良し。

 まぁこんなとこで生きているような奴だ、なんとかなるだろ、多分。

 

 しかし凄まじい光景だ。

 ネリシアは破壊兵器と切り裂き解体魔相手に一人で応戦しているのだから。

 と言っても、正直この三人にとってこれはお戯れ程度なんだろう。

 だって楽しそうだし、約二名が。

 ラスナだって連携での戦闘を考慮する云々言ってたし。

 

「切って埋められたい!? 飾られたい!? アンタの顔はさぞかしいい剥製になるわよ!!」

「剥製! それは素敵ですね。ですが剥製になるのは……テメェだ、クソッタレェッ!!!」

 

 この口汚い言い争いにラスナが加わっていないことが、数少ない救いであると俺は思う。

 兎にも角にもやることは一つ。

 まずはこれを終わらせる。

 

「ラスナァッ!! 全力を以って二人を制圧しろッ!!! 連携とかもうどうでもいいからッ!!」

 

 その瞬間、全てが決した。

 ラスナが言葉を一言発する前に、両腕の機械部分が少し露出して開いた状態で、二人を地に伏せていたのだ。

 刀と細剣は少し離れたところにある、突き出た瓦礫に突き刺さっている。

 

「ん、なっ……この、離しなさいっ!!」

「くっ……」

 

 こいつらが本気を出していた場合、多分こうはなっていなかっただろう。

 なんなんだろうね、こいつら。

 本気出す日が果たしてくるのかどうか。

 出来ることならこのまま出さないでほしい。

 

「ラストナンバー、一回しか言わないわ」

 

 なんて考えているとアルキナがドスの効いた声で、押さえつけるラスナを睨んで言った。

 

「離しなさい」

 

 ラスナの視線がアルキナの方に移る。

 刀は離れている、押さえつけられていてまともな行動は取れない。

 だというのに、確信がある。

 やろうと思えばこいつ、今すぐにでも動けると。

 

「アルキナ!」

「ウィルター。邪魔をするならアンタも容赦しないわ」

「わかってるだろ。お前の能力が俺に効いたことは一度もねぇ」

「そうね。だったら数千回でも数万回でも繰り返すだけよ。楽しいから、飽きないもの」

「……だろうな。とにかく聞けって、なぁ、ネリシア・E・ウォーハイム」

「……! ネリシア、としか聞いていないはずですが? そこのアバズレが下品にも叫んでくれましたので」

「誰がアバズレよ。キチガイ」

 

 うわぁ、二人の機嫌が更に悪くなってきたぞ。

 とっとと話終わらせよ。

 

「もういいだろ、終わりで」

「何がですか?」

「……時間だろ、って話。能力の制限だよ」

「っ……!!」

「お前の能力の【座標転移】はそう簡単な能力じゃねぇ。座標を計算した上で、一寸のブレもズレもなく、的確に人と場所との位置関係を割りださないといけねぇ」

「ふーん。アンタってそんな能力だったのね」

「そしてその上で。転移した時、自身のいた座標情報を無理やり計算して割り出した座標で上書きする。これを使えば物や人だって強制的に転移させられる……だが、その情報量に()()んだろ?」

「……よく、ご存知で。一体どこでお知りに?」

「さぁね。これもスラム街の情報屋からかもなぁ」

「スラム。貴方の居場所はそこではございませんでしょう、ねぇ? ウィルター・グラジオフさん?」

「なんの話してんのよ、アンタたち」

「……話は終わりだ。で、どうする? 能力の情報は完璧に割れてる。こっちには対処法だってある。お前の能力は──」

「それ以上は言わないで欲しいものですね。周りにはまだご観客がいらっしゃるのですから」

 

 そう言われて軽く周囲に視線を向けてみる。

 一見すると何もないように見えるがそれなりの数が隠れている。

 誰も恐怖で出てこれないみたいだが、一応耳はちゃんと傾けているらしい。

 偉いと思うぞ、うん。

 

 しかしペラペラと喋りすぎたな、俺も。

 睨み合いはもう二度とごめんだ、腹の中を弄られているみたいでぞわぞわする。

 

「なら?」

「今回は帰れと、そうおっしゃるのでしょう?」

「さぁ? 俺は色々知ってるからな。これ以上会話してたら、更に話ちまうかもな」

 

 普通なら俺のことはとっとと切っちまえば終わりだ。

 だが、ラスナがいる。

 それにアルキナも……もしかしたら、守ってくれる可能性は、1%未満であるかもしれないし。

 とにかく彼女にとって、色々知っている俺は存在するだけで不都合なのだが、それ以上にその知識と武力を持って応戦される方が面倒なんだろうな。

 それに彼女はその性格と根底に根付いた癖のせいで、恨みも買いやすいだろうし。

 

「だがこれだけは言っとく。俺は自ら面倒ごとを持ち込むつもりはねぇ。目的はここから出たいだけだ」

「……なるほど。ですが、その知識があると言うことが今、知れ渡った以上……」

「なんとかしてやるさ。できる、多分……ラスナがいるし。一応、アルキナも付いてくるし」

「一応って何よ、一応って。守るわよ、目的を果たすまでは」

「だとさ。ラスナ、離してやれ」

 

 そう言うとラスナは、押さえつけていた二人を離す。

 ネリシアだけを離す予定だったが命令の仕方が悪かった。

 危うく斬り合いになるかと思われたが、意外にも二人は冷静にそれぞれ武器を取って鞘に収めた。

 そしてお互い顔を見合わせると。

 

「次はバラすわ」「次は斬り殺します」

 

 と、二人同時にそんな宣言をした、怖えよ。

 てか、それでちゃんと別れられるのかよ。

 なんなんだ、こいつら、

 

「……それと、ウィルターさん」

「んぇ?」

「その知識、どこまであるのか興味が湧きました。次は輪切りにして頭の中を見てみたいものです」

 

 と、満面の笑みで言うと、グランを追っかけているフィーゼに一瞬で近寄り、頭を殴って気絶させ肩に抱えると、転移を繰り返して上の階層へと帰っていった。

 あの転移能力って自身とそれに接着してるものに対しては、そこまで負担がないんだよね。

 でも、人一人を転移させようものなら、一瞬で嘔吐直行だから無理やり殺すことはできないわけ。

 そもそも彼女自身がそれを望んでいないって言う。

 

「……胃が、胃が色んな意味で粉砕しそう」

「切り取ってあげるわよ?」

「やめろ! そんなことする暇あったら、全員バラしてこいよ! 色々不都合だろうが!」

「なんか命令されてるみたいで癪だわ……ああ、それと、上に上がってもしばらくアンタと一緒にいることにしたから」

「……は?」

「あの女が興味を持ったってわざわざ言ったのよ。ならまた会う機会があるってことでしょ? なら、アンタにつきまとっとけば、次はバラせるわ!」

「ちょ、おまっ……」

 

 俺が何かを言う前にアルキナは笑いながら、潜伏している奴らをバラしに行く。

 

「マイマスター。大変申し訳難いのですが、これはしょうがないことかと」

「本当に申し訳難いと思ってる奴の言葉か? それ」

「はい。心配の言葉は必要でしょうか?」

「……できれば。はぁ」

 

 アルキナに対して何も言うことのできない俺はため息をついて、隣に立つラスナに心配の言葉を掛けられながらこれからについて考えるのだった。

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