デッドマンズジェイルの囚人   作:御魚天国

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前回のちょっとした修正

グランを追っかけているフィーゼに一瞬で近寄り、頭を殴って気絶させると→
グランを追っかけているフィーゼに一瞬で近寄り、頭を殴って気絶させ肩に抱えると


今回はほぼ同時期に違う場所での話。


幕間:『天使は万人を愛すというけれど、それって憐れみと同じだよね』って話

「愛とは、憐れみである。それ即ち、人を愛し、人を観察し、人を敬うことである。故に憐れみとは──」

「【神父様】のお話はよくわからないわ。とても難しいもの!」

 

【デッドマンズジェイル】、その何処かに存在する一つの建物がある。

 側から見ればただの小さな小屋に過ぎないだろう。

 だがそれを知る者は皆こう呼ぶ、『救いの教会』と。

 

 事実、中にあるのは頭の欠けた御神体といくつかの椅子のみ、

 質素の極みのような部屋だ。

 

 そんな部屋の中で愛を問うた修道服の男は、椅子に座って言葉を遮った少女の方に視線を向ける。

 

「……おや。それほどまでに難しい話でしたかな?」

「ええ、難しいわ! ねぇ、貴方だってそう思うでしょ?」

「へっ……は、はいっ。そうですね、えへへ……」

 

 椅子に座る少女は、その隣に座ってオドオドしてもう一人少女に向けて言葉を投げる。

 そこに見えるのは明らか様な上下関係。

 誰が見てもわかりやすく、そこには上下の関係が存在していた。

 

「愛とは憐れみであり、その憐れみを救うことこそ、我らにとって必要なこと、という話です」

「意味がわからないわ! これって直結すれば愛を救うってことよ!」

「ええ! そうです!! 愛を救う!! 結構なことではありませんか!! 虚像虚構虚無!! 愛なぞ虚しいだけのもの!! ……愛とは即ち、万人が受け取るには、些かわかり易い言葉なのですよ」

「ば、万人に受ける、ってことですよね、えへ、えへ、えへへへ」

「笑い方がキモいわ! 笑わないで!」

「はいっ! はいっ!! すいませんでした!! もう二度と笑いません!! い、命を、命を持って償いますので、お許しください!!!」

 

 オドオドとしていた少女は突然立ち上がると、手中から突然出てきたナイフを握って首に突き刺そうとする。

 だがそれよりも前に、天井や壁、ありとあらゆる場所から生えてきた鎖が彼女の腕に巻きつき行動を妨害する。

 それでもなお、ナイフを突き刺そうとしている姿を見て、椅子に座っていた少女は立ち上がると、その背中から白く美しい翼のようなものが出てくる。

 後光とでも言うべきか、それすらも見えてくると錯覚してしまうほどの美しさだ、と見た者は言う。

 

「ねぇ、ねぇ。アレネシア」

「私は死ぬんだ、死ぬしか取り柄がないんだ。死ねばみんな、みんな幸せに……あはははっ」

「聞けよ、クソッタレ」

 

 強烈なビンタの一撃が、アレネシアと呼ばれたオドオド少女の頰に突き刺さる。

 少女はあまりの衝撃にナイフを落として、ポツポツと涙をこぼし始めた。

 

「お、オルシス……い、痛い、痛いです……」

「そうね。痛いわ! 死んだらもっと痛いわ! 【火傷蜥蜴】に付けられた火傷も痛かったでしょ?」

「い、痛かった、です。はいっ」

「【羽なし】だからって卑下しちゃダメ! もっと大きく出るのよ! 貴方の夢は?」

「この世から不利益な人間を一人残らず消すこと!!」

「でしょ? なら死んじゃダメだわ!」

「はいっ!! 死にません!! わ、わた、私!! えへ、えへへ……!!」

「それはそれとして笑わないで。キモいから」

「はいっ!!」

 

 不思議なことに、それでもアレネシアは笑っていた。

 楽しそうに笑っていた。

 オルシスと呼ばれた少女も笑みを絶やすことなく、ただのその笑いを声を聞いていた。

 

 夢を持つことに罪はない、夢を持つことは人にとって救いとなり得るが故だ。

 だからこそ彼女は笑い続ける、自分にとって救いがあるからこそ。

 この世に存在してはならない()使()としての使命(自己満足)を果たすために。

 だがそんな二人の天使の思いも、突然生まれ出た壁によって遮られることとなる。

 

「神父様! 大変です!!」

 

 突然、一人の男がドアを勢いよく開けて入ってくる。

 その瞬間、男の全身にアレネシアに巻きついた鎖と同じ鎖が巻きつく。

 この鎖はオルシスによるものだった。

 

「ねぇ。ノックぐらいできないの?」

「も、申し訳ありません! ですが、今九百九十九層にて、た、大変なことが!!」

「大変なこと、ですか。はて……オルシスさん。離してあげてください」

「……【神父様】がそう言うのならば」

 

 と、オルシスは素直に鎖を解き、男は神父の近くに行って、事を話し始める。

 

「【銀断】が【狂姫騎士】、【人喰らい】と交戦を!」

「またですか。全くあの方達は……」

「品性ってものがないのよ。頭のおかしい方達だもの!」

「【銀断】……!!」

 

 アレネシアは酷く忌々しそうに声を出しながら背中を触る。

 そこはまさに、オルシスの翼が生えている場所とちょうど同じ場所だった。

 神父とオルシスはその姿を見て、これといった反応を見せることなく男の方に視線を戻す。

 

「それで? それだけではありませんでしょう。その程度の話だけじゃ、大変とは言えませんからね」

「は、はい。これが本題なんですが!! アレが、あの、歯車の棺が、一人の男の手によって開きました!!」

 

 その言葉に、三人の目の色があからさまに変わる。

 歯車の棺、ウィルターが開けたラスナの封印されていたもののことだ。

 

 曰く、世界を壊す最終兵器。

 曰く、全てを覆す終末装置。

 曰く、星を落とす破壊機能。

 

 手に入れられるものならば誰だって手に入れたがるだろう。

 なんせ手に入れれば、その強大な兵器の力が我が物となるのだから。

 だからこそ、自身のものにし、他の誰にも渡すわけにはいかなかった。

 

 だが今の今まで開け方を知る者は誰もいない。

 ある男がそれを作り上げたのだが、結局開け方を教えることもなく、死んでいったのだ。

 

「……その男の名は?」

「ウィルター・グラジオフと、そう聞こえました」

「…………グラジオフ? どこかで聞いた名ですね。しかしそのような囚人はいなかったはずでは?」

「どうやらついこの間、新しく入ってきたようで……し、しかも最下層の囚人のようです!」

 

 最下層の囚人、その言葉に三人の顔つきが変わる。

 なんせ最下層の囚人という言葉が指し示すのは、この世の全ての悪を混ぜ込んでも生まれるようなものではない。

 もしそこにいる理由があるするならば、それはこの世界にとって存在するだけで不利益であるということ。

 

「ウィルター……最下層の囚人がどうやって九百九十九層に?」

「どうやら【銀断】とともに脱獄を企てているようで……それどころか、男が【銀断】に指示している姿まで!」

「あの【銀断】が……? いや、それよりも棺を開けたとなると、あの男は継承者を残していたのでしょうか?」

「まさか! それはあり得ないわ、【神父様】。私はよく知っているもの。アレは誰かに技術を渡すような人間じゃないわ。ただ自分のためだけに物を作る男だもの」

「く、くだらない野望に全てをつぎ込み、その野望に殺された男……えへ、えへへ。喜劇以下ですよぉ……」

「貴方の笑い声よりはマシよ! 駄作未満だわ!」

 

 オルシスの笑い声が小さな小屋で響く中、神父はただ一人考えていた。

 何故棺が開けられたのか、どうしてあの【銀断】が男とともに動いているのか。

 それどころか、【銀断】に指示を出せるような立場に……と。

 

 これらが指し示すのはウィルター・グラジオフという男の狂気。

 そして少なくとも【銀断】と、それに準ずる者たちと渡り合えるほどの力量が存在しているということ。

 間違いなく、この監獄塔で最も恐ろしい者だと、そう言った()()()が生まれるという事だった。

 

 事実、この場にいた三人はまずウィルターという男に対して興味を示していた。

 それと同時に神父はある心配事があった。

 

「……さて、誰が最初に動くのか。【火傷蜥蜴】? 【狂狼】が傘下に着こうと動く可能性も……【未来視】がアルキナのことで動く可能性もある」

「それだけじゃないわ、【神父様】! 【異次元歩行者(ディメンション・クロス)】が接触する可能性だって!」

「りゅ、【竜王姫】が地上から来ても厄介、ですよねぇ……あ、【祈り子】もい、いますねぇ……えへへ」

「……最悪の話、【勇者】が監獄塔に来ることも懸念しておかなければならないもしれないですね」

「忌々しいわ! あの見栄っ張り女!」

 

 神父は様々なことを考え巡らせるが、まだ情報が足りないと考えた。

 現状、男のやったことはこの世界でもかなり恐ろしいことだ。

 だがどうしてそんなことができたとか、その情報が少なすぎたのだ。

 

「……申し訳ありませんが。もう少し見張りの方をお願いできますか?」

「はい!! ……ああ。それと【神父様】。【予言屋】さんが……」

「彼女がどうか?」

「いや、これと言ったものではないのですが、時が来た、と叫んでいまして……」

「……いつもの発作でしょう。お気になさらず」

「わかりました」

 

 そう言うと男は小屋から出て行った。

 小さな小屋の中、二人の天使は色んな悪口をただ言い合う。

 しかし神父はただ考え続けた、ウィルター・グラジオフという男について。




今回出てきた名前のやつら後で出てくる(予定)。
後、これからもたまに幕間をやる予定(なおタイトルは適当な模様)。
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