「もう一つ、これからのことで確認しておきたいことがある」
先ほどの作戦会議のような何かを終わらせた俺たちは、それぞれこれからのことに備えていた。
アルキナは相変わらず刀の手入れを、グランはチラチラと窓の外を見て何かを不安そうにして、ラスナは情報収集に備えて自分の体を少し弄っていた。
ともかくそんな中で、俺はこれから戦うべき相手たちに初見で行くのもどうかと思い、話すことにしたのだった。
と言っても、アルキナはある程度のことは把握してそうであるが。
「確認すること、ねぇ」
「……なんだその反応」
「個人的に確認したいんだけど。アンタってなんなのよ」
「なんなのって……なんなの?」
「そのままの意味よ。あまりにも知ってることが多すぎるわ。管理室への行き方も、
「そ、それはだな……」
「看守だった、は少なくともないわ。それなら
あの男か、予想するまでもないだろう。
この監獄のことを把握し、億と言う数がいる看守を把握できる化け物。
なんならそこらの囚人よりもよっぽどイかれている男。
看守長、奴のことだろう。
だが何故それを、アルキナが知っているのか、って話になる。
「……」
「知ってるんでしょ?」
「知ってる、が。俺が提供できるのは情報だけ。身の上話はしたくねぇ。それにだ。なんでアルキナ、そのことを知ってるんだ」
「簡単よ。妹が知り合いだもの」
「妹、か……」
そう言えばいたなぁ、こいつに妹。
奴も大概ヤベー奴だったが、周りにそれが伝わっていないせいか、結構な上層で収監されている。
少なくとも今ここにいるメンツで戦って勝てるような相手ではない。
まともに渡り合える奴らなんかいるのかどうか。
「で、私は話したわ。次はアンタが話す番よ」
「ずるいな」
「何よ、聞いたのはアンタでしょ。私は
「お前にとって弱点になるのかどうか……でもまぁ、それもそうか……はぁ。じゃあ、その、なんだ。少し話しとくべきか。ラスナとグランは……」
グランは何か上の空というか、チラチラと外を見て忙しそうというか。
ラスナの方も随分と体が開いてなんか繊細そうだし、邪魔をしないでおくか。
と言ってもだ、話せることは少ない。
間違いなく前世のことは一つも話せないし、こっちのことだって話せないことが多すぎる。
生まれだってスラム、としか話せないぐらいには話したくない。
だとすれば……。
「アルキナ、何が聞きたい」
「何を話してくれるのかによるわね。生まれは?」
「スラムだって言ったろ」
「まさか。あのキチガイのネリシアが言ったじゃない」
「なにを」
「居場所はそこじゃない、って。私にだってわかるわ! アンタ、なに隠してんのよ」
まるで獲物を睨み殺すかのような目つき。
めちゃくちゃ怖いんだけど、マジで。
だが話せないものは話せない、話したくない。
でも、名前さえ見ればわかりやすい話である。
「グラジオフ。俺の姓はそうだったと言ったろ」
「それが何になるのよ」
「今言えるのはそれだけだ」
「……まぁいいわ、じゃあ別のこと聞くわね……」
と言ってから数分、刀の黒い刀身部分を見ながら考えている。
あ、今刀に四回目の蒼電が流れた。
あの刀の素材ってなんなのだろうか、いやそもそもどうやったらあんな物になるのだろうか。
黒い刀身に沿って流れる蒼白い電光。
ぱっと見、刀がまんま機械化したようにしか見えないのだが、その性能は恐るべきものだ。
と言っても彼女が手にしている以上、その武器の性能を見る日はないんだろうけど。
能力でなんでも切っちゃうからな、あいつ。
「で、決まったか?」
「んー……聞きたいことが多すぎるわ」
「そんなに?」
「ええ、だから今度にするわ。今はそれよりも、最初に言った確認することの方が気になるわ」
「いきなりだな、おい」
「細かいこと気にしてちゃダメね。ロクな人間にならないわ」
もう既にロクでもないだろ……と言いかけたのを飲み込んで、最初の話に路線を戻すことにした。
そこでグランとラスナを呼ぼうとしたのだが、グランの姿がどこにもない。
ラスナは未だ体をいじって……なんか、後ろに極太兵器が見えるんだが俺の気のせいだろう。
ロケットでも打ち込もうってんじゃないかってレベルで大きい、怖い。
「ら、ラスナ。グランどこに言ったか知らないか?」
「先程、この建物の別の部屋に行かれました」
と、言いながら後ろにあった極太兵器を、チップサイズに圧縮して背中に収めてしまった。
ラスナの背中は四◯元ポケットかなんかなのだろうか。
あそこに彼女のありとあらゆる兵器が詰まってると考えると恐ろしいものだ。
「……まぁ、あとで簡単に話しときゃいいか。ラスナも作業しながらでいいから、耳は傾けといてくれ」
「わかりました」
「よし……じゃあ、アルキナ。取り敢えず今まであった敵対している奴らをまとめとくか」
「そうね」
と、言うわけで一先ず俺たちが出会ってきた奴らをまとめることにした。
まず最初に出会った敵は二人、【狂姫騎士】ことネリシアと、【人喰らい】こと『
能力はそれぞれ『座標転移』と『悪食』。
どちらも恐ろしい能力ではあるが、一応対抗方法はある。
「まず『座標転移』だがアレには明確な弱点が存在する」
「弱点? そんなのあったのね」
「ああ。あの能力は座標が移動しているところにワープすることはできないんだ」
「と、言うと?」
「エレベーターとかだな。床が動いてるだろ? あの能力は座標を即座に計算して、人と場所の位置関係を割り出すことでその座標へと転移すると言うもの。だから床に動かれると座標にブレが生じて転移できなくなる。まぁ強行しようと思えばできるんだがすれば……」
「少なくとも壁の中ね。最悪、体の分子が崩壊するんじゃないかしら」
「恐ろしいこと言うなよなぁ……つっても、常に動いてれば強制的に転移させられることはねぇ。少なくとも、どこに転移するかの目星さえつけられれば俺でも対抗はできる。目星をつけられたらな」
不可能なんだけどね、無理無理無理。
何考えてるかわかんないし、わかりたくないし、死にたくないし。
少なくとも近づけば一瞬で首と体がおさらばする羽目になるだろう。
能力以上に恐ろしいあの剣術を持った彼女ならば。
「で、F,e,e,Z……で、フィーゼ、な。あの狼」
「狼畜生そんな名前だったのね。どこでそれを?」
「こいつもちょっと話し難いなぁ……でもまぁ、一つ言えるのは彼女がどっかの研究所出身ってことだけだ。純粋な
「へぇ、研究所。どこかしら」
「思い当たる節でもあるのか?」
「まぁ、二十箇所ぐらいは壊滅させたわね。そのうち十八箇所は国家権力で揉み消されたけど」
「……何やったらそうなんだよ……」
初耳すぎて言葉も出ない。
ゲーム内でも確か、一応研究所が襲撃されたと言及はされたことがあった。
しかしその正体がこっちで明かされることになるとは。
もうやだ、知りたくないのに知識が増えて行く。
「……とにかくだな。彼女の能力は【悪食】、名前の通りのまんまなわかりやすい能力だな」
「なんでも噛み砕けるのよね。アレに限界とかあるのかしら」
「はっきり言うとだな。アレに限界はない。なんでも噛み砕けるし、飲め込めるし、消化できる。味わかんねぇけど」
「味は……まぁ、ねぇ」
アルキナが珍しくなんとも言えない顔をしていた。
確かになんでも食っては飲んでを繰り返すところを見たら、どんな味するんだろうと考えて想像して嫌な気分にはなるよな。
俺もなった。
「ともかくこいつの能力に弱点となるものは存在しない……と、言いたいところだが、実は粘土にめちゃくちゃ弱い」
「は? 粘土ぉ?」
「そんな反応するのもわかるけどな、ガムみたいなものだ。なかなか噛み砕くことができないんだ、アレ」
「ふーん、粘土ねぇ……知ってて損はなさそうね。本当に通用するかどうかはさておき」
「まぁな。それと、奴自身の動きは単調だ。わかりやすく噛み砕くを主体とした戦い方をする。アルキナならやりやすいんじゃないか?」
「なんなら口から裂いてやってもいいわよ?」
「……あまりグロくしないでほしいな」
俺の小さな願いは聞き届けられたかはさておき、出会った奴らと言うとこの二人ぐらいか。
他のチンピラはどうでもいいとして、他に伝えることはあったかな。
主任看守は……会うこともないだろう、多分。
他にも色々危ない敵がこの十階層、九百九十九層から九百一層の間にいるんだが、それもおいおい話していけばいいだろう。
「取り敢えず上に上がった時、気をつけておくべき敵は二人。ネリシアとフィーゼだ」
「わかったわ。無事、上に上がれたら、の話ね」
「上がれるといいなぁ……」
なんてことを呟きながら、俺は