取り敢えず、まずはあの金髪バカの対処法を考えるとしよう。
俺は今、と言うかまたもや逃げ回っている。
ここに来て何度目になるか。
アルキナに追っかけられ、ゴキブリに襲撃され、あのキチガイどもの戦いに巻き込まれ。
だがようやくツキが回ってきたようだ。
あんな奴とまともに戦えるわけがねぇ。
だが、
そう、まともに戦えば当然勝てるはずもない。
圧倒的物量に押し潰されて死ぬだけだ。
だが、今は違う。
奴は俺との鬼ごっこで遊んでやがる。
なら俺は一手取るだけで、勝利することができる。
あの体には、その弱点があるのだから。
そもそも近づけなきゃ話にもならないんだがな。
俺は懐から取り出した銃、エルダーMD7をやつに向けて引き金を引く。
「さっさと死ねぇぇぇえええッ!!!」
数発の弾丸はやつの目の前まで飛んでいくものの、その手に握られた剣によって弾かれた。
「おいおいおいおいィッ! 生温りィぞォッ!! 随分とお粗末な攻撃だなァッ!!!」
「お粗末で悪かったな!! テメェなんか、アルキナかラスナがいたらバラバラだからなッ!!」
完全に三下か小物の台詞である。
いやだって、いくら銃を撃っても切り捨てられるんだもん。
エルダーMD7、本来の威力はこんなものではないはず。
やはり調整不足と、そこら辺のもので弾を作ったのが原因だろうか。
ラスナの弾生成の精度は悪くないはずなのだが。
あんなところに置かれていたものだ、壊れていない方がおかしいだろう。
ってなわけでこれは壊れてる! 詰み!! ……ってほどのものでもなくて。
実のところあの金髪バカの【念力】には大きな弱点が存在している。
それはわかりやすく、元から動いているものは制御できないと言う弱点だ。
だから弾丸は避けたり防いだりしている。
真反対に飛ばすことができないから。
それがどうしたって、なるだろうが。
奴の能力はまず、目に入れるところから始める。
それを片手間で掌握、動かすことで【念力】が成立する。
要するに前提として動かすものを目に入れる必要がある。
だが目に入れたものが既に動いているものならば、それは成立しない。
別の方向からの力が働いているのだから、自ら力を加えることができないのだ。
それが奴の大きな弱点である。
要するに、粉雪でも降らしてやれば、俺は奴の体にある弱点をつける、ってことだ。
ちなみに【念力】で操った銃で撃つことは可能らしい。
「だから、とにかく……」
今は逃げながらでも、考えるしかない。
曲がり角から曲がり角へと、とにかく壁を蹴って勢いで曲り。
その曲がった先で壁を取り払われて、剣をぶん投げ【念力】を利用し接近してくる奴から逃げて。
窓を蹴破り先へと進み、もはや道がわからなくなるぐらい奥へと逃げて行く。
同じことの繰り返しで、そろそろ疲れてきた。
と言うか、今日はこればかりで、もう嫌になってきた。
と言ったところで俺は改めて少し冷静になって考える。
奴との距離感ではなく、今できることを。
「……ネリシアやアルキナに比べて剣の振りと精度は低いか。一応見切れはするな。対処は不可能じゃ、ない」
片手剣、奴の得意な武器の一つではあるが、やはりネリシアやアルキナと比べると見劣りしてしまう。
それもそのはず。
ゲーム内でも結構初期の方で戦うことになる敵だ。
確かに奴の持つ【念力】は強力だが、それを扱える場所とものが用意されてなきゃ話にならない。
そんじょそこらの剣と銃を使うただの強い奴でしかない。
要は、能力はめちゃ強に設定したけど、結局初期の敵ってことで剣の腕前とかは抑えられてしまったのだ。
一応剣や銃を【念力】で操ることはできるんだけどね。
しかし今の俺にとっては、その設定が非常にありがたかった。
あの銃弾を弾く程度の剣術ならばなんとかなる。
いや、程度って言ってるけど、この世界での程度だ。
流石に地球での話ではない。
「ぶっ殺すぞこの野郎ッ!!」
「いいじゃねぇかァッ!! その言葉を待ってたァアッ!!!」
俺が奴を更に引き寄せるために軽く暴言を吐き捨てると、奴はヒートアップして【念力】で瓦礫を浮かし、そこに向かって回りながら飛ぶ。
かと思えば、そこに足を突くと、勢いよく蹴り上げてとんでもない勢いでこっちに接近してきた。
俺は咄嗟に銃口を奴に向け引き金を引いたが、近くの小石が銃弾をレベルの速度で銃口にぶつかって狙いが逸れる。
撃ち放たれた銃弾は奴の頬を掠め、後ろにあった瓦礫に突き刺さった。
「て、めぇッ……!!」
「残念だったなァッ!! 体とお別れの言葉を言いやがれェッ!!」
そう叫びながら地面に着いて、 思いっきり踏み込んできた奴の剣が振るわれる。
考えを張り巡らせる中で、俺は透過は起こるかと言う考えを提起する。
あの透過は見た感じ能力に反応しているところがある。
そしてこの攻撃は能力ではなく、奴の単純な剣術だ。
故に透過の発動はないと言い切れる。
なら、ならば。
今の俺の取れる行動は何か。
首元に近づく斬撃に対し、走馬灯のように駆け巡る思考の中で、できることは。
そこで俺は咄嗟に、奴の
「お星様でも見てろやぁぁああああッ!!」
首がすっ飛ぶと言ったところで俺は大声を張り上げた。
その瞬間、飛んできたものを見た奴は大きく目を見開く。
視線に浮かぶのは戸惑いと困惑、そして
それによって奴の剣の動きが首にほんの少し食い込んだ状態で完全に停止する。
いや、どちらかと言うと手が動かない、と言ったほうが正しいだろうか。
奴は過去の経験から薬物に対して極度の恐怖心、トラウマを抱えている。
故に、それ、と認知しただけでも行動に支障をきたす。
奴のお得意の【念力】すらまともに扱えなくなる。
実際ゲームでも薬物の投擲行動で、優位を取れるからな。
と言ったところで、薬物に対して一瞬身動きを取れなくなった奴に向けて、すかさず顔面に拳を振るう。
外見がどうだろうが、容赦はしない。
男女平等パンチである。
「い、っでェッ!! なァッ!!!」
奴は顔面に一撃を食らって、後ろに大きく後退して膝をつく。
顔を歪めながら鼻を抑え、奴はゆっくりと立ち上がって俺を睨んだ。
鼻から
「ケッ……
「燃料、ね。随分と便利そうな体じゃねぇか」
俺はそう言いながら、近くに落ちている薬物の入った袋を拾ってポケットに入れる。
奴は血を拭って剣を地面に突き刺し、嫌そうな顔をしながら言った。
「言うんじゃ、ねェよ。オレァ、気にしてんだァ。気づきャ、娼婦の体たァ……あー、セクサロイド、だっけかァ」
そう、奴は人間じゃない。
いわゆるサイボーグという奴だ。
だがアルキナのようなサイボーグとは訳が違う。
奴の体はもう、脳みそ以外存在していない。
ほぼ全ての部位を機械に置き換えられてしまったのだ。
しかもそっちの趣味の人たち用のセクサロイドに。
ちなみに設定では。
死に体だった彼に肉体を与えた人間がいるのだが。
その人間はたまたま目についたモノで奴の体を移して蘇生させたのだとか。
で、これは裏設定だが、実はラスナたちウォードールシリーズの制作者と同じ人物だったりする。
一体何者なんだか。
「最悪だぜ、この体ァ。興奮してくると下半身が疼いちまって仕方ねェ。ああ、安心しろよ。別にテメェとじゃ興奮しねェからよォ」
「して欲しくねぇよ!! お前元々男だろうが!!」
「んだよ、知ってんのかァ。まァ、なんとなくわかっかァ」
セクサロイドの体を持ってはいるが、脳みそを移植されただけの元人間ではあるが。
奴は、いや、彼は、元男である。
それはもうなかなかのナイスミドルで、肉体が死んでからは随分と可愛くなっちゃったものだ。
「はァ……オレのこと殴った奴ァ、テメェで二人目だ」
「そりゃすげぇや、参考までに聞かせてくれよ。最初は誰だったんだ?」
「オレのことをここに入れやがったクソ野郎さァ」
「なるほどな。じゃ、もう一つ……テメェの依頼人は誰だ。主任看守か、信仰者か、それとも、テメェ自身の意思か」
「んー……どの答えがお望みか知らねェがよォ。それなら納得のいく答えをしてやれるぜ。答えはなァ、全部、だァ」
と、言うことは、状況はだいぶヤバ目らしい。
主任看守に目つけられてるって、ほぼ詰みみたいなもんだし。
だが俺に差し向けたわけではない、ってことはだ。
まだ俺の存在がバレていないか、それとも首謀者がアルキナだと思われているか、だ。
少なくとも、俺はバレていない線を推したい、博物館で会ってるし。
「あー、マジかよ。じゃあアルキナ捧げっから、許してくれね? もう無理?」
「おいおい。オレの鼻ァ殴っといてよォ、そりャねェだろォ」
「だよなぁ……じゃあ、まぁ、やるか。いいぜ、来いよ」
そろそろこの逃走劇も終わらせよう、疲れてきた。
この金髪バカを機能停止にしてやる。
しかしまぁ、ここに来て初めてのまともな戦闘……幾分か緊張はするが、ここで勝たねば死ぬ以外の未来が存在しない。
例え真っ向勝負で戦えなくても、勝たなければならない。
俺は自分自身の運の良さと、さっきの一撃がちゃんとしてるところに当たっていることを祈って、拳を握って走り出す。
瓦礫を【念力】で浮かし、笑みを浮かべた奴に向かって。
なんとなくキャラ紹介②
アルキナ・エルナフ(??)
身長体重は不明だが、身長は大方160cm前後。
胸はあまり大きくなく、どちらかと言うと控えめな方。
生まれはそれなりに裕福で、幼い頃は家族に囲まれて結構幸せだった。
彼女が歪み始めたのは、そんな幼い時であり、年齢を数えなくなった十歳の頃からである。
とある事情で妹以外の家族を失った彼女は、元々体の弱かった妹を置いて、家を出て行ってしまった。
それが妹にとっても自分にとっても、最高の選択であると考えたが故で。
結果として、その選択は後に大きな間違いを生み、彼女の中に遺恨を残すことになるのだが、それはまた別の話で。
彼女が今の解体癖に目覚めたのは、失踪から二年、十二歳の時だった。
十二歳の時にも色々あったのだが、それもまた別の機会に。