デッドマンズジェイルの囚人   作:御魚天国

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訂正
ちゃんとしたところに拳が当たっていることを祈って→
さっきの一撃がちゃんとしてるところに当たっていることを祈って


解体欲より先に来るもの

「あー、つまんないわ。やっぱ手応えってものがないのよねぇ。一回くらい避けてもいいと思うわ」

 

 と、言って歩く女が一人。

 アルキナ・エルナフ、この監獄塔に於ける狂気の一つである。

 彼女の持つ能力【切離】はなんでも刃物で切れるようになり、切った断面をくっつけることができるという、ちょっと便利かな? 程度の能力だ。

 だが彼女の持ち合わせる異常なまでの解体への愛と癖が、能力を特異とされるまでに押し上げていた。

 

 しかしそれを知った時、もはやそれは【切離】と呼べなくなるだろう。

 故に知るのは、もう少し後のこととなるのだが。

 ともかく彼女は今、ウィルターと【傭兵】ニックスが交戦している中、少し離れていたところに来ていた。

 歩いている道の後ろの方では、バラバラにされた数十人の人が壁に張り付いたり潰れていたりする。

 

 襲ってきたのが半分くらい、道にいたから切ったのがもう半分くらい、ほんの少しだけなんか切れそうだから切ったのが数人。

 光景としては悲惨と言うのがないだろう。

 そんな中でアルキナは近くで目に付いた、壁に貼り付けられている顔に向かって声をかける。

 

「歯応え、ってのもないのよねぇ。避ける気ゼロでしょ、アンタたち」

「お、まえが、おか──」

「うるさいわ」

 

 理不尽極まりない一閃によって顔は真っ二つに。

 鞘に刀を収め、一瞥するとつまらなさそうにしてその場を去る。

 顔は口をパクパクさせるだけで喋ることができなくなってしまった。

 可哀想、で済むような光景ではないのは間違いない。

 

 で、そんな悲惨な光景を生み出した張本人であるアルキナは、少し奥の寂れた石造りの家へと向かう。

 この階層に似合わない建物ではあるが、アルキナはそんな建物の中にドアを蹴って開く。

 

「入るわよ、クソ親父」

 

 そんな一言で中に入ると、そこにあったのは数々の機械とPCのようなもの。

 部屋の中央辺りには作りかけの何かが一つ。

 少し奥の方には鍛冶場も存在していた。

 そして、数々の機械とPCの前に座る、ズボンを履いただけで白衣を羽織ったの髭面が一人。

 

「おぉ? アルキナの嬢ちゃんじゃねぇか! どうした、刀奪われたんじゃなかったのか?」

 

 彼はあのアルキナが信頼を置く、数少ない人物の一人である。

 ここに収監された理由も大層なもので、ある日ロボットを生み出したのだが色々あった結果、最終的に世界を滅ぼしかけたと言う。

 色々と戦いが繰り広げられたりしたのだが、最終的にとある奴らにやられて敗北。

 そんなわけでここに収監されてしまっていた。

 

「取り返してきたわよ。まぁ、一日で色々ありすぎたから調整しにきたわ」

「ああ、聞いてるな。【狂姫騎士】や【人喰らい】と交戦したんだってな? それにあっちこっちから命を狙われてるたいじゃないか。人気者だな」

「嬉しかないわよ。おかげさまでここを離れることになったわ。決まってすぐ実行、無茶苦茶もいいとこよ」

「ほう。そりゃすごい」

 

 アルキナから刀を受け取った白衣の男は座ったまま、近くのテーブルに刀を置いてから、下の棚から一段丸ごと取り出しておく。

 刀を手に取り鞘から抜いて、近くに置いた棚に入っていたものから様々な器具を一つ選んで手に取り刀の刃を細かく見て行く。

 

 それを見ながらアルキナは思いついたように口を開く。

 

「それでついでに警告もしに来たのよ」

「警告ぅ? 嬢ちゃんがそんなこと言いにくるなんざぁ、驚きだな。なんかあったのか?」

「面白い奴がいただけ、って話。切りがいがありそうな奴よ」

「ほぉ、ついにお嬢ちゃんにも彼氏ができるような……」

「バカねぇ、そんな奴じゃないわよ。それに前から言ってるでしょ、興味ないって」

「だろうな」

 

 なんて言いながら髭面の男は笑いながら刀を見続ける。

 アルキナもその様子を近くに座って見ながら、言葉を続ける。

 

「で、警告の話なんだけど」

「どうせ、この階層が危ないって、話だろう? 何するかは知らんが、まぁ、そう言うことなら、そろそろ上に行く頃合いかねぇ」

「ツテがあるって言ってたわよね」

「ああ、つっても、そんな大層なもんじゃない。一人行ければいい方だな」

「ふーん……そう」

 

 アルキナは暇そうに近くの機材から小型のナイフを取り出し、くるくると回して遊んでいると何かを思い出したかのように、ナイフを壁に向かって投げて立ち上がる。

 コートの内側に手を突っ込み、一枚の封筒を取り出して机の上に置いて、髭面の男に向かって差し出す。

 

「ね。前の手紙、出してくれた?」

「んぁ? 手紙? ……ああ! あれか、勿論出したぞ。返事はまだ来てないがな」

「……そう。そう、よね。これ、また出しといてくれないかしら。一応、中には小切手が入ってるわ」

「ほう、いくら入れたんだ?」

「百万ギーツぐらい……だったかしら。覚えてないわ、適当に書いたから。でも、こんな監獄であの子の現状を鑑みれば、生きて行くには十分だと思うわ」

「いくらアレでも……そりゃ受け取りづらいと思うがなぁ」

「そんなこと言ったって……今更、わかんないわよ……姉妹の距離感なんて」

 

 アルキナは手紙を無理やり押し渡し、少し天井を見つめてかつて共にいた妹のことを思い出す。

 小さくて、同じ銀色の髪を持っていた、とても可愛らしい少女のことを。

 だがどうあがいても、その記憶の奥底にあるのは黒く目の向けられない惨劇だけ。

 

 何度振り返っても、何度立ち返っても、結局そこにあるのは後悔と疑念だけなのだ。

 何故と何故がいくつも積み重なり、最終的に生まれるのは彼女(アルキナ)と言う人間だけで、希望など存在しない。

 

「……まぁ、今からでも遅くはないと思うけどなぁ。この前ようやく、立つことができるようになったらしいしな。半身不随からの回復だ」

「そうなのね。あの子が……あーあ、いっそ過去のしがらみも全部、切り潰してやりたいわ」

「みんな望む能力だな」

「でしょうね。はぁ……」

 

 椅子に勢いよく座ったアルキナは、再度天井を見つめてため息をついた。

 静かな時間が流れる、かと思われていたその瞬間。

 突然ドアを勢いよく開けて、男が一人慌てた様子で入ってきた。

 

「親方ッ!!」

「なんだ、そんな慌てて」

「いや、その! 外で! 今!!」

「落ち着いて喋れ」

 

 そう言われた男は息を整え深呼吸し、少し落ち着いたのち、外を指差しながら話し始めた。

 

「っ……【傭兵】が交戦中! アルキナさん、アンタを探してるみたいだ!」

「へぇ、私を。あのバカ、何のつもりかしら。で、誰と戦ってんのよ」

「【傭兵】とパーカー着てる男だ。あの【傭兵】が、押されてる!! 殴り合ってんだ! 今!!」

「私を探して、パーカー男と交戦……アイツも可哀想なやつね。毎度毎度命を狙われて」

「お嬢ちゃんのせいじゃないのか……?」

「気にしちゃ負けよ。どうせアイツはキレて来るだけだし」

「へぇ。面白い奴もいたもんだ。あ、刀の調整は終わったぞ」

 

 髭面の男は刀を鞘に収め、放り投げてアルキナに渡す。

 アルキナは片手で受け取ると、軽く抜いてその刀身を自らの目で見た。

 黒く蒼白い電光が流れる刀、間違えようもなく彼女のものである。

 

「ありがと、これでやっと私の()が放てるわ」

「行くのか?」

「ええ、放置してるわけにもいかないでしょ? やることもあるしね。じゃ、妹のことは任せたわよ」

「上に行くなら会いに行ってやれよ?」

「……決心できたら、そうするわ」

 

 何とも言い難い顔を無理やり笑みへと変え、アルキナは刀を手に走り出す。

 一人の男の手によって、その未来が現在進行形で捻じ曲げられているなど、誰も知ることなく。

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