周りの奴らは何かを考えているのかなに一つとして理解できない。
なにを考えて行動しているのか、全くわからないのだ。
主任看守に関しては、現れる前触れすらなかったからな。
急に現れやがってあの野郎。
「……そういや、俺アイツの名前知らないな」
と、上の方でアルキナと戦争ごっこしている主任看守を見る。
二人の戦闘はありとあらゆる挙動が周囲の光景を変えるほど酷い。
刀を収めたままのアルキナが、一言呟いて少し柄に触れればこの世の理から外れた剣術が放たれる。
それに対して主任看守は周囲の建物を軽い挙動で操って、攻撃を防ぎながら押し潰そうと動く。
しかしアルキナは蹴って飛んでは動き回って襲いかかってくる土柱を一掃して行く。
設定集を読んだ限りではアルキナはあまり技を使いたがらない。
剣で切る感覚、と言うのが薄いかららしい。
つまり技を使うと言うことは、それなりに追い込まれていることの証明となる。
まぁ、ゲーム内でも設定的に最強格だった女だ、多分大丈夫だろ。
「ひっでェ、光景だなァ」
「なんだ【傭兵】。戻ってきたのか」
「最初からここにいたさァ、まだテメェと決着がついちャいねェ」
「いいのかよ。周囲のものは動き回ってる、【念力】はさぞ使い難いだろうよ」
「問題ねェ…… 今から本気でやりャ、テメェを殺すぐらいはできらァ……!」
そう言って上から土埃が落ちてくる中で、奴は二つの瓦礫を浮かしこちらに狙いをつける。
一つ大きな岩が戦いで崩れて、目の前に落ちてきた時。
次の瞬間にはそこに奴の姿はなく、【念力】によって浮いた瓦礫がこちらに向かって飛んできていた。
俺は咄嗟に慌てて後ろによろけ下がり、銃を構え斜め下から剣を片手に迫ってくるやつに向けて撃ち放つ。
だが飛んできた瓦礫の一つが急に方向を変え、奴の前に飛んで銃弾を防ぐ。
そして残った瓦礫は俺の顔面めがけ飛んで来た。
もう一発、銃弾を撃って瓦礫を逸らしたいところ、だが。
そろそろ銃弾にも限りがある。
何発撃ったか覚えちゃいねぇが、弾切れまで二発程度、のはずだ。
瓦礫の速度は銃弾以下、会った頃に比べればかなり落ちている。
ならば、ならばここで、覚悟を決めるべきか。
「く、そぉぉおおおおおおッ!!!!」
叫び声をあげて踏み込み、飛んできた一つの瓦礫を顔面で受け止める。
当然ながら痛い、とかってもんじゃない。
苦痛が十あったとしたら、九の一歩手前か一歩後ぐらいか。
だがこれまでのパンチがそれなりに効いているのか、死に至るほどの痛みではない。
とにかく痛い、が。
「死ぬほど、痛くねぇなぁッ!!!」
「んだと、テメェッ……!!?」
走って剣を片手に接近してくる奴に向けて、俺は顔面と鼻から血を垂れ流しながら逆に踏み込んで行く。
奴か驚愕と焦燥で大きく振りかぶった剣の懐に潜り込み、顔面に一撃を入れる。
痛みで少し狙いが逸れたのか、頰に一撃入ったが奴の予想だにしない一撃で剣を手放し大きく後ろに吹き飛ぶ。
だがそこは【傭兵】、戦い慣れている。
奴が殴られ地に堕ちる中で、地面に手をつき体勢を取り戻すと、そのまま
【真髄保有者】である奴のもう一つの特徴。
それが他の【念力】使用者と違い、触れたところも【念力】で操れると言うところだ。
アレはまずい。
壁ができたってことは奴のする攻撃がわからない……いや、いやわかる。
狙いは
奴のやりたいことは。
「そっち、かッ!!!」
俺は後ろを振り行くこともなく、横に飛んで転がる。
その瞬間、俺のいた場所に一本の剣が突き刺さった。
奴が手に持っていた剣だ。
俺は抜けようとする剣に向かってすぐさま飛びついて深く地面に突き刺す。
一度他者に持たれたら奴の【念力】は操ることへの制御権を失う。
これで剣は操れないし、簡単に抜くことはできない。
土埃の中、奴は簡単に【念力】で操れないし、触れるにも数が少なすぎる。
「……出てこいよ、【傭兵】。正々堂々、決着つけようぜ」
「正々堂々ねェ。テメェなんなんだァ」
「なんなんだ、って……なんなんだよ」
「行動が無茶苦茶なのは、ここいらのデフォだとしてもだァ。その理解力、言っちまえば理不尽だァ。いやそれとも、知ってんのかァ?」
「ただのスラムのクソガキに、知れる理由があるとでも?」
「さてどうだかなァ。だが考える余地はあるだろうさァ、主任看守サマの言葉を真に受けるなら、なァ」
「なら、どうする?」
と、聞いた瞬間、突然壁の後ろからいくつもの瓦礫が浮き上がる。
どれもこれも結構な大きさで、数も十を越す。
「殺すッ!! テメェがなんだろうが知ったこっちゃねェッ!! 気に入らねェから殺すッ!!」
「単純明快!! 最高だなッ!!」
瓦礫が動き出すと同時に俺は走り出した。
今の会話の最中に準備されていたであろう瓦礫を、奴は壁の後ろに隠れながらこちらに向けて飛ばす。
だがどちらかと言うと落としてきている、と言ったほうが正しいだろう。
なんせ速度が顔面に当たった時よりも、更に落ちている。
中枢機能をずらしたのが案外奴に、大きな疲労感を与えたのかもしれない。
なんにせよ奴ももう限界間近と言ったところか。
「決着つけるぞォッ!! ウィルター・グラジオフッ!!」
「望むところだッ!! ニックスッ!!」
奴が浮かした瓦礫が飛んで落ちてくる中、俺は壁の向こうへ向かうべく走り出す。
俺の近くに落ちてくる瓦礫たちは狙いが荒く直接当たることはない。
だが降り注ぐ瓦礫たちは俺の道を確かに閉ざして行く。
まぁそれも、ほとんど無意味のようなものなのだが。
「もう終わりだッ!! 【傭兵】ッ!!」
「て、めェッ!!!?」
俺は瓦礫を蹴って登って飛んでは駆け上がる。
瓦礫は飛んできているが、速度は遅く避けるのは容易い。
あっという間に瓦礫を登って壁を上から乗り越えて、向こう側までついてしまった。
向こう側では【傭兵】が壁に寄りかかって俺のことを睨んでいる。
見たこともない顔だ、こんな顔するんだな、こいつも。
「……チッ。オレの、負けだなァ」
「勝ったの奇跡みたいなもんだろ」
「侮りすぎるのも、考えもんだなァ……」
そう言って俯いた【傭兵】の腕を掴んで持ち上げる。
案外軽く持ち上げるのにも、あまり力は必要なかった。
俺は容赦なく服の中に手を突っ込んで背中あたりを触る。
「あ、おいっ! テメェ、なにしてんだァ……!!」
【傭兵】は必死にもがくも少女の、しかもセクサロイドの体じゃできることなどなく。
背中を弄られるのをむず痒そうにして体を動かしていた。
「あった」
漸くスイッチを見つけた俺は、それを強く押し込む。
すると突然【傭兵】は糸が切れたようにぐったりとして意識を失う。
これでもう一度スイッチを押すまでは動かないだろう。
「……さて。あとはアルキナか」
俺は【傭兵】を脇に抱えて上を見上げ、アルキナと主任看守の戦いを見る。
あまりにも壮絶で周囲の地形をいとも容易く変える。
天変地異のような戦いを。