【傭兵】片手に近くの瓦礫の影に隠れてみたものの、戦いが止む気配は一向にない。
主任看守……長いから主任と呼ぶことにして、主任は自身の立っている場所を能力で持ち上げ、近くの建物の屋上と同じぐらいの高さまで行く。
そして周囲の建物を操っては、その近く屋上にいるアルキナに向ける。
いくつもの針山が一斉に飛んで行くような感じだ。
それに対してアルキナは、軽く構えると謎剣術を引き放つ。
さっきやってた呟くと超常現象を引き起こすアレだ。
わけわかんない奴。
アレで近づいてきたありとあらゆるものをバラバラにして行く。
「一体何をどうしたら、あんなことができるんだよ!? 非正規品の四肢を使っているからか!?」
俺は恐ろしい攻撃から身を隠しつつ、周囲の状況を確認する。
少し離れたところでちらほら看守の姿がさっきから見えていたのだ。
だが姿が見えるだけで、これと行った目立つ行動を一つも取っていない。
大方攻撃が激しすぎて近づけない、ってとこだろうか。
それはそれで好都合だな、どうするか考えよう。
と言っても、戦いの方は完全にアルキナ任せだ。
俺にできることなんてあるわけねぇ。
「──っ!? な、なんだ、鼻がいてぇ……げっ! 鼻血……」
急に言い表しようもないような痛みが鼻を襲う。
なんだなんだと言う前に、ポタポタと結構な勢いで鼻血が出てきた。
軽く鼻を押してみると、これがまた結構痛い。
「……あー。もしかして、折れたか?」
瓦礫を顔面で受け止めたのは流石にまずかったか。
アドレナリンがドバドバだったのもあるのだろう、痛みを今まで感じなかった。
が、こうやって痛み始めるとかなり痛い。
もはや苦しいの領域だ。
多分骨折だ、これ。
「くそっ……しょうがねぇ。我慢するしかねぇか」
「痛みですか? マイマスター」
「ああ、結構痛い……、──ん? うわぁぁあああッ!!? ら、ラスナ!?」
「はい、どうかしましたか?」
突然現れたゴスロリの機械幼女ことラスナは、キョトンとした顔で俺の隣にいた。
音もなくあまりにも突然に。
情報収集に出かけていたはずだが、何故こんなところにいるのだろうか。
「ど、どうかしましたかじゃねぇよ!? いつのまに……?」
「一体何を、と言っていたところからです。その方は?」
ラスナの目線は、俺の脇に抱えた【傭兵】の方を向いている。
一応これまでの経緯を説明すると、なるほどと頷いた。
「それでその方をどうするおつもりで?」
「……まぁ、ちょっとな。予定とは違うがこいつには一仕事してもらうことにするさ……ところでさ、ラスナさ、骨折とか治せる?」
「やはりお怪我でも」
「まぁそんなとこ。鼻をな、ちょっと」
「それならば……」
ラスナはそっと手を伸ばす。
どこにと言われると、鼻の方に。
俺はなんか嫌な予感がしてサッと頭を横に逸らし、伸びてきた手を避ける。
「マイマスター? 避けられては治せませんが」
「お前、どうやって治そうとしてる?」
「こう……ベキッと」
そう言ったラスナの手は、鼻を掴んだ形のまま約九十度ほど曲げられていた。
俺こんなとこで死ぬのかな。
殺す気じゃん、ラスナ。
「死ぬぞッ!!? 俺、人間!! 死ぬッ!!」
「……!」
何かに気づいて驚いたような顔しているが、まさか人間はゴリ押しで治ると思っていたのだろうか。
なんかラスナ、思っていたのと少し違うな。
意思も感情もないとは、一体なんだったのか。
それとも俺の知らない新たな設定が。
「《斬解剣・
頭の中で考えをぐるぐると考え回していると、突然壁の向こうで斬撃が響く。
次の瞬間、二つの斬撃によって壁が切り落とされた。
ギリギリ俺とラスナを避け、壁が切り落とされていた。
斬撃が大きすぎるのか、床が結構深くまで裂けている。
「し、死ぬって。アレ」
「そうですね。ほんの少しズレていたらマスターの体は真っ二つでした」
「お前もそうなる可能性があったんだが?」
「私は避けますので」
なら助けろよ、とは言うまい。
言ったところでどうにかなるものじゃないし。
そんなことよりも大事なことがあるしな。
「……ラスナ。とっととアレ終わらせよう」
「どうするおつもりですか」
「隙を作って、お前がアルキナ引っ張ってくる」
「無理でしょう」
「だよなぁ」
無理無理無理、ラスナが連れてくる云々はともかく、隙なんて作れるはずもない。
だってちょっとそっとの行動で地形が変わるような戦いだ。
凡人の俺がどうにかできるはずもない。
ラスナならともかくな。
「……弾丸は二発、か」
片手に握った銃、MD7を見て壁の向こうから轟音が聞こえなくなったところで、少し覗いてみる。
二人の会話が少し聞こえたが、何を言っているのかはさっぱりだ。
ただ殺すだのぶった切るなど聞こえるところを見るに、通常運転らしい、よかった。
よくないけどな。
だが、会話している今がチャンスか。
「ラスナ、今ならいけるかも」
「マスター、失礼を承知で聞きますが。正気ですか?」
「正気も正気、最高潮だよ」
「……アルキナ様と対面しているあの方、もし戦闘となれば私でも対処は不可能かと」
「勝率で言えば?」
「十パーセントもないかと」
うーん、ほぼ負け確と言うことでいいのだろうか。
無理ゲーじゃん、やっぱ。
まぁ、もしも戦闘となれば、の話だ。
ならないのが一番いい。
「理由は?」
「能力の範囲が広すぎます。空中に浮いていればまだしも、体の一部分が地についている以上、この場はあの方の独壇場と言えましょう」
「【
「……わかりました、それでは。任務を開始致します」
俺が【傭兵】を押し付けると、【傭兵】を抱えて軽くお辞儀し一瞬で姿を消した。
任務なんて言うほどのことでもないと思うんだけど。
まぁ、真摯に取り組んでくれてる、ってことにしておこう。
さて、と。
引きつけるとは言ったものの、どうするかなぁ。
下手すりゃ即死だぞ、即死。
俺のすり抜けが発動する可能性は否めないが、確定じゃない。
軽率な行動は取れないわけだが。
あの、殺すだの切るだのの会話がいつ終わるかもわからない。
一先ず、行動に出るのみだ。
「おいッ!! アルキナ、主任看守サマッ!!
俺が大声をあげながら出ると、会話していた二人が同時にこちらを向く。
どっちも睨んでるのがすごく怖い。
が、攻撃してくる気配はない。
「……何の用だ」
「ウィルター、邪魔するなら切るわよ」
「そう邪険にすんなよ。楽しそうに会話してるからさ」
「他愛もない会話よ」
「他愛も? ……なるほど、そうだな。
「黙れ」
ドスの効いた声でアルキナが主任を睨む。
それに対し主任は、少し笑みを浮かべた顔でアルキナを見た。
マジでなんの話してたんだろうか。
だが今は関係のないことだ。
「主任看守サマ、ここで改めて自己紹介しとこうぜ。俺はウィルター・グラジオフ。知ってるだろうが、一応な」
「ふむ……いいだろう。私はヘレネス・ウァンナッツ。ヘレ、などと呼ばれているな。君が知ったところで、と言った話ではあるが」
「名前を知ることはいいことだろ? お互い知る第一歩だ」
「……覚えておこう。それで、話は以上か?」
「おいおい、落ち着けよ」
やばいやばいやばい、どうする? どうすればいい? なに話せば会話が続く。
とにかく会話を終わらせるな、近づいて隙を見て、なんとかどうにか、行動を取らねば。
「そう言えば、博物館がほぼなくなったが、絵画はどうなったんだ?」
「不思議なことにな、
「無傷……? どう言うことだ?」
少なくともラスナの斬撃が……いや、気にしてる場合じゃないか。
距離はいい感じに近づいている、後は俺が行動に出るだけ。
アルキナの方を見ると、変わらず主任ことヘレを睨んでいる。
あの感じならば俺の行動を阻害することもないだろう。
「しかし何故急に出てきた?」
「……言ったろ。楽しそうに会話してるから、って」
そう言ったところで徐々に近づいていた距離は、普通の片手剣が届くようなところまで。
もう一歩、踏み出したところで俺は銃に手をかけ、ヘレに銃口を向けた。
それと同時にアルキナの刀がヘレに向かい、ヘレの攻撃が俺たちに向かってくる。
だがその前にラスナが飛び出してきて、刀を振ろうとしたアルキナに飛びつく。
咄嗟にアルキナがラスナに向けて刀を振ろうとしたが、ラスナの顔を見たアルキナの手が止まる。
そしてラスナはアルキナを引っ張って、離れたところへ走っていった。
一方、ヘレの攻撃は俺の頰を掠めて後ろに突き刺さった。
死ぬかと思った。
「なんのつもりだ」
「……いや、なに。逃げるつもりだったんだけどな」
「なるほど。作戦失敗のようだな?」
「そう、でもない、と言いたい」
取り敢えず、止めることのできないアルキナを隔離できたからよしとしよう。
俺は銃を片手に、ヘレと対面しながらここをどう切り抜けるのか、考え始めるのだった。