あけましておめでとうございます。
俺は銃口を突きつけたまま、頰を掠めた攻撃がずるずると、ヘレのところに戻っていくのを見る。
あれが完全に戻った時、二度目の攻撃が飛んでくる。
そうなりゃ次こそ死ぬだけだ。
どうする、どうすりゃいい。
会話しようとしたところで、問答無用だろう。
先に攻撃を仕掛けるか? いや、仕掛けたところでだ。
防がれてそれで終いなのは間違いない。
「どうした、冷や汗など垂らして。恐怖、か?」
「さて……どうだろうな。単純に暑いだけかもしれないぜ」
普通に怖えよ、詰んでるし。
どう足掻いても次の一手が串刺しだもんな。
誰がどう見たって予想はできる。
仮に俺のすり抜けが発動したとしても、二手目で死ぬだけだしな。
さっきみたいに顔面で受け止められればどれだけ楽か。
「……せっかくだ。殺す前に聞いておこうか」
「なにを」
「私たちのことさ。私たち主任看守の中で、
「……は? なんでそんなこと?」
「デッドマンズジェイル、時間も空間も滅茶苦茶な監獄だ。お互いがお互いいつから在籍しているか、なんてわからないからね。
ヘレがそう言うと、俺たちの周りを囲うように十の石像が立ち並ぶ。
どれもどこかで見たことのあるような形をしていた。
当然ちゃ当然だろう、それらは全部この監獄にいる主任看守たちを象っていたのだから。
「な、なに、言ってやがる。俺が知ってるって、そんなバカなことが……」
「把握しているんだろう?」
「できるわけねぇだろ!!? 俺は、ただの一般人で……ここに来たのだって、意味もわかんないし、最近だ!! それにここの中の情報は極秘で、
「ほう、よく知ってるじゃないか。十層に分けられた階層の中で、
やばい、やった、やらかした!!
考えたことが全部口に出ちまった。
この監獄、主任看守はたしかに十人なのだが、そこに例外が一人いる。
囚人でいながら主任看守をやってるってやつだ。
奴以外できないからこそ主任看守をやらされているのだが、当然そんなこと外界に知られるわけにはいかない。
囚人が看守なんて、管理不足の醜態晒しもいいところだ。
まぁ、見てわかる通り管理もクソもないが。
そんなことよりも、何故俺が知ってるとこいつは知っている。
どこで漏れた、どこで情報が漏れ出た……?
考え得るとしたら【予言屋】か? だがあの狂人が……言い散らかすな、あいつなら。
だが奴自身興味のないことを話すような奴じゃない、故に可能性はそれなり、の筈だ。
ならば誰だ、誰が俺がこの世界のことを知っていると話す。
クソ……候補があり過ぎて分からん、わかるわけがない。
地上で下手な行動を取った覚えもないしな……一人だけ、見知ったキャラと過ごしてはいたが。
熟考を重ねていると、ヘレは少し笑って右手を少しだけ挙げて岩を構えた。
「なるほど、どうやら本当らしい。君は一体どこから来たんだ」
「あ? 俺の出身か? 出身はヴィクトル……」
「違う。私が聞きたいのは──」
と言ったところで突然、なにもない空間から手が伸びてきて、ヘレの隣で待機していた岩を掴んだ。
あまりにも突拍子も無い現象に、俺もヘレも驚愕で固まる。
「ヘレちゃんや、ちと殺すには早過ぎやしないか?」
そう言って伸びてきた手から続いて、男が一人出てくる。
不思議なことになにも無いところで浮いているのだ。
そしてそのまま待機していた岩を握り砕いてしまった。
そのまま砕かれた岩は根っこまでチリとなり、ヘレは驚愕で目を見開く。
が、すぐさま別の方向から攻撃を決め込むも、男に当たる寸前で妙な見えない壁に阻まれて消えてしまった。
「な、なんだ、貴様はッ!!?」
「おいおいおい。俺だよ、俺!! 知ってんだろ!?」
「し、知らん!! 見たことすらない!!」
あまりにも驚き過ぎて平常心を保ててないらしい。
貴様とか言い出したよ、ヘレ。
いやそれよりも……あの男、誰だ?
知らないし見たことない、少なくともゲームでは。
「ありゃ……知らない? マジ? んー……じゃあウィルター!! 俺のこと、知ってる?」
「は、え? ……い、いや。知らんが……」
「なるほどなるほど……じゃあ自己紹介だな!! 俺のことは気軽に【
「ま、待て。なんで俺の名前を……」
「そりゃあ……まぁ、なぁ。色々な!!」
これまた怪しさ極まった存在してる奴だなぁ。
急に現れては空気感をぶち壊して、場をかき乱して。
一応俺は救われてるからそこは感謝するとして、それはそれだ。
なにが目的でこの状況で邪魔をしたのかだが……。
「ウィルターよ。体は無事か?」
「へ? ……そりゃ大丈夫だけど……」
「アルキナちゃんは? 命狙われてない?」
「なんでそうなるんだよ!? こっちは結構助けてもらってて……」
それを聞いた男は俺たちの間に割って入ったまま少し考え込む。
俺とヘレは呆然としていたが、ヘレがハッとして攻撃を構え直すと、俺も銃口を再度向けた。
だがそんな緊張感も、男が声を発した瞬間に解けてしまう。
「オーケーオーケー、知りたいことは全部わかった……つまりここじゃヘレちゃんは俺の敵だな!!」
「どう言う結論!? て、敵って……」
「その男を逃がすつもりかッ!!」
「いやー、ははっ……ま、こっちも
誰かと約束をしていて、それで俺を守るってことは。
俺に協力しようとしている奴がいるのだろうか。
おかしな話、ではあるが、正直言って逃げ切れる気しなかったのに希望が見えてきた。
とにかく今はあのよく分からん男に頼るしかないだろう。
「……なるほど、よく分からんが。私と戦うと言うのだな?」
「逃げるだけなら別に戦う必要もないんだぜ?」
男はゆっくりと後ろに下がってきて俺の隣に立つ。
そして後ろに倒れたかと思うと、俺の腕を引っ張って俺のことを巻き添えにしやがった。
「ちょっ、おまっ……!!?」
「わはははははっ!!! じゃあな、ヘレちゃん!! また会えたら酒でも飲もうぜ!!」
「貴様ァッ!!!」
声を荒げたヘレから能力を利用した攻撃が飛んでくるが、俺たちの姿勢が垂直になった瞬間周囲の景色が切り替わる。
そして目の前に迫ってきたはずの攻撃の姿はもうどこにもなかった。
かと、思った時には俺の体が床に叩きつけられる。
「ぐへぇっ!?」
「……っと。ここはどこだぁ……? 知らんとこに出ちまったな! まぁいいか!!」
俺は後頭部を押さえながら顔を上げて、周囲を見渡す。
隣には男が立っており周りの光景はまるで廃墟のようだ。
見たことのない景色ではあるが、九百九十九層なのは間違いない。
一体なんの能力で逃げれたと言うのか。
「え、っと……【旅行者】、だっけか?」
「おう! つってもまぁ。もうちょっと後で出会う予定だったんだが……」
「どう言うことだ」
「知らなくてもいい、ってことだな!! わはははっ!!!」
男は高らかに笑うと、後ろに下がって行く。
そして壁際まで下がると、こっちを向いたまま壁をペタペタと触った。
「っし……ここか……と言うわけでだ! あとは任せた!! じゃあな!!」
「お、おいっ!?」
男はサッと挨拶をすると
マジで訳のわからん奴だったが、何はともあれ助かったからよしとしよう。
しかし謎ばかりが深まっていくな、わけがわからなすぎてもう、な。
はぁ……もう考えるのやめたい。
だが、今はそれよりも、奴に目をつけられてしまったことの方がまずい。
「 ……取り敢えず、アルキナたちのところに向かうとするか……話はそれからだ」
訳のわからない状況に頭を抱えながらも歩き出す。
とにかく上に上がるために。