「おーい、誰かいるかぁ……」
恐る恐る顔を覗かせた俺は声をかける。
だが薄暗く埃っぽい倉庫の中、俺の声が悲しくこだまするだけだった。
アルキナはそんな俺の横をツカツカと平然に入って行く。
「お、おい。誰かいるかもしれないだろ」
「こんなとこに篭りたがるバカいるかしら?」
「……いねぇな」
確かに言う通りだ。
こんなとこにいたら病気になっちまう。
と言うわけで、俺は彼女の言葉に納得して中に入る。
入り口に比べると、やはり中はかなり埃っぽい。
息を吸うことすら難しいぐらいに。
「ぜ、全然っ……使われ。げほっげほっ……使われて、ねぇのか?」
「みたいね。三百年前に作られたお酒が置いてあるわ」
「お酒って……」
お酒なんて場合じゃねぇだろうに。
なんて思ってると、アイツは俺に向かって酒ビンを投げ渡した。
俺は落とさないように受け取って、そのパッケージに注視する。
『エンベル製』、ヴィクトルシティに
おっちゃんの家に一本だけ置いてあったから、妙に覚えている。
昔はよく飲んでたとかなんとか。
「三百年物、って割には……」
「普通のお酒と変わりないって? そりゃそうよ。ここは
「え、でもここ最下層だろ?」
「そうよ。最下層だから、埃は積もるし、物は劣化する。でも、
「……なるほどな」
……例外は存在するけども、ここはそう言う場所だ。
永久不変、朽ちることはなく、変わることはなく。
どう傷をつけようとも、どう能力を使おうとも。
壁を破壊することは叶わず、逃げることは叶わず。
絶対に閉じられた監獄塔、【デッドマンズジェイル】。
「てか、なんでお前、咳き込まねぇのかよ」
「そりゃ私、体の大部分は改造してるしね」
「みんなしてるだろ」
「私のは特注品よ」
「……違法品の間違いだろ」
改造、余程の金無しでもなければ、大抵の人間はしている。
自分の体の一部分を機械に置き換え強化する。
生活の向上を目指したものだ。
まぁ、俺は金なんてものと縁はなかったからな、普通の人間となんら変わりない。
ちなみに、これはゲームで明かされる情報だが。
こいつ、アルキナの使っている体のうち、四肢は全部違法品だ。
市場に出回っていない、それこそ普通の人間が手にすることはできないような品。
その分、調整が難しいらしい。
「……んー、どこ行ったのかしら」
「お前の武器は……確か、刀だったよな」
「ええ、機械刀よ。非正規品の塊だけど」
こいつの武器、その名を『
ゲーム内でもとあるイベントをこなす事で入手が可能なのだが、これがまたかなり性能が高い。
ただ、そのイベントってのがまたややこしくて……まぁ、この話はまた今度。
とにかく、こいつはそんな武器を探している。
「見つかんないわ」
「もっと注意深く探せよ……俺も手伝ってやるからさ」
「そうよ。手伝いなさいよ」
「それが人に物探してもらう態度なのか?」
「だって命令だもの。人間切っときゃ言うこと聞くわよ?」
「当たり前過ぎて何も言えねぇけどよ、そもそも俺の体は切れないんだが」
とは言ったものの、この探索はなかなか終わりそうにないので、俺も探すのを手伝うことに。
しっかしまぁ、探すとは言ったものの見つかる気がしねぇ。
だって広いし高いし暗いし、あと埃っぽい。
おまけにさっきから変な音がしてるし。
「……変な音?」
「どうしたの?」
「……いや。気のせい、だと思う」
「だといいわね」
多分、気のせいだろう、気のせいであってほしい。
うん、気のせいってことにしといて、探索を始める。
端っこから手をつけても見つからないのは明白なので、適当に近くから手をつけて行く。
だがあまりにも広大な倉庫、物の詰め込まれた箱の中にはやはり変なものしか見つからない。
「何だこれ……うわっ、爆弾じゃん。こっちは……袋詰めされたラムネぇ? ……あ、違うわこれ。薬物じゃん」
「それSCCね。舐めたら星が見えるわよ」
「うわぁ……絶対見えちゃいけないやつじゃん。てか、星って……そもそもなんだよ、SCCって……」
SCCと呼ばれてる薬物の入った袋を一先ずポケットを突っ込む。
俺が使うわけではないが、もしかしたらどっかで使える可能性はあるだろう。
犯罪者の巣窟な訳だし。
「……こっちは、服装か。サイバーだなぁ……」
「サイバーって言うか、タクティカルな感じね」
「まぁな」
この世界の人間は基本的にタクティカルなファッションである。
そっちがなんかサイバーな感じなのはわかるし、タクティカルファッションってかっこいいもんな。
当然ながら近くにいるアルキナも、白のコートを基調としたそんな感じの格好をしている。
ちなみに俺は黒のちょっと丈長パーカーを基調としたボロ服を着ている。
だって着てた格好そのままで収監されたのだから仕方がない。
「……てか、刀ねぇなぁ……ん?」
「見つけた?」
「いや。銃があった」
「そんなもん興味ないわよ。千切れるだけだし」
「……いや、こいつぁ……エルダーMD7だ。しかも〔
「はいはい、そう言うのは後でやって。今は私の刀を見つけなさい」
エルダーMD7の〔Σ〕モデル。
こいつもまたゲームのあるイベントをこなすことで手に入る武器だ。
イベントを終わらせことで、この一つ前のエルダーMD6からMD7の〔
つまり、こいつは一番最初に作られた初期物以外ありえない。
なお性能の方だが、蒼天と同様かなり高い。
作って損はない一品だろう。
だがこの世界は現実、武器一つ手に持っただけでは強くなったりはしない。
護身用である。
「見つからないわ。どっかに納品物をまとめたデータとかないかしら……」
「それなら入り口で切り倒した看守たちから取ってこれるんじゃないか?」
「……なるほど、看守──その手があったわね。ちょっと待ってなさい」
そう言って入り口から出て行くと、少しして看守たちの叫び声が響き渡る。
更にそこから数分後、数枚の紙の束を片手にアルキナは戻ってきた。
「何してたんだ……?」
「壁にくっつけてきたわ。バラバラにしすぎてどれがどれかわかんないから、私でも元に戻すのは難しいわね」
「本当に何やってんだよ……で、それは? データか?」
「ええ。納品物のデータよ。箱に書かれてる番号と、この紙に書かれてる番号、同じのを探せば見つかるわ」
「りょーかい。で……えっと、これか?」
「それね。探すわよ」
彼女の持つ紙を覗き込んで、蒼天の入っているであろう番号を見つける。
そこからしばらく箱に書かれている番号を見ながら奥へと進んで行く。
「箱を見つけたわ」
「お……じゃあそろそろ出れそうか?」
「そうね、少し待ってなさい。取り出す……からっ!」
手に持ったナイフで箱を切り刻むと、ナイフを投げ捨てて大量のものを漁って行く。
そんな切り刻む必要ないんじゃねぇの。
なんて思ってると、思いっきり腕を上げて鞘に収まった一本の刀を取り出す。
青白く光る鞘が辺りを睨んでいるようでなんとも恐ろしい。
「見つけたわ!! 私の愛刀! はぁ……これでもっと切り刻めるわ」
「おっそろしいこと言うなぁ……で、俺を刻むか?」
「表に出てからにするわ。こんなとこで切っても楽しくないもの」
「そうかよ……」
回れ右をして入り口の方に向かって歩き出そうとした。
だがまた、耳元で
さっき聞いた音とほとんど同じ、絶対ヤベェ。
「……アルキナ」
「なによ」
「音、聞こえたな?」
「あーあー。聞こえないわ。聞こえないわね。よし!」
「よくねぇよ!? あからさまに音してたろ!? カサカサカサカサって、ゴキブリ見てぇな音が!!」
「一つ言っとくわッ!! ……私、断面が好きよ。人を切るのが好きよ。当然それは動物も、虫も、生き物ならなんでも切ってやるわよ。でもねッ!! ゴキブリは論外ッ!! ゴキブリは、あのこの世の生命の憎悪を煮詰めたような生物の塊だけはッ!! 無理ッ!!」
「知らねぇよ!? なんでお前そんなとこだけ女の子なんだよ!? Gなんてアイテムがあってたら使ってたぞ!? ……とにかく、選べ。後ろを見るか、走って逃げ出すか!」
「………………う、後ろを。見るわ」
「……わかった。深呼吸しろ……」
後ろでカサカサの音が大きくなるのに対し、アルキナは大きく息を吸って吐き、そして小さく頷いた。
「したな? ……行くぞ」
そう言って俺たちは後ろを見た。
後ろを見て、まず俺は叫びにならない声を上げる。
そしてアルキナはあまりの光景に卒倒してほぼ気絶する。
だってそりゃ、約一、二メートルほどある巨大ゴキブリが、奥の方から数千匹とこちらに向かって迫ってきているから、そうなるよなぁ。
「……あー、ほんと異世界って最高だなァッ!! クソッタレぇぇぇええええええッ!!!」
なんて叫び声をあげて、俺は刀を握ったまま気絶しているアルキナを抱えて走り出した。