デッドマンズジェイルの囚人   作:御魚天国

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騎士は進まず、狼は吠えず、仮面は外さず

【狂姫騎士】が細剣を振るい、それをアルキナが刀で受け流す。

 だがそんな二人の間に爪を振るって牙を立て、割って入るのが【人喰らい】。

 行動一つでいとも容易く建物が崩れてゆく。

 さて、不思議なことに何故か俺は、そんな戦いの中枢にいた。

 

 アルキナに先行ってろ、と言われたものの、行く前に戦いが始まってしまったのだ。

 建物は崩れて道が塞がるし、人は細切れになって飛んでくるし。

 最悪としか言いようがない。

 

「その銀髪、血で汚してやらァッ!!!」

「できるもんならやってみなさいよ!! そこの獣畜生も! 喰えるもんなら喰ってみなさい!!」

「肉肉肉ゥウウウッ!!!」

 

 兎にも角にも、逃げ出すこともできないので、アルキナと戦っている二人に注目する。

 まず【狂姫騎士】、こいつの名前はネリシア・E・ウォーハイムと言う。

 真ん中のミドルネームだが、あれは貴族の証だとかなんとか。

 

 で、姫騎士、と書いてある通りに、彼女はとある王国のお姫様だ。

 自国民を毎夜毎夜殺して回ってたけどな。

 それがバレて処刑されかけるんだけど、皆殺しにした挙句、能力を使って逃亡。

 主人公とはとあるところに潜伏しているところで戦うことになって捕まる、ってわけ。

 まぁ、めちゃくちゃ強い。

 

 まず斬撃による広範囲殲滅攻撃、全体攻撃とも言える。

 そして能力を用いた完全不意打ち、能力は【座標転移】。

 自分の座標を指定した座標で上書きすることで擬似的な転移をする、って能力だ。

 これのせいでこっちが一切先手を取れない。

 が、能力を何度か使わせることでこっちにもチャンスを来るってのが救いだろうか。

 

 で次に【人喰らい】、彼女は名前、と言うかコードネームと言うか。

 ゲーム内では『強化人間式プロトタイプ【FeeZ(フィーゼ)】』なんて呼ばれていた。

 Feeの意味ははっきりしない上に明かされることもない、が、裏設定では研究者がノリでつけたとかなんとか。

 とにかく彼女は生まれも経歴も複雑なのだ。

 

 ちなみに『Z』の意味だが、こっちは明確に存在している。

 と言ってもAからZの番号的な意味合いしか持っていないのだが。

 

 で、肝心の能力なんだが。

 能力の名前を【悪食(あくじき)】、と呼ぶ。

 酷く単純でいながら、彼女と言う人間が持つ『()()()()()()』と言うものがその能力を強めている。

 その能力と言うのが、『口に入れたはあらゆるものを噛み潰すことが可能になる』能力。

 まぁ、纏めると『なんでも喰って消化できる』ってことだ。

 

「そんなに食べたいなら食わせてやるわよ!! レンガを!!」

「まずい!!」

 

 いつのまにか空中で戦闘を繰り広げていた二人を、俺は見上げてその戦いを見つめる。

 アルキナの入れた蹴りによってその足の先端にあった瓦礫を、【人喰らい】ことフィーゼを仰け反らせながら、その口に詰め込む。

 だがフィーゼはたった一回、噛んだだけで全て噛み潰して飲み込むと、とても簡潔に感想を吐き捨てた。

 

 空中で戦いを繰り広げていたフィーゼは、すぐ目の前で落ちて行くアルキナに向けて、宙に浮く瓦礫を蹴って飛びかかる。

 爪を立て引っ掻くのではなく、突き刺すようにして。だがとてつもなく精度の高い一閃が二人の間に割り込んだ。

【狂姫騎士】ことネリシアだ。

 

 ネリシアはその細剣の腹の部分で爪を受け止め弾くと、宙で姿勢を変えてアルキナに向けて蹴りを入れる。

 アルキナはすぐさま刀でその足を裂こうとしたが、その前に彼女の姿が目の前から消える。

 ハッとして後ろを向いた瞬間に、()()()()()伸びてきて、アルキナの顎を蹴り上げる。

 

 だがアルキナはなんと、気合いで下を向くと近くに飛んでいた瓦礫を掴んで下に向かって投げつける。

 しかしネリシアは瓦礫に細剣をピタリとくっつけると、それを流れるようにして逸らし避けてしまった。

 結構デカイのが下に、下に……あ、待って、あれこっち飛んできてね? 来てんね。

 

 俺は急いで走って近くの建物に飛び込んだ。

 たった一瞬のことだったが、俺のいたところには大きな瓦礫が落ちてきていた。

 

「あ、あの野郎……!! 下ぐらい見ろよ……!」

 

 俺は急いで立ち上がると、割れた大きめの窓から軽く顔を出して上を見上げ、三人の様子を見る。

 三人は落ちてきていたが、宙に浮いている瓦礫を蹴ったりしてなんか乱闘状態になっていた。

 多分もう解説はできそうにない。

 と言うか、今まで見えてた範疇でできていたのは奇跡に近い。

 

「クソ……あのイカレ野郎どもめ……一般人巻き込むんじゃねぇよ……!!」

 

 俺は外から響き渡る轟音を聞きながら、建物の奥へと入って行く。

 取り敢えず今はアルキナのことを置いておくとしよう。

 アレには関わらない方が一番だからな。

 

 だがそうなると……どうやって博物館に行くかだ。

 現状、外に出るのは危険というか、死ぬと言うか。

 兎にも角にも出ることは不可能と言っても過言ではない。

 じゃあ、どうするかって言う話になる。

 

「……さて、どうしようか」

「お困りみたいですね。兄貴」

「……は?」

 

 俺を兄貴と呼ぶ、男の声が奥の方が聞こえてきた。

 当然ながら警戒を張るが、奥から出てきたのはタクティカルなロングジャケットを羽織った茶髪の男。

 身長は大体同じぐらいなところを見ると、年齢も同じぐらいだろうか。

 とにかく軽そうな感じがする。

 

 そしてこいつは、見たことのないやつだった。

 つまりゲームに出てきたことのないやつ。

 だから何をするのか、全くわからない。

 ある意味ではアルキナよりももっと厄介である。

 

「……誰だ?」

「ああ、俺ですか? 俺ァ、グランっつー……まぁ、元マフィアすね。実はずっと見てたんすよ。兄貴たちのこと」

「あ、兄貴ィ?」

「ええ、そりゃもう。そう呼ばせてもらいますよ! あのアルキナ・エルナフと対等に話をしてる時点で尊敬できるってもんでさァ」

「……お前の狙いがよくわかんねぇんだけど。てか、なんでここに?」

「いやぁ、戦いが始まっちまったもんで、逃げてきましてねェ……そんなことよりも、協力させてくださいよ。兄貴」

 

 いや、怪し過ぎて何も言えないんだけど。

 罠感半端ねぇ、元マフィアって時点でやばいもん。

 この世界には犯罪組織がいくつか存在するのだが、ヤクザやマフィアが結構いる。

 まぁ大抵は主人公一行によって壊滅させられるんだけど。

 

 ともかく、この最下層周辺にいる元マフィアってことは。

 まず間違いなく、()()メンバーだろう。

 

「お前……ヴィクトル・ファミリーの一員だったな?」

「……流石下から来ただけありますね。なんでわかったんすか?」

「単純に考えて、だろ。何やらかした」

「やらかした……ってよりも、まぁ、ちと、罪を(カシラ)から押し付けられちまったんすよ。一時期世界経済が完全に崩壊したじゃないすか。アレっす」

「え」

 

 世界経済崩壊、これもまぁ色々とめんどくさいイベントの一つだ。

 なんせこのイベントが発生してからありとあらゆる店が使えなくなり、宿で休むことも不可能になる。

 とにかく金を使った行動ができなくなるのだ。

 場合によっては普通に詰むイベント。

 

 まぁ、色々あって結局、ヴィクトル・ファミリーの頭と戦いを繰り広げる。

 めんどくさいイベントの一つなのは間違いない。

 今世では住んでる場所が場所だからあんま関係なかったけどな。

 

「そりゃまぁ……随分となぁ。でも、罪は暴かれたから、無罪ってことになったんじゃねぇのか?」

「それがどうも。上が元々マフィアだからとか、今更出すのも面倒だとかで。取り敢えず入れられてるんすよ」

「あー……ご愁傷様? 事情はわかったけどよ。協力はいらねぇよ。信用に足る人物だと信じることができねぇ」

 

 アルキナはまぁ、あいつは欲求にしたがって動く人間だ。

 この世で一番わかりやすく扱いやすい……やすい、わけではないが。

 信用できる人物ではある。

 

 だがこう言う、何考えてるのかいまいちわからないやつは、本当に厄介だ。

 つっても……狙いは大方わかる。

 俺たちに付いてくることで得られる恩恵が一つある、側から見た場合の話だが。

 

「俺らの目的はどうせわかってんだろ?」

「……脱獄、っすよね」

「可能だと、お前は考えたんだろ?」

「……ええ。少なくとも、俺ァそう考えやした。お二人なら可能だと、ね」

「要するに、お前は付いてきたいと」

「ええ、そう言うことでさァ。どうです、兄貴。一応俺だって使えやすぜ」

 

 そうは言っても、怪しさが拭えきれていない。

 なんだか今の喋り方に慣れてないっぽいし、だが利用はできるだろうか。

 側から見れば俺もあのやばい奴らの一人みたいな扱いを受けているのは、ほぼ確実と言ってもいいはず。

 ならば、ここは。

 

「……わかった。なら力を貸してもらう。グラン、でいいんだよな?」

「っ! はいっ! 俺のこたァ、グランで大丈夫っす! それで、兄貴! どこに行くんすか!」

「アルキナは……まぁ、あとで合流できるだろ。ゴキブリも……なんとかするだろ。取り敢えず博物館に急ぐぞ」

「了解しやした! ちょうどいい裏道があるんで、付いてきてください!」

 

 俺は怪しさ漂うグランとともに、戦っているアルキナを置いて博物館に急ぐ。

 薄暗く先の見えないような裏道を進んで。




グランくんの喋り方が安定しない
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