デッドマンズジェイルの囚人   作:御魚天国

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博物館より、愛を込めて

 薄暗い路地をグランとともに歩いていると、後方で轟音が響く。

 アルキナのような叫び声が聞こえてきたと思ったら、すぐにネリシアの悲鳴が響く。

 かと思ったらキレ散らかしたような声を出したネリシアに、遠吠えをあげるフィーゼ。

 

 見なくともわかる、多分地獄絵図だ。

 もう絶対に、必ず、百パーセント、戻りたくはない。

 例え目の前からゴキブリが迫ってこようと。

 

「すごい声すね……どうなってんすかね。アレ」

「見ない見ない、見たくない。俺は知らないからな」

「……うす」

 

 なんとも言えない返事が、前を案内するグランから聞こえた。

 そりゃそうだろうな、と言いたくなる。

 だってもう考えたくないもん、あんなとこにいるってことを。

 二度目の死が訪れるところだったし。

 

 まぁ、本当に死ぬかどうかもイマイチはっきりしないのだが。

 なんせあのアルキナの能力が俺の体に通らなかったのだ。

 それどころか刀はすり抜け、俺の体には傷一つない。

 服だってそうだ、一片たりとも千切れたりしていない。

 

 だから仮にも、致死量の攻撃を受けたとして、俺が死ぬかどうかははっきりしないのだ。

 もしかしたら生き延びれるかもしれないし、あの時何かしらのことがあっただけで死ぬ可能性は十分ある。

 

 と言ってもだ、今は考えるだけ無駄だろう。

 とにかく今は博物館に向かうだけ。

 博物館で、アレに出会うだけだ。

 

「っと……兄貴、着きましたぜ。ここからちと進めば、博物館の入り口でさァ」

 

 薄暗い路地の出口、そこから俺たちは顔を出して少し離れたところにある博物館を見る。

 博物館の前には人がたくさん集まっていて大騒ぎしていた。

 特別何かあるわけではなく、ゲームでもあんな感じの光景だったあたり、普通の景色らしい。

 それが今の俺にとって好都合なのは間違いない。

 

「後は入るだけだな……」

「兄貴、入場料は持ってるんすか?」

「入場料……あ! そういや必要だったな、入場料……!」

 

 こんな監獄塔の内部にある博物館だが、入場料は当然のように取られる。

 しかも外部で使うお金と全く同じお金で。

 なんでか? 知らん、ゲーム内ではそうだった。

 まぁ、こんな法もクソもないような場所だ、逆にお金があったほうが制御もしやすいんだろう。

 

「じゃあ俺が出しやすよ……あっ。ちょうど一人分しかねぇや……兄貴! 俺は外で待ってますんで、行ってきてください!」

「お、おい。いいのか?」

「あそこに行きゃ、外に行く手立てが得られるすよね? それなら金を出すのも惜しくないすよ」

 

 そう言って俺に十枚の札束、この世界でのお金。

 十ギーツを渡された。

 ギーツと言うのは地球で言うドルになる。

 

 ちなみにセントの方はベッツって呼ばれている。

 つまり大体百円は一ギーツ、一円は一ベッツということだ。

 だから今回の場合大体、千円程度渡されたことになる。

 

 博物館だから一応適正価格ではあるのだろうか。

 行ったことないからイマイチわかんないけど。

 

「つってもなぁ……あ、じゃあ取り敢えず、借り、ってことで」

「借りすか?」

「おう、この借りはなんかして返すよ。博物館に行く目的も、外に出るためじゃなくて、上に行くためだしな」

「そう言うなら……じゃあ、借り、ってことにしてんで。いつか返してくださいよ。兄貴」

 

 わかってるよ、と言うと俺は博物館に向かって走り出す。

 すぐ近くの人混みに紛れては、また別の人混みに紛れるを繰り返す。

 案外人混みに紛れれば目立たないもので、アルキナの同行者とはバレそうにない。

 

「アレを見せろ!!」

「アレを見せねぇ限り、俺たちはここで叫び続けてやる!!」

「アレだ! アレを出せ!!」

 

 しかし周りはアレアレとものすごくうるさい。

 アレ、っていうのは……まぁ、予想はできる。

 なんせ今の俺の目的は周りが騒いでいる『アレ』なのだから。

 アレを手に入れることが目的なのだから。

 

 俺は人ごみを通って避けて、受付に着く。

 受付では看守の格好をした人が、頬杖をついてため息をついていた。

 

「はぁ……大人十ギーツ、子供五ギーツ」

「大人、一人で」

 

 俺は札束を渡すと一枚一枚数えてチケットを投げ渡された。

 危うく飛んで行きそうになったが、なんとかキャッチして、パーカーのポケットに突っ込んだ。

 軽く礼を言ってうるさい奴らを背に博物館の中へと入って行く。

 

「中は……意外と静かだな。外が騒がしかっただけに、耳が……」

 

 少しキーンとなる耳を弄って、思ったよりも静かな博物館を歩いて奥へと進んで行く。

 途中の展示物はほとんどゴミのようなものだ。

 囚人たちが自ら出した変なものばかり置いてあるのだから、当然ちゃ当然なのだが。

 

 だからこそ目的まで一直線、のはずだった。

 道中、一枚の絵に目を奪われるまでは。

 

「……子供と、母親の、絵?」

 

 あまりにもこの場に似つかわしくない一枚の絵。

 子供と母親を描いた絵で、子供はまだ幼く母親の手に抱かれている。

 ただ描き方がどうにも、他から見たような描き方ではない。

 見えない部分を想像で補ったような……顔は確かに、存在していそうなところを見るに自画像だろうか。

 

「……なんか、昔どっかで見たようなぁ……」

 

 前世で、って意味じゃない。

 今世で、って話だ。

 どっかで、どこかで見たことがあるような気がする。

 

「おや、今日は私だけじゃないみたいだね」

 

 絵に見惚れていると、急に隣から声がして、俺はハッとして隣を見る。

 隣には少し軍服のような看守服を着た女性が一人、絵を前にして立っていた。

 この看守もどっかで見たことがあるような気がするんだが、覚えていないってことは気のせいだろう。

 

 周りを見渡せばどうやら他の看守たちもこの博物館に見に来ているようだ。

 どうにかして怪しまれないように離れないと、少しまずいかもしれない。

 だが離れようとする前に、看守は俺の方に視線を向けた。

 

「……君は、この絵を見に来たのかな?」

「い、いえ。ちょっとした気まぐれで」

「……ははっ、嘘は言わなくてもいい。囚人たちの目的は一つしかないからね。奥の、()()、だろう?」

「っ……え、ええ。少しだけでも拝見できれば、と思ったんですが」

「諦めたほうがいい。アレは、常人の手に負えるようなものではない」

 

 そうだろうな、アレは普通の人間が手に入れるようなものではない。

 だが生憎、俺はちょっとだけ普通じゃない。

 前世と言うもう一つの記憶を持つ、世にも珍しい人間なのだから。

 なんて思っていると、看守は視線を絵の方に戻して話し出す。

 

「それよりも、こう言うものを見たほうが有意義だと私は思うけどね」

「……この絵を描いた人のこと、知ってるんですか?」

「いや、知らないね。ある日突然ここに寄贈されてね。誰が描いたのか、誰が寄贈したのか、何もわからないことだらけさ。ただわかるのは、母親が遺した愛情のようなもの、ってことだけかな」

「愛情、ですか」

「絵画には、手紙が一枚挟まれててね。どうやら寄贈した人も気づかなかったようだ」

「中は見たんですか?」

「……いいや、見ていないさ。もし送るはずだった人を見つけたのならば、その人に渡すつもりさ。私の愛する息子へ、この手紙を残す。って書いてあったんだからね」

「……なるほど。それは、確かに」

「さて、そろそろ私は行くと……ん?」

 

 看守は立ち去ろうと背を向けた時、ポケットから着信音のような音が鳴り響く。

 彼女はポケットからスマホのようなものを取り出すと、軽くポンポン押して電話に出た。

 

「なんだ、こっちでかけるなとあれほど……緊急? 【銀断】と【狂姫騎士】と【人喰らい】? ああ、知っている。戦わせておけ。勝手に終わる……なに? そっちじゃない? 【予言屋】が? 叫び出して……? 【マッチ売り】が……? それに……あ、あの、マゾエルフッ……!! わかった、すぐ向かう。私が行くまで……は? 【羽なし】? 【火傷蜥蜴】と【羽なし】は私の管轄じゃないだろうッ!! 第七主任看守に放り投げろッ!! 私は!! 第十主任看守だとッ!! 言えッ!!!」

 

 そう叫ぶと勢いよくブチ切って、スマホのようなものを地面に叩きつけた。

 だが少し深呼吸して落ち着くとスマホのようなものを拾って出て行ってしまった。

 嫌なものが色々聞こえたが、今は気にしないでおこう、それよりも。

 

 てかあの人、主任看守だったの? なるほど、通りで見たことがあったわけだ。

 第十の主任看守、地獄のようなこの最下層周辺を任されている主任看守だ。

 てか、それなら絶対俺はアイツの連れだとバレていたはずだ。

 バレていないほうがおかしい。

 

 見逃された、のだろうか。

 と言っても第十主任看守はゲーム内だと少し抜けたところがあるイメージだった。

 捕まえるべき相手が目の前にいても素通りしてしまうような、そんな感じ。

 ならば、これは幸運と捉えるべきか。

 

「……とにかく、助かった、でいいんだよな?」

 

 主任看守を前にして生きていたことに安堵し、俺は少し早歩きで歩き出す。

 奥にある、アレを目指して。

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