水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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我慢できなかった
反省はしている

とにかく水星の魔女めっちゃいい
みんなも見よう


予期せぬ決闘!?乱入上等!喰らえ必殺のエアリーフィンガー!

 

 

 

 太陽風の超高熱と凶悪な荷電粒子の暴流が水星の横面を撫でる。

 危うい水星の袂を巡る軌道基地「ペビ・コロンボ23」では、恒星表層の状態によっては短期でも丸一日、悪ければ一ヶ月以上もの間防護壁を下ろし閉じ籠り続けなればならない。

 居住者の被るストレスは図り知れず、基地内には慢性的な鬱屈が堆積していた。

 余所者に対する隔意に、それは確実に拍車をかけていた。

 

 赤い非常灯の照らす格納庫で、小さく響く啜り泣き。

 燃えるような赤毛の少女、いや童女であった。格納庫には一機のモビルスーツが直立し、彼女はそのコクピット内のシートで膝を抱えていた。

 脳裏に響くのは、彼女を詰るたくさんの声。母を非難する大人達の怒声。

 怖くて堪らない。悲しくて仕方ない。

 ペビ・コロンボに住まうのは老人ばかり。排他的な彼ら彼女らにとって、逃亡者である童女とその母は厄介事そのものだった。

 

 余所者が

 

 二言目にはそう詰られる。

 四歳の幼い子供に大人が剥き出す悪意は、あまりに鋭すぎた。

 悪意に晒される度、彼女はこのコクピットへ逃げ込んだ。唯一の安住の場所だった。けれど。

 けれど本当はきっと、彼女だって母の腕の中で泣きたかった筈だ。

 彼女の母は多忙だ。自分の為に、自分達の為に、そして────復讐の為に。

 

 僕は途方に暮れる。

 彼女の動機を知っている。あの日、ヴァナディーズのラボで何が行われたのか、彼女が、エルノラが何を失ったのか。

 でも、それでも。

 スレッタが泣いている。泣きじゃくるこの子の為に何かをしたい。復讐の道具としてではなく、一人の友達として。

 スレッタ。傷付いて、悲しそうに泣く君に僕は、何もしてあげられないんだ。

 

 それが、歯痒い。

 

「ほう」

 

 低く、嗄れた声が格納庫に、コクピットに響く。

 センサーは起動していた筈なのに、僕は反応できなかった。

 僕の肩に座る、その老人の存在に。

 

「おじいさん……だぁれ?」

「ワシか? ワシは旅の者、いや流れ者と言った方がよいか。とうに命運を使い果たし、その果てに望外の……愛弟子との決着を天より許されたというに、こうしてのうのうと生き永らえておる大罪人よ」

「???」

 

 スレッタの頭に疑問符が乱れ飛ぶのがわかる。

 無理もなかった。総合データベースに繋がる僕でさえ言ってる意味がわからないのだ。

 襤褸の外套を纒い、顔にはマスク代わりの布を巻く。

 けれど声を集音しフードから覗く瞳の虹彩を検知すれば、この基地内の人物データと照合できる。

 結果はNODATA。老人は紛れもないUNKNOWNだった。

 正体不明の老人の目がスレッタを射抜く。その光の鋭さ、強さを、僕は知らない。過去のどんなデータにも近似のものがないのだ。

 

「子供、何故に泣く」

「……みんなが、ママとわたしはヨソものだって」

「迫害か。恐れに端を発する人間の愚よ。老人共は皆恐れておるのだ。自分達にはない価値観、知識、思想を持つ他者を」

「こわい?」

「そうだ」

「……わたし、みんなと仲よくなりたいよ。ママとエアリアルと、みんな、みーんなで」

「……そうか。おぬしは優しい子だな」

 

 鋭かった声音が、ひどく和らぐ。優しげで、そしてどうしてか眩しそうに老人はスレッタを見ていた。

 

「おぬし、名はなんという」

「スレッタ、スレッタ・マーキュリーだよ」

「よろしい。スレッタよ。おぬしの優しさは尊きもの。だがそれは、それを支え持つ強さなくば容易に傷付き、壊れ、歪んでしまう。最初に抱いた一等の願いすら変わってしまうのだ」

「そんな、やだよ。そんなのやだよ!」

「なればこそ! おぬしは強くならねばならん」

 

 老人が跳んだ。

 僕の肩からコクピットへの搭乗ブリッジへ。着地音も立てず、あたかも無重力下の軽やかさ。

 

「優しさは脆い。硝子細工の如く美しく脆い。だがそれでは願いは成就せん。本当の望みを叶えたくば、おぬしは優しさを強さに変えよ。強き鋼と鍛え上げるのだ」

「やさしさ、つよさ?」

「そうだ。優しきその強さを以て、老人共の凝り固まった排他主義に風穴を穿てぃ!」

「……そんなこと、わたしにできるの?」

「できる!」

 

 老人が巌のような拳を握り、断言する。

 

「迫害を受けてなお、平和を祈り泣くおぬしならば……真に優しいおぬしにならば、必ずや」

 

 拳が開く。それこそ鋼のようだったその手で、老人はそっと柔くスレッタの頭を撫でた。それは慈愛に満ちた手だった。

 

「それは貴様とて同じこと。なあ、スレッタのガンダムよ」

 

 !

 老人は僕を見上げた。真っ直ぐに僕のメインカメラを見据えて、そう言った。

 

「ワシがおぬしを鍛えてやる。屈強なる優しき戦士、真のガンダムファイターに!」

「うん! わたしなる! ガンダムファイターに!」

 

 いやガンダムファイターってなに?

 

「おじいさんもガンダムファイターなの?」

「ふっ、昔の話だ。今はただの流浪の老木よ」

「じゃあ、おじいさんのお名前は?」

「聞くかスレッタよ。我が名を。ならばよかろう! 心して聞けぃ!」

 

 ────流派! 東方不敗の勇名を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘の場は荒野(クレーコート)。四方を取り囲む対パーメット拡散ホログラム防壁が映し出すのは、暗雲と雷光。古典の劇場的エフェクトとサウンド、委員会は演出家気取りに決闘を飾り立て、観衆はごっこ遊びに鼻息を荒くする。

 ミオリネは今、その全てが気に入らない。

 

「くっ」

『鈍いな! えぇおい!?』

 

 下品なパープルピンクの機体がディスプレイから消失する。

 違う。全周囲投影ディスプレイもセンサーも確実に敵を捕捉している。パイロットの、ミオリネが敵を追いきれない。反応できていない。

 

「いくらなんでも重っすぎる! なんなの、こいつの操作系は!?」

 

 悪態を吐いたところで機体は応えなどしない。

 思い通りになどならない。なにもかも。

 

「うるさい! なにもかも、どいつもこいつも私の人生を……勝手に! ぐぁ!?」

 

 突如、内懐に踏み込んだ敵機が、その手にした十文字槍の柄頭で腹部のコクピットを打つ。

 物理的損傷は軽微。しかし内部へ浸透した衝撃はミオリネの骨子を存分に揺さぶった。

 

『身の程を知れ。お前はただのトロフィーなんだよ』

 

 仰臥した頭上からグエル・ジェタークの嘲りが降ってくる。

 望みは叶わない。

 意志は挫かれる。

 ミオリネ・レンブランは、自身の敗北を悟った。

 警告音。システムメッセージが広域回線で注意喚起する。

 決闘場に誰かが入ってきた。

 

 エンジン音。生徒用に配備されたハロ制御モトモービルだった。

 その走行はモビルスーツのコクピットからは実に遅々として見えたが、制限速度を遥かに超えるスピードで、真っ直ぐに。

 迷いなく、荒野の丘を飛んだ。

 

「なっ」

 

 宙を舞う。人が、空を飛んだ。

 さながら無重力下に躍り出るかのように。

 ここは重力発生下。あんな高所から落ちれば人は、確実に。

 死────

 

 それは聞こえた。その声、呼ばわる声が。

 最も近くにあったモビルスーツ、それに搭乗したミオリネ・レンブランにだけ。

 

「ガンダァァアアム!!」

 

 掲げた手、その指が鳴る。乾いた音色が。

 メインカメラが光る。開眼する。

 両マニピュレーターが背面の地面を叩き、機体がアクロバティックな挙動で仰臥から起き上がった。

 

「な、なに!?」

 

 機体は跳躍した。真の主を出迎える為に。

 開いたコクピットハッチに人間が突入する。

 その勢いそのまま、ミオリネはヘルメット越しの頭突きを食らった。

 

「いっ!?」

「エアリアル、返してもらいます!」

 

 スレッタ・マーキュリーは決然と言った。

 ミオリネの咄嗟の反論すら喉奥へ蹴り戻す覇気。

 スレッタがコンソールを操作する。そしてディスプレイには一行。

 

 最終セーフティ解除、了承?

 

「モビルトレースシステム、解放!」

 

 コンソールを叩く。

 次の瞬間、コクピットが()()した。

 ミオリネの座席が後方へと押し下がり、コンソールも操作レバーもスイッチ類も全て収納される。人一人分の狭い待機スペースに押し込められたミオリネを、今ほど確保された円形の空間からスレッタが顧みる。

 

「大人しく見ててください」

 

 そう言うや、スレッタはヘルメットを放り、パイロットスーツを脱ぎ、アンダーウェアすら取っ払い。

 その場で素っ裸になった。

 

「ちょっ、は!? あ、あんたなにしてんのッ!?」

「闘うんです!」

「そうじゃなくて!!」

 

 ミオリネの叫びを無視して、スレッタは肩幅に足を広げ、直立する。そのモーションがスタートのトリガー。

 スレッタの周囲に巡る生成機構が回転を始め、徐々に下りてくる。

 センサーおよび電子回路内蔵ファイティングスーツ。それが文字通り、ファイターとのフィッティングを開始したのだ。

 

「ぐぅっ、ぎぃ……!!」

「!」

 

 強靭、そして俊敏にして剛力のファイターのモーションをフィードバック、なによりその酷使に耐える為に、ファイティングスーツもまたより強固な装着を余儀なくされる。

 全身を締め上げ、圧殺するかの如き重圧。常人なら全身骨折も免れないその通過儀礼を、スレッタは超える。

 

「アァアアアアアアアッッ!」

 

 踏み越えて、ゆく。

 胸に黄、手足に白と青のライン、そして基調に赤を孕んだ極薄、しなやかなスーツ。

 ペアリングアンテナが電荷を放ち、その接続を伝えた。

 

 モビルトレースシステムセットアップ

 バイタルチェック……オールグリーン

 

「闘わないとダメなんです」

「え……?」

「一等大切な願いも、大切な誰かも、闘って守るんです。勝利は、進み続けた先に……」

 

 それはミオリネに宣するように、あるいは自分自身に言い聞かせているように。

 

「掴み取らなきゃいけないんです!」

「……」

 

 それはあまりにも真っ直ぐに、ミオリネの願いに響く言葉だった。

 

「あんなのに、私とエアリアルは負けません!」

『あんなの、だとぉ……!? なにを長々と知らないがぁ! 武器も持たずに何ができる!?』

 

 パープルピンクの機影、グエル専用ディランザが十文字槍と共に突撃してくる。

 

「武器はあります、ここに……」

 

 槍の間合。

 しかし、そのビーム光の矛先に白い機影は既にない。

 

「この、拳がある!」

『な、にぃ!?』

 

 エアリアルは槍の間合を踏み越え、その内側へ。

 先刻グエルがやって見せた間合取りをそのままやり返してみせた。

 圧倒的な速度と瞬発で。

 

「はぁっ!!」

 

 腹部を打つ。

 さらに脇腹、水月、喉笛、正中線に留まらず、人型のあらゆる急所へ。

 打つ。打つ。打つ。

 

「肘打ち! 裏拳! 正拳! でぇりゃぁあああああ!!」

『ぐぉおおああああ!?!?』

 

 敵機は槍を手放し、宙に浮き上がる。

 エアリアル、スレッタの拳打が重力を無視させた。

 一撃、強固な胸部装甲をあえて殴り付け、敵機を打ち飛ばして間合を取る。

 瞬間、エアリアルの外装がパージした。

 それは羽のように舞い散り踊り、スレッタの掲げた右手に止まる。

 変形し、合体する。

 それは掌だった。巨大な手掌をスレッタは構えた。

 

「私のこの手が光って唸る……!」

 

 迸るパーメット光。

 それは掌から溢れ、広まる。

 

「あなたを倒せと輝き叫ぶッ!」

 

 空間を焼き付くすような光輝。拡散粒子の絶叫が、スレッタの咆哮が決闘場に木霊する。

 

「必ぃ殺ッ! エアリィィイイイ────」

 

 進撃。脚力とスラスターによる吶喊。

 輝く手が、指が、確実に敵を捉えていた。その頭部を。

 

「────フィンガァァアアッッ!!」

 

 掴み取る。

 ひび割れ、砕けゆく頭部メインカメラ。

 

「決闘裁判規定第一項! ブレードアンテナを破壊された者はホルダー失格となる!」

 

 黒煙を上げて、頭を失ったグエル専用ディランザが倒れる。

 その様を見下ろしながら、少女は腰に両手を当てて言った。

 

「ミオリネさんと、ミオリネさんのお母さんにちゃんと謝ってくださいね!」

 

 その背をミオリネはほうとして見ていた。

 おどおどして、田舎者臭くて、非常識で。

 そう、非常識に、いろいろなものを粉砕してしまった少女を。

 自分の敗北すら。

 

「……これが今日から、私の婚約者か」

 

 諦めた風に溜め息が漏れる。

 

 ────まあ、悪くないかもね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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