水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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感想欄でもご指摘いただいた
モビルトレースシステムでは、ファイターの着衣は非物質化され、システム内のマテリアルバッファメモリーに蓄積される設定
今更描写しましたのは決して、エラン君を裸にひん剥きたかったとかそんな理由じゃないんだからね!



モビルスーツに相乗りデート!羨望のエラン

 

 

 戦術試験区域の検査・管理は決闘委員会の職務の一つだという。

 モビルスーツ同士の戦闘に使用するとあって設備の破損や摩耗、各種システム異常の発生の頻度は他の学園施設より抜きん出ている。当然、ベネリットグループ傘下の専門メンテナンス業者が常に怠りなく整備しているが、それはそれ。使用者自らのチェックもまた不可欠なのだ。重力発生度合、ホロ出力のディティール、クレーコートの土壌・整地、大気純度、廃熱効率、区域内の電場レベル等々。

 MS運搬用コンテナのコントロールルームで、スレッタはエランの端的な説明を感心しながら聞いていた。理解が十分かはさて置いて。

 

「はえ~、委員会の人って、いろいろ大変なんですね……」

「別に大した業務じゃない。センサーの性能が上がっていけばいずれ必要なくなる仕事だ」

「そう、なんですか」

「うん……着いたよ」

 

 ホロ加工の施されていない剥き出しの荒野にエアリアルが進み出る。

 コクピットでスレッタが操縦桿を握り、エランはシート脇のアシストグリップに掴まっている。

 指定されたルートを、機体はゆっくりと巡回し始めた。

 

 

 

 

 そんな様子を戦術試験区域の丘から見守る視線が二組。装輪された稼働脚部で走行、徒歩、昇降可能な多機能モビルクラフトに乗って、グエルとミオリネが双眼鏡を構えていた。

 

「……モビルスーツ相乗りでデートのつもりかしら」

「知るか」

「そもそも花嫁を差し置いてよりにもよって御三家の敵とデートとか。花嫁を置いて。私を置いて……!」

「だから、知らん」

 

 歯軋りを始めたミオリネを努めて見ないようにしながら、グエルもまた貧乏揺すりが止まらない。

 苛立つ男女を後目に、エアリアルは穏やかな歩みで危なげなく荒野の勾配を越えていく。

 

「……今日は通常の操作系を使うんだね」

「えっ、は、はい! た、闘うとき、以外は、普通に……ダメでした、か?」

「いや……戦うか。君は、戦闘することに忌避感はないの。怖くは、ないの」

「怖いです」

 

 エランの試すような問いに、スレッタは迷いなく答えた。

 

「……そうは見えないけど」

「怖いですよ。勿論……怖がらなくちゃいけないんです。闘いの場で、恐怖を持たないのは理性のない獣と一緒です。怖さを忘れちゃダメなんです。恐怖を御し、静止した心の水面の下に、拳に込める気迫の礎にする。我らは戦に狂う餓狼ではなく、闘志を燃やす武闘家でなければならん……」

「それも、君の言う師匠って人の言葉?」

「はい!」

 

 晴れやかにスレッタは頷いた。

 また。エランはその笑顔に相対する。少年には到底、理解不能なその表情に。

 

「辛くはなかったの……戦うことを強制されて」

「きょ、強制なんかじゃ! 師匠は私のこと小さい頃から、想ってくれてました。ずっと!」

「モビルスーツでの戦闘訓練をさせる。それが子供に対する思い遣り……? 僕にはわからない。君の強さは尋常じゃない。なら、訓練だって生半可なものではなかった筈だ。特殊な機体操作も……身体に相当な()()()掛かるみたいだし」

「……鍛錬は、厳しかったです。エアリアルとモビルトレっ……機体操作を! 習得するのも、何年も掛かりました。痛かったし、怖かった。でも、私にはエアリアルがいてくれた。風雲再起、姉弟子も。なにより師匠も! ……お母さん、も……」

 

 操縦桿を握る手が強張る。スレッタは一瞬、声を詰まらせた。

 しかし、もう一瞬後にはエランを見上げる。真っ直ぐに、迷いなく。

 

「大切な人達、家族に囲まれて、私は果報者です」

「…………」

「あ、果報者っていうのは、幸せな人って意味で。師匠がよく言ってくれて」

「お願いがあるんだけど」

 

 言い終わるを待たず、エランはスレッタに迫る。

 スレッタは目を瞬いてエランの無表情を見上げた。

 これ以上は聞きたくない。それは声無き少年の抵抗だった。

 

「エアリアルに一人で乗ってみたいんだ」

 

 

 

 

 

 

「パーメットスコア“2”」

 

 エランの音声コマンドと思考操作に機体は応じた。

 パーメットを通じた機体との有機的シンクロ。マニピュレーターを始めとする機体各部が、エランの意識や動作に追随する。

 

「やはり、これはGUNDフォーマット……」

 

 見慣れた光景だった。操縦桿を握ることなく機体制御を可能にするシステムは。

 しかし、違う。明らかに違う。自身が過去、幾度も幾度も苛まれてきた苦痛。データストームによる神経へ直に侵蝕する不快感。皮膚下を走る赤いパーメット反応。

 それがない。なにも起きない。確かに自身と機体は接続された筈なのに。

 

「スレッタ・マーキュリー……君は……僕とは」

 

 機体の身体拡張制御システムの完成度。生命倫理問題をクリアした、高性能でクリーンなガンダム。

 あの少女がただ微温湯に浸っていた……などと、エランとてそこまで愚かな思考には至らない。彼女が血の滲む努力でその強靭さを手に入れたこと、疑いはしない。容易な、安楽な道では決してなかったのだろう。

 けれど。けれど。

 

「君には、あったんだ……愛してくれる人。暖かな、絆が……」

 

 晴れやかで、幸福そうなあの笑顔がそれを証明していた。

 自分には無いものを。自分には齎されなかった世界を。

 同類などいなかった。少年は確信と失望を得る。

 仮称エラン・ケレスは、やはりこの宇宙で孤独(ひとり)だったのだ。

 耐え難い不快感だった。パーメット流入値は正常なのに。こんなにも神経が逆撫でされる。頭蓋の内側を掻き乱される。

 自己嫌悪が、エランを襲った。身勝手な羨望と嫉妬と絶望、醜いもので満ちていく自分が。嫌で嫌で。

 

「……?」

 

 その時、エランは気付く。コンソール上に浮かぶ投影(ホロ)UIに見慣れない文言が表示されていた。

 

 最終セーフティ解除、了承?

 

 セーフティ。GUNDフォーマットに接続したことでシステムがアンロックされたのだ。

 エランは、喉奥から吹き出そうになる心の汚穢を飲み込んだ。自身に課された仕事に没頭する。他の全てを忘れる為に。

 不明機体エアリアルの調査。

 手ぶらで帰ることをペイル社の女怪共は許さないだろう。エランの消費期限を決めるのも奴らだ。少しでも永らえる。ほんの僅かでも。

 ただそれだけの為に。今はただ、それだけを考えよう。

 

「……解放」

 

 エランはコンソールを叩いた。

 その瞬間、コクピットが反転した。

 

「な……!?」

 

 そしてさらに次の瞬間、エランは自分が全裸であることに気が付いた。

 球形に広がった空間に佇んでいる。戸惑い、蹈鞴を踏んだその動作をシステムは合図と捉えた。

 少年の頭上でファイティングスーツ生成装置が回転を始める。

 それは一挙に、エランに覆い被さった。

 

「ぐぁッ!?」

 

 まさしく、殺人的な重圧に少年の細い身体が晒される。

 鍛え上げたファイター達ですら油断すればただでは済まないコーティング工程。

 エランは堪らずその場に膝を着いた。四つん這いになり、肩から圧しかかる軟質積層材に沈んでいく。

 

「うあッ、あああぁあぁぁあぁあああッ……!!」

 

 

 

 異変は地上のスレッタからも明らかだった。

 エアリアルが地に伏せる。苦しげに藻掻き、見えない重圧によって潰されていく。

 

「エランさん!?」

「スレッタ!」

「どうなってる!?」

 

 地上を疾走して、モビルクラフトに騎乗したグエルとミオリネが叫んだ。

 

「まさか、モビルトレースシステムを……!?」

「それって、あの無茶苦茶なスーツ!?」

「止めます!」

「なっ、バカ! 生身で行く気か!?」

 

 グエルの制止も聞かずスレッタは駆け出す。

 モビルスーツの巨体による出力は身動ぎ一つで地面を抉る。パニックになって振り回されるマニピュレーターを掻い潜り、スレッタはコクピットハッチに取り付いた。

 強制解錠。レバーでハッチを開放する。

 

「エランさん!」

「スレッタ……マーキュリー……ぐぅ!?」

「動かないで! 下手に動くと体がバラバラになります! 今強制停止、ボタンを……!」

 

 揺れ動く機体。操作盤に手を伸ばし、カバーを外してその奥のボタンを押し込む。

 

「が、あぁ!?」

「うわっ!?」

 

 その時、エランの苦悶と共に機体が横転した。

 振り回された勢いでスレッタが空中に投げ出される。

 そのままスレッタは地表に肩口から墜落した。

 

「うっ、ぐ……!?」

 

 強制停止を受け付けたことで、エアリアルはその場で静止した。

 

「スレッタ!!」

「おい! 大丈夫か!?」

「私は、大丈夫……痛つっ! それよりエランさんを」

 

 開け放たれたコクピットの中では、元のパイロットスーツ姿のエランが気を失い倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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