水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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ペイル寮からの挑戦状!その勝負、このグエル・ジェタークが引き受けた!

 

 

 ペイル寮から地球寮所属スレッタ・マーキュリー宛にその文書が届いたのは戦術試験区画でのトラブルから明けて午後のこと。

 文面は無味乾燥にして端的。保有モビルスーツに対する安全管理上の不備と、その管理不行き届きによって自社の筆頭パイロットが負傷したことを抗議し、またそれによる損害額の概算を報知すると共にその賠償を請求するといった。

 実に営利主義の、ビジネスライクで丁重な。

 

「難癖じゃない!」

 

 ミオリネが吠えた。

 

「借りたモビルスーツの操縦で下手こいて勝手に怪我しておいて損害賠償請求ってどんだけ面の皮厚いのよ!? 筆頭パイロットが聞いて呆れるわ!」

「ま、まあまあミオリネさん」

「っていうかあんたこそなんで怒らないわけ!? 重傷負わされたのはむしろあんたじゃない!」

 

 烈火のような怒りを吹いてミオリネがスレッタを振り返った。

 スレッタの右肩には現在、装具が施され、腕にもまた稼働を抑制する為の固定具が巡っている。

 暴れるモビルスーツのコクピットから投げ出され、肩口から地面へと激突した衝撃は打撲傷として骨に達していた。

 

「で、でも、折れてないので、全然、大した傷じゃ……」

「世間一般では十分大怪我って呼ぶのよバカ!」

「ひぃごめんなさい……!」

「え、モビルスーツから落ちたんだよな?」

「ま、まあ直立はしてなかったらしいし」

「スレッタさんでも怪我とかするんだね。意外」

『確かに』

 

 ニカの正直すぎる感想を注意する者は誰もいなかった。

 

「だいったいよく知りもしない男にモビルスーツ貸し与えるあんたもあんたよ! 大事な家族なんじゃないの!? せめて私に一本相談の連絡寄越すくらいしなさい! あぁそれが無かったことが一番腹が立つ!」

「ミ、ミオリネさんだって一度、私に無断でエアリアルに乗ってっちゃったじゃないですか」

「へぇなに!? 今その話持ち出すんだ!? じゃあ私も言わせてもらうけどねぇ!」

「ひぇぇええすみませんごめんなさいっ!」

「なんか面倒臭い彼女みたいなこと言ってる……」

「一言文句言うと百倍になって返って来るあれな」

「うはぁ、いつも以上にめっちゃくちゃ怒ってるね~ミオリネさん」

「スレッタさんのことになると抑えが利かなくなっちゃうんですねぇ。まさしく愛! ですね!」

「わりといつも通りな気もするけど」

 

 なおも繰り広げられようとする痴話喧嘩に、待ったを掛けたのはグエルだった。

 

「おい、文書の続きを読んでみろ」

「はあ!? なに……なにこれ。どういうこと」

 

 追記と銘打たれ、ペイル社の抗議文書には続きがあった。

 ────なお、概算金額の支払いが困難である場合は、アスティカシア高等専門学校の規定に則った“決闘”を当社モビルスーツおよび筆頭パイロットと執り行い、それを賠償に代えること。

 つまり。

 

「……まさか今回のこれもスレッタとエランを決闘させる為に?」

「さあな。だがペイル社が新型モビルスーツの情報を欲しがっていることは確かだ。でなけりゃ他人の機体を一人で操縦させろ、なんて言い出す奴じゃない」

「そんな……」

 

 スレッタは目を翳らせ俯いた。一飯の恩義に始まり、なにかと助け船を出してくれたエランにスレッタは信を置いていた。それが腹心あってのものだったとしても、スレッタがエランに感謝を抱くこととは関わりない。

 ただ、スレッタはエランという少年に影を見た。営利企業の損得勘定ではなく、生身の感情の揺らぎを。

 それは怒りにも似た気配だった。自分を見詰める少年の目に映った烈しい色。

 羨望と失望。

 

『君は……僕とは違う』

 

 そして慟哭。

 エアリアルの中から搬送される時、駆け寄ったスレッタにエランは言った。それはまるで、血を吐くような声だった。

 

「……私、闘いま」

「却下」

「ミオリネさん!?」

「論外だな」

「グ、グエル先輩まで」

「その腕であんなスーツ着込んで肉弾戦できると思うわけ?」

「通常の操作系で妥協するにしても、操縦桿を握れるかさえ怪しいだろうが」

「わ、私の兄弟子はやってのけたそうです! なんでも傷めた肩の関節を外して敵に隙を作り片腕で返り討ちに……!」

「私は人間の話をしてるんだけど」

「化物の戦歴は前例とは呼ばないんだよ」

「うぅ……」

「ミオリネさんとグエル先輩の正論が熱い」

「スレッタさん、なんだか二人のお子さんみたいですね~」

「さながら腕白な子供の育児に悪戦苦闘する夫婦だな」

「虫唾が走るわ、その表現」

「奇遇だな」

 

 アリヤに向けられた両者の顔はそれはそれは苦み走っていた。

 

「で、でも、賠償金、こんな額、払えないです」

「金額を確認したマルタンが気絶しちゃうくらいだからね」

「まだ起きねぇの?」

「地球寮の年間予算十年分だからな。無理もない……」

「相手もそれを見越してこんな回りくどい文書寄越したんでしょ。やり口が陰湿なのよ。胸糞悪い!」

「でも、じゃあどうすればいいんでしょうか……」

 

 リリッケの途方に暮れたような声に、決然とグエルが応えた。

 

「俺がやる」

 

 

 

 

 

 ペイル寮からの返答は実に呆気ないものだった。

 了承である。

 グエル・ジェタークからの宣戦布告を受諾し、かつその決闘の条件「スレッタ・マーキュリーに対する賠償請求を取り止め、エラン・ケレスが同氏に接触することを禁ずる」を呑む、と。

 地球寮の共用リビングでモニターを前に面々が居並ぶ。

 スレッタの表情は硬い。本来は自分自身が担うべき闘いを他者に委ねてしまっている。それが歯痒いのだ。

 そんなスレッタの左肩にぶつかる。ソファーの隣に腰掛けたミオリネが半身をぶつけてスレッタを見上げた。

 

「勝手な男。誰も頼んでないっての。まあ? 御三家同士潰し合ってくれるならこっちとしては有り難いんだけど」

「……」

「はあ……グエルが勝つ方が面倒は少ないし、応援くらいはしていいんじゃない」

「! はい」

「素直じゃねぇなー」

「ねぇ、ツンデレだね。ツンデレ」

「それはグエル先輩もですよー。うーんいいなぁ。一人の女の子を取り合って決闘なんて」

「それどころじゃないよぉ! ここでグエル先輩に勝ってもらわないと、賠償金がっ、十年分がぁっ、また近寄ってくるよぉ……!」

「祈るしかねぇか。でも勝率は先輩優勢だぜ。1.4倍、頑張ってくれよー! あれ? お前は」

「エランに賭けた。来い! 3倍!」

「どぼじでぞんな゛ごどずるの゛ぉぉおぉおおおお!?」

「ま、まあまあマルタン。まだ勝敗がどうなるかわからないから、ね?」

「オジェロが当たるわけないんだもんもぉぉおおおおおおお!!」

「泣くほど!? 俺の運って泣くほど酷い!?」

 

 

 

 

 

 

 暗緑色(ジェードグリーン)の機体が格納庫をスラスター推進で滑走していく。

 ジェターク・ヘビー・マシーナリーの特色である重厚な躯体、そして堅牢な大袖(ショルダーアーマー)が合わさればそれは荒武者の威容。今、ラウダ専用に調整されたそのディランザを駆っているのは、グエルであった。

 

『兄さん! 父さんの許しもなしに決闘は!』

「勝てば文句はない筈だ」

『でも……!』

「すまない、ラウダ」

 

 グエルの声は場違いに穏やかだった。

 逼迫したラウダが一瞬、言葉を失うほど。

 

「万が一のことがあればその時は……ジェターク寮を頼む」

『兄さん……』

 

 

 

 第11戦術試験区域にて、二機のモビルスーツが相対する。

 片やグエル搭乗の専用チューン済ディランザ。

 そして黒い機影。ディランザとは対照的な細身のシルエット、両肩には大型スラスターを装着(マウント)している。

 ペイル・テクノロジーズ新鋭機、ファラクト。

 口上を述べ、互いに(かんばせ)を向かう。空間ホログラムが空を、地表を這い巡り、剥き出しの宇宙空間の空、そして礫岩の堆積した大地が広がる。

 

 ────フィックス・リリース

 

 シャディクが開戦を謳う。

 瞬発したのはディランザだった。

 

 

 

 

 

 ミオリネが素朴な疑問を呟いた。

 

「銃を持ってる相手に斧で戦うって……普通に頭おかしくない?」

「?」

「いや意味わかんないみたいな顔するあんたが私は意味わかんない」

「……不利、ではあります。でも闘い様はあると思います」

 

 お惚けはさて置いて、スレッタは神妙に頷き、思考する。

 画面上に現れたディランザとファラクトはどこまでも対照的な、正反対のコンセプトをした機体だ。

 

「ペイル社のモビルスーツは機動性が売りなんだよ!? ジェターク社はそりゃ装甲は厚いだろうけどビームライフル相手じゃ……えっ、どうしようもないよ!? どうしよう!?」

「スラスター出力はともかく、ディランザはまず肉薄できなきゃ意味がない」

 

 マルタンが頭を抱え、ニカは冷徹に断ずる。

 

「対飛び道具戦。それは武闘家にとって永遠の課題だ、って師匠が言ってました」

「じゃあ、あんたならどうすんの?」

「近付いて殴ります」

「だからどうやって」

「えっと……相手の目を撹乱して近付く」

 

 スレッタが人差し指を折る。

 ディランザがその大斧で角礫岩の大地を打つ。するとその地表に堆積した微小な砂が一挙に舞い上がり、空間を満たした。即席の煙幕である。

 

「銃を使うなら射線はおおむね直進する。ならその先に必ず敵はいます。普通の弾丸ならそっくりそのまま打ち返せば敵に当てられます」

「現実の話をして」

「げ、現実の話ですよ?」

「…………他には」

「うーん……なにかを投擲するか。苦無や手裏剣、いっそ投石でもいい。もしくは鉤縄でも……ああ一反くらいの布があれば、捕縛したり突いたり首を千切ったりできます。これはですね、布槍術って言って。師匠が得意な技でですね!」

「他ァ!」

「えー」

 

 肩で息をするミオリネに、やや不満気にスレッタは呻いた。

 スレッタは下唇に指を当てて天井を仰ぐ。

 

「そうなるとやっぱり、相手が反応する“間”を与えず瞬機に踏み込む。私ならそうします……私、不器っちょなので……工夫がないって師匠によく笑われました……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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