水星武闘伝Aガンダム 作:足洗
フロント外宙域の闇間に奔る閃光。
ファラクトの主武装、そのロングバレルから正真正銘のビームが発射された。
ガンビットが放射する電磁ビームの厚い囲いを脱した騎兵の、その機先へ向けて。
しかし、当たらない。偏差射撃の難度を考慮に入れても、射線は確実にエアリアルの上体を捉えていた。
『躱した……!?』
明らかに弾道を見越した上での加速と旋回。
エランの驚愕の気息が、開いたままの通信に乗った。
「風雲再起の剛脚、舐めないでください!」
ガンビット、およびその光線群の障壁を乗り越え、無防備な敵機が目前にある。
距離にして風雲再起の半歩に満たず。
それはもはや指呼の間。
スレッタはエアリアルの後背にマウントされたビームサーベルを抜き打つ。
「これで……!」
片手ではビーム手綱を手繰り、突撃姿勢に入ろうとしたその時。
それを突如、制される。
「うへぁ!?」
つんのめったところをどうにか身を起こして、スレッタは自身の眼下を見やった。
モビルスーツ越しの黒いボディ。コクピット内部でも、モビルトレースによる高高精細な映像的投影と疑似触感で今や実体そのものの様相で馬体が少女の股下にある。
姉弟子はどうしてかスレッタの猪突を諌めた。
『壁がダメなら、これは……』
「!」
突如、ファラクトのブースターが変形する。右可変翼が掌のように開き、その下部、ガンビットを格納するジョイントが露出している……筈だった。
そこには確かに予備機と思しい同型の小型機が未だ複数台待機している。しかしそれだけではなかった。
明らかに後付け、増設されたのだろう筒状の機構。それこそまるで、砲身のような。
瞬間、それは火を噴いた。発砲。ビームではなく、実体の弾丸を。
「?」
しかし、それは遅い。ひどく遅い。弾速はビームライフルの一射とは比較にならない。
スレッタの動体視力を以てすれば見てから躱すほどの余暇がある。事実スレッタはその為に身を捩り。
「うわっ!?」
風雲再起がその場を跳び退いた。当然騎乗するスレッタには為す術もなく、その挙動に共々連れ去られる。
「二代目?」
スレッタの眼下で弾丸が爆散する。
それはしかし火の手を伴なわなかった。グレネードのような炸薬と化学剤による火力と、そしてなにより破裂して敵に損壊を与えるだけの破壊力を担う鉄片、散弾が、あまりにもひ弱に過ぎた。周囲にはただ無数に“塵”が振り撒かれる。
その効果範囲から既にして逃れていた一機と一騎は、塵埃に触れこそしなかったが、いや触れたところで────スレッタが内心にそう思った瞬間だった。
ファラクトのガンビットが一斉に電磁ビームを発射する。
『喰らえ、スレッタ・マーキュリー!!』
先の焼き直し。
電磁ビームの斉射、制圧力はなおも風雲再起の脚力を上回ることはない。
行き過ぎるばかりの赤い光線。それらが“塵に”触れた。
赤い光が、屈曲する。
「!?」
無数の光線が曲がり、跳ね回り、指向性の欠片もなく無秩序に拡散する。
空間内のあらゆるものを巻き添えにして。
エアリアルを、モビルホースを、そして自機たるファラクトすらも。
「しまっ────」
『ッッッ!!』
裂帛の気息。嘶き。
尾部スラスターの強噴射と馬体のうねりで、モビルホースがその場を前転する。エアリアルを振り落とす。
そうして宙返りからの後ろ蹴りで、風雲再起はスレッタを蹴り飛ばした。
ぶつかり合ったビリヤードのボールのように両機が弾け、暗い宇宙に投げ出される。
しかし甲斐あって、少女らは光線の津波を脱した。
「なっ」
「今のなんだ!? ビームが曲がったぞ!?」
後部座席から乗り出したチュチュが叫ぶ。
「スレッタは!?」
「なんとか逃げられたぜ。いや逃げたってか馬に吹っ飛ばされたんだけどよ」
「でもこれじゃ離れ離れだよ!? エアリアル単体じゃろくに飛べないんだよぉ!?」
「あ゛ー、んじゃ今のをやられたらもうアウトだな」
「冷静に言わないでよチュチュ!!」
「……わかった。あの粉体、小さいけど金属片だ。それも鏡面状に磨き抜かれてる」
飛行艇の録画映像を出力し、同時に画像処理で拡大しながらニカは呟く。
それらは謂わば小さな鏡だった。
「光線を鏡面同士で乱反射させて拡散する。物理的な破壊力を持たない電磁ビームならではの工夫だね」
「ニカも冷静に分析してないでさぁ!!」
「スタン効果の空間飽和攻撃、えげつねぇ……」
「いや、でもおかしくね? 向こうだってビーム光の乱反射の中に巻き込まれてた筈だろ……なのになんで平気で動いてんだ」
オジェロの素朴な疑問にまるで応えるかのように。
戦域の状況に変化。敵が動いている。ファラクトの機動性はやはり健在であった。
「……機体の表面に固有波長だけを反射するコーティングがされてるのかも。モビルスーツの電装を物理装甲の上から浸蝕するような光だしね。対抗策を開発元が持ってない筈がない」
「んだよそれ! 卑怯じゃねぇか!」
「こっちもサブフライトとサブパイロット付けてるし、大甘に言っても
ミオリネは冷たく言い捨てる。
そうして暗闇に投げ出されたエアリアルを、スレッタを見詰めた。祈るように。
ロングバレルから今度こそ熱光を伴なう破壊的ビームを、無防備に漂うエアリアルへ撃ち込んで来る。
『馬が戻る前に仕留める……!』
「!」
一撃、二撃、スレッタは手にしたビームサーベルでそれらを打ち払った。
ファラクトの急速降下。接近しながらの連射に次ぐ連射。
もう三秒と掛からずモビルホースは戻ってくる。しかも行き掛けにガンビットを踏み砕き、丹念に破壊しながらという凶悪さ。
しかしそれはむしろエランにとっては僥倖の極み。電磁ビームの空間飽和は彼女の進路を確かに阻んでいた。
ファラクトが接近する。エアリアルの目前に迫る。
されど白兵戦はスレッタの土俵。
エランはおろか、突出した近接戦闘能力を有したグエルすら。現在学園に所属する人間のパイロット達の中に格闘戦でスレッタに勝う者はいない。いないのだ。
ゆえに、そんなところにエランは踏み込まない。遠距離からの嬲り殺し。これこそが理想である。卑怯であろうが卑劣であろうが、戦場において勝利を掴む為の冷徹な合理性は絶対の正義。しかし。
(ガンビットを展開するだけの時間はない)
馬の嘶きが今まさに、すぐそこまで、迫って来ている。
サーベルの間合に達する直前、ファラクトが急制動する。
同時に左可変翼がエアリアルに差し向けられ、その下から顔を出す。
またしても砲口。
パーメットとビーム光が迸る。確実に熱量と破壊力を伴なうそれ。
細かに広がる。モビルスーツ一機を包み込んで余りある拡散率。攻撃範囲。撃発したエネルギーが放射状に散布される。
ビームショットガン。
『散弾なら!?』
「はぁあッ……!」
エアリアルは動いていた。ファラクト同様、彼我が間合へ達するその前に。
後背からもう一振り。二本目のビームサーベルを抜き、柄頭を合わせる。刀身を左右に差し向け、身を捻る。
捻り、捩り、回転。回転回転回転回転回転回転回転、高速回転。
「エアロスラッシュ! タイフゥゥーーーン!!」
『なんっ!?』
拡散したビーム弾幕を、小型台風と化したエアリアルは打ち飛ばし、悉く吹き払った。
ファラクトが腕部格納ギミックからサーベルを射出し、前面に構える。エランの咄嗟の防御姿勢。
裁断機の様相で襲い掛かったエアリアルの光刃をファラクトは辛くも受け、しかし止めること叶わず弾かれる。
「浅い……!?」
『ぐあっ……!』
スラスターの前面噴射で対手を退かせつつ、ファラクトもまた後退。
十分な推進力を持たないエアリアルも追随できず、ファラクトを取り逃がした。
「おかえり、二代目!」
再びの騎乗。エアリアル、モビルホースは合身し、戦闘空間に再臨する。
風雲再起は馬体を荒く揺すった。その肌身からは明確に怒りが発している。
「に、二代目……? 怒って、る……うひゃうっ、ご、ごめん! ごめんなさい! 油断した私が悪かったです!! すみません!!」
ロデオのように激しく暴れ回る風雲再起の意思表示は言葉などなくとも明白。スレッタは散々に責められ詰られ、叱られた。
「うぅ、はい……はい……私は未熟者です……帰ったら腕立て千回やります……スクワットも千回……えっ」
萎れるスレッタに風雲再起は言った。
「……“アレ”をやるんだね。うん、確かに、あの結界を破るには“アレ”しかない」
ゴッドガンダムがモビルホースに騎乗するとしれっとコクピット内でもドモンが風雲再起に騎乗してる。それはいい(麻痺)
その後宇宙空間でデビルガンダムに捕まったモビルホースに風雲再起が乗ってる。これがわからない。