水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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パーティーへご招待!?陰謀渦巻くインキュベーション

 

 

 

 端末のディスプレイを睨みながら、ミオリネは重く低く唸った。

 そこに表示された情報量とそのあまりの危険性を理解して。

 

「……GUNDフォーマット」

 

 ベネリットグループ御三家が一柱、ペイル・テクノロジーズの秘密。全企業監査組織カテドラルの布いた協定を嘲笑うかのような数々の所業。

 ガンダム。

 それが禁忌とされる理由を目の当たりにしている。

 GUND技術が内包する生命倫理問題に端を発した、()()()()()ヴァナディース事変。21年も前の企業戦争。

 ミオリネにとってそれは現代史の教科書を捲るに等しい。実感など欠片もない。遠い別の時代の記録だ。

 しかし、今まさに、その過去が自分達の周りに蔓延し始めている。いや、初めからそれらは取り巻いていたのだ。自分が知りもせず、理解もせずにいただけで。

 無知。ミオリネ・レンブランは、この世界に対して紛れもなく無知無学の徒だった。少なくとも、己が無知を知らず、知ろうともしなかった恥知らずだ。

 歯噛みして、その事実を受け入れる。受け入れなければならない。

 ミオリネ・レンブランがスレッタ・マーキュリーを守るには、まずそこから始める。

 

「……」

 

 ペイル社への襲撃と企業機密の強奪……救出が事実として、ペイル社がエアリアルに、そしてスレッタ・マーキュリーに何らかの工作を働く可能性は十分にある。アスティカシア高等専門学校における絶対規則────決闘、その渦中の、常勝のモビルスーツ・エアリアルは一度ならずガンダムの疑いを掛けられ審問にも晒された。悪名をこちらに着せてしまえば、保身と共にシン・セーを掣肘し、監査の名の下にエアリアルの身柄を拘束することもできる。

 違法な技術を用いた兵器。加えて、足枷であった生命倫理問題を明らかにクリアした機体。新技術としてエアリアルが魅力的だろうことは、技術屋ではないミオリネにも何とはなしに理解はできる。

 なにより。

 

「こんの人外格闘バカ親父。あんたの所為で結局スレッタに火の粉が行ってんでしょうが……!」

 

 確かに、エランを救出したという事実はスレッタを安堵させるだろう。

 ここ一週間、少年は一度も姿を見せていない。学園に登校したという記録すらない。

 スレッタは毎日少年の帰還を心待ちにしていた。気に入らないが、極めて気に入らないが。

 人間離れした強さを持っていても、その心はとても未成熟だった。幼稚と言ってもいい。

 スレッタの師を名乗るこの男の真意が、ミオリネには見えていた。

 

 ────花嫁たる者の力量

 

「弟子が心配で仕方ないって? なら自分が来い! 人のこと偉そうに試してんじゃないわよ!! おのれは舅かっ!?」

 

 画面に口角泡を飛ばす勢いで叫ぶ。聞こえはしまいが、少女は叫ばずにおられない。

 

「勝手に伝わってるつもりになってんじゃないわよ! ちゃんと面と向かって……」

 

 言葉を交わして。

 

「……」

 

 とても嫌な気分だった。

 声高らかに自己嫌悪している。それが今、自分の直近、目の前に聳えている一枚の壁だからだ。大きくて分厚くて、古びた壁。

 ペイル社の謀略が如何なる方法で為されるにせよ、ミオリネがスレッタを、スレッタのエアリアルを守る術は極めて少ない。ミオリネ・レンブランはお飾りの景品、総裁の娘であり次期総裁に用意された花嫁だ。それ以外の価値はない。影響力も権力も、武力も……あ、いや武力はあるか。飛びっきりイカれたのが。

 しかし武力とは正当な手続きを踏んだ上で、背景に据えてこそ意味がある。商談、政争、取引、最大の何か得て最小の何かを支払うという約束事の為の前提。

 ミオリネという一個人がスレッタという武力を笠に着てもそれは単なる暴力を振るう犯罪者、テロリストだ。

 法に則った地位。

 殺戮ではなく、喧嘩をするなら同じ土俵に立つ必要がある。

 敵は大企業。法と協定、社会的承認と信用で武装して、合法的に自分達を袋叩きにする肚だ。

 ならば自分達も武装しよう。順法の鎧を身に着けよう。

 その為には。

 

「あぁもうッ……!」

 

 一番嫌なことしなければいけない。この世で最も嫌いな者と向き合わなくては。

 面と向かって……言葉を交わさないと。

 電子音、圧縮空気の抜ける風切り、私室の扉が開き、断りもなく勢いよくそいつは入り込んできて間の抜けた声を上げた。

 

「ミ、ミ、ミオリネさん! なんか今、この、これ、メッセージが、し、ししし招待状が!? ぶ、舞踏会ですか!? 私お姫様です!?」

「うるさいッ!! 言われなくてもわかってるわよ!!」

「ひぃッ!? しゅみませんんん!?」

 

 なるほど、ここか。

 ミオリネは得心と苛立ちを同時に抱いて、ディスプレイの電源を落とした。

 

 

 

 

 

 

 巨大なドーム状の会場、過剰なまでの敷地面積に対して人の入りは実に控えめと言えた。

 どこを見ても身形の良い紳士然、淑女然とした男女。企業の重役とその御付、新進気鋭の若手社長、そんな顔触れが外面よく社交に勤しんでいる。

 

「ほわぁ」

 

 気の抜けた感嘆符は、スレッタのそればかりではない。同道したニカやマルタンにしても、平素に身を置く日常生活とはかけ離れた世界に驚きを露わにした。

 ベネリットグループインキュベーションパーティー。

 MS研究開発の大手、御三家もまた出資者に名を連ねるとあって、会場にはディランザ、ハインドリー、デミ、ザウォートと、展示用のモビルスーツが屹立している。

 

「ボケっとしてないで、早く降りる」

「はい!」

 

 鮮やかな蒼いドレスに身を包んだミオリネが、ヒールで危なげもなく大階段を下っていく。

 スレッタ達も慌ててそれに随った。

 

「なんか雰囲気ある~」

「僕達、場違いだよね。絶対」

「ホルダーの同伴者なんだから、場違いもなにもないでしょ。こんなのただグループの資金力を見せ付ける為の虚仮脅し。見映えだけよ。新興の企業や新プロジェクトへの支援が目的、なんてお題目だけど、実際のところは自社独力じゃ成功が見込めない新規事業が、ヤケクソのプレゼンで一発逆転を狙うただのショー。くっだらない乱痴気よ、乱痴気」

「ぼ、ボロクソだぁ」

「で、でも、じゃあなんでミオリネさん、このパーティーに参加したんですか?」

「…………」

 

 スレッタの疑問にミオリネは即答しなかった。

 このパーティーへの出席を表明したのは誰あろうミオリネである。そしてミオリネから既にエランの現状を聞き知っているスレッタがここに来る理由は無いのだ。

 

「……後で話す。とりあえず、今は黙って付いて来なさい」

「は、はあ」

「というか、さっきからなによその歩き方。私の隣を歩くんだからちゃんとして」

「あ、す、すみません。この衣装、胸とお尻がきつくて」

「胸はともかく、尻?……あぁ、あんた脚太いもんね」

 

 脚そのものが太い、というよりスレッタの筋繊維が太い。密度が異様に濃い。

 ワイヤーロープを無理矢理に束ねて引き絞ったかのような肢体。かと思えば、脱力している時にはミオリネの細い指が埋まるほどに柔らかくなる。

 重厚にして柔軟。ミオリネの毎晩の安眠は、スレッタの肉体に依るところ大なのだ。

 深紅のドレスは、スレッタのイメージに合わせたミオリネのチョイスである。スリットのやや深いものを当てたつもりだったが、それでも足りない。風雲再起の馬脚も斯くやの豊かな脚線美。

 その癖、ウエストにはむしろ余裕すら見える。

 

「ムカつく」

「なんでですか!?」

 

 スレッタの脇腹を執拗に突っつきながら、ミオリネ達は立食パーティーの会場へ入っていった。

 孤島のように会場各所に据えられた丸テーブルには花が飾られている以外にはグラスが幾つか。会場隅の長テーブルで、種々の料理をシェフが直に盛り付けている。

 

「追加、持って来ました」

「ああ、ご苦労。空の皿とプレート持ってってくれ」

「はい」

 

 コックコートに短いコック帽を目深に被った青年が、配膳車から料理をテーブルに移していく。

 そうして、見習いコックは会場を盗み見る。

 テーブルと衆目の間を鮮やかな熱帯魚のように泳ぎ抜ける、深紅のドレス姿を。

 

「…………」

「おい! ぼうっとしてないでさっさと皿洗いに戻れ新人!」

「す、すみません!」

 

 怒鳴り声に背を押され、グエル・ジェタークは大慌てで配膳車を駆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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