水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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敵陣潜入!がんばれ御曹司

 

 

 

「はあ!? 名前を貸せ!? どういう意味だよ」

「どうもこうもそのままの意味だ。オジェロ・ギャベル。俺にお前のIDを使わせろ」

 

 麗らかな木漏れ日降り注ぐ森の中。焼きトウモロコシでも食べようと、いつものようにキャンプ地に赴いた地球寮男子組は、待ち受けていたグエル・ジェタークに捕まった。

 

「今度開催されるインキュベーションパーティーに俺はスタッフとして潜り込む」

『はいぃぃ!?』

「もともと来年度に開く予定だったものが急遽前倒しされた所為で、各セクションの増員が現状間に合っていない。そのどさくさに紛れれば行ける」

「行けるかぁ!!」

「ベネリットグループ共同主催のパーティーだよ!? 警備に見付かったら大事じゃ済まないよ!?」

「それ以前に、雇い入れるスタッフの前歴は確実にチェックされるね」

「アスティカシアの学生って身分はお前達の思っているより信用度としては悪くない。その上、金銭的に困窮したアーシアンもかなりの数雇われる。最低限、テロ集団や犯罪シンジケートとの繋がりがないかは徹底して洗うだろうが、学生バイトの素性をいちいち出自まで遡って調べる余裕はない……筈だ」

「そこはせめて断言してくださいよぉ……」

「いやなによりあんたの面が割れてんだろ。知り合いと鉢合わせたらどうすんだ」

「ふっ、ジェターク社の御曹司ともあろう者が、パーティーの下働きをやってるなんて誰も夢にも思いやしまい」

「ドヤ顔でなに言ってんだこいつ……」

「そもそもなんでそんな無茶な計画を?」

「計画と呼ぶのもかなり憚られる」

「スレッタ達がパーティーに行くからじゃね?」

 

 ヌーノの他人事のような言葉に、グエルは黙して語らなかった。

 ティルは表情筋を殺し、オジェロとマルタンは顔を見合わせて大きな溜息を吐いた。

 

「「あ~……」」

「なんだその『またかコイツ』みたいな溜息はぁ!?」

「はいはい、心配なんですね」

「ぱいせんってホント初等部男子みたいなムーブ決めるよな毎回」

「回りくどいよな」

「相手側が気付いてくれると考えるのは甘えだと思う」

「うるせぇ!! 歴とした理由はある!!」

 

 このパーティーは、無事に終わる筈がないとグエルは踏んでいる。

 前回のペイル社擁するエランと最新鋭機ファラクトとの決闘で敗北を喫した奴らは、必ず盤外戦術に打って出てくる。企業戦争において開発と売り上げ競争の外で謀略を巡らせるのはもはや定石だ。グエル自身の主義主張はこの際置いておくとして、敵は仕掛けてくる。必ず来る。

 そしてそれは、ミオリネからもたらされたペイル社研究開発施設襲撃騒動の顛末を考慮に入れれば尚更だ。

 シン・セー開発公社、それと密接に関わる少女の師とガンダム、そしてスレッタ・マーキュリー。

 それらはペイル社だけに留まらず、グループ傘下企業達いずれにとっても今や明確な脅威となった。

 

「パーティーと銘打ってはいるが、これは謂わばベネリットグループの総会議だ。一社の吊し上げをやるのにこれほど打って付けの場はない」

 

 今のグエル・ジェタークに、少女とエアリアルを守る力などなかった。

 

「退寮処分を受けて勘当寸前の俺が、のこのこパーティー会場に出向いたところで門前払いを喰らうのが落ちだ」

 

 誰あろう父が、あのヴィム・ジェタークが絶対に許しはしない。

 

「……現地に潜入して、スレッタ・マーキュリーを援護する。その為には、赤の他人のIDで別人を装うしかない……頼む」

 

 グエルはその場で頭を下げた。

 

「俺に力を貸してくれ」

 

 グエルは頭上の沈黙に耐えた。返答あるまでこの頭は上げない。成否のいずれも覚悟して。

 

「……はぁああ、しょーがねーなー」

「い、いいのオジェロ!? これ名義貸しだよ!? 結構まんま犯罪だよ!?」

「とりあえず画像データを差し替えよう。聞く限り、入出場の端末認証さえクリアできればなんとかなると思う」

「ティルまで!?」

「というか御曹司様にこんなことさせたなんて知れたら、俺達ただじゃ置かれないだろうしな。ぱいせん取り巻き多いし」

「もっちろん無料(ロハ)じゃねぇぜ! こっちだって危ない橋渡るんだ。幾ら出す?」

「今回のバイト代と……俺の過去の決闘の詳細なデータはどうだ。確か賭けが趣味だったな、オジェロ・ギャベル。ただの映像記録なんか目じゃない情報量。これを解析すれば各寮の戦術の偏向や各機体の弱点を割り出せるかもしれんぞ」

「先輩、俺そういうの待ってた」

(解析つったってそんな都合のいいプログラム地球寮じゃ作れねぇし回っても来ねぇだろうなぁ)

(あぁ、情報商材とか買っちゃうやつだこれ)

 

 ヌーノもマルタンも口には出さなかった。もうこの場合、言わぬが花だった。

 

「画像を差し替えるにしても……やっぱり、変装は必要だと思う」

「いっくら場にそぐわない人間ったって流石にバレるよな」

「うーん……あ、化粧で雰囲気誤魔化せないかな。僕ちょっとリリッケ達呼んでくる」

「あと手っ取り早いのはやっぱ髪型だな」

「……髪?」

 

 ぎくりとして、グエルはその場をたじろいだ。

 オジェロとヌーノが顔を見合わせてにやりと笑う。

 

「俺、前々からその長ったらしい髪がどうも気になっててさ」

「おい……」

「俺も俺も、流石に真っピンクの前髪メッシュとかちょっとどうかなーって」

「放っとけ!」

 

 生憎、グエルが放って置かれることはもう許されない。グエル自身が懇願してしまったばかりなのだ。

 マルタンがリリッケとアリヤを連れて戻ってくる。決まってしまえば、マルタンも大概ノリノリだった。

 

「グエル先輩! お化粧に興味あるってホントですか!?」

 

 そしてリリッケはもっとノリノリだった。

 

 

 

 

 

 

 髪は死守した。

 長い癖毛は纏めてミディアムヘアの金髪ウィッグで覆い隠し、目尻の泣き黒子をファンデーションで塗り込め常日頃険しい目元と吊り上がった眉尻はアイメイクで優しく改造。カラーコンタクトまで入れてしまえば、ここに朴訥とした金髪碧眼の好青年オジェロ・ギャベル(偽)が誕生した。

 そうして苦学生アルバイターを装って厨房スタッフとしてまんまと潜り込むことに成功したのだった。

 グエルの無根拠な自信とは裏腹に、地球寮の全員が素顔を晒すことに反対した結果、現在白いマスクを着用している。

 

(厨房を出入りする人間なら、マスクをしても不自然じゃない)

 

 これがホールスタッフであったならそれも許されなかったろう。

 

(今のところバレた様子はないな)

 

 幾人か、社交界でコネクションを持った顔触れと擦れ違ったが、彼らがグエルに気付いた様子はない。

 

(これなら)

 

 スレッタ達の様子を見守りつつ、会場内を周遊できるだろう。

 父ヴィムはパーティーの主催の一人。一般会場を出歩いてくることはそうそうありえない。

 問題はやはり……。

 

(! ラウダ)

 

 人混みの向こうに、腹違いの弟の姿を見付けた。

 込み上げてくる悔悟と懐古を押し殺し、グエルは台車を押して厨房に取って返す。

 幸い、向こうはまだこちらに気付いていない。いや視界に入ったとして、ただの厨房スタッフを気に留める筈がな────

 

「兄さんだよね?」

「……」

「兄さんだ。ねぇ兄さんでしょ。やっぱり兄さんだ。兄さんだよ。兄さんなんだよ」

「ヒトチガイデス」

「いや分かるよ。僕には分かる。その体格、足運び、視線の動き、空気感、その息遣いと良い匂い!」

(怖いッ! 判断基準がなんか怖いぞラウダッッ!)

 

 早足で台車を押す見習いコック。それをさらに早足で追い掛けるラウダ。

 奇怪な取り合わせが会場を縦断していった。

 

 

 

「ラウダさんがまたなんか暴走してるー」

「ほら、最近は忙しくてグエル先輩の様子見に行けてなかったから。禁断症状酷いんでしょ」

「もういっそ一緒にキャンプすればいいのに……ん~! 今日のタルト美味っし。アタリのパティシエだ」

「あんたさっきからお菓子ばっかじゃん。太るよ」

 

 パーティードレスで着飾ったフェルシーとペトラは、見慣れたラウダの奇態を微笑ましく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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