水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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お前は誰だ!スレッタ無法の拳骨宣言

 

 

 

 しゃかしゃかと駆けていく二人組をミオリネは怪訝に顔を歪めて見送った。

 

「……なにやってんのよあいつ」

 

 ペイル社に不穏な動きがあるとグエルに情報を提供したのは無論、一時的に協力関係を築き事態に対処する戦力を増やしたい、という目論見があったからだ。

 ホルダー同伴者としてここにいるマルタンやニカ始め、地球寮の面々には協力させるだけの根拠がなかった。そんな義理もない。彼らは別にミオリネやスレッタに報酬で雇われた部下でも、目的を共有する同志でもないのだから。ただの同級生を厄介事に巻き込むには、理由が不足だった。

 今のところは。

 だからこそミオリネとしては、スレッタが関係する事案に限って動機がたっぷりのグエルを使い倒してやるつもりでいたのだが。

 

(あんの役立たず……!)

「ミオリネさん、今走って行ったのって……グエル先輩ですか……?」

「そうよ。今回は手が足りないから仕方なく協力させてやろうと思ったけど早速正体バレてんじゃない……って、あんたなんであれがグエルだってわかったの?」

 

 悪巧みについて一応連絡を受けていたミオリネはともかく、またしても何も知らないスレッタに、ああも念入りに変装したグエルを判別できるとは思えなかった。

 スレッタはあっけらかんとして言う。

 

「纏ってる氣を観ればなんとなくは。最近は鍛練のお陰で先輩の闘氣も随分感じ取りやすくなったんですよ」

「ああはいはい。私にはわかんないタイプの話ね」

 

 科学的な証明もいずれは可能な歴とした現象なのだろうが、ミオリネから言わせれば総じてオカルトである。

 現状超科学の産物には違いなく、目下頭痛の元凶たる例の()()()()案件でもあるので、ミオリネは己が心の平穏の為にスルーした。

 スレッタはちょっぴり寂しそうだった。

 

「……あんたには今の内に話しておくわ」

「はい?」

「今日このパーティーで起こる事。そしてあんたの役割をよ」

 

 グループ総帥の娘とホルダーにして花婿候補の取り合わせは注目に事欠かない。が、周囲の喧騒は逆に密やかな会話の潜めた声を掻き消すノイズとして有用だった。

 

「えぇ!?」

「シッ! 大声出さないで……!」

「す、すみません……でも、いいん、ですか!? そんなことしても」

「逆よ。そこまでしないといけないの。こんな粗まみれのプレゼン、インパクトで会場の理性吹っ飛ばしでもしない限り絶対に通らないわ」

「ふへぇ……わ、わたわた、私が、壇上で……」

「暴れなさい。あんた力業得意でしょ。あぁでも建物が崩れない程度にね」

「あ、当たり前です!」

「は?」

「ひゅ、わた、私だって、そのくらいの良識……」

「は?」

「……うぇーん、ミオリネさ~ん」

「日頃の行いよ」

 

 纏わり付こうとするスレッタの顔をミオリネは片手で制し、制し、制し切れず踏ん張って両手で押し上げた。

 

「く、こんのっ、馬鹿力……!」

「やあ、なんだか賑やかだね。痴話喧嘩かな?」

 

 揉み合う二人の背後から爽やかな声。

 ミオリネ、スレッタの振り返った先には果たして少年が佇んでいた。白い礼服、ヘーゼルブラウンの髪、そして微笑。

 そこにはエラン・ケレスの姿があった。

 

 

 

 

 

 

「待って兄さん! 待ってよ! どうして逃げるんだ!?」

「ッ……! あのなぁ!」

 

 スタッフ用の通路は幸いに人気がなく、ラウダのあまりの執拗さに堪らずグエルは顔からマスクを剥ぎ取った。

 

「見ての通りだろうが! 俺は身分を偽ってここに潜り込んでるんだよ!」

「あの水星女の為かい」

「……」

「兄さん……あぁ兄さん……! 考え直してくれ! あんな女の為にどうして兄さんがここまで……! あの女の所為で兄さんは寮を逐われたんだよ? ホルダーの栄誉も奪われた!」

「決闘で俺は敗けた。その結果が全てだ。俺は納得している。納得して、ここにいる」

「意固地にならないで! 父さんは僕が説得する。寮長に戻せるかはわからない。でもジェターク寮のエースパイロットという兄さんの地位は今だって揺るぎないものだ。こんな、こんな格好までさせられて……いや兄さんは何を着ても似合うが……髪色も新鮮だ……アイメイクは、言ってくれればスタイリストぐらい付け」

「ラウダ、俺はもう覚悟はできてる」

 

 決然とするグエルを、痛ましげにラウダは見上げた。

 

「おそらく父さんは俺を退学させるだろう。跡取りの役目もおざなりにして、一人の女に現を抜かす親不孝者……そう見られても無理はない」

「そんなこと……!」

 

 ない、とラウダは断言しなかった。できなかった。

 父ヴィムの真意が奈辺であれ、グエルをこれ以上学園に留めておく意義を彼は見出だしはしないだろう。後継者として養育するなら、別に教育機関に固執せずとも、他に幾らでも方法はあるのだから。

 しかしグエル・ジェタークに、それを甘受することはできない。

 たとえ学園を追放されようとも、一筋の道を見付けてしまったのだ。スレッタ・マーキュリーという強者の背中、その足が踏む武道という轍。

 魅せられてしまった。憧れてしまった。

 いつの日か、追い付く。肩を並べ、そして。

 勝つ。

 この手に勝利を掴む。そうすればきっと、ようやく胸を張って。

 一人の男として向き合える。

 それはグエルの熱く、淡い、挑戦だった。

 

「……」

 

 ラウダは重く重く息を吐いた。

 処置無し。術ではなく、その力がラウダにはないのだと思い知らされて。

 納得とは程遠い、諦めることなどできよう筈もないが、焦燥で胸が焼ける。

 ラウダはそれらを飲み込んで、無言で壁際に退いた。

 

「……すまない、ラウダ」

 

 グエルは行く。

 ラウダは、その背を静かに見送った。

 

 

 

 

 

 エラン・ケレス。ミオリネの記憶と寸分違わぬ姿の少年が目の前に立っている。

 しかし、ミオリネは知っている。事前に送り付けられたメッセージの中に、その事実を見ていた。

 強化人士。

 GUNDフォーマット用に調整、まさしく最適化された人間。有体に言えば人体実験の産物だ。兵器の運用効率を上げ限界性能を引き出す為、機械ではなく乗り手側を改造し強化するという。合理的だが極めて短絡的でもある。ミオリネの感性に照らせば(おぞ)ましいと言い切ってもいい。

 従来の生命倫理問題を解決する為に、新たな生命倫理を冒涜しているのでは世話は無い。

 目の前の微笑は、量産されたコピーの顔か。それともオリジナルの顔か。

 ミオリネにそれを判別する術はなかった。

 しかし。

 

(少なくとも確実に、前のエランじゃない)

 

 氷の君とか呼ばれた万年無表情の少年は、現在件の格闘バカ親父に連れ去られて宇宙の何処か。

 ミオリネは当然に、傍らのスレッタへ耳打ちしようとした。

 

「スレッタ、こいつは……」

「貴方、誰、ですか?」

「え」

 

 戸惑いも露にスレッタは問うた。

 問いながら、その声音にはどこか確信が宿っているとミオリネは感じていた。

 

「誰って、あはは、もう忘れちゃったの? エラン・ケレスさ」

 

 丸い眉根を寄せてスレッタは訝る。極大の違和感に顔を顰めて。

 

「エランさんじゃ、ないですよね」

「なに言ってるの。僕だよ。エランだよ。ああ、この前の約束、破ったこと怒ってるんだね。ごめん、悪かったと思って」

「貴方は誰ですか!?」

「ちょっ、スレッタ……!」

 

 肺活量に裏打ちされた腹式の大声は、広大な会場内に響き渡る。一瞬、大勢の喧騒を掻き消すほどの強さで。

 スレッタは構えを取っていた。両掌を上下に緩く開き、足は前後半歩分に離し、後方に重心を置く。前足は爪先のみ地に着ける。猫足立ちの構え。ただヒールは履いたままだった。

 ドレス姿の奇態を前に、エラン・ケレスは懸命に愛想笑いを浮かべようと努力していた。

 

(こういう展開は聞いてないんですけど)

「……ミオリネさん私、エランさんの名を騙るこの人を」

「?」

「許しておくべき、ですか。それとも、倒すべきですか」

「は……?」

 

 スレッタの手が光りを帯びていく。徐々に唸り、次第に輝き、それはまさに叫ぶが如く。

 

「事と次第によっては殴ります!」

 

 いっそ清々しいまでの暴力宣言。

 スレッタ・マーキュリーの拳が唸りを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





スレッタ「私のこの手が光って唸る! エランさんの名を借りる貴方を倒せと、輝き叫ぶ……!」
エラン(真)「貸してんのこっちぃ!!」

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