水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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地球寮乗っ取り宣言!株式会社ガンダム始動

 

 

 

 夜更けの地球寮。本来であれば、共用リビングで寮生達が各々管を巻く時刻だが。今はどうしてか全員が屋内から連れ出され、正面入り口で並び立っている。

 白い看板にはカラースプレーででかでかと『GUND-ARM Inc.』の文字。

 学園指定のトレーニングウェアを盛大にカラフルに汚した三名。ミオリネ、スレッタ、そしてグエル。

 ミオリネはトリコロールに色分けされた看板を満足気に眺めている。少女以外の一同が微妙な表情でそれを見詰めた。

 

「で?」

「なに?」

「なにじゃねぇよ! いやなんならこっちのセリフだわ! なんなんだよこれはよぉ!」

「なにって、会社の名前よ。急拵えだけどね。ロゴはプロのデザイナーにぃ……依頼できるようなお金もないし、この中で絵が描ける人。ティル? じゃあ悪いけどお願い」

 

 適材適所はよく心得ているミオリネ。

 当面の会社設立に伴う事務手続きを経営戦略科のマルタンやリリッケに任せ、企業ロゴを始めとしたデザイン担当にティルを、その他のあらゆる実働に全員を当て込む。

 

「まずなにより、会社の体裁を整えるわ」

「この女わりと行き当たりばったりだよな」

「前のプレゼンもほぼ勢いで乗り切ったからね」

「すごかったよー。スレッタと風雲再起さんが会場上空で暴れ回って、爆発炎上! 見てるこっちが死ぬかと思った」

「フロント管理社の防空警備によく落とされずに済んだな……」

「謎ですねぇ」

「呼んだら飛んでくるモビルスーツのがよっぽど謎だよ。今時音声認識かよっつう」

「フィンガースナップがどうもトリガーみたいだね」

「音声が届く距離じゃないし、重役が一堂に会するパーティーだよ? 通信制限だって当然布かれてた筈だし」

「マジで謎だな」

「はいはい! 無駄口叩かない! 私達はその謎なガンダムの謎なオバテク(※オーバーテクノロジー)を売って稼ごうって話をしてんのよ」

「ここが株式会社化されるのは確定事項なんだね……」

「おぉ、マルタンが理不尽に対して落ち着いてる。珍しいな」

「もうなんかね、慣れてきた」

「スレッタ見てたら大抵のことには驚かなくなるからね」

「俺らの常識は通じねぇって思い知るよな」

「水星こえぇ」

「ガンダムファイターは超人で化物だ。間違いなくな。俺が請け負ってやる」

「す、水星はいいとこです、よ!? そ、そして何気なくグエル先輩ひどい!?」

 

 スレッタの抗議をグエルは黙殺した。

 時にモビルスーツ越しに、時には生身で、何度も何度もその拳の脅威に晒された者としてそこのところをグエルが譲る気はない。

 

「百歩諦めて新会社の、なんだっけ、ガンダム? 作るにしても、そのガンダムでなにするんだよ」

「医療機器として売る」

 

 逡巡もなくミオリネは言い切った。会社を立ち上げようというのだからその目的がハッキリしているのは当然の筈であるが、地球寮の面々は密かに思った。

 意外だ、と。

 その場のノリと勢いだけじゃなかったんだ、と。

 

「い、医療?」

「モビルスーツをですか!?」

「そ、元々ガンダム関連技術開発の発端は医療分野からだった。GUND医療っていう身体の補助、欠損部位の補完、そして宇宙へ進出する人類の環境適応と克服」

「お、おぉ」

「人類……」

 

 議題が思いも寄らず壮大なスケールに広がったことで、困惑とも感嘆ともつかない声が其処彼処で上がる。

 ミオリネ自身も初めてこの思想に触れた時の感想は皆と似たようなものだった。パーメット研究機関ヴァナディースの基本理念。

 

「ぶっちゃけ最初は兵器として売ろうかとも考えた。兵器化された現物が実際ここにあるわけだし」

「……」

 

 かちりと、空気が固化する。その場の皆がそのような感触を覚えていた。

 アーシアンにとって戦災は生涯の伴侶。過去の戦火は未だ生々しく、少年少女の心に染み着き離れない。

 

「でも、なんかしっくりこないからやめた」

「し、しっくり?」

「だってそうじゃない。国家の正規軍が求めてる兵器っていうのは、まあ一部の大量破壊兵器は別にしても、安定した量産と兵士の戦闘能力の平均化を図れるものが一番求められる」

 

 運用するのは兵士であり、敵対するのは同じ国家ないし集団。戦争が外交活動の一手段に過ぎないなら、その威力が過剰でも過少でも扱いに困るだろう。

 

「なんかすごい爆弾一個売るより、拳銃百丁を手広く売り捌く方がコストは掛からないし儲かる。軍需の基本はそっちでしょ。戦いは数よ? 戦略科一年次の教科書にだって載ってる。私が今更偉そうに言うまでもないわ」

「……」

「で、それを踏まえてそこの人外を見てたんだけど」

「人外!? ミ、ミオリネさんまで!?」

「アホらしくなった。戦争だなんだって息巻いてる連中になんかあたまおかしい光るモビルスーツが顔から突っ込んで来て戦場を蹴散らしてくって想像したら、真面目にやってる人達が可哀想に思えてきて」

「わ、私、これ、もしかして……ほ、褒められてますか……?」

「いやわりとしっかり酷い言われようだけど」

「スレッタの決闘は半分ギャグだからな」

「真面目に見てたら体力持たねぇっつの」

「ソシャゲの周回しながらくらいで丁度いいよな」

「酷い!? わ、私、結構頑張ったのに……」

「もー、皆さん意地悪言っちゃダメですよぉ。おーよしよし。スレッタさんは頑張り屋の良い子ですもんね~」

 

 しくしくと肩を落とすスレッタをリリッケが優しく包み込んだ。

 

「GUNDフォーマットとモビルトレースシステム、両方の性質を併せ持つガンダム・エアリアル。こんな便利でトンデモな代物、兵器なんて()()()()()ものに使ったりしない。目標はもっと派手に、もっとでっかく行きましょう」

「例えば?」

「人類の進化! とか」

「なんかマッドなこと言い出したぞ!」

「自己進化くらいできんじゃないの。なんとなーく意志を感じるのよね~。人類抹殺とかに走らなきゃいいけど」

「人工知能による生命の選定か。ロマンだな」

「映画の見過ぎだよアリヤ。そんな地獄みたいなロマンないから」

「そうか、そうだったのか……ガンダムとは、エアリアルとは……!」

「あ、私それ知ってます! 虚無るってやつですね!」

「不吉だからやめてくんない?」

「とにかく!」

 

 ミオリネが両手を打つ。

 

「株式会社ガンダムは、人類のさらなる発展と未来の創造に貢献します。その為に、まずは命を救う現場にこのぶっ飛び技術の差し入れをする」

 

 怜悧な瞳が、まるで威嚇でもするように顔触れ一人一人を睨み回し、最後にスレッタを見据えて呟く。

 

「文句ある?」

 

 スレッタは大きく頷き、一同は顔を見合わせ、笑ったり怒ったり困ったり呆れたり諦めたり肩を竦めたり。

 

「事業計画書の書式ってどこで貰うんだっけ?」

「あ、ミオリネ先輩。口座開設で代表者の身分証明が必要なのでお願いしますね」

「美術サークルで道具借りてくる」

「私も行こう」

「ホームページとか作った方がいいよな?」

「まだ早くね。せめて定款の文句決めてくんねぇと」

「PVの撮影機材はどっから調達すんだよ」

「ジェターク寮からかっぱらってくるとか」

「警備に袋叩きにされる覚悟があるなら行って来い。俺は止めん……ペトラ辺りを頼るか」

 

 大儀大儀と各々が動き出す。

 地球寮改め、株式会社ガンダムはこうしてのそりとその一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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