水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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ラウダ監督就任!(株)ガンダムPV撮影開始

 

 

 週末の午後。麗らかな晴天に設定された人工大気。

 フロント73およびアスティカシア学園には教職員や一般生徒に向けた多くの施設が内包されている。

 中央区に位置するこの広大な芝生サイトもまた、生徒達の保養やアスレチック、トレーニングの為に用立てられる。

 そんな、平素なら平和で朗らかな笑い声の絶えない場所に、今は怒声が木霊していた。

 

「カァット! 何度言えばわかるんだ水星女ァ!」

「ひぃっ!」

 

 ハンチングを被りサングラスをかけ、ディレクターズチェアに腰掛けたラウダが手にしたメガホンに叫ぶ。

 

「画角からはみ出るんじゃあない! これで三度目だぞ! このカットはお前とエアリアルを同時に広角で捕捉できなきゃいけないんだよ! バミリが見えんのか貴様ァ!?」

「す、すすみませんすみません!!」

「それと無駄にあちらこちら動くな! 個別のカメラで追えんだろうが! 挙動も速度もいちいち変態的なんだよ加減しろ馬鹿!」

「へっ、変態!?」

「文句があるのか水星女ァ!?」

「あああありませんすみません!!」

 

 ファイティングスーツ姿のスレッタがその場で水鳥のように激しくお辞儀を繰り返す。

 レフ板を構えたオジェロ、ガンマイクの柄を向けるヌーノ、カメラとタブレット端末を調整するニカ、各種機材や小道具を漁るチュチュ、メイク道具一式を抱えてスレッタの化粧を直すペトラ、ラウダの傍でストップウォッチ片手にタイムキーパーをするフェルシー。

 この場に立ち会う全員(ラウダを除く)が、その時同じことを考えていた。

 

『なんでこんなことになったんだろう』

 

 

 

 

 

 異変の発端は、ミオリネから下知された株式会社ガンダムの企業向けPV製作。

 その撮影機材をジェターク寮のペトラ・イッタから借り受けられないか、グエルが彼女に打診したことにより始まった。

 

「ペトラ、さん? ってカメラとかが趣味なんですか?」

「いや、あいつの母親はファッションデザイナーでな。一般向け以外にも軍関係の服飾も手掛けている。専任のモデルを使って撮影からカタログ製作まで自社で行う徹底ぶりだ」

「フ、ファッション!? すごいです」

「その母親も元モデルとか言うんだろ。大企業の社長に身綺麗なファッションモデル、んで今は女経営者か。いかにもな取り合わせだなぁオイ」

「ふっ、まあ否定はしない」

 

 チュチュの皮肉にグエルは肩を竦めた。

 着手するにも道具が無い。ノウハウもない。なにもない。ないない尽くしの地球寮。

 その表玄関にPV撮影班がぞろぞろと屯する。

 ヌーノが素朴な疑問を呈した。

 

「親の会社が撮影のプロだっつってもよ、機材なんてこの学園に持ち込んでんのか?」

「ジェターク寮では寮生の学園生活に絡めて商品のPVを撮らせていた。学生が最先端にデザインされたパイロットスーツを着用してモビルスーツを操縦する風景。販促として、これがなかなか手堅い」

「けっ、商魂逞しいっつうか卑しいっつうか。で? 御曹司様自ら古巣の後輩に頭下げてくださるって?」

「駄目元だがな」

 

 グエルが個人端末でナンバーをタップし、コールする。呼出音が鳴る。グエルの耳元の受話口から。

 そして今、格納庫扉前でそれは鳴り響いていた。

 

「ん?」

「おいあれ」

 

 

「やっば」

「うひゃあっ、バカバカ!」

「だから電源を切っておけと……!」

 

 建物の影に三人、騒々しく揉み合っている。

 ある意味、とんとん拍子に、あるいは芋蔓式に、目的の人物と目的外の人員を確保できたと言えなくもない。

 

「ペトラ、フェルシー、それに……ラウダまで」

「あー、ども」

「お、お久っすグエル先輩! いやーお元気そうでなによりで」

「……」

 

 

 事情を通じてみれば呆気なく、ペトラは電話一本で母親に掛け合い、子飼いのクルーから機材の一部を借り受けてくれた。

 取り回し易い小型で、プロ仕様としては()()()安価な、本格的なカメラや録音機器等が地球寮のやや寂れたリビングに並ぶ。

 

「おぉ……」

「おいこれやべぇ。今値段調べたんだけどよ」

「卑しいことすんなよ。いくら?……やべぇ」

「地球寮の年間予算より高いね」

「糞スペーシアンの金持ちがっ!」

「どうもーお金持ちでーす」

「あ゛ぁ!?」

「やーんこわーい。アーシアンってばやっぱ凶暴じゃーん」

 

 猫撫で声で敢えて神経を逆撫でするペトラを前に、チュチュが無言でテーブル下のレンチに手を掛けた。

 グエルが前に出る。

 

「煽るなペトラ。品性を疑われるぞ。チュアチュリー、お前もいちいち喧嘩腰になるな。これはこいつの家の仕事道具だ。別に金持ちの道楽って訳じゃない」

「ちっ……わーったよ」

「「……」」

 

 ペトラとフェルシーが互いに顔を見合わせる。

 グエル・ジェタークが他人の喧嘩の仲裁役を担っているのだ。以前はむしろ、自ら争いの渦中に赴いて腕力でそれを解決するのを好むような人がだ。

 

「グエル先輩、なんか変わりました?」

「かもな」

「なんていうか、すっごく大人っぽいッスね!」

「前はガキっぽかったってことか?」

「い、いえいえいえいえ!? そいうことじゃなくってですね!」

「ふっ、冗談だ。真に受けるな」

 

 柔らかく笑みを浮かべるグエルに、フェルシーはどぎまぎと顔を赤くした。

 その光景を、一歩身を退いてラウダは眺めている。表情は複雑であった。その心境などは輪を掛けて。

 

「……兄さん、以前にもう話は着いた。この上しつこく蒸し返したりはしない」

「……苦労掛けるな、ラウダ」

「いいんだ。ただ一つだけ納得できないことがある……」

「なんだ?」

 

 ラウダはタブレット端末を手に取った。それは地球寮で使っている共用の備品である。

 それをラウダはおもむろに────テーブルに叩き付けた。

 

「てめっ、なにしやが」

「なんだこのみすぼらしい台本はぁ!? PVは自社の存在をあらゆる顧客に認知させる為のメーンコンテンツだぞ!? ブランディングを舐めてるのか貴様らァ!」

 

 

 

 

 

 斯くして、学生のロークオリティな撮影計画にキレたラウダは、無理矢理に地球寮のPV撮影に乗り込み、方々からの戸惑いや抗議を踏み潰して自ら監督を称して撮影を開始。

 今に至る。

 声も枯れんばかりに怒鳴り散らすラウダと平謝りのスレッタを遠巻きに見ながら、ヤンキー座りのチュチュがぼやく。

 

「あの御曹司弟、いつもこんな調子なんか」

「わりとそうッスよー」

「まあ今日は一段と元気だけど」

「元気というか、もはやあれは狂気だね」

 

 なにやら神妙に頷くニカに、チュチュは同意すべきかどうか迷い、結局止めた。

 

「ってか、さっきから私怨ばりばりじゃねぇか。スレッタ虐めまくってっし」

「お兄さん奪られて寂しいんスよぅ。あとは、まあ仕事に手ぇ抜けない人なんで、クオリティに妥協しないんス」

「それに忙しいのに慢性的にグエル先輩成分不足気味だったからねー。今日はちょっと過剰摂取で、嫉妬と怒りプラスしてハイになってんじゃない」

「ぱいせんはカフェインかなんかかよ」

 

 取り巻きのわりに、フェルシーもペトラも言葉選びに忌憚がない。というか明け透け過ぎて逆にチュチュが呆れるほどだった。

 

「おい、そろそろいい時間だ。休憩を挟め」

 

 そこへ、クーラーボックスとランチボックスを提げたグエルが歩み寄ってくる。

 

「お、気が利くじゃんか御曹司」

「そっかもうお昼過ぎだったね。忙しくって忘れちゃってた。もうお腹ぺこぺこ」

「グ、グエル先輩が用意してくれたんスか!?」

「全部じゃない。半分はリリッケだ」

「いやまあそれもやばいんスけど……」

「ラウダさんが……」

 

「兄さんんんんんんんーッ!?」

 

 奇声を発しながら全力疾走でラウダがガーデンパラソルの下に飛び込む。

 

「兄さん!? なぜ兄さんがこんな雑用係に使われてるんだ!? 昼食くらい言ってくれればケータリングを手配したのに!?」

「学生起業のPV撮影にそんなもん呼んでどうすんだ……」

「そうだAD!? 食事の用意はお前の仕事だろうが!」

「誰がADだコラ!?」

「わぁ、サンドイッチだー」

「これを半分グエル先輩が作ったんだ……」

「ういー腹減ったー」

「ツナサンドねぇ?」

「スレッタはなにがいい? 卵とかBLTとかあるよ」

「ト、トマトがいいです。ミオリネさんのトマト、美味しいですから」

「え!? これミオリネの温室のやつ!?」

「よく使わせてくれたわね。あのじゃじゃ馬姫様が」

「えへへ」

「なんでお前が照れんだよ」

「兄さん! 兄さんの手作りサンドイッチとっても美味しいよ! 兄さんの温もりと優しさが篭ってるよ! いくらでも食べられそうだ! 食べるのが勿体ないくらい……真空パック持って来ようか!? フリーズドライで永久保存しなくちゃね!」

「ラウダ、落ち着け。頼むから普通に食べてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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