水星武闘伝Aガンダム 作:足洗
「PV撮影・編集、ホームページ掲載、ソーシャルメディア、各配信サイトへの投稿。同業種他グループ企業への宣伝広告爆撃等々……全工程、完全消化! 任務完了! おめでとー!!」
『いええええい!!』
オジェロの乾杯の音頭に十五からの声が応じる。
ぶつけ合ったプラコップからコーラの泡が溢れオレンジジュースが波打ちジンジャーエールが弾けた。
「いえええええええい!!」
「疲れた! ばちくそ疲れた! もう知らん! 明日とか知らん! 飲んでやる! 飲み明かしてやらぁ! 単位とかもう知るか!」
「こらこらー、今日のところは一応仮打ち上げなんだからねー」
「やぁでも心情的には心底飲みてぇわ」
「撮影もそうだが、この一週間は本当に辛かった」
「地獄だった」
「もう立派なブラック企業でしたね~」
「いえええええええい!!」
「ところでさっきからマルタンのダメージが地味に深刻だ」
「真面目だからなー。適度に手ぇ抜けなかったんだろ」
「ブラック企業に一番向いてる人ですね」
「リリッケ逆逆。一番行ったらダメな人だから」
「いええええええええええい!!」
ミオリネによる地球寮の(株)ガンダム化の暴挙は今や遠い過去の出来事と。その理不尽を一時忘れるほどに地球寮の面々はただただ製作物の納品達成に沸いた。
それは、過剰労働を課すことで正常な思考力を奪った結果とも言うが敢えて語る者はいない。
「ふんっ、意識の低さはやはりアーシアンだ。この程度で音を上げるとは。ジェタークの社員ならもう三日は納期を早めても文句一つ言わず完成まで漕ぎ着けたろうに」
「あー、どこから突っ込めばいい?」
「学生と社会人の能力の差とかは置いといて、とりあえず就活でジェターク社は絶対受けねぇ」
「いよっ! 糞ブラック!」
「誰だ今弊社を糞ブラックだと抜かした輩ァ!?」
「ラウダ、私生活に過度に干渉する職場を嫌うのが現代社会人の風潮だ。少しドライ過ぎるくらいに接した方が、互いのストレスフリーに繋がる。お前もいずれは、長の椅子に座る前に社のワンフロアから任されていくだろう。社員から好かれる上司になれとは言わんが、わざわざ憎まれ役を買って出ることはないんだ」
「兄さん……」
「だが、クオリティに妥協しないお前の姿勢は立派だ」
「兄さん!」
「すごい。まるで経営者みたいだ」
「まるでってか、実際経営の英才教育バリバリ受けてんだろ。腐っても御曹司だし」
「なぁ、思ったんだけどよ。もういっそグエル先輩がこの会社の社長やればいんじゃね?」
オジェロの素朴な発言に、一同は数秒沈思して。
『あ~』
「クソスペわがまま女よりマシかも」
「福利厚生しっかりしてくれそう」
「なんやかんや身内には優しいもんなぱいせん」
「差し入れのタイミングとか、疲れてる人にさり気なく休憩奨めてくれるし」
「……うるせぇ」
「いよっ! ホワイトCEO!」
「ガンダムの白い奴!」
「なんか意味変わってない?」
「グエル先輩が地球寮を乗っ取ると聞いて! ここがジェターク寮の属領になるんなら堂々と居座れるッスね!」
「誰が属領だコラ」
コップからブラックベリーのジュースを飛び散らせ、フェルシーが諸手を上げる。
ペトラはチョコレートを頬張りながらぼやいた。
「まあ今んとこ中小とかいうレベルじゃないくらいしょっぼいけどねこの会社」
「そこはほら、あのモビルトレースなんとかって操縦技術を売れば」
「複製、ってか量産できればね。あとはまあ、医療目的なんでしょ一応。人間が使うんだからもっと小型化できないと。あーん……ん、宝の持ち腐れ?」
「あの精度のモーショントレースが可能なら、一般普及はひとまず置いて、まずは医療現場に合わせた利用法を確立すべきだろう。機械的アシストを加えた精密治療、遠隔操作による宙域間手術。精密動作のロボットアームのニーズは時代が
「兄さん、外科的な側面で有用なのは確かだけど、あのモビルスーツ、センサー類の感度も異常だよ。明らかに思考・脳波レベルでの機体コントロールの形跡が見られた。つくづくオーバースペックで呆れる。けど、あれの計器を特化できるなら、現代の診断では追い切れていない深度で、桁違いに早期から病巣を見付け出せるかもしれない。売れるよこれは。金持ちほど健康には糸目を付けないからね。これもまた時代を選ばない真理だ」
「なんかジェターク連中が勝手に算盤弾き出したぞ」
「商売人の年季じゃ確実に向こうが上だからな」
「しつもーん!」
その時テーブルの上に乗り出して溌溂とメイジーが手を挙げた。
「ジェターク寮と地球寮っていつの間にこんな仲良しになったの?」
「はあ? 仲良いわけねぇだろこんの三大クソスペ寮と」
「こんな最弱小寮と我が寮が馴れ合う筈がないだろう。質問があまりにも愚劣だぞ、グラスレーのパイロット」
「えー?」
「私知ってる。ツンデレね」
ホットチャイと
「た、多分、違うんじゃないかな……」
「発言と行動が一致してないじゃん。なんで地球寮の新会社の手伝いをジェターク寮がやってんのよ」
おずおずとイリーシャがツッコミ、レネが無愛想に付け加える。
そうして頬杖をつきながら、レネは手近にあったマドレーヌを食んだ。
「手伝いっていうか物言いっていうか」
「なりゆき……?」
「逃げ損ねた」
「意識高い系の暴力」
「学生の文化祭レベルのクオリティをこの僕が許すとでも?」
「まあ、こんな弟なんだ……」
「あぁうん、そうなんだ……」
グエルの久遠を望むその表情に、レネは珍しく言葉を選んだ。
「でもでもグラスレーの皆さんだって今回は助けてくださったじゃないですか」
「はあああ!? 誰が助けるかっていう! 完全に巻き込まれただけなんだけどこっちは!?」
「そ、それは……そうかも」
「あははは! 確かに、他寮の人間でも容赦なくこき使うんだもん」
「他寮どころか、寮長をね」
「んでそのとっ捕まってた当のシャディクとサビーナはなにしてんの。用は済んだんだし、とっとと帰りたいんですけど?」
レネは頭上を仰ぐ。二階に居るだろうチームリーダーとその副官を睨み、舌打ちを弾いた。
シャディク・ゼネリは、テーブルを挟んで向かう少女を見据えていた。
対面に座すミオリネに。
一人の少女、ではなく。
今はただ、一組織の長に。株式会社ガンダム、そして呪わしきその名を冠する機体、それを駆る者の花嫁に。
グラスレーの寮長として向き合い、宣する。
「ミオリネ・レンブラン。君に、決闘を申し込む。君から何もかもを奪い取る」
和かな形をした仮面で顔を覆った青年に、同じほど変化に乏しい鉄面皮でミオリネは相対する。
シャディクは微笑を僅かに深め────テーブルに跳び乗り拳を向けるスレッタを見上げた。
「モビルスーツ戦で! モビルスーツ戦だからね水星ちゃん!」