水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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地球の夜明けを待つ人々!そして平常運転の地球寮

 

 

 執務室のデスクに据えた通信端末、浅黒い大男が画面の向こう側へ薄笑いと睨みを呉れる。反スペーシアン組織“フォルドの夜明け”リーダー、ナジ・ゲオル・ヒジャは内心の不可解を隠して自身の顎髭を撫で付けた。

 

「“襲撃”の件は了解した。こっちの条件を呑むなら宇宙(そっち)に遠路罷り越して出張ってもいい。だが……今のは俺の聞き間違いか?」

『いいや。言葉通りの意味さ』

 

 モニター上でシャディク・ゼネリは不敵に笑む。

 

『ミオリネ・レンブランには手を出すな。これは追加条件ではないし、ましてお願いなんかじゃない。純粋な忠告です』

「ほう、合理主義のあんたらしからぬお優しい言い様だな」

『花嫁には騎士(ナイト)が侍っている。いや、あれは戦士(ウォーリア)と言った方がいいか。あなた方のやり方次第では狂戦士(バーサーカー)に変わるでしょう。誰も手が出せない怪物に』

「ふははっ! 随分詩的だな。いや嫌いじゃないぜ? なんせこの通り俺は育ちが良いんだ」

『仮にあなた方の最大戦力で当たってもあれには勝てない。絶対に。まともにやり合えば無惨な宇宙塵(デブリ)にされるのはそちらです。臆病な合理主義者としては、標的はデリング一つに絞った方が賢明だと思ったまでで』

「……小娘一人に気を遣いながらグループ有数の開発拠点を襲えと? 少しばかり無茶の過ぎる話だとは思えないかい」

『今回の視察。玉に手を掛けることのできる数少ない好機だ。これを逃すと向こう数年、下手をすればデリングがその命数を使い切るまで機会は巡って来ないかもしれない……待っているだけであなた方の言う夜明けが来るといいが』

「……」

 

 ナジは革張りのチェアに頭を預ける。しかして目端ではモニターの青年を捉えて離さない。ナジにせよ、シャディクにせよ、この上辺だけの問答で腹の内を悟られるような甘い人間ではなかった。

 

「アドバイスは覚えておこう。保証はできないが。そちらから物とデータの送信が確認でき次第追って連絡する」

『よろしくお願いします』

 

 端末を切って、ナジは傍らに立つノレアに肩を竦めて見せた。

 

「脅されちまったよ」

「いつも以上に胡散臭いね、プリンスは」

「裏はあるが嘘はない。いつも通りだな。現地ではガンダムタイプと戦闘になるかもしれん。警戒するようソフィにも言い含めておいてくれ」

「飛び上がって喜びそう。完全にファンかなにかだよ、あれ」

「なんだ。アスティカシアのガンダムは有名なのか」

「ナジはあの動画見てないんだっけ」

「ん?」

「……別に。どうでもいいよ。標的はあくまで総裁」

 

 ノレアは早々にその話題を打ち切った。あの超常の戦闘風景を真面目に説明するのが馬鹿馬鹿しかったのだ。

 

「正面切ってやり合うこともないでしょ。ソフィは……まあなんとかする」

 

 出回っている動画は、生身の人間による対モビルスーツ戦闘が大半だった。これは単によりセンセーショナルな方が再生数を上げているのだろう。

 ノレアはその関連動画の中に、スレッタ・マーキュリーによるモビルスーツ戦を見付けた。

 異常なまでの近接戦闘特化仕様。近代戦にあるまじき四肢を用いた格闘、肉弾戦をするガンダム。

 

「触らぬ神に祟りなし」

「ほう……お前がそこまで言うなら相当だな。わかった。胆に銘じておこう」

 

 軽口とも本気とも取れる態度でナジは笑った。

 

 

 

 

 

 

 地球寮の格納庫に揃ったいつもの顔ぶれ。そんな中でニカと、一人年嵩の女性が即席のコンソールの前で議論を交わしていた。

 コンソールからは動力チューブや夥しい数の入出力配線が伸び、全てが一基の機械装置に繋がれている。

 それは巨大な円環だった。

 丁度人一人を覆えるほどのサイズ。それが鏡台のように縦に安置されている。そして内側には薄い膜状の物質が張られていた。

 ファイティングスーツ生成機構。そしてフィッティング装置である。

 

「じゃあ、始めましょうか」

「はい。チュチュ、お願い」

「おう! 任してニカ姉」

 

 チュチュは気合十分に右肩を回す。平素の制服とピンクの上着ではなく、今は作業用のツナギを着用し上は脱いで腰に結わえていた。

 それを見守るスレッタが遠慮がちに手を挙げる。

 

「あの、ホントに私がやらなくて、いいんですか?」

「今回は平均的な筋力の人体が使用に堪えるかどうか、それを確かめる実験だからね」

「ああ、もちろんスレッタさんには今後もっとたくさんのテストをお願いするようになると思う。装置だけ拝借してお役御免、なんてことには絶対」

「あっ、いえ、そういうことじゃ、なくて」

 

 ベルメリアのやや的を外した気遣いにスレッタは両手を振る。

 

「チュチュ、無理しなくていいから」

「やばいと思ったら即腕を抜いて下がるんだ」

「無理矢理引っ張り出す準備だけはしとくぜ」

「主電源のコードレススイッチ一応持たせとくぞ。こっちからもやばそうに見えたらすぐに落とす」

「チュチュ先輩……死なないでくださいね……!」

「幸運を」

「だ、ダメだ。僕の方が緊張してきた。やっぱりやめとかない? せめてもう少しシステムを調べてからとか」

「その調査の為にやんだろ、腹括れよ寮長」

 

 まるで兵士を戦場へ送り出すかのような緊迫した雰囲気を醸し出す面々に、ベルメリアは困惑した。

 

「だって、ねぇ……?」

「あのバッキバキのスレッタが、だぞ」

「体力お化けがなぁ」

「人外が痛がって苦しむレベルの圧力だ」

「普通の人は死んじゃいますよね~」

「便利だとは思うけど正直、使うのはちょっと……」

「僕は絶対! ぜぇったいに嫌だからね!?」

 

「えぇ……」

 

 異口同音、心を揃えて宣う少年少女達。

 スレッタは両手の人差し指を合わせてしゅんとした。

 

「モビルホースからほとんど丸ごと引っこ抜いたファイティングスーツ生成機構。今回は右腕部限定、全開出力の5%まで絞ってるから、潰れるようなことは起きない…………はず」

「そこは言い切って欲しかったよニカ姉」

「中心にペアリングアンテナが付いたリストセンサーがあるでしょ。それに手を入れて。あとは生成機構が自動でフィッティングを開始する。回転しながら押し下がってくるから、チュチュはその場で踏み止まってね……頑張って」

「頑張って!? いや頑張るけどさぁ!」

 

 本来は全身を覆う為の生成機構を身体の一部に限定。そしてその出力先はチュチュ専用デミトレーナーだった。

 跪いた恰好の機体はコクピットが開放され、コンソールと同じく膨大な数の配線と電極が内外から伸びていた。

 モビルトレースシステムとデミの右腕部は現在パーメット接続されている。

 バイタルと機体状況をモニターしながら、ニカはチュチュにGOサインを出した。

 固唾を飲んで周囲が見守る中、ゆっくりとチュチュの手が装置の膜に触れる。

 センサーが使用者の特定モーションを検知し、生成機構は回転を始めた。特殊な高分子化合物と人工繊維で構成された軟質積層材が見る見るうちに少女の腕を包み込んでいく。

 

「チュチュ!」

「ぐっ、だ、大丈夫……思ったよりいける……!」

 

 強固にスーツのフィッティングしたチュチュの腕が、生成装置の反対側に出る。

 ほんの僅か、チュチュが指先を動かすと、デミトレーナーの右手が即座に反応した。

 

「うおっ、なんだこれ。すげっ」

「だ、大丈夫ですか? チュチュ先輩」

「おう。なんか、なんかすげぇわ」

 

 語彙を失くしながら、チュチュは五指を一本ずつ開閉させ、腕を上下した。

 極めて有機的に、滑らかに。

 

「レスポンス、悪くないよ」

「これで出力5%……本当に驚くべき技術だわ」

 

 感嘆と畏怖すら滲ませてベルメリアが吐息する。

 

「おぉ……! チュチュ先輩! キャッチお願いします!」

「あ? はぁ!? ちょっ、待てバカ」

「え」

 

 言うが早いかチュチュの悪態が早いか。

 スレッタが跳び上がる。地上から約7メートル。持ち上がったデミトレーナーの右手に乗り立つ。

 チュチュは驚きつつも即座に反応し、掌の挙動を微調整、掌を平に静止し手乗りスレッタを安定させた。

 

「なっ、今、スレッタさんが、というかなにしてるのスレッタさん!?」

「ったく危ねぇだろうが。っととと、おいあんま動くなよ。擽ったいって」

「もー遊んじゃダメだよスレッタ」

「まあこのまま触覚の確認に移れるし」

「チュチュ先輩、ナイスキャッチですね」

「んでどんなもんよー安定感の方はー!」

「ばっちりです!」

「え、で、でも今、えぇ……」

 

 ベルメリアの真っ当な困惑に誰も気付かぬまま、実験は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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