水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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season2のPVでプロスペラさんがなんかシャルル・ジ・ブリタニアみたいなこと言い出したので




拭えぬ罪業。仮面の下の母心

 

 

 

 

『強化人士五号。スレッタ・マーキュリーへ接触しなさい』

「いやでーす♪」

 

 ペイル寮。寮生向けの庭園のベンチに少年一人。

 端整な面持ちに愛らしい笑みを湛えたエラン・ケレス(五号)は、朗らかな調子で耳元の端末に答えた。

 端末の向こうにいる四人のCEO達へ。

 

「だって無謀だし、現状無意味だし。スレッタ・マーキュリーは僕が、というかこの顔の持ち主がエラン・ケレスじゃないってもうわかっちゃったんでしょ? しかもバレたのは当のご本人の所為だって聞いてるけど」

『後任の準備が間に合わなかった為の致し方ない措置でした』

「オリジナルさんの残念な演技力は置いといても、一目で見破られたっていうのはホントなの? 異様に勘が鋭いって話じゃない、彼女」

『既にこちらの裏事情を知られていた、その可能性も、まあ否定はできないわね……』

「アハッ、ますますダメじゃーん」

『勘が鋭いというのは正解らしいわ。あちらに出向させている()()()によると、スレッタ・マーキュリーには明らかに五感以外の感覚器が存在するとか』

「うわぁい、オカルティック~」

 

 心底小馬鹿にした調子でエランはころころと笑った。

 無論、CEO達がその報告を冗句だとは決して笑えないのを承知した上で。

 

「僕がリスクを冒してまで怪物に接触するくらいなら、その監査員さんから情報を引っ張って来る方がよっぽど安全確実だね」

『情報源が一つだけでは精度の面で不安が残るわ。なにより、ベルメリア・ウィンストンには、先の本社襲撃事件において重大な機密漏洩の嫌疑が掛かっている』

「ぷっ、ふふふ、そんな人を今も保険として手放せないあたり、あんた達相当恐いんだね。その流派? とーほーなんとかって連中が」

『…………』

 

 端末は沈黙した。通話は繋がったままだというのに。

 

「まあ、どっちにしてもすぐには無理だよ。知ってると思うけど、株式会社ガンダムさんはプラント・クエタに楽しい楽しい社員旅行中だし」

 

 選抜理由に恥じない意気地の悪さを堪能したエランは一言。

 他人事のように通信を締め括った。

 

「無事に帰って来られるといいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小惑星を開拓した大規模人工居住施設フロント。

 太陽系内に点在するそんな人類生存圏の一隅。某フロントにて。

 惑星、フロント間の貿易業によって莫大な資本と膨大な人口が行き交い経済を回す一大商業都市。人工太陽もとうに没した夜の盛り。繁華な街並と犇めくビル群、洪水のような極彩色の夜景を摩天楼の天辺で見下ろす人影があった。

 白みを増したロマンスグレーの髪。後頭から細い三つ編みが夜風に靡く。

 一見すると老人のような風貌だが、濃紫の胴着の下に隠された筋骨の分厚さは到底寄る年波に相応しくない。

 ビルの屋上の縁から、老武闘家は街を見ていた。街並を行き交う人の波を、営みを見ていた。

 

「世界が変われど人は変わらず」

 

 善きにつけ悪しきにつけ、意地汚くも強かに、人類は生き続けている。この宇宙の至る所。人工(つくりもの)の世界を構築しながら。

 地球を置き去りにしてでも人は、宇宙(そら)を目指さずにはおれぬのだ。

 あるいは、と。

 老師は自戒する。

 人の罪、業に対する償いの道を。

 人類抹殺。修羅の道を歩もうと決意した昔日を。

 浅慮と、飛躍と、嗤わば嗤え。だが忘れまいぞ。破壊し尽くされた地球、天然自然の悲鳴から耳を塞ぎ、目を逸らしてきた人類の罪深さと愚かしさ。

 誰あろうその暴虐の一端を担った……我が身の罪深さと愚かしさを。

 そしてこの世界においても、人はまた愚行に走っていく。

 地球居住者(アーシアン)宇宙移民者(スペーシアン)。資本の独占、不平等な税制。巨大な企業体が既得権益を恣にするA.S.において、政府もまた敢えて差別階級を設け黙認し、選民意識を醸成することで社会不安や不満を逸らす捌け口として用立てている。

 腐敗は目に見えていた。政治、人道、民心にすら。

 繰り返すか。人類よ。己の命の起源を忘れ、天然自然の一部たるを忘れ、人と人とが貪り合って。

 その果てに。

 

「……ふ、いかんな。ワシとしたことが、うっかりとまた目先のことに囚われておるわ」

 

 嘗て愛弟子を叱り飛ばした科白が己に返ってきた。それは皮肉か諧謔か。

 老師は自嘲に笑みを深めた。

 世を憂うのは、この肉体に修めし流派東方不敗の理念が為。天然自然に対する畏敬と感謝、そして捨てきれぬ人類への希望がそうさせる。

 しかし今、最も気懸かりなことは、もっと小さな、矮小とさえ言えること。人類の未来などという大事とは比べようもないほどの小事。私事。私心だ。

 あの小さな娘に、残してやれる未来を。

 老い先も僅かなこの身が人類の黄昏に拳を以て臨むには、もはや時間が足りない。あまりにも、少ない。

 ならばせめて、子供らに託す。子供らが生きて、いずれ切り拓くだけの(いとま)を、繋がる時間を創ってはやれまいか。

 

「……」

 

 娘子のことを想うほど、いや想えばこそ、過るのは一人。袂を別ったかの女。

 仮面の下に想い全てを隠してしまった哀しき母。

 エルノラ────プロスペラ・マーキュリー。

 その思惑、奈辺に在りや。いつからか素顔を鉄面皮で覆い、その真意の欠片すら他者に許すことはなくなった。

 危惧を覚える。身に覚え深きこの予感。この妄執。

 その心がただひたすらの復讐と怨念に囚われているならば、鉄拳にて叩き直す。愛娘を、娘と呼ばわる子を置き去っての放蕩など許し難い。

 あるいはそれが正当な報復であるというなら、立ち会い、なんとなれば助太刀とて望むところ。

 その程度の好。縁と思えば造作もない。

 それが口煩い年長者なりの、最期の務めというものだろう。

 だが、果たして。

 いやまさか。

 かの女もまた……己と同じ道を、歩もうとしているのではあるまいか。

 

「マスター」

「どうした」

 

 背後からの呼ばわりに振り返らず応える。

 ビル風の中でも透き通った少年の声、姿を見るまでもなく気配によってその来訪には気付いていた。

 キャスケットを目深に被った少年が老師の傍に歩み寄る。

 やや草臥れ、着古したオーバーサイズのジャケット。そのポケットから携帯端末を取り出して、老師に画面を向けた。

 

「ベルメリア・ウィンストンから連絡。株式会社ガンダムはプラント・クエタに行く。修復したエアリアルを回収する為に……ただ、プラント周辺で少し妙な動きがあった」

「なに」

「ベネリットグループの開発拠点周辺には防犯と対テロを想定した巡回艦隊が警備に配される。そしてその管轄や編成は主に御三家が管理している。念の為、職員に開示された範囲でデータを確認したら、艦隊の補給日程が通常より数時間後ろ倒しになっていた」

「となれば艦隊の進発は出遅れような……何者かが警備巡回に遅滞を施したと?」

「おそらく」

 

 機に聡く敏に鋭い。老師が賢しい少年に笑みを浮かべたのも束の間、その事実の意味するところに思い至り、眉間に皺を寄せた。

 

「プラント・クエタで何かが起こる。いや……攻めて来るな。ならば」

「!」

 

 吹き荒れる風の中に微か、老師、そして少年とてまた戦気を嗅いだ。剣呑なる闘争の気配を。

 

「行くぞエラン!」

「はい、マスター!」

 

 ビルの頂上からマスター・アジアは夜景に飛ぶ。その背に少年も続く。

 宙を踊る二人を追って、人工の夜空より、漆黒の機体が舞い降りた。深紅の翼を広げ、主とその弟子を背に乗せてマスター・ガンダムは宇宙(そら)へ。一路、プラント・クエタへ翔ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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