水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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ファイティングシグナル確認!モビルトレースシステム解放

 

 

 

 

 

 兵装、パーメットリンク、推進剤充填率、諸々一切準備完了。簡易な機体状況のチェックを終える。

 戦術試験区域7番最寄りの格納庫(カーゴ)

 コクピットのメインモニターから、スレッタは機体(エアリアル)が運搬キャリアに収容される様を眺めた。

 

「……もう準備しといた方がいいのかな」

 

 通常の操作系を用いた機体操縦もスレッタには可能だ。実際、水星での土木・採掘作業において、スレッタとエアリアルに求められたのはモビルクラフトを扱う精密操作技術と重機としての馬力であったから。

 しかし、これから行うのは決闘だ。

 死力を尽くす闘いなのだ。

 収納スペースのハッチを開き、ヘルメットを放り込み、パイロットスーツを肩口から剥ぎ取るようにして一気に脱ぎ捨てる。

 ファイターの必然。全裸になる。

 

「? 着信だ」

 

 プライベート回線だった。発信者の名前を見て取り、スレッタは特に躊躇せず通信を開く。

 

『スレッタ。準備できて……っ! な、なんでまた裸なのよ……!』

「ミオリネさん?」

 

 ホロウインドウに現れたミオリネが泡を喰って顔を赤くした。

 ちなみに協力関係を結ぶに当たり、連絡先の交換を持ち掛けたのは意外にもミオリネからだった。

 やりたいことリストの充実に内心ホクホクのスレッタとしては、お友達からの着信に応えない理由が無い。

 

『……ああ、そうだった。いちいち脱がないとダメなんだっけ。ってかそれなら映像切っときなさいよ! 知らない奴がかけてくることだってあるんだから!』

「えっ、で、でも、ちゃんとミオリネさん、って確認しました、よ……?」

『当たり前よ! 決闘は向顔でコクピットの映像晒すって説明したでしょうが!? あんた下手したら学園の全員に裸見られんのよ!? ちったぁ気を付けろこのバカ!』

「すすす、すみません!?」

 

 どうしてかいつも以上に発憤するミオリネに、スレッタは訳も解らず恐れ戦いた。

 

『……触った時から思ってたけどあんた、すっ、すごい体してるのね』

「へ? な、ど、どこか変、ですか?」

『いや、変とかじゃなくて、こう……あぁもういいから! とっとと準備始めなさい!』

「は、はい!」

 

 ミオリネの剣幕に、スレッタは大慌てでコンソールを操作した。

 

 最終セーフティ解除、了承?

 

「うん、行こうエアリアル。モビルトレースシステム、解放!」

 

 パイロットの承諾を受けて、エアリアルは応えた。その奥底に秘めた戦闘機構を開陳する。

 コクピットが変形、反転し、不要なあらゆる操作機器が収納されていく。

 球形に確保された空間に一人、スレッタは佇立する。

 その周囲でファイティングスーツ生成装置が回転を始めた。

 ナノマシンを内蔵した特殊なゴム状物質が、スレッタの身体を押し包んでいく。容赦なく、徹底的に。

 

「ぐっ、ぎぃぃい……!」

 

 モーション、バイタル、筋電位から脳波まで、身体に生じるあらゆる動作という動作を検知する極薄の多層複合センサーが全身に張り付いていく。生成機構からそれを引き千切ることで、ファイティングスーツは完成する。

 

「はぁぁぁあ……」

 

 壮絶な過負荷と痛みを越え、少女が熱気を吹く。

 肩、手首、連なって背筋に、そして足首と、ペアリングアンテナが装着され、それらは一斉に電荷を走らせた。

 ホロウインドウの向こうでミオリネが神妙に目を細めた。

 

『それ、要はモーションキャプチャでしょ。ただ着るだけでどんだけ苦労すんのよ……』

「え? あ、はい。でも必要、だから。普通のキャプチャも、試したことあるんですけど、その、すぐ壊れちゃって。やっぱりこれじゃないと……えへへ、油断すると骨がぐしゃって潰れちゃうんですよ」

『笑えない。ぜんっぜん笑えないからそれ』

「ファイターを称するならばこの程度の重圧、耐え切り跳ね退けるは当然ぞ! って師匠が」

『……バカなの?』

「お、大真面目ですよ! 師匠も私も!」

『なお悪いわ!』

 

 少女二人仲良く言い合っている内に、キャリアは7番区画へ到着した。

 景勝の欠片もない人工土の荒野に二体のモビルスーツが出現する。同時に、ホログラムと大気調整システムが闘技場の様相を一変させた。

 暗雲垂れ込める森林地帯。高低差の激しい緑の丘陵、深い渓谷には川まで流れている。

 スレッタの駆るエアリアルに対するは、この弱々しい日の光の下でなお鮮烈な紅い機体。

 ジェターク社最新鋭機ダリルバルデ。広く分厚い大袖(ショルダーアーマー)に大槍を構え、額に甲虫のような一角を戴く様はまさしく荒武者の如し。

 スレッタには見えている。

 荒々しく猛っているのはその姿容ばかりではない。かの機体に乗り込んだ者の意気込みが、闘志が、気迫となって伝わってくる。

 

「負けて、られない!」

 

 面前に持ち上げた両手を握り、拳を腰溜めに。

 足は肩幅に開き、前後も揃える。直立より幾分重心が深い平行立ち。

 鼻から吸い、口から吐く。気息を整え、丹田の気を練り上げる。

 五臓を満たして五体へ通す。腕を足を、指先や爪先まで気を充実させ、その全てを包括支配する。心身一如。

 それは今や、ファイティングスーツを通してスレッタの肉体と地続きになったエアリアルにすら及ぶ。人体と機体の疑似合一。最大最高の如意自在。

 

「ハアッ!」

 

 その場突き。手首に捻りを加え、貫徹力を以て空間を抉る。

 掌を開閉。

 そうして左右へ一打ずつコンビネーション。

 上段蹴り。踵落とし。

 

「おぉおおおおああああああ!!」

 

 震脚。巨大な足底は真実、大地を揺さぶった。

 後に残心。

 スーツのフィッティングに異常なし。肉体に対し、寸毫ほどの遅れ(ラグ)も無く機体は追随する。

 同調(トレース)完了。

 

『……向顔、してもいい?』

「はい!」

 

 エランの心なしか遠慮がちな通信にスレッタは頷く。

 ホロウインドウ越しに、遂に対戦者達は相対した。

 

 

 

 

 

 

 地球寮の共用リビングで告知時間にいそいそと決闘観戦に勤しむ少年少女達。

 出鼻から絶句していたマルタンが正気に戻る。

 

「びっ、くりしたぁ……いきなり叫んだかと思ったら、急に変な踊りが始まったんだけど」

「パフォーマンスかな?」

「いや決闘でそれやってなんの意味があんだよ」

「っていうか、水星の人のこれ、パイロットスーツ、なのかな……?」

 

 リリッケが向顔で露わになったスレッタを見やり、首を傾げた。

 アリヤが神妙な面持ちで頷く。

 

「ぴっちぴちだな。エロいな」

「そういうことはっきり言わないでくれるアリヤ」

「あ、やらしい目で見ちゃダメだよ、男子~」

「やらしい……いやぁ」

「バッキバキ過ぎ。俺はパス」

「どんな鍛え方すりゃあんな風になんだよ……」

 

 ファイティングスーツ……その特殊な材質のパイロットスーツは、スレッタの肢体の形状を惜しげもなく浮き彫りにする。贅肉を殺ぎ落し、鍛え抜かれた武力の象形。打ち蹴り締め投げ、あらゆる闘法に堪え得るだけの強度を獲得した筋骨の鎧である。

 チュチュはソファーの背もたれの後ろに立って無言で画面を見下ろしていた。そうしてぽつりと。

 

「……シャドーで体を暖めたんだ。こいつ、惚けた面して()り馴れてる」

「それだけじゃない。多分、あれがあの機体本来の調整作業(フィッティング)なんだ」

「ニカ姉?」

 

 チュチュの隣に立ち、ニカが呟く。それはほとんど独り言の体で。

 

「モビルトレー……トレース……モーショントレース? 度を越えた精密動作性と有機的過ぎる挙動……生身の格闘能力を完全再現する為の機構?」

 

 ニカは自分の想像に、その設計思想に眩暈を覚えた。突飛さや奇抜さやエキセントリックな外見などは無論のことどうでもいい。

 一体、どれほどの技術革新を経たなら、それを創り出すことができるのか。

 技術者であるニカには見える。この画面の向こうに立つ機体、それが内包するモノと同等のものを製作する上で、現代の科学力がぶつかるだろうあらゆる技術的障壁が。

 

「あはは、すごい。面白い!」

 

 友人らの不可思議そうな視線も見えなくなる。ニカは画面に夢中だった。画面の中の、一人と一機のファイターに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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