水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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クェスにできたんだからスレッタなら余裕余裕(暴論)


来襲するテロル!ルブリス・ウルの砲火

 

 

 

 電子書類の内容を今一度確認してからウインドウを閉じ、端末のフォルダにロックを掛ける。

 ミオリネは事務手続きを終えて応接室を出た。

 重力生成下のオフィスエリア。廊下を少し行くとエントランスに差し掛かる。

 来客用のソファー席にはホルダーの証である白い制服姿があった。

 スレッタは一人、ぼんやりと空間に視線を彷徨わせている。まるで心ここにあらずといった様子だ。

 

「機体受領の手続き、済んだわ。あとは船に積み込むだけ」

「はい……」

「二ヶ月ぶりの再会ね、エアリアルとは。あんたも家族と離れ離れで寂しかったでしょ。よかったわね」

「……はい」

「…………流派東方不敗は?」

「はい」

「王者の風よ!」

「あたぁ!?」

 

 気合いと共にミオリネの華奢な手刀(チョップ)がスレッタの脳天に落とされた。

 実際のところスレッタが感じた痛痒は然したるものではなく、大仰なリアクションは思わぬ人からの思いもよらぬ一撃に驚いたからだ。

 というかむしろダメージはミオリネの方が大きい。その銀瞳に涙して手を擦る。

 

「ッ~! こんのっ……石頭……!」

「な、なにするんですかぁミオリネさん」

「あんたがこっちを無視するからよ! 可愛い花嫁が一生懸命話し掛けてんだから誠心誠意リアクション返すのがあんたの義務でしょ。かまえ」

「は、はぁ……?」

「……で、なにらしくもなく塞いでんのよ。学園を出る時はエアリアルに会えるーってバカみたいに元気に喜んでたじゃない」

「す、すみません……なんだか、その、自分でもわからなくて。緊張? みたいな……なんか、なんか……不安、っていうか……」

「不安?」

「……ここに、お母さんが、いるんです」

 

 ガンダムエアリアル。極めて特殊な運用と内部構造を執るワンオフ機。日常点検や簡易な整備ならいざ知らずオーバーホールともなれば一介のメカニックには荷が重い。

 だからこそ今回の機体全面改修作業は、開発者であるプロスペラ・マーキュリーに委ねられた。

 彼女は今日この日このプラント・クエタに、エアリアルの許にいる。

 スレッタが母プロスペラと最後に対面したのはおよそ一年前。それも通信端末のモニター越しにである。

 スレッタは困惑した。自分自身に。胸に湧くどうしようもない不安感、そして。

 

「怖いの? お母さんが」

「そんなこと! ……そんなこと」

 

 恐怖。怯え。竦み。気後れ。不定形の、罪悪感。

 スレッタが認めたくないと拒むほどにそれらはより強く際立って、心の奥底から浮き出てくる。

 

「……あんたにも怖いものとかあるんだ」

「ありますよ。たくさん」

 

 弱々しくスレッタは笑った。

 

「もう、ずっと会ってなくて。ずっと会いたいって思ってた筈なのに……」

「……」

「私、お母さんのこと、ずっと独りぼっちにしてたんです。私にはエアリアルや姉弟子が、師匠が、いてくれたけど。お母さんは……独りぼっちで。本当は私が! 一緒に、いてあげなくちゃいけなかったのに……私だけあったかくて、寂しくなくなったのに、私だけ……お母さんの期待、裏切って……!」

「っ、なんでそうなるのよ!」

 

 ミオリネはスレッタの肩を掴む。

 

「なんであんたが悪いみたいな話になるわけ? 向き合う努力をしなかった責任をどうして片方だけが背負ってんのよ! 違うでしょ! 逃げてるのは……」

 

 ミオリネは続く言葉を即座、口にしなかった。自分自身、随分と長くそのことから目を背け、一度ならず逃れようとしてきたのだから。

 けれど、ミオリネはスレッタの両肩に手を掛け身を屈めて視線を合わせる。

 

「……相手だって同じ。でもあんたは、進もうとしてる。怖いのは不安に踏み出そうとしてるからよ。それだけであんたは十分すごいじゃない。私には無理だったもの。一人じゃ、無理だった……あんたがいたから、今ここでこんなことをしてる。嫌いな親父に嫌味言われながら頭下げて、どうにか会社の体裁整えた。先行き不安だらけだけど、あんたがいれば……」

「ミオリネさん……?」

「……立って」

 

 出し抜けに言うや、ミオリネは半歩身を引いて手を差し出した。

 スレッタは、その光さえ帯びた白い指先を見上げる。

 

「デート、行くわよ」

 

 

 

 スレッタとミオリネは連れ立ってプラント内を歩いた。オフィスエリアを抜けると、途端に重力の軛が失われた。製造ラインや格納庫、場内貨物運搬モノレールと、重量物を取り扱うセクションに入る。

 デートスポットと呼ぶには武骨な、無味乾燥な通路を二人は手を繋いで泳いでいった。

 程なくプラント外縁部に行き着く。

 展望スペースと言えば聞こえも良い。そこは社員の為の休憩場所だ。

 

「あんた言ってたじゃない。私達は共闘する者だ、って」

「……」

 

 分厚い強化ガラスの向こうに宇宙(そら)を望む。星の瞬きすら遠く、純粋無垢な暗黒むしろ穏やかで、少女らにとっては馴れ親しんだ世界だった。

 

「保護者でもお世話係でもない。あんたが私を守ってくれるみたいに、私だってあんたを、あんたとエアリアルを守ってきたつもり。そりゃ私は、あんたみたいにモビルスーツ殴り倒すようなことできないわよ。それでもね、あんたに頼られて尻込みするような柔な女でもない」

「……知ってます、ちゃんと。ミオリネさんがすごく強い人だってこと」

「あんたに強いとか言われるの、それはそれでなんか嫌」

「なんでです!?」

「ふふっ」

 

 ミオリネは柔らかに笑った。

 

「進むのが怖くなったら、またこうして手握ってあげる。私が踏み出すのを躊躇ってたら、やっぱり手、握ってよ。あんたの手、頼もしいから」

「でも、私の手、ミオリネさんの手みたいにやわこくない、ですよ? 肉刺(まめ)とか潰れて、硬くて、筋張ってて……」

「バカ、それがいいの」

 

 今一度強く、ミオリネはスレッタの手を握った。

 スレッタもそっと、それに応えた。

 

「デートって、これで、いいんでしょうか?」

「さあ? わかんない。私もしたことないし」

 

 少女らは互いに顔を見合わせ、堪らず吹き出し、声を上げて笑った。

 

 

 

 

 

 

 通路の各所に設置された電光掲示板にレッドアラートが走る。

 エマージェンシーのサイレン、けたたましいまでの警告音。警告音。警告音。

 

 衝撃は文字通り、プラントそのものを震撼し、上下し、存分にシェイクした。

 内部に留まる者達には知る由もない。プラント・クエタのCブロックが区画ごと物理的に分断されたなどと。

 

 極めて破壊的異常事態を検知した施設管理システムは、プラントの瓦解を防ぐ為ダメージコントロールを実行。

 施設内部の随所で次々に隔壁が閉鎖されていく。

 

 

 

 給電がストップし、灯りの落ちた展望スペース。

 スレッタは初期微動を感じ取った時点で、ミオリネの頭を抱きかかえてその場に伏せていた。

 間違いなく防御態勢としての最適解。

 

 ……しかし結果として、スレッタの判断は悪手となった。

 

 その場に留まってしまったが為に、隔壁が下りた展望スペースに取り残されてしまったこと。

 そこには遮蔽物もなく、外部、暗黒を背にした宇宙空間側から反射光を放つ分だけ非常に目立つこと。

 

 ────プラントを周遊するモビルスーツのメインカメラに、少女らの姿は一目瞭然であった。

 

 暗闇の只中に浮かぶフォレストグリーンの人型。

 武骨に角張った装甲、大口径のビームガトリング、背部から左肩部へ伸びる巨大な砲塔。

 

『いひっ。ひひ、はははははっ! すごいすごいすごい! こんなにすぐ会えるなんて! 偶然? ううん、なんか運命感じちゃう! ふふふ、はじめましてだね』

 

 ルブリス・ウル。武装組織“フォルドの夜明け”擁する禁忌のモビルスーツ。

 コクピットに哄笑が響く。喜びの声。ソフィ・プロネは想い人の姿に歓喜した。

 

『スレッタ・マーキュリー』

 

 

 

「モビルスーツ……!? なんで、こんなところに」

「────」

 

 当然至極の驚愕を口にするミオリネ。

 対してスレッタの脳髄は、驚く、などという無駄な工程を踏まなかった。脊髄に紫電の如く走る戦慄が数秒後の未来を予言する。

 

「敵意が無邪気すぎる……躊躇しない。撃って来る! ミオリネさん!」

「え」

 

 ミオリネが疑問符を口にするより速く、スレッタは動いた。

 転身、謎のMS、暫定敵に背を向け、固く閉じられた隔壁へ踏み込む。

 上下から閉鎖した分厚い複合装甲扉、その接合部へと両手を打つ。

 

「はぁぁあああああッッ!!」

 

 乾坤一擲。貫手を刺し入れた。

 金属板が拉げ、歪み、割れる。委細構わず無理矢理に指先をねじ込む。

 空いた隙間を今度は純粋な腕力でさらにこじ開けた。小柄な人一人分、通れるだけの空間が。

 

「ちょっ、すごっ、やっぱりあんたバケモンね」

「早く! 逃げてください! 気密シャッターのラインの向こうまで! 急いでッ!」

 

 この期に及んでミオリネの反応は鈍かった。それはスレッタに対する信頼の厚さであり、少女の危機感を鈍麻させていた。

 スレッタはミオリネの体を持ち上げ、隔壁の隙間から奥へ放り投げた。

 

「きゃあっ!? なにすん────」

 

 抗議の声は、爆音に掻き消された。

 大気の流出、急激な減圧。

 ミオリネは顧みる。スレッタを、白い衣装のその姿が、青いビーム光に呑まれていく様を。

 

 スレッタ?

 

 風のうねりと轟音が少女の儚い声音を蹴散らす。大気流出と外壁の損壊を検知した施設内システムが即時気密シャッターを閉鎖した。

 ミオリネの悲鳴は金属の壁に阻まれ、ただ暗がりに響いた。

 

 

 

 

 

『……あ、やば。当てちゃった。あははは……テンション上げすぎたー。うわぁ、どーしよ。死んじゃった?』

 

 大破し、無数の金属片と部材を漂わせる外壁。

 無重力に蔓延する塵埃にソフィは視線(メインサイト)と各種センサーを走らせた。

 すると、煙幕の只中にその“白”を発見する。外に投げ出されたのだろう。

 

『あ~あ。つまんないの』

 

 ソフィは消沈して溜息を吐いた。

 そうして奇跡的に原形を留めたその死体を確認しようとして。

 その“白”が身動ぎするのを見た。

 

『うそ』

 

 動く。白い制服、赤い髪、暗闇に踊りたなびく。

 紛うことなき命の火を眼光に宿して、スレッタ・マーキュリーはその手を差し上げた。

 フィンガースナップ。

 

 ────ガンダァァァアアアアアアムッ!!!

 

 届く筈などない声が。

 響く筈のない叫びが。

 しかし、無窮の暗黒を超えてそれを呼ぶ。

 少女の半身。一機の家族。

 スレッタ、そしてルブリス・ウルの頭上遥か高く、外壁を打ち破って現れ出でる蒼の機影。

 

『!?』

 

 接近警報にソフィは即座に反応した。

 後退したルブリスの眼前を機体が過ぎ去る。

 開口したコクピットハッチにスレッタを取り込んで、振り返る。

 

 ガンダム・エアリアル改修型。

 

 蒼い両翼(バーニア)を背負い、全身に追加装甲を施されたエアリアル。

 そのコクピット内部では既にして、ファイティングスーツのフィッティングとペアリングを終えたスレッタが屹立していた。

 

『はっ、ははは、あっはははははははははは!』

 

 ソフィは笑った。歓喜を上回る歓喜。嬉しくて面白くて仕方がない。

 

『宇宙だよ? ジャマ―ばら撒きまくってんだよ? 生身で生きてるし。呼んだらホントに来た。スレッタ・マーキュリー! エアリアル! ふっはは、あははは! キャハハハハハハハハッ! 意味わかんない! ありえないくらいステキ! じゃ……やろっか』

 

 にわかに戦意を高揚させ殺意を研ぎ澄ませるソフィ。

 一方、エアリアル、スレッタは、そんなルブリスに目も呉れずプラントの外壁に一目散近付いていく。

 

『はあ?』

「ミオリネさん! ミオリネさん! 無事ですか!? 聞こえたら返事してください!」

 

 接触回線で内部に通信を繋げる。施設内のスピーカーを通してスレッタの声は響いている筈だが。

 応答はない。応答手段がないのか、回線が破断したのか、それとも。

 焦燥ばかりがスレッタの中に募っていく。

 

「くっ……!」

『無視とかひどくなーい? 私、傷付いちゃう。ねぇ、こっち向いてよ。さもないと』

 

 ルブリスがそのガトリングの砲口を差し向ける。

 エアリアルの背に、ではなく。

 プラントの外壁へ。その奥にいるだろう人間に。

 

『もっと派手に吹き飛ばしちゃうよぉ!』

 

 砲身が回転、その砲火が発射される────刹那、蒼の機影はルブリスの眼前に在った。

 ソフィの視覚はそれを認識していたが、肉体の反応は間に合わない。

 速度。圧倒的な速度。

 両翼の瞬間的発破、光にも等しい疾さで。

 エアリアルの掌がルブリス・ウルの顔面を掴む。

 接触回線によって、ソフィはスレッタの応答を初めて受け取った。その覇気、その怒声を。

 

「あなたと! 遊んでる暇!! ないんですッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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