水星武闘伝Aガンダム   作:足洗

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混戦狂瀾!それぞれの戦場

 

 

 

 

 

 半壊した宇宙港。搭乗橋や作業用タラップが(おどろ)のように折り重なり艦船を封じ込めている。

 ジェターク社保有の機動戦艦は初動の港湾区爆撃に巻き込まれ、推進装置が破損していた。

 

「ええい! 俺が出る!」

「CEO!?」

 

 ヴィム・ジェタークは激怒していた。デリング・レンブランの暗殺を企て、結果見事に又者あがりの小僧っ子に裏切られ、プラント諸共処理隠滅されようというこの有り様。

 

「虚仮にしやがってぇ……! 俺を敵に回したことを必ず後悔させてやる! 俺のこの手でな!」

 

 ヴィム・ジェタークは徹頭徹尾の現場主義者だ。というより、自らの手腕以外に信用を置いていない。

 極限状況。敵は目前。ならば自力にて叩く。銃爪は自らの殺意で引く。

 それは自己満足であり、彼なりの長としての一分でもあった。

 当然ながらヴィムの判断に諌めを入れられる社員などいない。

 

「お前達は巡回艦隊との回線捜索を続けろ! どうせ艦は動けんのだ。広域通信帯で手当たり次第増援要請をばら撒け」

 

 

 

 

 

 無数の弾痕が壁や床や天井に刻まれている。

 無数の砲火と硝煙と銃声と悲鳴が過ぎ去って、搭乗ロビーには静寂が戻った。

 ノーマルスーツを纏った兵士がぐったりと宙を漂い、あるいは呻き、苦悶を漏らす。

 死屍累々。地球寮生らを除き、この空間には無事な者などいなかった。

 

「いやいやいや死んでない……よな?」

「放っておいたら死にそうなのがチラホラ」

「ニカ姉を弾いた報いだボケ!!」

 

 銃創を負ったニカに肩を貸してチュチュが吼える。

 

「一分かからずこれか……まったく、呆れるくらい強いな。風雲再起」

 

 グエルの溜息交じりの称賛に、黒馬は素っ気無く鼻息を吹くだけだった。

 青年は自身の無力感と羨望を自覚しており、風雲再起もまたその気後れを察していた。

 昏倒する兵士にティルが近寄る。ヘルメットが無事であることを確認すると、少年はおもむろに兵士のそれを外した。

 

「な、なにしてるんですティル先輩?」

「やっぱり。この人達の通信端末、生きてるよ」

「あぁそうか……プラントの通信障害の原因って」

「人為的なもの、だと?」

「ジ、ジャミングってことかよ!?」

「たぶんね。でもそれなら、自分達の相互連絡の手段だけは絶対に確保してる筈。考えられるのは、中継器を使った短距離電波通信、レーザー通信、もしくは専用のアンチジャマ―。あとは……」

「ホッピング通信」

 

 ニカが痛みに顔を顰めながら口を開いた。

 

「短く等間隔にノイズが走ってる……一定の帯域内で周波数をランダムに切り替えてるんだ。でも、変更パターンさえ判れば傍受できるし、他の広域通信も拾えるかも」

「いやパターンたって」

「……船のコンピュータでなら解析できる。それで、スレッタとミオリネがどこにいるか端末捜索できる、と、思う」

「ニカ、君、なんでそんなノウハウ持ってるんだよ」

「授業では……やんねぇよな」

「……」

 

 マルタンの訝しげな問いに、ヌーノが軽口を添える。

 皆の視線を一身に浴びて、ニカは沈黙した。それは明らかに返答に窮した無言。

 

「今はそんなことどうでもいい」

 

 淀み掛けた空気をグエルの声が打ち払う。

 

「船に行くぞ。まずなによりプラント周辺の状況が知りたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇黒の宇宙(そら)に燐光が奔る。

 黄緑色のアフターバーナー。それを背負い、高速で蒼の機影が駆け抜ける。

 対する汎用量産機デスルターの反応は鈍い。いや、蒼の進撃が、エアリアルの機動があまりにも速いのだ。

 上段への足刀。

 擦れ違いに、それは敵機の頭部を刈り取った。

 エアリアルは反転する。

 転身の勢いをそのまま手刀に篭め、逆袈裟の軌道で背面のスラスターを切り裂いた。センサーと眼を奪い、機動力の要を破壊した。

 

『あっはは、念入りだぁ』

『……』

 

 雨霰とビーム光が降り注ぐ。二機のルブリスによる頭頂方向からの落下攻勢。

 合わせ撃ちとばかり、他のデスルター三機から実弾使用のマシンガンとロケット砲が発射された。

 断続的かつ敏速なスラスター点火、姿勢制御によってビームを躱すエアリアルへ、空間飽和の火力が追い打ちに掛かった。

 

「ふっ」

 

 極短い気息を吹き、スレッタは背部ブースターにマウントされたサーベルの柄を抜き放つ。

 ビーム刃の放出と共に、掌中で高速回転させることで砲火の尽くを斬り払った。

 爆炎と炸裂した弾殻や細かな鉄片は、むしろエアリアルの姿を隠す目眩まし。デスルターのセンサー、カメラ、なによりパイロットが索敵行動に演算と思考を割いたその瞬間を見逃すスレッタではない。

 

「隙あり! です!!」

 

 密集した三機の只中に突如エアリアルは出現した。

 そうとしか思えぬまでの速度。間合詰めの妙。

 目前の一機、肘打ちがその鼻面に刺さる。

 右側面の一機、繰り出された裏拳を敵機は銃身で防ぐ。が、続け様に放たれた左拳のアッパーカットがその顎を捉えた。

 エアリアルが背にした最後の一機。至近距離に在って即座に前腕のヒートブレードを突き出した。

 

「とぉりゃああッ!!」

 

 エアリアルの脚部が伸び、ブレードを蹴り砕く。

 死角からの攻撃に対する超反応。デスルターが身体を揺らす。それはパイロットの動揺と驚愕を如実に表していた。

 スレッタの右拳が、エアリアルの右マニピュレータが走る。打ち出される。

 後方へ逃れようとするデスルター。

 遅い。拳は確実に命中する。

 しかし。

 惑乱した敵機の動きはスレッタの予想をやや裏切った。スラスター操作を誤ったか、逸ったか。

 飛び上がる。上方へ。

 自然、その頭部を狙ったエアリアルの拳は目標を逸れ。

 その胸部へ。

 コクピットへ。

 

「っ!?」

 

 ぴたり、制止する。機体を静止させる。

 

『?』

『…………は?』

 

 這う這うの体で逃げ去るデスルターをスレッタは見送る。

 そして己のやり場を失った右拳を見る。

 (わだかま)る、躊躇。

 今の一撃は首を飛ばすつもりで打った。当たっていればコクピットを抉っていただろう。その()()諸共に。

 

『いやいや、いやいやいやいやそれはない。ないわぁ……マジでさぁ、ありえないんですけどスレッタ・マーキュリィィイイイ……!!』

「!」

 

 フォレストグリーンの機体が高速で迫る。

 スレッタは聞いた。通信に依らぬ意志の爆発。激しい怒りと怨嗟を。

 ルブリス・ウル、その内部からソフィ・プロネは失望を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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