水星武闘伝Aガンダム 作:足洗
半壊した港に停泊した艦艇、その艦尾ハッチがゆっくりと開く。
一機のモビルスーツが、瓦礫の舞う無重力下に進み出た。
デミトレーナー。チュアチュリー・パンランチ専用にチューンされた機体。半球形の頭部にはそれを示すブレードアンテナが一本屹立する。
『Cブロックの保安宙域に船影! たぶんこれが、敵……だと思う』
『な、なんか反応が一杯あって、めちゃくちゃに動き回ってるけど』
『戦闘だ。プラントの守備隊か、あるいは……スレッタ・マーキュリーの』
『どうする気だよ、先輩』
コクピットのシートで、パイロットスーツに身を包んだグエルが簡易システムチェックを終える。
そうしてヘルメットのバイザーを下ろし、操縦桿を握った。
『
『火器も無しに戦場に飛び込むの!? む、無茶だよ!』
『逃げに徹してやり過ごす。はっ、元ホルダー様を信用しろ』
『グエル先輩……』
船外活動を想定し、廃棄寸前の飛行ユニットを組み直し換装したデミトレーナー・フライト。
『デミトレーナー、出る!』
背部スラスターを点火して、グエルは一路宇宙に飛び出した。
星の煌めきがモニターを過ぎ去っていく。港の灯りさえ一瞬で遠退いた。
単機の宇宙飛行。
グエルは暗黒の中に戦火を探しながら、不意に独り、呟く。
『……それに、おそらく戦線には父さんがいる。そういう人だ』
『合流? どういうこと。私達の標的はデリングでしょ』
ルブリス・ソーンのビームショットガン、そしてルブリス・ウルのビームガトリングによる一斉射。宇宙の暗黒にパーメットとエネルギーの光が無数に散華する。
蒼い機影は、その細かに降り注ぐ火勢を躱し、時にビームサーベルで薙ぎ払った。高速で虚空を奔り抜ける鮮やかな残光はまるきり彗星の様。
『その追跡に向かったC班からの応答が途絶えた。おそらく全滅だ。最後の通信も、怪物に蹴り殺されるだの轢き殺されるだの……まったく要領を得ん』
『は? いや……は?』
『……言いたいことはわかるがな。プラント内に抵抗する勢力が存在するのは確かだ。残存のA、B班が暗殺を遂行する為にはそれを排除しなければならん訳だが……敵地の中で、兵力は分散状態、巡回艦隊の到着までそう時間もない。突入直後発見したトレーサーの捜索にも何故か手こずっている始末だ』
『じゃあどうするの? 白旗でも上げる?』
ノレアらしからぬ冗句だった。言外に、それだけは死んでも御免だとオンマイクで歯軋りまで響かせて。
『それもいいが、どうせなら次善策に移るとしよう。ベネリットグループ有数の研究開発拠点に三個小隊、今は二個小隊か、とにかく潜入には成功したんだ。破壊工作を施し、施設機能、生産能力を停止させる。職員方にもこの恐るべきテロの犠牲となっていただこう』
暴力主義者らしい凶暴さ、暴力信奉者らしい愚劣さをこそ誇示し噛み含めるようにナジは言った。
『なるべく傷物にしてから撤退するぞ。となれば、そのガンダムは邪魔だ』
アーシアンの武装勢力によってスペーシアンの独占企業が攻撃を受けたとなれば世論は紛糾する。マスメディアはスペーシアンの独壇場、支配下。スペーシアン側を被害者にして正当な権利者に仕立て上げるだろうことは確実だが、それはむしろ現世情を変えたい者にとっては都合がいい。それがアーシアンに対する憎悪を掻き立てるものであればあるほど、アーシアン側の反発も強まるからだ。偏重したパワーバランス、貧富と支配被支配関係、不満と鬱屈、憎悪は燻り続け、スペーシアンとアーシアンの軋轢はいつ爆発しても良い頃合い。
今は謂わば宇宙規模の乾季である。野火を放つには絶好の時期だ。
『既に本艦も後方支援艦二隻を随伴してCブロック外縁に向かっている。ああ、そっちのレーダーでもそろそろ捕捉できる距離だろう。それぞれの艦に搭載した80発のミサイルが置き土産だ』
『どうせなら核弾頭とかないの』
『無茶言うな』
『地球を汚された分、同じだけあいつらも、あいつらの作ったものも汚し返す。それの何が悪い……!』
通信の向こうでナジは肩を竦める。ノレアは徹頭徹尾本気だった。
憎悪の火は常に血のような鮮やかさで少女の胸奥に灯り続けている。
『レーダーに感。敵モビルスーツ四機、いえ五機目を確認』
カシュタンカとの通信に艦橋に詰めているレーダー手の声が交じる。
『足の速いディランザがいる……ナジ、なにを連れて来たの』
『まだいたか。展開中のモビルスーツ隊で迎撃しろ。オルコット、ベッシ、グリスタン』
黒いカラーリング。武骨な荒武者の如きシルエット。
堅牢な装甲とそんな機体重量を物ともしない大出力スラスター。
特殊仕様ディランザ・ソル。ヴィム・ジェタークの専用機である。
ヴィムは猪突して真っ直ぐに不審船へ進路を取る。
モビルスーツの集団がそれを阻んだ。飾り気を一切排したダークグリーンの汎用量産機。
『デスルター!? 我が社のモビルスーツを使っている!? テロリスト風情がぬけぬけと!』
ビームライフル、および胸部ビームバルカンを牽制として、先行する敵機デスルターの進行を鈍らせる。
ライフルの銃身からビームバイヨネットを生成し、下方へ抜けて刃先で胸倉から股下を斬り下ろす。
『思い知ったか! 奸賊めぇ!』
ヴィムのディランザ・ソルに付き従う三機の随伴ディランザも攻勢を始め、開かれた戦端が加速する。
火線を文字通り飛び越える蒼のガンダム・エアリアル。
そのコクピットの只中にあって、スレッタは攻めあぐねていた。
ルブリス・ウル、ルブリス・ソーン。二機の間断ない高射程広範囲の射撃に対し、どのように立ち回るべきかを。
「やっぱり、集まって来てる?」
敵機、敵集団が集結を始めたことも、スレッタの判断を迷わせた。
敵勢力の攻撃がスレッタ一人に集中することは、少女にとってむしろ都合がよかった。その分だけ他方への敵戦力が減ずれば、必然仲間達の危機も減ずる。
もし仮に敵の一部がプラント内に侵入していたとしても、地球寮メンバーの傍には姉弟子風雲再起がついている。万に一つ、彼女が斃れるなどということは絶対に起こり得ない。
スレッタは信じている。妄信している。それは純粋な信頼だったが、同時に思考停止でもあった。
スレッタの懸念はやはり一つ。あるいはようやく一つに絞られたと言える。
ミオリネ。大事な人。自分を花婿と呼んでくれる人。自分が守り、自分を守ってくれる少女。共闘する者。
だからこそスレッタはこの宙域に留まり続けた。ミオリネが先の爆発から無事に退避することができたのか、あるいはその場に留まっているのか。怪我は? 現在位置は? 内部の状況は? 全てがわからない。
迂闊に動けない。
スレッタ・マーキュリーは武人として鍛えられ、教えを授かった。
しかし未だ道半ば。流派東方不敗兵法の極意には至っていない。武闘と戦争の差異を肌で感じながら、理解はしていなかった。
スレッタは虚空の果てに艦影を見付けた。数は三隻、その周辺には無数の人型。モビルスーツ。
「? 敵と、誰か闘ってる? プラントの戦力?」
迷い。
躊躇。
混乱する状況。
守るべき人々。掛け替えのない人々。絆。
それが重く双肩に乗り、足を鈍らせる。だって大切だから。なによりも。
初めてできた友達。大好きな人達。
喪いたくない。
傷付けさせない。死なせない。
決意は拳に力を呼んだ。
しかし気負いは、氣の昂ぶりは硬直を生み少女から冷静さを奪った。
それが。
それが間違いだったのだろうか。
「! また一機、近付いてくる? あれって……」
スレッタがそれを自戒できたのはこれより少し後のこと。
『ノレア!? どこ行くのさ!? 今すんごいイイとこなのにさぁ!』
『しばらく一人で凌いで。母艦の援護に行く。それに、どうせそいつ、こっちを殺す気はないでしょ』
ぶつかった“フォルドの夜明け”とジェターク艦載機集団。趨勢は常道としてやはり、兵力兵数の多寡で傾き始めた。
数に劣るジェターク側の不利。
『ちぃっ! 忌々しい盗人共がぁ! こんな数のデスルターをどこから……あの養子野郎かっ!!』
既に味方機は堕とされ、ヴィム機は孤立している。
テロリストの兵力としては明らかに異常な数のモビルスーツ。
憤怒を滾らせながら、ヴィムは現にそれを発した。突如急旋回したディランザ・ソルがその背面を敵集団へ晒す。
そこには計六セルのミサイル発射口が備わり、そこから一挙に六発のミサイルが射出された。
さらに躍り出た鉄筒の外装が剥がれ、内部に整列した小さなクラスターミサイルが植物の種のように空間にばら撒かれる。
周囲の熱源を自動追尾する小型誘導弾。噴煙を引きながらその死の芽は、逃げ惑うデスルター二機に殺到し爆散させた。
『どうだぁ!?』
戦火の、戦争の熱気にヴィムが荒く吼える。
渦巻く爆炎。
その熱気こそがほんの刹那、センサーの感知を遅らせた。
接近警報。
『なに!?』
『調子に乗るな。スペーシアン』
ビームライフルが煙幕を貫き、ディランザ・ソルの右腕を撃ち落した。
ルブリス・ソーン。
ディランザの胸部ビームバルカンの盲撃ちも、集弾性の低さと、なによりガンダムの並外れた機動性を前に敢え無く躱される。
到底目視で捉えられる速度ではない。スレッタ・マーキュリーの動体視力こそが異常なのだ。
『消えろ』
『こ、の……!?』
カーキ色の機影をヴィムがその目で捉えた時にはもう遅い。
銃口は至近。
狙いはコクピット。
操縦桿、銃爪に少女の指が掛かる。
ヴィム・ジェタークという男の、半秒後の死を約束する。
ディランザ・ソルは────突如、その黒い機体は弾け飛んだ。横合いから現れたモビルスーツの体当たりで。
『……!?』
ノレアは驚愕を覚えながらあくまで冷徹に、反射の赴くまま銃爪を引く。
エネルギーの弾丸が、拡散する。ディフューズガンの設定は散弾。密集した敵機が二機。一挙に排除する良い機、良いタイミング。それは彼女なりの合理性だった。
『……ちっ』
ビームの火勢に晒されながら敵機は爆散しない。躍り出て来た機体は手にしたトマホークを盾にしていた。
四肢や頭部を焼かれながら、ディランザと闖入者の機体は離脱していく。
『くっ! ライフルごと右腕が……おい! お前! ブリオンのデミトレーナーか? プラントの守備隊だな!?』
ヴィムは通信機に怒鳴り付ける。自機に纏わり付いたまま離れようとしない機体に苛立ち、残った左腕で小突く。
『損傷したか? えぇい、生きてるならとっとと失せろ! 俺の邪魔を────』
『父……さん……』
『────あ?』
接触不良と損傷によって千々に砕ける音声に、その声に、ヴィムは硬直した。言葉を失くし、どうしてか震える指先で外部カメラを切り替え。
ビームの熱波によって赤熱し、破れたコクピットハッチ。その奥に。
パイロットスーツの男、青年が。
随分、久しい。だがヘルメットのバイザー越しでもわかる。見間違えよう筈もない、その顔。
『グエ、ル……?』
『無事……ですか……』
『グエル、何故だ。なんで、そんなところに』
『……よかっ、た……』
ディランザの左マニピュレータを操り、指先から消火剤を散布する。宇宙戦闘で損壊した自機や味方機、艦艇等への応急的な処置。無意識にそんな真似ができたのは、眼前の現実をヴィム自身が処理できなかったからだ。
脳が理解を拒んでいる。
息子が、こんなところで、モビルスーツに乗って、被弾している。
『グエル……グエル!!』
エアリアルの眼はそれを見ていた。
スレッタ・マーキュリーはそれを見ていた。
ディランザのコクピットから飛び出した人影が、デミトレーナーの、どうしてかここにあるチュチュ専用機のコクピットから。
引き裂かれ焼かれたコクピットから、彼を引き摺り出した。
ぐったりと、糸の切れた傀儡のような彼を。
グエル・ジェタークを抱いて。
泣いている。叫んでいる。
声など聞こえはしない。宇宙の暗黒は何もかも吸い取ってしまうから。
それでも少女の耳には聞こえた。悲痛に、我が子を掻き抱く父の絶叫を。
「あ……ぁ……」
どうして動かない。
青年は、虚空に浮かんだまま、まるで物のように、生きていないかのように。
まるで、まるで、死んでるみたいに。
「あぁっ、あぁぁあああぁあああぁあああああ」
頭を抱えてスレッタは
フレームを軋ませエアリアルは
その時、ルブリス・ソーンが損壊した二機にライフルを向けた。
スラスター最大噴射。エアリアルは銃口の前に躍り出る。その手を翳す。
射線は正確に右手を貫き、やや逸れてエアリアルの右目を抉った。
『ちょっ、ノレア! ずるいじゃん! 私のなのに!!』
『抜けられるあんたが悪い。それに……こいつも』
腕と眼を失ったガンダム・エアリアルを見下ろし、ノレアは軽く吐息する。呆れ、侮蔑、嘲弄。
単機で驚くべき戦闘能力を持ちながら、味方の被弾に泡を食う様のなんと無様なことか。
『あーあ、つまんない。これで終わり~? じゃあせめて、皆仲良く殺したげるよ』
ソフィは心底残念そうに唇を尖らせる。ルブリス・ウルの残った左腕でビームガトリングの銃口を三機へ向ける。
『バイバーイ。スレッタお姉ちゃん!』
高速回転する砲身、砲口が唸りを上げ、パーメットの青い弾雨を降らせた。
「やっと繋がった! 外部カメラ」
プラント内部サブコントロールルーム。
ノーマルスーツをきちんと着用したミオリネがコンソールの操作に四苦八苦すること十分。
デリングが操作盤を開き、予備電源と有線通信を紐づけして機能を回復したことで、ようやく施設の監視装置の一部を起動できた。
カメラが周辺を見渡し、ある一点にレティクル表示を向ける。
「船とモビルスーツ。あれが敵ってわけ」
「ああ、どうやらあの輸送船……あれを隠れ蓑にして保安宙域まで侵入したようだな」
「だからって巡回艦隊がこんなに接近を許すなんて。まさか、内部で手引き……」
不意に、ミオリネは蒼い機体を見た。
姿は変わっているが紛れもない。
「エアリアル! スレッタ、生きてるのね……え?」
モニター上で拡大された機体は損壊していた。身動ぎ一つしないその様をミオリネが心配する間もなく、異変は現れる。
「スレッタ……?」
光が溢れていく。
『スレッタ』
暗い格納庫の中で、女は呻く。疼く右腕を擦り、笑顔で謳う。
喜びを。
祝福を。
『おめでとう。また一つ、成長してくれたのね』
秒間数十発、夥しいビーム弾が霧散する。消えてなくなる。
その装甲に触れることすらなく、光の中に。
エアリアルの放つ光が。
『なっ』
『ソフィ!』
ノレアは呼び掛けながら銃撃した。設定はライフル弾。収束したビームエネルギーは貫通力を以て敵機に命中……しない。
光の前に掻き消える。
それは肥大して、広がり、燃え上がる。暗黒を焦がす。
『なんだ、これ。パーメット? 違う……なんなんだよ、この光』
『ノレア、あれ』
ルブリス・ウルが砲口でそれを指し示した。
光がより濃く集中する箇所、欠損したエアリアルの右腕と右目。傷口。その奥から、
それはフレーム。電装。コード。配管。合金。装甲材。
肉か、血管のように盛り上がり、寄り集まり、縒り結ばれて。
右腕が生えていた。
右
『し、修復した……生き物みたいに……こいつっ、こいつは……!?』
ゆるさない
暗黒の只中に響く。静かな声音。宣言。宣誓。
「ゆるさない……ゆるさない。ゆるさない! 地球寮のみんなを危険に晒し、あまつさえ……グエル先輩までも……ゆるさない! ゆるさない!! 許さないッ!! 私はあなたを……いや、お前達を!」
バーニアのスラスターフィンが開く。
肩部アーマーがせり上がり、内部のシェルユニットを露出する。
脚部装甲が開き、サブバーニアおよび排熱機構が外部に晒される。
そして、忌まわしき敵機を見据えるエアリアルの
赤い口腔、赫怒の牙を。
「絶ぇっ対に許さないッッ!!」
ガンダム・エアリアルに機体各所に装備されたガンビットが弾けるようにパージし、その周囲を舞い踊る。
パーメットのエネルギー、光が渦を巻く。際限なく。無限の螺旋を描き、空間に飽和する。
その中心に在るエアリアルの眼前に、ガンビット達は舞い降りた。次々と重なり、一つに。
柄へ、鍔へ、剣身へ。一振りの諸刃の剣へと変貌する。合体する。
「私のこの手が光って唸る!」
両掌を叩きつけるようにエアリアルは、スレッタは剣を握った。
「お前を倒せと輝き叫ぶッ!!」
全身のエネルギーというエネルギー、腹の底、肉体のあらゆる箇所で練り上げ回転し暴走する力の全てを腕から剣へ。
一刃と成す。
剣の切先、パーメット放出口より肥大し、伸び上がるエネルギー、ビームの刃。
巨大な剣が宇宙の暗黒に屹立した。
「喰ぅらえ! 必殺必滅のぉぉぉおおお!! エアリィイフィンガァアアソォォォオオオオオオオオドッッッ!!!」
爆風すら伴ったスラスターの発破。一機のガンダムはまさしく砲弾の速度で。
上段から斬り下ろす。
小細工も工夫も手心も一切合切振り捨てた、巨大強大なる唐竹割り。
「面! 面!! めぇぇぇええええええええええええんッ!!」
『……あぁ、死ぬんだ私』
極光が
ソフィはうっとりとその綺麗な光景を見上げていた。
『ソフィィッ!!』
ノレアは傍らの相棒を蹴り飛ばした。
その脚を持って行かれる。
弾かれたルブリス・ウルにしても、ビームガトリング内蔵の盾と左半身を溶断された。
『ぐ、ぁっ!?』
『くぅぅう……!!』
『ノレア! ソフィ! 下がれ! モビルスーツ隊一斉射! 艦砲もだ! 弾幕を張れ! ありったけ撃ちまくれ!』
ビームとミサイル、二隻の戦艦による対空砲撃。弾幕の名に相応しい分厚さで火勢は空間を制圧する。
指定された離脱コースに誘導されながら、ウルを掴みソーンは飛翔する。カシュタンカに全速で後退する。
それをエアリアルの赤熱したカメラが捉えた。
「逃がすかぁぁあああああ!!!」
デスルターの集団が前へ出る。
たった一機。展開し切ったモビルスーツ隊が準備万端に待ち受けるこの状況。相手は包囲殲滅の的でしかない。
その筈だった。
『ダメ! そいつは!』
ノレアの制止虚しく、十数機から成るデスルターの分隊はエアリアルの一薙ぎによって消えた。一刃の光の波の中に。
塵一つ残りはしなかった。
戦艦二隻がその主砲を向けた。
エアリアルは真っ直ぐに飛ぶ。回避行動も攪乱飛行も一切執らない。
艦砲射撃ですら狙い撃つのは容易かった。
パーメット粒子の巨砲が火を噴く。瀑布の如き暴流は、小さなモビルスーツを確実に飲み下した。
粒子砲の波間────裁ち割って剣が伸びる。
砲撃を斬り裂き、エアリアルが進む。ひたすらに進む。
邪魔するものは全て斬り捨てて。
全て。
「アアアアアアアアアアアアアッ!!」
巡洋艦クラス。全長300メートル近い艦船に切先が叩き込まれた。
艦首から横腹から艦尾へ。横一文字。戦艦は二つに分裂した。甲板が宙を踊り、船底が沈んでいく。
程なく爆散した船の余波を借りるが如く、エアリーフィンガーソードの刺突がもう一隻を射貫いた。
捻じり、刃を抜き放つ。
内部を熱光波で存分に掻き回された艦艇は一瞬球形に膨らんだ後、爆発四散した。
エアリアルは無傷。
憤怒の炎は尽きず、船の瓦礫と残骸の只中から、それでも断じて怨敵を見据えて放しはしなかった。
『化物か』
それを口にしたのは誰か。ナジ、ノレア、オルコット、あるいはこの場、この時、このガンダムを目撃したあらゆる人物が発した。
目覚めさせてはならない何か。それはまだ、身動ぎし始めたばかりなのだ。
一期最終話のバスターライフル見てからこれしか浮かばなかった。