仮面ライダーラセン   作:赫牛

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二人目(1)

 どうしよう。

 パスタの味がしない。

 何も味を付けていないなんてことはない。調味料だってたっぷり使ってあるし、何より目の前にいる師匠が美味しそうに食べている。

 味覚障害の主な原因は亜鉛不足らしい。またウイルスや神経疾患、口内の乾燥なども関係がある。そしてストレスも、舌の違和感を生じさせるものの一つだ。

 何が言いたいかと言うと、今俺は味覚が変わる程のストレスを感じていると言う事だ。その原因なんて、分かり過ぎるくらいに分かる。

 ポケットが熱い。仕舞い込んだ結晶は存在を主張するかのように熱を発している。

 

『君は君の思うがままに、その衝動のままに突き進めば良い』

 

 思うがままってなんだ?衝動ってなんだ?

 このクリスタルを使って俺に何をしろって言うんだ?

 このクリスタルを使って、俺は何がしたいんだ?

 

 ベッドに寝転びながらかざした手にはあのクリスタル。月明かりに照らされて静かに燃えている。

 改めて見ると、結構綺麗だ。竜って言うのもかっこいい。ずっと持っていると不思議と手に馴染んで、その煌めきから目を離せなくなる。

 

 師匠に話すべきだと思う。

 けど何故だかそう言う気にはなれなかった。これを手放してしまったらきっと後悔すると思う。そんな気がしてならない。何と言うか、本能でそう感じる。

 無論ヴァーミンになるつもりなんて無い。ある訳が無い。

 ある訳無い……よな?

 

 

 

 

 

 濃い霧の中にいた。

 

「父さん?母さん?」

 

 呼びかけても応えは無い。霧はますます濃くなって、整えられた林の中を歩いているのに正しい道が分からない。

 歩き、時折石や木の根に躓いて、それでも歩くと、何かが聞こえてきた。呻く様な、助けを求めるような声。

 走る。走って走って、それを見つけた。

 

「何だあれ……」

 

 それは人型だが人ではなかった。蛇の頭を持ち、怪しく光る鱗を纏った、人ではない何か。そいつから伸びる触手の様なものが何かを掴んでいる。徐々に霧が晴れて、触手が掴んでいるものの姿が現れる。

 

「父さん……母さん!」

 

 二人の首に触手が巻き付き締め上げている。首が軋む音が鮮明に聞こえてくる。

 

「やめろ!放せ!」

 

 走り出そうとした瞬間に強い衝撃が来て反対方向に吹き飛ばされ、次の瞬間に背中からの衝撃に襲われる。霞む視界の中で触手が化け物に吸い込まれていくのが見えた。

 

「父さん……母さん……」

 

 伸ばした手は果てしなく遠く、二人の手には届くはずも無く。

 最初に父さんの手から力が抜けた。頭がだらりと垂れ下がり、視線が合わなくなる。

 

「真哉……」

 

 母さんが伸ばした手を取りたい。でも立てない。母さんの目の輝きがどんどん弱くなっていく。

 そして母さんは目を閉じた。手と手はついに重ならなかった。

 

「あ、あ……」

 

 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。

 

「あああああああああ!」

 

 叫んだ。ただ叫んでいた。叫ぶ事しかできなくなっていた。

 悲しみが溢れ、零れたものが涙に変わって、自分の中の何もかもが流れていった。

 

 化け物は二人を捨てると、今度は俺に向かって歩いて来た。何対もの蛇の眼が俺の姿を映している。

 怖くはなかった。その姿を見た瞬間、器の中の水が全部蒸発した。

 俺を中心に炎が広がる。木々が燃え、葉が焼け落ちて炎の涙を流す。

 目の前の化け物が憎い。父さんと母さんを殺したあいつが憎い。

 復讐だ!復讐しろ!

 炎がうねり、竜の形を作る。俺の周りには何も無く、化け物だけが目の前に立っている。

 復讐しろ!復讐しろ!

 竜は俺を飲み込み、俺の体を燃料として更に燃え盛る。俺は全てを燃やす炎になった。

 復讐しろ!復讐しろ!

 復讐しろ!

 復讐しろ!

 

 

 

 

 

 目覚めた時、心臓が早鐘を打っているのが分かった。

 浅い呼吸をし、体が熱い。大量の寝汗で肌がべたつく。

 手に違和感を感じて見ると、クリスタルがあった。どうやら握ったまま眠ってしまったらしい。

 

 さっきのは何度も見る夢、記憶のリプレイだ。

 目の前であの化け物に両親が殺される。俺は何もできず、ただ見ている事しかできない。何度も見た悪夢の様な現実。

 でもそれは化け物が迫ってくる所で終わっていたはずだ。

 炎。全てを燃やし尽くす炎。今まで感じたことの無い激しい怒りに塗りつぶされ、俺の全てが燃えていた。

 怖い。

 化け物じゃなく、激しく燃えていた自分が怖い。

 手の中のクリスタルは、変わらず熱を発していた。

 

 

 

 

 

「おはようございます……」

 

「おはよう……どうしたのその顔、大丈夫?顔洗った?」

 

「洗いましたけど……」

 

「そっか。まあご飯食べたら血色も良くなるかな」

 

 トースターが小気味よい音を立てた。師匠がバターを塗り、皿を並べる。今日の炊事当番は師匠で、食卓には当然のように朝食が用意されている。

 

「いただきます……」

 

 トーストはバターの塩味の中にしっかりと小麦の味がして美味しかった。朝番組はメジャーリーグで活躍する日本人選手が打ち立てた記録について報じている。

 

「偶にはコーヒー飲む?」

 

「師匠の作ってくれた紅茶の方が美味しいですよ」

 

「褒めても何も出ないよ。まあ嬉しいけど」

 

 ゆったりと始まった朝。夢は所詮夢でしかなく、現実を生きている俺たちには何も影響を及ぼさない。だから不安になる事なんて無い。

 

『……暴走する仮面ライダー、一体何があったのでしょうか』

 

 ん?

 今良く知っている単語が聞こえてきたような。仮面ライダーって言ったか?ならよくある事だ。師匠が解決した事件がニュースになる事なんてざらにある。

 でも最初の方に妙な言葉が付け足されていた気がする。暴走って?

 

『きょう未明花恵市北区の路上で男性2名が倒れているのを、近隣住民が発見し警察に通報しました。男性らはその後病院に運ばれましたが、今も意識不明の重体です。警察によりますと、目撃証言を総合した結果、容疑者は仮面ライダーであると見て、捜査を進めています』

 

『男の人の叫び声が聞こえて外に出てみたら、変な格好をした人が相手を殴っていて……怖かったです……仮面ライダーだったかもしれないです。もしかしたら』

 

『次のニュースです……』

 

 俺は師匠を見た。

 師匠はポットを傾けたまま、テレビの方を見て静止している。珍しく口がぽかんと開いたままだ。ポットから少しずつ垂れる紅茶はカップを満たし、端から静かにこぼれ出ている。

 師匠と目が合い、またテレビの方を見る。番組ではいつもの調子でコメンテーターが情報の信憑性について討論している。

 ……。

 

「は?」

「は?」

 

 

 

 

 

「どう言う事?」

 

『アタシの方が聞きたいくらい。皆仮面ライダー(あんた)がやったって証言してる』

 

 そんな訳無い。昨日は間違いなく自分のベッドで寝たし、そもそも(仮面ライダー)がそんな事をするはずが無い。

 

『あんた、とうとうストレスでおかしくなっちゃったの?』

 

「もし本気で言ってるのなら今すぐ警察署まで飛んで行ってその頭ひっぱたいてあげる」

 

『ごめんごめん冗談だって』

 

 全くこっちは真剣だと言うのに。

 

「皆が仮面ライダーって言ってるのは、ヴァーミンを見間違えたんじゃなくて?」

 

 長年ヴァーミンを見て来た身としては、そう言う事があってもおかしくはないと思う。ヴァーミンにはゴテゴテした外見のものが多いが、偶にほぼ人と変わらないシルエットのものもいる。この前戦ったオルトロスなんかもそれに近い。今回もそう言う類なのでは?

 

『アタシも最初はそう思った。でもね……』

 

「でも……?」

 

 電話口の向こう側で桜が息を吸った音がした。そしてその次の言葉はやけに良く聞こえた。

 

 

 

『そいつはあんたにそっくりだった……顔も、格好も、着けてるベルトも』

 

 

 

「……ベルト?」

 

『だからベルト着けてたんだって。機械で出来た変なベルト、あんたが持ってるみたいなさ』

 

「そんなの初耳なんですけど」

 

『そりゃそうでしょ。さっき現場周辺の防犯カメラを調べた所で、まだ民間には出回ってないんだから。何でもSNSに載ってると思ったら大間違いだよ、楓』

 

「ぐぬぬ……」

 

『まあ昼頃になったら出回ると思うからそっちで確認して……ごめんそろそろ行かないと』

 

「分かった。また何か分かったら連絡して」

 

『勿論。じゃあ頑張って、色々』

 

 つー、つー、と言う電子音が聞こえてから電話を切る。

 

「色々、かぁ……」

 

 確かにこれは厄介な事になった。疑いが晴れるまで警察とか人の目とかで面倒が起きかねない。

 だがそれよりも、だ。

 2つ目のドライバー。そんなのお父さんたちから聞いた事も無い。ラセンドライバーはこの世に一つしか存在しないはず。私が唯一の仮面ライダーのはず。

 確かめないと。

 

 

 

 

 

『……付近の防犯カメラの映像が公開されました』

 

『人気の無い道を猛スピードで走り去るバイク。それに乗っているのは、全身を鎧に包んだの謎の人物。拡大してみると……』

 

 モノクロの映像を黒の人影が横切っていく。画面は切り替わり、街頭インタビューに答える人たちが映し出される。

 

『仮面ライダー!……仮面ライダーですね……』

 

『花恵市を中心に目撃情報が寄せられる、仮面ライダーを名乗る人物。その外見は、防犯カメラに映る人影に良く似ている』

 

 誰がいつ撮ったかも分からないバイクに乗った仮面ライダーの画像が防犯カメラの映像の横に並べられる。確かに似ている、と言うかそう言うレベルじゃない。顔も鎧も全く同じに見える。

 その腰に着けたドライバーでさえも。

 隣に立つ師匠はいつになく難しい顔をしている。

 

「あの、師匠——」

 

「まだ分からないよ良く出来たコスプレかもしれないでしょ同じクリスタルを使って変身する可能性なんて0に近いしそもそもドライバーがもう一つあるのが有り得ないんだから」

 

「……まだ何も言ってないじゃないですか」

 

 相当頭に来てるみたいだ。

 自分の偽物が出た事も重要だが、やはり気になっているのは2つ目のドライバーだろう。

 ただのコスプレなら警察に頼めば良いだけだが、もしこのドライバーが本物だとすると話は変わってくる。師匠と同じ力を持ったやつがもう一人いて、その上で人を傷つけた。これまで師匠たちが築き上げてきた信頼が失われかねない事だ。怒りも当然だろう。そしてそれは俺も一緒だ。

 テレビは再び街中を映す。

 

『いつかはこう言う事になるんじゃないかなって思ってました……』

『第一どこの誰かも分からないしねぇ……』

『誰でも良かったんじゃないの?』

 

「っ……」

 

 手がリモコンに伸びて電源をオフにした。

 

「見てたのに」

 

「でも、あんな事言われるの、おかしいですよ!」

 

「別に皆が皆そう言ってる訳じゃないんだからさ。あれくらいスルーしないと」

 

「ですけど……」

 

 なんだよあの人たち。今まで散々仮面ライダーに守られてきたくせにあんな手のひらを反す様な事言って。

 自分の身を犠牲にしてまで、あんな事を言う人を助けないといけないのか?もし自分がラセンだとして、あの人たちを守れるのか?

 どんどん黒く染まっていく思考を遮る様にして警報が鳴った。

 

 

 

 

 

 クリスタルの反応が示したのは北区の都市部だった。

 警報が鳴ってから15分程経っているから移動したのだろう。目的地に向かう途中で発砲音が聞こえたのでそちらへ進路を調整する。

 やがて前方にパトカーが数台停まっているのを認める。その先の広場でヴァーミンが警官に襲い掛かっており、既に何人かの警官は倒れ痛みに呻いている。スピードを緩め、パトカーの手前でバイクのエンジンを切った。

 

「警察の包囲の外で待機してて」

 

「でも……」

 

「分かった?」

 

「……はい」

 

 こみ上げてくる謝罪の言葉を飲み込んで、代わりにクリスタルを装填する。

 

「変身!」

 

 走り出す私に風が追随する。大きく跳躍した私の体を風が包み、一瞬の内に鎧を纏わせた。そのまま道を塞ぐパトカーを跳び越え、風の流れを利用して身体を運び、警官を押し倒そうとしたヴァーミンに跳びかかる。地面に投げ出された後すかさず起き上がり、ヴァーミンが立ち上がる前に跳びついてマウントをとる。

 ヴァーミンの外見はネコ科の動物……模様や身体つきを見るにジャガーだろうか。鋭い爪が生えた腕を振り回して抵抗するが、私の鎧には傷一つつかない。この分だとクリスタルの出力は低い。ぱっぱと片づけられそうだ。

 腕を片手で押さえつけ、自由な方の腕で顔面を殴りつける。なおも抵抗しようとするのでもう一発。少し力を込めた一撃でヴァーミンの腕から力が抜け、微かに呻き声が聞こえてくる。

 立ち上がり、ドライバーを叩いてエネルギーを腕に集中させる。ふらふらと立ち上がったヴァーミンのがら空きの胴に拳を打ち込み、十数メートル吹き飛んだヴァーミンは起き上がる事無く、全身を駆け巡ったエネルギーが爆発した。ヴァーミンの身体から勢いよく飛び出したクリスタルは空中で砕け散った。

 

 戦闘と呼べる様なものが起きる前にヴァーミンは鎮圧された。

 クリスタルも壊したし、後は犯人を警察に引き渡して終わり……って言いたい所なんだけど。

 

「う……動くな!」

 

 上ずった声、恐る恐るながらも銃を構えた警官が近づいてくる。正面から向かって来るなんて、勇気のある人だ。

 気付けばそこかしこでサイレンが鳴り、パトランプの赤い光が目を刺す。

 

『仮面ライダー!両手を上げて膝をつきなさい!』

 

 拡声器越しに声が響き渡り、警官の輪が徐々に縮まっていく。

 この街の警察は、私が思っていたよりも勇敢だった。街を守ると言う使命のために、仮面ライダーなんて得体の知れないものに立ち向かってくる。それが正しい事かは兎も角、賞賛に値すると思う。

 でも悪いけど、素直に捕まってあげる程私は優しくない。

 元から警察と馴れ合うつもりなんて無いから、関係が多少こじれた所で問題は無い。お尋ね者になるのを嫌がっているようでは、仮面ライダーなんてやってられない。

 仕方が無いから飛んで逃げて、後で弟子クンと合流しよう。

 

 足元に風を集めようとした時、どこからともなくバイクの音が聞こえてきた。

 こっちに一直線に近づいてくる。

 そしてパトカーのバリケードを跳び越えてそれは姿を現した。

 陽光を反射して輝く金のバイク。そしてそれを駆る人物もまた、金の鎧に身を包んでいる。ラセンに比べ細身のそれは揺らめく炎の様に模られ、2本の触覚を冠する頭部には大きな青い瞳が輝いている。

 その姿は正に。

 

「仮面ライダー……?」

 

 思わずそう呟いてしまった。

 派手な登場をしたその何者かは、バイクから降りると、私を指差した。

 

 

 

「仮面ライダー、私が貴方を、倒します!」

 

 

 

 そう来たか。

 警官たちが呆気にとられる中、金の仮面ライダーが腰を落としその姿が揺らめくと、次の瞬間には目の前まで拳が迫っていた。

 

「なっ……!」

 

 ギリギリで躱した拳はそのまま振り下ろされ、舗装された地面をいとも簡単に陥没させた。

 

「嘘でしょ……?」

 

 こいつ、本物だ。

 相対した時点ではまだコスプレと言う可能性も残っていたが、目の前の光景を鑑みるにそれは100パーセント否定された。

 こいつは私とは違う仮面ライダー。つまり腰に着けられたそれは。

 2つ目の、ドライバー。

 

「やあっ!」

 

 仮面ライダーが振り向きざまに放ったハイキックを咄嗟に腕でガードするが、勢いを完全に殺せず後退る。顔を狙った拳を寸での所で躱し、カウンターで胴に拳を打ち込む。怯んだ仮面ライダーだったが、すぐに体勢を立て直して殴りかかってくる。

 頭の中で状況を整理する。

 声から推測するにおそらく女性だ。バイクのテクニックもそれなりにある。得物は無し。移動速度が尋常じゃなく速い。ラセンになって感覚が研ぎ澄まされていても、目の前に来るまで反応できなかった。

 この仮面ライダー、動きはそこまで洗練されている訳ではない。しかしパンチやキックの威力が兎に角出鱈目だ。まともに受けるのは不味い気がする。

 そして何より不味いのは、警官がいる事だ。このままだと私たちの戦いに巻き込まれてしまう。彼らを庇いながら戦える程、敵は甘くはない。

 一先ずここから逃げないと。

 仮面ライダーに向かって走りながら足元に風を集める。肉薄する寸前で高く跳躍し、風で更に距離を稼ぐ。前転して受け身をし、バイクの元へ走る。

 

「師匠!」

 

 すぐ傍に隠れていた弟子クンが駆け寄ってくるのを制する。

 

「ごめん、後で合流する!」

 

「え?ちょっと——」

 

 弟子クンが言い終わる前にエンジンをふかし、バイクを走らせる。後ろからもう一つの走行音が聞こえてくる。金のライダーが私を追ってくる。

 ギアを最大まで引き上げ、風を切って人気の無い場所を目指す。

 

 

 

 

 

 辿り着いたのは工場の片隅。ここまで誘導したと言うよりは、ここで追いつかれてしまった。

 後ろにいたはずなのに、いつの間にか追い越されて前で待ちかまえていた。観念してバイクから降り、再び正面から見据える。

 

「私を倒すって、どう言うつもり?」

 

 金の仮面ライダーは応えない。ファイティングポーズをとり、その姿がまた揺らめいた。

 来る、と思った瞬間には拳が目の前にあって、受け止めるのがやっとだった。突き出された左腕も受け止め、力比べが始まる。

 

「どうしてこんな事をするの?貴方も仮面ライダーなんでしょ?」

 

「っ、やあっ!」

 

 相変わらず質問には応えない。攻撃の手は止まず、徐々に受け止めきれなかった拳や蹴りが鎧を傷つけていく。

 応える気が無いのなら、こちらにも考えがある。かなり疲れるから避けたかったが、こうなっては致し方無い。

 距離が離れた隙をつき、ドライバーを叩く。エネルギーを腕や脚ではなく、全身に充填させる。全身が薄く緑のオーラを纏う。

 腰を落とし、踏み出すと一瞬の後に仮面ライダーへ肉薄する。

 

「えっ!」

 

「はあっ!」

 

 拳を振り抜き、受け止めきれなかった仮面ライダーは大きく後退る。それを逃がさずまた一歩踏み出し、胴を狙ってキックを放つ。防ごうとした腕をすり抜け脇腹を捉えた脚を振り切る。ふらついた所に更に一撃を加える。クリスタルのエネルギーによってブーストされた攻撃が仮面ライダーの鎧を削り取っていく。

 

「たあっ!」

 

 大きく振りかぶった拳が胸を捉え、仮面ライダーが吹き飛んだ。

 相手は肩で息をしているが、それはこちらも同じ。次が最後だとお互い感じ取ったのかもしれない。私がドライバーを叩くと、仮面ライダーもドライバーの右側面を叩いた。

 私の脚に風が集まるのと同時に仮面ライダーの脚で金のオーラが揺らめく。地面を蹴ったのも同時だった。高く跳び上がり、右脚を突き出す。

 

「はあっ!」

 

「やああああっ!」

 

 キックがぶつかり合い火花が散る。翅の形に変わったエネルギーを極限まで細めて少しでも推進力を稼ぐ。右脚に伝わってくる振動がエネルギーの大きさを物語っている。

 中心に集まったエネルギーが弾け、その勢いで大きく吹き飛ばされる。何かに背中をしたたかに打ち、一瞬呼吸ができなくなる。鎧が形を保てなくなり、変身が解除された。

 

「っ……うぅ」

 

 全身を痛みと疲労感が襲う。立ち上がるのがやっとだ。変身が解けた状態で攻撃されれば命に関わる。

 だが攻撃は来なかった。立ち昇る土煙が少しずつ晴れ、こちらに近づいてくるシルエットが露わになる。向こうも変身が解除されていたらしく、正面に立った女性の黒い瞳が私を睨みつけていた。

 遠くからサイレンが聞こえてくる。それに気付いた女性は一層私を睨む。

 

「仮面ライダー……私は、負けませんから」

 

 そう言い捨てるとふらふらとバイクに跨り、私に背を向けて走り去っていった。

 

 2つ目のドライバー。二人目の仮面ライダー。

 彼女は一体。

 何のために私を襲うのか。何のために戦うのか。

 何のために仮面ライダーになったのか。

 今の私には分からない。

 

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