仮面ライダーラセン   作:赫牛

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二人目(2)

 彼女は決して一番星ではなかった。

 

 1年程前、いつもの5人で舞台を見に行った。当時流行っていたアニメを題材とした物で、所謂2.5次元モノだ。

 アクションがメインらしかったが恋愛要素があったり感情を揺さぶる台詞や演出もあって、アニメを見た事が無い私でもそれなりに楽しめたのを覚えている。

 彼女はヒロインの親友と言う役どころだった。ヒロインと同じで主人公に恋しているけど、その気持ちを抑えてヒロインの背中を押す場面が彼女のハイライトだった。

 その時の彼女の、何とも言えない表情が目に焼き付いた。

 悲しさ、嬉しさ、羨望、後悔、それらが心の中でぐちゃぐちゃに混ざって、だけどそれを今にも溢れそうな水盤に押しとどめた美しい模様だった。素人に何が分かると言われそうだが、私にはそれが何よりも印象に残った。

 家に帰った後彼女について調べた。彼女が出演した作品はヒットした物からコケた物まで幅広い。当たり前と言えば当たり前だ。ただ一つ分かったのは、世間の彼女への評価はいまいちだと言う事。作品に恵まれなかったのかそれとも彼女の実力不足なのか、幾つか作品を見てみたけど私には分からなかった。

 彼女は決して一番星ではなかった。一際光り輝く星の横で、それを際立たせる様に儚く輝く二等星。

 そんな彼女から、私は目が離せなかった。

 

 

 

 

 

『宝石店に強盗が。容疑者はまたしても、仮面ライダーでした』

 

『誰もいない店内の映像。外のシャッターが破られ現れたのは、世間を騒がす仮面ライダー……』

 

 昨日深夜、この街では有名なジュエリーショップに仮面ライダーが押し入り、数十点の宝石類を盗んでいった、とニュースは報じている。連日の犯行で、どうやら私はとんでもない大悪党になったらしい。

 

『今まで犯罪者応援してたのか。ファンやめるわ』

『仮面ライダーはヴァーミンと同じで花恵の害虫って事でおk?』

『偽物なんじゃないの?』

『中の人が代替わりしたんじゃない?』

 

 ネットでは様々な罵倒と憶測が飛び交っていた。更には自分こそが仮面ライダーだと言うアカウントが複数現れ、犯行の有無をそれぞれが主張して混乱を招いていた。ここで本物が何か言ったとしても無意味なのは明白だ。

 混乱に拍車をかけているのは、金色の仮面ライダーの存在だ。今は彼女こそが『正義の仮面ライダー』だと言う人が全体の50パーセントを占め、残りは彼女も私と同類だとか私の無実を信じる説とかが主に語られていた。

 

 さて、どうしたものか。

 偽物の件もあるが、目下厄介なのはあの金色の仮面ライダーだ。私が活動する度に襲撃されてはたまったもんじゃない。一先ずは彼女の説得を優先すべきだろう。

 実の所、誰に会いに行けば良いかは分かっている。ただ彼女が話し合いに応じるかどうかはまた別だ。先の戦闘ではこちらの問いかけに全く反応しなかったのだから。

 最悪なのはそのまま戦闘になる事だ。もしかすると協力できるかもしれないのに、仮面ライダー同士で潰し合うのは大きな損失だ。それに彼女は強い。地力ではなく機体性能的な話だが。

 目を閉じると昨日の光景がありありと思い浮かぶ。金の鎧に青い瞳、そして銀に輝く腰のドライバー。

 あのドライバーはラセンドライバーではなかった。パッと見はほぼ同じだが細かいディティールが違うし、クリスタルのエネルギーを抽出するトリガーも上ではなく右に付いていた。何より身体能力の底上げが凄まじい。あれは完全に別物と考えて良いだろう。

 力も強い、動きも察知できないくらい速い。こちらには経験があるとは言え単純なスペックの差で負けかねないのが怖い所だ。できる事なら戦いたくない。でも戦う前提で考えていた方が良さそう。

 

「と言ってもなあ……」

 

 正直相手が強くて気が抜けなかったから、満足に観察ができていない。頭部の意匠が虫に見えたくらいで、数多の種類が存在する虫の中から1つに絞るには材料が足りなすぎる。

 三人寄ればとはいかないが、ここは客観的情報を取り入れる必要があるだろう。

 

 ランニングを終えてシャワーを浴びた弟子クンがリビングに入ってきた。

 

「お疲れ様。ねえ弟子クン、あの仮面ライダーどんな感じに見えた?」

 

「どんな感じ、とは?」

 

「言葉のままの意味だよ。君のから見て奴はどんな風に見えた?」

 

 弟子クンは少し考えてから口を開く。

 

「強そうでした。今まで見てきたヴァーミンなんかと比べ物にならないくらいに」

 

「そうだね。でももっと具体的に」

 

「ただただ肉弾戦が強いって感じでしたね。特にスピードなんか、一瞬あいつが二人に見えるくらいでした」

 

「確かに速かったね」

 

 あのスピードは異常だと思う。動物の中で最も速いのはチーターとされているが、そのチーターのヴァーミンでも反応できないなんて事はなかった。速さが取り柄の虫に絞られはしたが、そんなもの何種類いるのやら。

 にしても残像が見える程のスピードとは。思い返してみてもさっきまで遠くにいたのに、その姿が揺らめいたと思ったらいきなり目の前に現れた様に見えたから、相当速い……。

 

「師匠?」

 

 そう、揺らめいたのだ。それが引っ掛かる。

 携帯でSNSアプリを起動し、金の仮面ライダーを検索する。案の定民間人が撮影した動画がアップされていた。

 確かに仮面ライダーの姿はゆらゆらと揺らめいている。そしてそれが消えるより速く私の前に仮面ライダーが出現した。

 速すぎる。これではまるで瞬間移動ではないか。移動の軌跡が見えなかった。だが何だ?何かが気になる。

 何度も繰り返し再生すると、違和感の正体に気付いた。

 仮面ライダーの初動、踏み込む瞬間すら映っていないのである。腰を落とした状態のままの仮面ライダーと、私にパンチを繰り出す仮面ライダーが同時に映っている瞬間がある。その時も元の場所にいた仮面ライダーの姿は揺らめいていて不安定だ。まるで幻、蜃気楼を見ているかの様だ。

 ……。

 蜃気楼?違う。それはまるで。

 まるで陽炎(かげろう)の様に。

 

 

 

 

 

 舞台はその場一度きりだ。

 ドラマの撮影なら周りの人がお気に召すまで何度も撮り直せるけど、舞台となるとそうはいかない。失敗を無かった事ではできない。期待して見に来たお客さんにとってはその一回が全てなのだから、失敗なんてしたくない。

 だから何度も練習する。台詞身のこなし表情を繰り返し再現し、体に染みこませる。私じゃない誰かになるまで私を削っていく。

 そうする事しかできない私の事が嫌いだった。

 皆キャラクターとして私を認識する。その奥にいる私を見る人は少ない。本当は私を見て欲しい。だけど見てくれる程私自身は輝けない。

 主演と言う役割は私にとって重荷だった。私はそんな器じゃない。私には無理だと思っていた。実際私が主役になっても誰も見てくれなかった。

 

 でも今は違う。

 私は私だけの輝きを手に入れた。誰もが私の事を見てくれるようになる。私が主役の物語を紡ぐ事ができる。

 今度こそ完璧に演じてみせる。私を見せつけてやる。そのための準備だってしてきた。

 私はもう『誰か』じゃない、『何者か』になるんだ。

 

 

 

 

 

「お疲れ様でーす」

 

 私の挨拶に何人かが反応する。スタジオを出て更衣室に向かい、少しかいた汗をシャワーでさっと洗い流す。着替える前にバッグを開け、あの機械が入っている事を確認して安心する。

 更衣室を出るとマネージャーが立っていた。

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ。そうそうルナちゃん、ファンの人が来てるよ。会いたいってさ」

 

「え、私にですか?」

 

 今までそんな事は一度もなかった。ここに来るのは大抵劇団に所属する主役級の人のファンで、それを私は横目で見る事ばかりだった。

 

「どうする?会うんだったら念のため俺も付いて行くけど」

 

「え、えと……」

 

 正直戸惑っている。上手く対応できる自信無いし、何言われるか分からなくて怖い。

 でも。

 

「会ってみたいです。折角来てもらったんだから」

 

 心が弾んでいる。不安なんか跳び越えて会いたいと思っている自分がいる。何を言われるかは分からないけど、その人はきっと私を見てくれたと思うから。

 

 その人はロビーで待っていた。私よりも背が高く手足も長い。まるでモデルみたいな女性だった。黒のライダースジャケットも似合っていて、何より帽子の下から流れる長い黒髪がきらきらと輝いて綺麗だった。

 その人が私に気付いて近づいてくる。

 

「遅くまで稽古お疲れ様です、ルナさん」

 

「は、はい、ありがとうございます……」

 

 相手は穏やかな雰囲気を纏っているのに、勝手にこっちが気後れしてしまう。もっとこう言う場面のシミュレーションでもしておくべきだったと思う。

 

「1年前に貴方を舞台でお見掛けして、そこからファンになりました。ルナさんが出ている作品もほとんど見ました」

 

「え、凄い……嬉しいです」

 

 貰ってくださいと差し出された花束をマネージャーが受け取る。それも本当は直接貰いたかった。それくらい嬉しかった。

 

「私、ルナさんの表情がとても好きで、勿論全部見てるんですけど、ついつい顔を目で追っちゃうくらいで……本当に凄い役者さんだなって思います」

 

 私にこんな事を言ってくれる人がいたなんて。ちゃんと私の事見てくれてる人がいたなんて。嬉しい。こんな幸せな事があるか。私が今までやってきた事って、無駄じゃなかったんだ。

 ずっと我慢していた涙が、ついに一つ、こぼれ落ちそうになった。

 

 

 

「だから……あんな事、しなくて良かったのに」

 

 

 

「え……?」

 

 深い悲しみを湛えた声に顔を上げると、そこにはさっきとは別人が立っていた。

 

「私みたいに貴方の事を覚えている人がいるから、不用意に顔を見せるべきじゃなかったですね」

 

 先程までの穏やかな雰囲気は消え、温度が一気に下がった様な感覚。マスクで口元は見えないが私を真っ直ぐに射る視線、緑がかった黒い瞳が私の全てを見透かしている様な気がした。

 

「な、何の事ですか?」

 

「そうですね。それをお話しするためにも……」

 

 女がマスクを取る。そして私も気付いた。

 

「私に付いて来てもらえますか、ルナさん?」

 

 あの工場で見たあの人だった。

 

 

 

 

 

 月はとっくに天高く昇って、夜空には一等星が点々と輝いていた。

 話し合いの場所に選んだのは誰も使っていない倉庫。彼女は大人しく付いて来てくれた。もっとも私が付いて来ないと全部バラすと釘を刺したのもあるが。この脅し文句が効くという事は、私の推理が少なからず当たっている証拠だ。

 ヘルメットを外した彼女は、不安と、疑惑と、敵意が混ざった目をしていた。

 

「私の方が年上だから、敬語は無しでも良い?」

 

「……お好きにどうぞ」

 

 そうぶっきらぼうに言いながら、目は私を追っている。私がバイクから降りると、彼女もそれに倣った。

 

「良いバイクだね」

 

 彼女のバイクはシンプルでレトロなデザインで、少女心をくすぐられる物だった。

 

「あんまり触らないでもらえますか?」

 

「おっと、これは失礼」

 

「わざわざこんな所まで来たのは、バイクを褒めるためじゃないですよね?」

 

「勿論」

 

 さて、向こうも覚悟が決まっているようだし、本題に入るとしますか。

 

 

「最初に確認、君があの金色の仮面ライダーでしょ?」

 

「……何ですか、私が仮面ライダーって」

 

「とぼけても良いけど、そうなったら君が後生大事に持っているそのバッグの中身を調べさせてもらうよ。力ずくで」

 

 ルナさんは一瞬バッグに目を落とし、ため息をついた。

 

「どうして分かったんですか?」

 

「さっきも言ったでしょ、私は君のファンだって。視界が悪い中だって、私は君を見間違えたりしない」

 

「……それはどうも」

 

 ルナさんは呆れた様な、少し嬉しさを含んだ顔して、すぐ怖い顔に戻った。

 

「それで?仮にそうだとして、私と何を話すって言うんですか?」

 

「真実を確認するんだよ」

 

「悪人の語る真実なんて誰が信用するんですか」

 

「そうそれ、まずその前提がおかしいんだよ」

 

 私が所謂『悪の仮面ライダー』とされている事。それを正さないといけない。

 

「そもそもの始まりは私そっくりな仮面ライダーが現れて人を襲った事件……勿論私はやってないから無罪を主張させてもらうけど、その犯人が分かったんだ」

 

「……誰ですか、それは」

 

 彼女に向けて一歩踏み出す。

 

「君でしょ、ルナさん」

 

 ルナさんが一歩後退る。

 

「そう思う根拠は?」

 

「まずは君が現れたタイミング。私が悪者になって、それを倒すと言う大義名分のもと君は姿を現した。示し合わせたみたいにね。この時点でマッチポンプの可能性は十分に考えられた」

 

「それだけですか?」

 

「もう一つ、それは君が持ってるクリスタルの能力」

 

 息を呑む音が聞こえた。

 

「カゲロウと言う虫を知っているかな?その虫自体は特段目立った能力は備わっていないけど、創作の世界なんかではしばしば同じ音の陽炎(かげろう)と混同される事も多い」

 

「……何が言いたいんですか?」

 

「戦ってる時、君はまるで瞬間移動でもしたみたいに私の前に現れた。バイクで逃げている時も、いつの間にか前にいた。最初は目に見えないくらい速いのかと思ったけどそうじゃなくて、最初から私には君の姿は見えてなかったんだ」

 

 つまりは。

 

「陽炎は幻の例え。君の能力は幻を見せる事。いるはずのないものをそこにいるように見せられるし、君自身はどんな姿にでもなれる。透明にも……私の姿にも」

 

 ルナさんは黙ったまま。それは肯定か、拒絶か。

 

「君は私の姿になって監視カメラに映り、二つの事件を私に擦り付けた。そして義憤にかられた市民の代表として私の前に立ちはだかった……どう?これで合ってるかな?」

 

 ルナさんは目を瞑って歯を食いしばり、またため息をついた。

 

「そこまで分かってるのに、どうしてわざわざ二人きりになったんですか?誰か証人がいた方が良いでしょう?」

 

「こっちにも警察と関わりたくない事情があってね。それと1対1なら話してくれるかと思って」

 

「何をですか?」

 

「動機。君は何で私を貶めるような事をしたのか、それが聞きたい」

 

 ルナさんの指がバッグの持ち手に食い込む。

 

「そうですよね、分かんないですよね……貴方はそんな事する必要が無いんだから」

 

 ぽつりぽつりと呟く様に言葉を吐き出す。

 

「どんなに頑張っても結局私は2番手止まり。それに誰も私自身を見てくれない。そんなの嫌だった。私自身に魅力が無いみたいで嫌だった。でもあの機械を貰った時、私にもチャンスが来たって思ったんです」

 

 瞳が妖しく揺らめきだす。

 

「でも貴方がいる事に気付いた。貴方がいるせいで、また私は2番目にされてしまう。貴方がいるせいで私は輝けない。そうならないようにするために、貴方に消えて欲しかった……」

 

「そう……」

 

 その妄想を完全に否定する事はできないと思った。似たようなものが二つあれば、人はどちらが優れているか、どちらの方が好みかを比べだす。この街唯一の仮面ライダーになる事が、彼女の願いを確実に叶える手段だったのだ。

 

「でもね、ルナさん」

 

 しかしそれは、手段を違えて良い理由にはならない。

 

「理由は兎も角、君が仮面ライダーとして戦うと決めたなら、私と一緒に戦う事だってできたはずだよ。頑張って私より皆に好かれる可能性だってある」

 

 ルナさんの肩に手を置く。

 

「そうできなかったのは君に自信が無いから。皆に見て欲しいけど、自分にはそうさせるだけの輝きが無いと思っているその事自体が、君を1番から遠ざけている。私に勝てる自信が無いから、策を練って自分を誤魔化しているだけだと思うけど?」

 

「うるさい!」

 

 私の手は簡単に振り払われた。

 肩で息をするルナさんの手には、あのドライバーが握られていた。

 腰に当てたドライバーから出た帯が体に巻き付き固定され、ルナさんがドライバーの上側面からトレイを引き出す。握りしめた手の中から、金の輝きが漏れ出ている。

 

「私の事を……主役の貴方が知った風に語らないで!」

 

 クリスタルをはめ込み、叩きつける様にしてトレイを挿入する。

 

ILLUSION(イリュージョン)

 

 合成音声が流れ、ドライバーの中心が金色に輝く。

 

「変身っ!」

 

 絶叫に反応してクリスタルが輝きを増し、揺らめく金のエネルギーが放出される。全身が黒のスーツに覆われ、その上に纏わりついた陽炎が鎧を形作る。触覚が伸びた金の仮面に、青い瞳の輝きが宿った。

 再び私の前に現れた金の仮面ライダーは、絶叫すると拳を振りかぶった。

 

「っ……!」

 

 転がって避け、私もドライバーを装着する。

 

「やる気だね。良いよ。その方がやりやすい」

 

 私だってそのつもりで来たのだから。

 私は君を許す事はできない。

 

「仮面ライダーの名を汚した君を、私は許さない」

 

 クリスタルを装填し、構え、そして叫ぶ。

 

「変身!」

 

 緑の風が私を包み込み、私は仮面ライダーとなる。

 

 金の仮面ライダーの姿が揺らめく。昨日と同じ攻撃が来る事を予感し目を瞑る。視覚を捨て研ぎ澄ました感覚で空気の流れを感知し、迫りくる拳圧を捉える。

 顔に向かって振り抜かれた拳を私の手のひらが正確に受け止めた。

 

「えっ……!」

 

「悪いけど、それはもう効かないよ」

 

 掴んだ腕で身体を引き寄せ、反対の拳で腹部を打つ。また殴りかかってきた腕を弾いて連続して拳を放つ。

 体勢を立て直した仮面ライダーの姿が消えた。そして迫ってくる風切り音をギリギリの所で受け止める。攻撃が来る方向は分かるようになったが如何せん速くて馬力がある。一度攻撃を受けてしまえばかなりのダメージになるのは明白だ。

 相手もそれに気付いたのか、力任せにパンチやキックを繰り出してくる。仮面ライダーが攻撃し私がそれを防ぐ、次第に防戦一方になっていった。

 そして幾度目かの攻撃を防いだ時、それは起こった。

 

「っ……!」

 

 全身から力が抜けていく。限界を超えて体力が吸い出されていく感覚。

 スタミナ切れだ。昨日の激しい戦闘から体力が回復しきっていなかったのだ。その条件は向こうも同じはずだがそんな素振りは見られない。やせ我慢か、もしくは向こうのドライバーの機能が進化しているのかもしれない。

 余計な事を考えていたせいか、私の腹に鋭い一撃が入った。

 

「かはっ……!」

 

「たあっ!」

 

 顔面を殴られ、私の身体が吹き飛んだ。意識が朦朧とする中でマウントをとられ、上から拳が降ってくる。

 

「ほら、どうしたんですか!仮面ライダーって、この程度、なんですか!」

 

 頭の中に言葉が響いて、停止していた身体が熱くなっていく。そんな事を言わせて黙っている程、私は人が出来ていない。

 拳を受け止め、そのまま腕を掴んで投げ飛ばす。覚悟を決めてドライバーを叩き、全身にエネルギーを漲らせる。

 

「はああああっ!」

 

 制御できるかぎりぎりの速さで走り、拳を振り抜く。当たった所ですかさずもう一撃。蹴り、打撃、回し蹴り。金の鎧に傷が付き、その向こうの肉体へダメージを与えていく。

 

「はあっ!」

 

「くっ……!」

 

 胴を撃った蹴りで大きく距離が開き、二人とも肩で息をする。しばし睨み合い、先にルナさんが動く。ドライバーを叩き、腕に金のオーラが集まっていく。私もドライバーを叩き、腕に風を纏う。

 互いに一歩踏み出し、幾ばくも無い距離を駆け抜ける。

 

「はあああああっ!」

 

「やああああああっ!」

 

 咆哮が木霊し、大きく振りかぶった拳が放たれる。敵を狙ったそれは交わる事無く互いの胸を強く撃った。強い衝撃で胸部装甲が砕け、私も金の仮面ライダーも後ろに吹き飛んだ。

 

 変身が解けた私たちは、どちらも浅い息をしていた。先に立ち上がったのはルナさんだった。こちらに歩もうとするが、ふらついてバイクに寄り掛かった。そして顔を上げてきっと私を睨みつける。

 

「私は絶対貴方に勝つ……私がこの街の『仮面ライダー』になってみせます」

 

「待って……」

 

 制止の言葉も虚しく、ルナさんを乗せたバイクは唸りを上げて去っていった。

 立ち上がろうとするが力が入らない。仰向けになって天井を見上げる。

 私の推理は間違っていなかった。後は彼女を止めるだけ。だがそれができるのか?スペックの差だけで五分(ごぶ)に持ち込まれる相手に、確実に勝つことはできるのか?

 いや、違う。

 体に鞭打って立ち上がる。ふらつく足で一歩踏み出す。

 できるかじゃない、やるんだ。彼女を止められるのは私しかいない。私にしかできない事は、私がやらなくちゃいけないんだ。

 やってみせるとも。

 私は、この街の仮面ライダーなのだから。

 

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