仮面ライダーラセン   作:赫牛

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二人目(3)

 最悪だ。最悪だ。最悪だ。

 全身が痛い。特に思いっきり殴られた胸がじんじんと痛む。あの人の顔が頭から離れない。

 なんでよりにもよって私の顔を覚えている人が仮面ライダーなの?

 なんで……なんでなの……。こんな事なら、最初から仮面ライダーになんてならなければ良かった?

 どうしよう、どうしよう……。

 足の力が抜け、壁と背中が擦れる感覚も他人事の様だった。

 思考が滅茶苦茶になる。顔を覆っても見えるはずのない幻が私を逃がさない。ずっと私を見ている。その目に私が映っている。

 

「見ないでよ、私の事……」

 

 どのくらいそうしていたのだろうか。バッグの中の携帯が鳴って肩が跳ねる。

 まさかあの人?公開なんて当然していないのに、電話番号すら知られてしまったのか?一体どうやって?

 混乱している間に電話は鳴り止み、また着信音が鳴り始める。震える手で携帯を取り出す。

 マネージャーからだった。

 

「はい……」

 

『ルナちゃん?大丈夫?ちゃんと帰れた?』

 

 少し焦っているがといつもより優しさマシマシのマネージャーだ。電話越しの声が染みわたって体が暖かみを取り戻していく。

 

「今家です」

 

『何か酷い事されたりしてない?ほんとに大丈夫?』

 

 体がほぐれていって、涙腺まで緩んでしまいそうだった。

 

「大丈夫です。ちょっとお話ししただけですから」

 

『そっか……なら良いんだけどさ』

 

 幾分か落ち着きを取り戻したみたいだ。声が更に優しくなる。

 

『ルナちゃん、もし何か言いにくい事があるならさ、難しいかもしれないけど俺に言ってみて。勿論秘密にする』

 

 今日の様子を見てマネージャーも流石に何かあると思ったのだろう。その言葉に、一瞬心が吸い寄せられた。閉じて開いて閉じて開いてを何度か繰り返し、最後に開いて言葉を紡ごうとする。

 

「あの、私……」

 

 

 

 何を言うの?

 

 

 

 私は仮面ライダーだって?皆を騙しているって?戦って心も体もぼろぼろだって?

 そんな事言ってどうするの?受け止めてもらえると思ってるの?

 

「……なんでもありません」

 

『え?でも……』

 

「大丈夫です。てか女の子の秘密を探ろうとするなんて、そんなのだからもてないんですよ?」

 

『痛いとこ突いてくるなぁ』

 

 口ではそう言いつつも笑っているのが分かる。

 

『本当に大丈夫なんだね?』

 

「はい、大丈夫です!」

 

 とびきりの笑顔を作ってみせる。電話越しにも伝わるように。自分を騙すように。

 

『分かった。もし何かあれば気軽に相談してくれ。じゃあお疲れ様』

 

「ありがとうございます。お疲れ様です」

 

 電話が切れた。最後までマネージャーは優しかった。

 

 もう嫌だ。

 疲れた。苦しい。つらい。

 もう終わってしまいたい。

 そうだ、もういっそ仮面ライダーなんてやめちゃえば……。

 ふと、感覚が戻ってきた体が背中の違和感を捉えた。

 左肩を探る。肩甲骨の上辺りで硬い何かが指に触れる。虫の類ではなさそうだ。引っ張ると微かな抵抗を感じたがすぐに手の中に収まった。

 それは指でつまめるサイズの小さな黒い箱だった。一度調べて見た事がある。

 小型のGPS発信機だ。

 

「いやっ!」

 

 投げ棄てた発信機が軽い音を立てた。何か、何か硬い物……。

 目についた瓶を掴んで振り下ろすと、発信機が潰れて中身が出た。

 こんなのいつの間に。肩で息をしながら考えると、ついさっきの事を思い出した。

 あの人が私の肩に手を置いた。あの時付けられたんだ。

 つまりあの人に家を知られてしまった。

 どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。まずいまずいまずい。

 向こうだって傷だらけだから今すぐ来るなんて事は無いと思うけど、きっと朝になったらあの人が来る。

 どうにかしないと。

 逃げたって無駄だ。あの人はきっとどこまでも追ってくる。そんな気がする。

 戦わないと。終わらせないと。どうする?

 ……。

 大きく息を吸って、深く息を吐く。

 案は用意していた。本当ならやりたくない手ではあるけどやるしかない。手段を選んでなんかいられない。

 私の中の何かがぷつりと音を立てた気がした。

 

 

 

 

 

 バイクを停める動作だけで全身が痛む。ヘルメットを脱いだ途端、力が抜けて倒れ込んだ。

 

「師匠?……師匠!?」

 

 モニターの前にいた弟子クンが駆け寄ってくる。驚くのも無理はない。体と服はボロボロ息は絶え絶えで床に突っ伏しているのだから。

 

「弟子クーン、紅茶ー」

 

「え、ええ!?いやいや、お茶飲んでる場合じゃないでしょ!?手当しないと……」

 

「いいからいいから、早く持って来てー」

 

「えー……」

 

「あと何か美味しいもの作ってー」

 

「ええー……」

 

「はーやーくー」

 

「あーはいはい、お茶ですねわかりましたすぐ持ってきます!」

 

 弟子クンの足音が反響して私の鼓膜を揺らすおかげで、すんでの所で意識を手放さずにいる。床の冷たさが心地良いけど、このままじゃ紅茶は飲めないから頑張って起き上がる。

 弟子クンが持ってきたそれを飲むと桃の香りと冷たさで幾分か意識がはっきりしてきた。

 

「ふぅ……」

 

「師匠、本当に大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だから。弟子クンは安心して、私にご馳走を振舞ってくれればと師匠は思うなー」

 

「……分かりました」

 

 渋々と言った様子で弟子クンは階段を昇っていく。素直に言う事を聞いてくれる弟子で師匠は嬉しいです。

 

 作ってくれたフレンチトーストの甘味が五臓六腑に染み渡り、正に生き返る様な心地だった。弟子クンの腕もなかなか上がったなあと感じるひと時だった。

 

「そんだけ傷だらけって事は、当たってたって事ですか?」

 

「まあそう言う事。いやー強かった」

 

「強かったんだ……」

 

 傷も徐々に治ってきたし、そろそろ本題に入ろうかな。

 

「弟子クン、反応どんな感じだった?」

 

 今日一人でルナさんに会ったのは弟子クンの安全を考えての事もあるが、モニターを監視してもらうためでもあった。

 

「そうですね……師匠の言った通りでした」

 

「良かった。取り敢えず成功かな」

 

 今の状況自体が良くないとは言え、逆転のための布石は打てたと思う。後は思った通りに彼女が動いてくれる事を願うだけだ。

 

「弟子クン、お願いがあるんだけど」

 

「何です?」

 

「今から徹夜できる?」

 

「……それ今言います?もう眠気メーター50パーセントくらいにはなってますよ?」

 

「そこをなんとか。ちゃんとご褒美はあげるからさ、お願い」

 

「ちなみに師匠は?」

 

「勿論寝るけど?」

 

 滅茶苦茶渋い顔をした。

 

「……分かりました。モニター見てれば良いんですね?」

 

「そう。動きがあったら叩き起こしてくれれば良いから」

 

「了解です」

 

 ため息交じりの一言だけど目は笑っていた。呆れながらも了承してくれる辺り、流石私の弟子と言った所か。

 

「先にお風呂入って来て良いよ。その間は私が見とくから」

 

「じゃあ、覚悟してきます」

 

 リビングを後にする弟子クンの足取りは、それはそれは重かったそうな。

 

「さて」

 

 頬を叩く。もうひと頑張りしたら後はお風呂入って寝るだけ。勿論途中で起こされる可能性もあるが、相手の傷つき具合を考えると早くても朝までは動かないだろう。万が一のために徹夜させるのは申し訳ないが、これも花恵のためと言う事で。

 明日で決着をつける。絶対に勝つ。今度こそ逃がさない。汚名返上の時来たれり。

 仮面ライダーの座は、渡さない。

 

 

 

 

 

「はい……そうです、緑色の仮面ライダーが中で暴れてます……はい、お願いします」

 

 通話を切る。これで通報を受けた警察が来る。準備は整った。

 目の前には書店。平静を装って店内に入る。中は本を物色する人がまばらにいて、当然中で暴れている仮面ライダーなどいない。

 偽の情報を流して警察が来るまで待ち、来るのを見計らって緑の仮面ライダーに化け、暴れる姿を視認させる。何なら警官を軽く痛めつける事で、緑の仮面ライダーは危険だと言う認識を植え付け警戒レベルを上げさせると同時に、私と警察が協力しやすい状況を作る。本物が来る前に撤退すれば完全に罪を擦り付ける事ができる。

 本当はやりたくないけど、あんな事をしたあの人が悪いんだから、仕方ないよね?

 遠くから微かだがサイレンが聞こえてくる。そろそろか。

 あらかじめ確認しておいた監視カメラの死角に立つ。着けていた機械に結晶を装填し、小声で呪文を唱える。

 

「変身」

 

 機械が光り、私の体が鎧に包まれていく。一瞬金に染まった身体は、揺らめきと共に緑へと変わる。完全に変わった事を確認し、歩き出す。後は暴れている所を目撃してもらうだけ。

 そう思って拳を振り上げた時足音が近づいて来て、私を横殴りの衝撃が襲った。

 

 

 

 

 

 砕け散るガラスをくぐり抜けてルナさんと一緒に地面を転がる。呻きながら立ち上がるその姿は私と全く一緒。

 

「仮面ライダーが二人?」

 

「どうなってるんだ……?」

 

 集まった警官たちも困惑している。まあ困惑してもらわないと困る。この状況こそが私が狙ったもの、同じ緑の仮面ライダーが二人いる瞬間を見てもらう事が大事なのだ。

 

「何でここに……?」

 

「付けてたでしょ?発信機」

 

「でも、あれは壊して……!」

 

「そうだね気付いてたね。肩に付けたのには」

 

「え……」

 

「もうちょっと自分の持ってるものに注意を向けた方が良いかもね。まあ今は焦って正常な判断ができてないと思うけど」

 

 昨日バイクに触ったのは、肩に付けた物とは別に発信機を取り付けるため。見えにくい場所に付けたのもあってばれずに済んだ。そしてそのおかげで彼女の動きを察知し、事件を起こす前に駆け付ける事ができたのだ。弟子クンに徹夜してもらったのも私の予想より早くに行動される万が一を警戒しての事。今頃家でぐっすりだろう。

 

「追い詰めたら警察を巻き込もうとすると思ってたよ」

 

「貴方、最初からこうなるって……」

 

「そう。私にチャンスをくれてありがとう。さ、立ち話もなんだし……」

 

 一瞬で目の前まで迫ってきた拳を受け止める。

 

「始めよっか」

 

 次々に繰り出される拳を弾き、返しに胴を手刀で打つ。打ち出される足を転がって躱し、地面すれすれに回転し足を払おうとするがジャンプで避けられる。着地した所を狙って拳を繰り出すが仮面ライダーの姿が消えた。揺れる空気の流れを読み、後ろから迫ってくる気配を察知し身を翻して相手の背後に回り込み、腕を掴んで締め上げる。

 

「っう……」

 

「どう?降参する?」

 

「誰が……」

 

「そう?残念」

 

 突き飛ばし、追い打ちをかけようとした時、銃声と同時に鎧から火花が散った。

 私たちを包囲している警官隊の一人が持っている銃から煙が出ている。

 

「撃つな!まだ中に人がいる!」

 

 響く声でその警官は我に返ったのか銃を引っ込める。

 優勢の私が怖く見えたのか。まあさっきから一方的な展開で私が悪役に見えても仕方ないとは思うが、もうちょっと冷静になっていただきたいものだ。

 仮面ライダーの姿を探すが見当たらない。そう思った瞬間に左から強い衝撃。怯んだ所に小さい衝撃が連続して来る。感覚を研ぎ澄まし、再び飛んできた腕を掴んで背負い投げる。姿が露わになり、立ち上がる隙をついて顔面を殴りつける。ふらついている間にドライバーを叩き、エネルギーを纏った拳を撃ち込んだ。

 地面を転がった仮面ライダーの姿が揺らめくと、その鎧が金のものに変わった。偽物の仮面ライダーは、ようやくそのベールを脱がされた。警官の間にも動揺が広がっている。監視カメラ映像と言う証拠がある私と、緑の仮面ライダーのふりをしていたルナさん。印象的には五分五分、いや、こちらがやや有利か?

 

「まだ続ける?」

 

「っ……ああああああ!」

 

 叫びながら凄まじいスピードで殴りかかってくるのをぎりぎりで避ける。攻撃がまた来る。来る、来る、来る。怒涛の攻め。防ぎながら見えたドライバーの中心が眩く輝いている。

 彼女の感情の高ぶりにクリスタルが反応して、通常の何倍ものエネルギーが放出されている。より力強くより素早く、よりタフになって私に迫ってくる。予想していた事ではあるがこうなるとかなりきつい。全てを捌ききるのは難しいから、どこかで隙を突くしかない。

 相手の拳がオーラを纏い始める。陽炎は熱波となって拳が撃ち付けられる度に鎧を焦がす。拳の鋭さもパワーも更に増し、致命傷にならないよう受け流すのがやっとだ。

 大振りの一撃をいなした時、極限まで高められた感知能力が背後で空気の動きがあった事を捉えた。

 

「だめっ!」

 

 直後に引き留める様な女性の声。振り向くと書店から幼い男の子がこちらに駆け出していた。

 

「ああああああっ!」

 

 絶叫に振り向くと金の仮面ライダーが拳を撃ち下ろし、金の熱波が地面を砕きながら迫ってくる。

 あれを受けたら不味いと直感が囁く。でも避けられない。私が避けてしまうと男の子が犠牲になる。

 

 

 

 迷いなんて一片たりとも無かった。

 

 

 

 仮面ライダーに背を向け、男の子を包み込む。直後に強い衝撃と熱が背中に当たり、圧力に押されるのを全力でこらえる。ガラスが割れ、破片が降り注ぐ中をただひたすらに耐える。

 熱が引いて衝撃がおさまっていく。背中が焼ける様にじりじりと痛い。体力も大分持っていかれた気がする。

 でもそんな事はどうでも良かった。

 目の前の少年は少し驚いた様子で私を見ている。怪我している様子は無いように見える。

 

「大丈夫?怪我してないね?」

 

 私の言葉に男の子は頷いた。

 

「危ないからこっちに来ちゃ駄目だよ」

 

「でも仮面ライダーがピンチだから、ぼくがたすけないとっておもったから……」

 

「仮面ライダーって、私?」

 

「そうだよ、ずっとまちをまもってくれてるもん!」

 

 何それ。そんな事言われたら思わず頬が緩んでしまうじゃないか。

 

「ありがとう。危ないからお母さんと一緒に隠れててね」

 

「わかった!がんばってね!」

 

 そう言って男の子はかけていった。

 私が仮面ライダー、か。当たり前だけど、面と向かって言われるとむず痒いな。

 呆けている場合じゃない。今ので元気出た気がする。さあ、頑張——。

 

 

 

「良いぞー!仮面ライダー!」

 

 

 

 誰かの声。それは何処からだろう。通りの向こう側から?隣の店から?書店の中から?

 

「行けー!仮面ライダー!」

 

 また誰かの声。

 

「頑張ってー!仮面ライダー!」

 

 また誰かの声。声。声。声。

 視線が私に集まっている。声援が私に集まっている。

 

「仮面ライダー!」

「仮面ライダー!」

「仮面ライダー!」

 

 応援されている。私が。

 昨日まで悪者だった私が皆に応援されている。

 

「ふ、ふふ」

 

 何この状況。皆してどうしたのさ。なんだか笑えてくる。

 散々人の事犯罪者呼ばわりしておいて、まったく、都合の良い人たち。

 でも。

 

「偶にはこう言うのも、悪くないかな」

 

 右腕を前に構え左腕を胸に添え、軽く腰を落とす。こんな状況、柄にもなくファイティングポーズの一つもとってしまうと言うものだ。

 

「何で……どうして……」

 

 相手の語気が弱々しくなるのと同時に、金のオーラが消えていく。

 

「日頃の行いってやつかな」

 

「う……うあああああっ!」

 

 振り抜いた拳から光弾が発射される。それを風の盾で吸収し、消えると同時に駆け出す。

 

「はあっ!」

 

 軽く跳躍してその勢いのまま拳を突き出す。防いだ仮面ライダーは大きく後退る。

 私の腕から緑のオーラが出ている。腕だけではない。全身がオーラに包まれている。私の心の高ぶりが、私の拳を加速させていく。

 右腕を連続で撃ち出し、仮面ライダーが後退る度に警官隊の輪が移動していく。相手のオーラが復活し、オーラを纏った拳が飛んでくるのをいなして裏拳。振り返って更にパンチ。止まらない攻撃の嵐が吹き荒れる。いくら消耗しようが無限に体力が湧いてくる。

 勿論一方的な蹂躙はできない。緑の鎧も削れていく。金の打撃が時折かすめてダメージが蓄積されていく。だがそれがどうした。私は止まらない。拳を受け止め、反撃する。皆が私を信じてくれる限り、私は止まる事は無い。

 私は絶対に、負けない!

 ドライバーを叩き、瞬時に溜まったエネルギーを使って天高く跳躍する。上昇する間にもエネルギーが再充填され、風が私の周りに集まっていく。最高到達点に達したのと同時に自由落下を始め、背中に展開された翅状のエネルギーがそれを加速させる。空中で半回転して体勢を入れ替え風を纏う右脚を突き出す。

 

「はあああああああっ!」

 

「っ……たああああああっ!」

 

 地上にいる金の仮面ライダーもドライバーを叩き、腕に陽炎を纏ってそれを放つ。エネルギーの塊が私と接触し、風と陽炎が拮抗する。しかしそれも一瞬の事で、風の槍は陽炎を穿ち金の仮面ライダーの胴を撃った。

 金の仮面ライダーは吹き飛んで地面を転がり、警官隊が作ったドームの端に叩きつけられた。そしてその姿が揺らめき、変身が解除された。

 一瞬の静寂の後、歓声が上がる。様々な賞賛が私に浴びせられる。

 急にぼやけ始めた思考の中でそれをぼんやりと聞く。脱力感と眠気に襲われ立っているのがやっとだ。

 やがて歓声がおさまっていき、代わりにどよめきが広がる。そして微かに聞こえてきた誰かの声に夢見心地から一気に現実に引き戻された。

 あの仮面ライダーは一体、誰なんだろう。

 重い足を引きずってルナさんの元へ歩み寄る。警官隊が呆気にとられている間に顔を隠しながらルナさんを抱え、風を操って空を翔ける。

 

 

 

 

 

 飛んで来たのはいつかの倉庫。人気は無く荷物が整然と並べられたその一角にルナさんを横たえる。息絶え絶えで傷も多いが、出血している様子も無いし取り敢えず生きてはいる。

 シグナルを発信し警察に位置を知らせる。一応後で救急隊にも連絡を入れておこう。

 さて、後は。

 ルナさんの腰に着いたドライバーを探る。これがラセンドライバーの系列であるならば、きっとあるはず……。

 

「ここかな?」

 

 裏側にあったボタンを押すとロックが外れ、帯が収納される。ドライバーの帯は所持者の脳波を感知して着脱できるようになっているが、所持者が気を失うなどして脳波が感知できなくなった場合の取り外し手段として強制的にロックを外す機能も備わっている。今はこの機能が偶然にも役立ってくれた。

 ドライバーを持つ腕をルナさんの手が掴む。

 

「やめて……取らないで……」

 

「もうこれは君のものじゃないよ」

 

 縋る手を振り払う。

 

「君は間違った方向に力を使った。そんな人は仮面ライダーに相応しくない。これは没収」

 

 恨めしそうな視線が突き刺さる。

 

「何でこんな事、しちゃったんですか?」

 

「昨日言ったでしょ……主役になりたかっただけですよ」

 

 なんてもったいない事を。

 

「そんな事しなくても君は主役だったのに」

 

「馬鹿言わないで……いつも中途半端な役ばっかりで、私なんて誰も見てくれない……」

 

「そんな事無いよ」

 

「嘘よ」

 

「嘘じゃない。昨日言ったでしょ?」

 

「え?」

 

 そう。本心はとうに伝えてある。

 

「君の演技が好きって言う言葉に、嘘は無いよ。例えそれがどんな役だろうと、私はずっと君を見てた」

 

 驚いた顔に、とどめの一撃。

 

「私は、君のファンだからね」

 

 

 

 

 

 夕方のニュース。女優のルナさんが全身に怪我を負って病院に搬送されたと報じている。

 それだけ。クリスタルに関する事は一切報じられていない。

 

「これで良かったんですか?」

 

「仕方ないよ。ルナさんが仮面ライダーだったと知れれば、どうなっちゃうか分からないからね」

 

 過激な人がいればルナさんに危害が及ぶ可能性がある。だからあの事に関しては一切報じないようにとメモを残しておいた。矛盾してはいるが、後は私の威光と人々の善良さを信じるしかない。

 

 ルナさんに関してはこれで良かったと思う。しかし問題はまだもう一つある。

 机の上に置かれたラセンドライバーに似た何か。これを調べないといけない。この前の石の中身にしても、気がかりな事が多過ぎる。

 何かが動き出している。漠然とした予感がする。

 

 でも。

 例え何が来たって負けはしない。

 私は仮面ライダーだから。

 

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