ねずみ算と言うものをご存知だろうか。
元々はつがいのネズミから子どもが何匹生まれ、その子どもがひと月後につがいを持って子を同じ頭数産み、毎月このように増えると最終的には何匹になるかと言う問題。
そこから転じて、その増殖の様子から急激に増えていく事の例えとして、『ねずみ算式に増える』と言う言葉もある。
つまりクリスタルは、その言葉を採用したのだ。この現状はそう言う事なのだと、私は直感した。
私達を囲む無数のヴァーミン。それらは分裂を繰り返した結果なのだろう。最初は1個体から、そして分裂したものが更に分裂し、正にねずみ算式にヴァーミンが増えた、と言う事だ。
群れの中から一体がおよそ人間のものとは思えぬ奇声を発しながら弟子クンに迫る。結晶銃が火を噴き、弾丸に貫かれたヴァーミンは爆発し……その後には何も残らなかった。
「え……?」
弟子クンの顔が青ざめる。通常ならクリスタルを破壊したら人間に戻るはずなのに何も残らなかった。私も一瞬殺してしまったかと言う考えがよぎったが、結晶銃の威力はさして高いものではなくせいぜい牽制が良い所だ。となると考えられるのは。
「大丈夫、殺してない。これ多分中身が無いコピーだ」
「人が変身してるんじゃないって事ですか?」
問いに頷きで返答し、考えを巡らせる。
一体何体いるのか分からないヴァーミン。その耐久性は著しく低いが、攻撃力が人間が変身した言わばオリジナルのものからどれだけ劣化しているかは分からない。でも仮にも化け物、当然ながら普通の人間よりかは危険だろう。これだけの数を捌ききれる自信は無い。弟子クンは多少やれるかもしれないが限度があるし、ヴァーミンだった人も巻き込まれない保証は無い。
つまりは圧倒的に不利。
「一旦退こう」
「はい!」
弟子クンが犯人を抱える間にもヴァーミンは次々と迫ってくる。その前に風のバリアを作り、360度に展開。並のヴァーミンの攻撃なら大抵はこれで防げるが、如何せん数が多く、純粋な質量だけでバリアが軋む。しかし時間は充分稼いだ。
「行くよ!」
「はい!」
弟子クンと犯人を抱え、風を操作し足元に集め、一気に上昇する。疑似的に空を飛ぶと同時にバリアが破壊され、押し寄せていたヴァーミンが私達がいた所で衝突しドミノ倒しの様に仰向けに倒れる。何体かは潰れたかもしれない。
そうだとしてもまだ無数にいるヴァーミンを見て歯がゆい気持ちが募る。本当ならあの場で全て殲滅してしまいたい。被害を増やしたくないしいつまた分裂するか分からない。しかし全滅させるまで私の体力が持つかは分からない。兎に角今は逃げに徹するべきだ。
そこで一旦思考を停止させ、体力が許す限りの全速力で私達は離脱した。
基地に着いた時には師匠はへとへとだった。まずはいつもの様にアイスティーをカップに注ぎ師匠に渡す。変身を解き犯人をソファーに寝かせた師匠はカップを受け取り、静かに紅茶を一気飲みした。
「ふう……流石に危なかった」
「あんな数、一体どうすれば……」
「対策は追々考えるとして、一先ずはこの人の話を聞こうか」
横たわった犯人がうんうんと唸り、少しの後に目を開ける。目を細め、きょろきょろと辺りを見回す。
「ここは……?」
「花恵市内とだけ言っておく。ねえ、貴方がクリスタルを使ってたんだよね?」
そう問われた男は目をぱちくりとさせ首を捻る。どう見ても頭の上に浮かんでいるのは疑問符だ。
「クリスタル……って何?そもそもなんで俺ここにいるの?」
「ヴァーミン、って分かるよね?貴方はヴァーミンになってさっきまで暴れてた。覚えてる?」
「はあ?何それ、ドッキリ?」
口でのらりくらりと躱そうとしているのではなく、男は本当に戸惑っている様に見えた。
「覚えてないって事ですか?」
「うーん、多分ね」
「お、おい、勝手に話進めんなよ。誘拐じゃないのかこれって?警察呼ぶぞ?」
「ちょっと黙って」
「あ、はい……」
騒いでいた男は師匠に凄まれるとすぐに黙った。師匠は少し考え、そしてモニターの方を見る。
「弟子クン、ログ確認できる?」
「ログ、ですか?」
「うん、反応の数見て欲しい」
言葉に従ってログを確認する。ええと、ヴァーミンが出たのは今日の14時半辺りだったよなー、と……。
「あれ?」
おかしいと思い、何度もログを確認するが結果は同じだった。
「どう?」
「反応が、一つしかないです……」
あんなに大量にヴァーミンがいたはずなのに、クリスタルの反応は一つしか記録されていなかった。そして今も反応は観測されていない。
「なるほどね、やっぱりクリスタルを使っている訳じゃないんだ……ねえ聞きたいんだけど、今日覚えてる限りで何をしてたか話してくれるかな?」
「あ、俺……ですか?」
話を振られた男は何故か敬語で応えながら視線を彷徨わせて記憶を辿っている。
「確か朝飯食って、大学まで電車に乗って、それから……あれ、今って何時?」
「大体16時くらい」
「嘘だろっ!?今日小テストあったのに……うわまじかよぉ……」
「それは一旦置いといて、はい続き、早く」
「あ、はい……ええと、そう、大学に行こうとして、して……」
そこで言葉が途切れ、師匠は眉をひそめる。
「行こうとして?」
「いつも使ってる近道の途中で男の人が俺に話しかけてきて、話してたらなんかぼおっとしてきて……気が付いたら今ここって感じ、です、はい」
男……その言葉に引っ掛かりを覚える。もしかしたらその男と言うのは、俺にクリスタルを渡したあの男かもしれない。
視線を移すと師匠は師匠で何か考えていた。そして口を開く。
「言葉にすると凄く眉唾だけど、催眠術、かもね。そして無意識下でクリスタルを使わされてヴァーミンになった、と考えられる」
催眠術と聞くと大層な代物と思うかもしれないが、話し方や視線、小道具で誘導する事で簡単な暗示程度なら案外誰でもできると聞く。勿論その男が一流の催眠術師と言う場合もあるが。
「まあ方法は兎も角、その男は貴方を……失礼、貴方名前は?」
「あ、
「……それ本名?」
「あいや、ペンネームです。自分この名前でネットに小説アップしてまして」
口調は段々とへりくだったものになってはいるが、こんな時でも名前を売ろうとする逞しさは寧ろ尊敬に値するだろう。
「まあ良いや、その男は楽名君をヴァーミンにして暴れさせたと考えて良いと思う。だから楽名君に犯行の意思は無かった、って事だね」
師匠の言葉に楽名さんはこくこくと首を縦に振る。
「でそれとは別問題で、これが一番厄介だと思うんだけど、楽名君がヴァーミンになったのは早くて朝。それからたった数時間であんな数まで増殖していた。そして多分今も増えてる。それをどうやって全滅させるか」
「うわ、確かに」
あれから更に増えていると考えると、果たして全滅させられるかどうか。もしあれの全てが分裂できるとすれば、一体でも逃せばそこからまた増えてまた倒してのいたちごっこになってしまう。ネズミだけど。
「一体一体は弱いから多分倒せるとは思うけど、問題はどう一か所に集めるかだね……」
「あ、あのぉ……」
楽名さんが手を挙げる。
「これ、自分って聞いてて良いんですかね?お邪魔だったら出ていきますんで……」
「あー、本当はあんまり良くないんだけど、今はここにいてもらった方が良いかもしれないなぁ」
「その心は?」
「ヴァーミンが集まってきたの、もしかしたら楽名君目当てかもしれないんだよね」
その言葉を聞いた楽名さんは固まり、首を捻り、そして気付いた様に大きく目を見開いた。
「そ、そそそそれって、俺が襲われるかもって事ですかぁー!?」
「うん、まあそうなる」
「そうなんですか師匠?」
俺の問いに師匠は頷き、そしてロジックを説明する。
「ネズミってね、共食いするんだよ。食料難に陥ると強いネズミが弱いネズミを狩って食べる。私に倒された事でヴァーミンの力を失って、それで他の個体から『弱い個体』って認識されたのかも。ネズミはお腹が空きやすいから、楽名君を餌だと思ったんじゃないかな」
「ええー……何それ怖っ」
楽名さんはこの世の終わりみたいな顔をして震えあがった。確定事項ではないのだからそんな顔しなくてもとは思うが、自分が襲われるかもしれなくて気が気じゃないのも分かる。
「まああれ中身が無いから本当の所は分からないけどね。一応事が終わるまでは楽名君は安全な場所にいた方が良いと思う。ここみたいな」
以前聞いたがこの基地、そしてここから伸びる地下通路は基本的に安全が保障されているらしい。通路を開けるためのセンサーは特定の信号を発するタグを持っていないと自動では開かないし、基地からのマニュアル操作でも閉める事ができる。ヴァーミンの侵入経路は上からしか無いので、俺達がその入り口さえ守れば中は安全と言える。
「だから問答無用でここにいてもらうつもりではあるんだけど、それでも良い?」
師匠に問われた楽名さんは先程と同じ様にこくこくと頷いた。
「ご飯とかは用意するから、まあこう言うのも変だけど、安心して欲しい」
「は、はい」
「とまあこんな感じで、対策は考えておくから今日は解散で。楽名君、何か食べたい物ある?作るから、弟子クンが」
あ、俺なんだ。
「て事で、じゃあ後よろしく!」
「え、どこ行くんですか?」
「バイクー。取りに行かないとー」
師匠は階段を昇っていき、残された俺達の間にしばし気まずい沈黙が流れる。そして楽名さんが口を開いた。
「つかぬ事をお聞きしたいんですが」
「はい」
「あの人って、もしかして仮面ライダーさんですか?」
あ、そうかそこからか。説明するの忘れてた。
「そうですよ」
「あー、そうなんだー、へー……」
そう言った楽名さんの顔に徐々に疑問が混じり、少し後基地内には絶叫が響き渡った。
徒歩で行くには流石に時間が掛かり過ぎるので、タクシーを拾ってアリーナまで向かおうとしたが断られた。周辺区域には非常線が張られていて近づけないらしい。ならば近くまでで良いとお願いし乗せてもらう。アリーナに近づくにつれて人通りは少なくなり、警官が立っているのが遠くに見える程で降りた。
警官がいない隙間を見つけてロープをくぐり、記憶を頼りにバイクを目指す。夜の街は静かで、今も無数のヴァーミンが蔓延っているのが嘘の様に思える。アリーナ前の広場には多少地面のひび割れがあったりはするが、そこで戦いがあったとは思わないくらいでとどまっている。
鍵はかけていなかったはずだったけど、幸いにもバイクはそのままの位置で停車していた。跨ってエンジンをかけようとした所で携帯が鳴った。美咲からだった。
「何?暇なの?」
『なんちゅう言い草か。まあ暇だけど』
バイクから降りて手で押しながら歩き始める。美咲とはよく暇電するけど大体一週間に一度くらいで、昨日したばっかりだから何か用があるんだろう。
「んで何用で?」
『ああ今日ね、真哉くんとデートしてきたよ』
「はあ!?」
『嘘、相談された。めちゃ悩んでたみたいよー』
「えー?」
美咲に行ったのかー。悩みはなるべく私に言って欲しいけど、まあ言いにくかったんだろうな。
「それで、何言われたの?」
『なんかねー、自分の気持ち整理したかった的な?一区切りつけたかった的な?』
「何それ」
『やっぱり認めてもらえてないので落ち込んでるみたいよ、彼』
それは仕方の無い事だ。だって。
「だって……まだ駄目だと思うから」
『何が駄目なの?』
「それは……」
技術も足りない。経験も足りない。だから仮面ライダーになるにはまだ早い。
早い、はずだ。
『楓はさ、今まで彼の事見てたんでしょ?だったら、もう大丈夫なのだって分かってるでしょ?』
「むぅ……」
『少なくとも私はそう思ってる』
「……そう」
大丈夫、なのかな?
確かに成長してるのは分かってる。そしてその結果を、私は知っている。
『じゃあ聞き方を変えよっか。楓はさ、何が嫌だなって思うの?』
「嫌って何さ嫌って」
『良いから、ちょっと考えてみ?』
嫌な事……私が嫌な事?そんなの無いよ。弟子クンが立派に育ってくれるのは嬉しい。美咲の言う通り、最初と比べたら本当に見違える。しかもこんな短期間でとなると、本当に凄い……。
「あ……」
『心当たりあった?』
「……うん」
『なになに教えて?』
「言わない」
『えー?良いじゃん言いなよー』
「いーわーなーい!」
なんか、何と言うか恥ずかしい。自分がこんな事思ってたなんて。どうしよう。弟子クンに申し訳ない事しちゃった。
『まあ分かったなら良いよ。これからどうするかも決まった?』
「……うん、ありがとう」
『また今度何か奢って』
「はいはい」
じゃあねと言って電話を切る。話し込んでいる間に、いつの間にか地下道入口のすぐ近くまで来ていた。
「ふぅ……」
何をするべきかもう決めた。腹もくくった。後はどう話すかだ。いやーどうしよう。私口下手だからなー。
まあ、なる様になるさ。
エンジンを点火し、開いていく扉の向こうへ走り出す。照明に照らされた地下道は、夜の街よりも眩しく見えた。
午前4時。早朝と言うにはまだ早い深夜。太陽すら昇っていない街の中で俺達は佇んでいた。所々で照明は瞬いているが、それでも師匠の表情は暗くて良く見えない。
それにしても。
「ほんとに釣れるんですかこれ?」
「釣れるさ。釣りって言うのは待つ時間が大事だよ……やった事無いけど」
「無いんかい」
「まあちょっとの間の辛抱だよ、この匂いにもね」
今俺達の周りにはかなり強いマッシュルームの様な匂いが漂っている。その発生源は背後に置かれた大量のカマンベールチーズ。正直段々気持ちが悪くなってきている。
「ネズミにチーズって、安直過ぎません?」
「その固定概念が大事なんだよ。ヴァーミンの性質にはそう言った人々のイメージも反映されやすいから、安直なのが逆に効果的な事もあるんだよね」
「へー」
チーズを置いておけばネズミが釣れると言うのは様々な作品で描写されるくらいには有名でド定番な話。師匠の言う通りなら確かにこれでヴァーミンが寄ってくるはずだ。念のために非常線が張られたエリアを一周して匂いを振りまいておいたから期待値も上がっているし。そこまで考えて目線を上げる。
「まじで来たし……」
僅かな光源に照らされたネズミの集団が、俺達を……と言うよりチーズを目指して四方からゆっくりと迫って来ていた。
兎にも角にも、来たからには覚悟を決めて迎撃しなければならない。もとよりそのつもりでここにいるのだ。
「弟子クン」
「はい?」
段々と空が白んできて、師匠の顔が見えるようになった。俯いて、何かに葛藤している様に見える。そして右手が俺に差し出される。その手に握られていたのはあのドライバーだった。
「なんで……」
「良いよ、使って」
押し付けられたそれを受け取ると続いて橙のクリスタルが投げ渡される。これは一体どう言う風の吹き回しなんだ?
「師匠——」
「弟子クン、私ね、君に嫉妬してたんだ」
「え?」
嫉妬って一体?俺のどこに嫉妬する要素があるんだ?
「君が弟子になってからまだ半年も経ってないでしょ?なのに君はめきめき力をつけて、もう変身までしちゃった」
「そう……なんですかね」
「私ね、ラセンになるまで2年かかったんだ」
「聞きました」
「なのに君は、半年で仮面ライダーになって……ずるいって思ってたんだ」
話している間にもヴァーミンの大群は迫ってくる。昨日の二倍程だろうか、予想よりも多い。しかしそんな事よりも師匠の言葉に意識が吸い込まれる。
「私はこんなちっぽけな感情のせいで正しい判断ができなかった……でももうやめる」
顔を上げた師匠の瞳は、この街のどんな宝石よりも輝いて見えた。
「君に仮面ライダーになって欲しい。この街を守る、仮面ライダーに」
心臓が高鳴り、全身が熱くなる。その言葉の意味を、重みを、そして信頼を感じてだ。だからこそ、それにはちゃんと応えたい。
「はい!」
師匠は微笑み、そしてヴァーミンの大群へと目を移す。
「それに、この数は流石に手伝って欲しいからね」
「確かに」
自然と笑みが零れる。ヴァーミンが迫るのにも関わらず、いつの間にか俺達は笑い合っていた。
「さあ行こうか、弟子クン」
「はい、師匠!」
楓と真哉、二人がドライバーを装着する。緑と橙のクリスタルが装填され、ドライバーの鼓動が大気を震わせる。楓は手を交差させ、真哉は右腕を前に突き出す。そして力を溜め、楓は右腕を左前へ突き出し、真哉は右手を内側へ回し、拳を握り込む。そして二人は叫んだ。
変身!
黒いスーツが構成され、その上に風と爆炎の鎧が形成される。二人の戦士の瞳が輝き、街に一陣の風が吹く。
夜が明ける。動き出した太陽は街を照らし、その中で更に二つの希望が光り輝く。右腕を前に、左腕を添えて腰を落とす。深呼吸した二人は、眼前の敵に向かって走り出した。
風を纏った蹴りがヴァーミンを撃ち、何体かを巻き込んで爆発する。攻撃を受け止め、その腕を掴んで放り投げると十数体がドミノ倒しになり、それを踏みつけてこちらに迫るヴァーミンを風の力を込めた拳で殴り抜く。また爆発が起き、ヴァーミンの隊列に穴が開くがそれをすぐに残りのヴァーミンが埋める。きりが無い様に見えるけど確実に減っている。長引かせるとまた分裂する恐れがある為なるべく早く殲滅しないといけない。スタミナなんて気にしている場合じゃない。だから最初から全力で、それに中身も無いから手加減無しで遠慮無く殴り蹴る。
360度全方位から来る攻撃を風のバリアで防ぎ、盾を刃に変え回転させて敵を切り裂く。爆炎の中を駆け抜け、ドライバーの右側面を押して跳ぶ。キックが数体の敵を穿ち爆発で数十体が吹き飛ぶ。それでも敵影は街の彼方まで見える。
ふぅと息を吐き、そしてまた走り出す。
拳を一つ、また一つ、ヴァーミンに撃ち込んで爆散させる。ドライバーの上側面を叩いてエネルギーを充填し、放った拳が敵を打ち砕く。炎の余波が敵を燃やして消滅させ、その火がまた燃え移っていく。
力が湧いてくる。初めて変身した時よりもずっと。それは体調が十全だからか、それとも……背中を預け共に戦う人がいるからか。
だから絶対に勝てる。そう信じてここにいる。
気合を込めて叫び、再び拳を振りかぶる。
無数にも思われたヴァーミンはその数を急激に減らし、10分も経つ頃には残り僅かとなっていた。飢えから来る捕食本能により動かされるヴァーミンは、逃げる事無く餌を目指しその障害を排除しようとする。風と爆炎がヴァーミンを薙ぎ払い、炎が戦い続ける戦士達の鎧を照らし出す。
そしてヴァーミンは残り数体、一塊になって仮面ライダー達を狙う。
「弟子クン!」
「師匠!」
顔を見合わせ、頷き合った仮面ライダーはドライバーを叩き、脚にエネルギーを纏う。同時に跳躍しラセンは右脚を、そして橙の仮面ライダーは左脚を突き出す。風と炎が混ざり大きなエネルギーの塊となった二人は一直線にヴァーミンへと突撃し、その全てを撃ち抜き蹴散らした。
炎が風に散らされ、戦士の鎧も風に吹かれて解けていく。肩で息をしながらもその足はしっかりと地を踏みしめていた。太陽は強く輝き、まるで二人を称えるかの様だった。
深い息を一つ吐き、二人はまた笑い合う。
「終わりました……よね?」
「うん、終わったさ」
二人が守った街が、今日もまた動き始めた。
そして家に帰った俺達の食卓には、朝から豪勢にもチーズフォンデュが並んでいた。2人で割っても食べきれないくらいのチーズは、これから数日かけて消費される事だろう。
「お疲れ様でした」
「いや本当に、お疲れ様」
そう言いながら師匠は大きな欠伸をし、俺もそれにつられて欠伸をする。あれだけ大規模な戦闘をしたのだ、俺は兎も角師匠の方はもう限界に近い。朝食を食べたらすぐにベッドに直行する、多分。楽名さんには先に食べてもらって大学に行ってもらったし、安心して眠れるだろう。
「チーズフォンデュがこんなに美味しく感じるなんてねー……ふわー……」
「眠そうですね、チーズ喉に詰まらせますよ」
「何だよー、自分は平気な顔して。やっぱりずるいよ、あのドライバー」
あのドライバー、か。
「『あのドライバー』って言うの、ちょっと締まらないですね。何か名前付けたいな——」
「ヴルムドライバー」
「え?」
「あのドライバーの名前はヴルムドライバーで、君が変身する仮面ライダーの名前はヴルム、が良いと思うんだけどどう?」
「ヴルムってどう言う意味です?」
「ドイツ語で虫を指す言葉だけど……それは時に竜を意味する言葉にもなる。
確かにぴったりだ。ヴルム、ヴルムかぁ……なんか響きがかっこいい。
「じゃあ俺は今日から、仮面ライダーヴルム、です」
「うん、よろしくね弟子クン」
「そこはヴルムじゃないんですか」
「弟子クンは弟子クンでしょ?当然、訓練もまだまだ続けるからね」
「はーい」
例え俺が仮面ライダーになったとしても、俺と師匠の関係は変わらない。でも今までよりも、師匠の事は助けられると思う。そうであれば良いなと思う。
俺も、この街を守る仮面ライダーなんだから。