目が覚めた時、私はソファーに寝かされていた。どこかのオフィスの様な部屋で、しかしそこにいたのは弟子クンだけだった。窓の外はすっかり暗くなっていて、LEDの照明がやたら眩しく感じた。体を起こそうとして全身に痛みが走り、思わず呻き声が出る。それに気付いた弟子クンが顔を上げた。
「あ、良かった……」
「君は怪我無い?」
「はい……あの、起きたら呼ぶようにって言われてるので、行ってきます」
そう言うと弟子クンは走って行ってしまった。
残された私の頭の中は、先程(なのか?)起きた事でいっぱいだった。
仮面ライダーを、ラセンを名乗る何者かに負けた。そしてラセンドライバーが消えた。夢ではない。現に私はラセンドライバーを持っていない。
あいつは一体何なんだ。あの姿は歪んではいるが、間違いなくラセンのそれだった。相手の姿を真似ると言う点を考えるとカメレオン辺りのクリスタルの能力か。それにあの金の仮面ライダーと言う前例もある。クリスタルの効果と言う可能性は充分にある。
しかしあいつが変身する前に鳴っていた音声が気になる。クリスタルに音声を発する機能は無いし、そもそもピンポイントで『ラセン』と言っていたのもある。物のシルエットもクリスタルとは少し違う様に見えた。
あいつは本当にヴァーミンじゃない……?
「気が付いたか、ええと、青葉さん」
部屋に入ってきたのは弟子クンとスーツを着た壮年の男性、そして上下共に左半身の丈が長い、改造したスーツの様な物を着て、銀のメッシュが入った短い黒髪の女性だった。特に最後の女性を見て訝しんでいると、その視線に気付いた男性が口を開く。
「怪しい者ではない……と言っても信じないかもしれないが。私は伊崎。今は前線部隊の指揮を担っている」
「前線……?」
まただ。朝のニュースでもそんな事を言っていたが、一体前線とは何の事だろう。
考えがまとまらない内に、今度は妙な格好の女性が前に出る。
「私はカレン。時間管理局所属、タイムジャッカーを追ってこの時代に来ました」
「ええ……?」
何?時間管理局?タイムジャッカー?
もう、何が何だか。
「カレンさんは……えー、未来から来た、らしい」
「らしいじゃないです。真実です」
じとっとした視線を伊崎さんに向けたカレンさんは、一呼吸置いて私に向き直る。
「貴方をここにお連れしたのは、この世界の修正に協力してもらいたいからです。青葉楓……本来の、仮面ライダーラセン」
「本来の?」
「そうですね、まずはそれ、アナザーライダーについて説明しなければ」
カレンさんが懐から出した端末をかざすと、そこからホログラムが浮き出て懐中時計の様な物を映し出す。それを見た瞬間に気付く。
「それ、あの男が持っていた……」
「そう、
ホログラムで映し出されたウォッチの中心には、あの歪んだ姿のラセンのマスクが描かれていた。
「これはタイムジャッカーによって生み出され、その時代、その世界にいる仮面ライダーの力を奪い、最終的には『その世界の仮面ライダー』に成り代わる物です」
「その世界の、ライダー……」
「これで変身した者がアナザーライダーと呼ばれます。そしてアナザーライダーを擁立する事で実質的な世界の支配を企むのがタイムジャッカー。彼らは様々な世界の様々な時代に現れ、歴史を改変しようと活動しています」
「歴史の改変……それって!」
私の反応に対してカレンさんは頷く。
「時間管理局はこの世界での歴史改変を観測しました。この世界の歴史は、どこからか正常ではなくなってしまった。私はタイムジャッカーの足跡を追い、一先ずこの時代にやって来ました。まだ改変の影響を受けていなかった時代の貴方に協力を仰ぐためです」
「成程……もしかしてヴァーミンが大量発生しているのも?」
「ああ、その影響だろう」
今まで口を閉ざしていた伊崎さんが反応する。
「我々にとって、この街がヴァーミンの侵略を受けているのは当たり前の事だった。主に警察や自衛隊からなる部隊が日々ヴァーミンの攻撃から人々を守る、誰もそれがおかしい事だとは認識できなかった……この状況を根本から変える事ができるのは、我々にとって一筋の希望なのだよ」
「アナザーラセンは人々を無差別にヴァーミンにしてしまう能力を持っています。ヴァーミンになった人達の自我は封印され、意のままに操られて人々を襲っている……そんな惨状をこれ以上繰り返す訳にはいかないのです」
「そうでしたか……」
狂ってしまった日常を変える事を、私は期待されていると言う事か。確かにそれは私も望む所ではあるが、しかし……。
「すみません、ご期待には沿えないと思います」
「と、言いますと?」
「ラセンドライバー、私がラセンに変身するための力は、消えてしまいました。理由は分からない……いや、おそらくさっき貴方が言った様に、ラセンに成り代わられてしまったからなのでしょう」
「そうでしたか……でも、まだ方法はあります」
私の答えを聞いても、カレンさんの目の光は消えていなかった。
「歴史が改変された事で本来のラセンの力は失われてしまいました。ですがこの世界は、それに代わる力を生み出している。それを貴方に使って欲しいのです」
「それは一体……?」
「案内します。どうぞこちらに」
傷だらけの私をいたわる様に、カレンさんは私に手を差し伸べた。
花恵市東区、この日戦場だった地点の付近に位置するビルの屋上、格子の外側にその男……雪城理央は腰掛けていた。瑞々しく艶のあるリンゴをかじり、しかし不味そうに顔をしかめながら咀嚼する。それは偏に食事と言う作業に対して感じる煩わしさからだ。理央の中では、食べる事は生命維持のための無味乾燥としたものだった。果汁が上質なスーツに垂れるのも気にせず、理央は口を動かし続ける。リンゴは芯を残して理央の胃袋の中に消え、理央は残ったそれを手持無沙汰に弄んだ。
「もう終わりか?」
かけられた声に反応して理央が振り返る。そこには奇妙な格好をした男が立っていた。赤いレザーのコートには金のチェーンが飾られ、インナーは様々な色の布が継ぎ接ぎになった物を着ている。ズボンと靴も赤に染まっており、白髪混じりの黒髪は縮れている。
だがその男を見た時に強く印象に残るのは目だろう。その目はギラギラとした光を称え、相手を委縮させる迫力があった。
「お前は王だ。もっと贅を尽くした物を食する権利がある」
「俺はこれだけで充分だ」
「そうか、王のくせにつくづく欲が無い男だ」
その言葉を理央は鼻で笑い、顔を背ける。
「王なんてどうでも良い……俺はこの街に復讐する、ただそれだけだ」
そう語る理央の目は、背後の男に勝るとも劣らない激しい光を宿していた。
背後の男はそれを聞いてくつくつと笑う。その音は理央にとって耳障りなものだった。
「お前はどうなんだ、アズラ。お前の目的とやらは達成されているのか?」
アズラと呼ばれたその男はにたりと笑う。
「最初に言っただろう。俺はこの世界が欲しいだけだと」
「欲しいだけ、ね……」
あまりにも欲深いその言葉に理央は思わず口角を上げた。
アズラは両手を広げ夜空を仰ぐ。
「既にこの街の外はヴァーミンで埋め尽くされている。そしてこの事をジオウは知らない。ジオウはこの世界を認識しない……この世界にジオウはいない!ならばこそ、ジオウに対抗しうるだけの存在を創るにはうってつけだ」
「時の王者か……」
理央はそれについてアズラから聞いていた。幾つもの世界を束ね、支配し得る力を持つ者。そんな壮大な者に愚かにも歯向かうのが、彼の目的なのだと。
理央にとってはどうでも良い事だった。彼の頭の中ではこの街の事とそれ以外で分類されていた。
理央は立ち上がり、格子を跳び越えて歩き出す。
「どこへ行く?」
「王の責務とやらを、果たしてくるさ」
理央はアナザーウォッチを起動しラセンへと姿を変え、風に乗り飛び去って行った。そしてその姿を、アズラは不気味な笑みを浮かべながら見送った。
案内された先は武器庫の様な場所だった。人々が銃や防具の点検をしている中に、見慣れた人物が一人。
「藤堂教授……?」
元の歴史ではラセンの装備開発に貢献してくれていた藤堂康平教授その人がいた。私の声で顔を上げた教授は、訝し気な視線を向けてくる。
「君……どこかで会ったかな?」
そうか、この歴史では知り合ってないのか。
「初めまして、青葉楓と言います……教授にはどこまで話を?」
「ここからは私が」
そう言うとカレンさんは一歩前に出る。
「藤堂さん、この方は本来の歴史の仮面ライダーラセンです。協力していただける運びになりました」
「そうか、君が……」
藤堂教授は嬉しそうな表情を浮かべる。
「つきましては、あれを青葉さんに貸していただきたいのですが」
カレンさんが言葉を続けると、教授は納得した様に頷いた。
「そう言う事でしたか。勿論良いでしょう。本来のラセンだったのなら、あれもきっと使いこなせるはず……」
教授は立ち上がって壁の前に立つ。取り付けられた端末にカードキーをかざすと壁の一部が開き、教授は中に保管してあったアタッシュケースを手に取る。机に置き、懐から取り出した鍵でケースを開錠する。
その中には、初めて見るはずなのにどこか見慣れた様な感覚を覚える何かがあった。
シルエットは長方形、丸形のパーツを中心として三角形を重ねたラインが左右に伸びた意匠のバックル。
これは、もしかして……。
「ドライバー……?」
「ラセンドライバー。ラセンに……仮面ライダーに変身するためのツールだ。君にこれを使ってもらいたい」
「これは貴方が?」
「そう。7年前、奴に研究データを奪われ、私達が研究していたラセンドライバーは完成しなかった。そこから私が持っていた情報を使って、何とかここまで辿り着いた。本来の物と比べると性能は劣るが、君なら或いは……」
この歴史でも、ラセンドライバーは形を変えて存在していた。藤堂教授は申し訳なさそうに言ったが、これが有るのと無いのでは話が格段に違ってくる。戦える。
「分かりました。やってみます」
「ありがとうございます。それでは早速試運転を——」
カレンさんがそう言いかけた時、破砕音と共に建物内に非常ベルが鳴り響く。私と弟子クンを除く全員の顔が険しいものになり、武器を手に部屋を出ていく人もいる。
「これは……」
「ヴァーミンの襲撃です。申し訳ありませんが時間が無い、実戦投入です」
ドライバーを見る。照明を反射して銀色に光り、私を呼んでいる。その声に従ってドライバーを手に取った。
「使い方は?」
「装着した後中心部にクリスタルをはめ込んで、音声で『変身』と入力してください」
「分かりました、行ってきます」
異変が起きているのは楓達がいたのよりも下の階だった。階段を幾つか降り、廊下を駆け抜ける途中で窓を破って吹き飛ばされた人が地面に叩きつけられる。割れた窓からヴァーミンが侵入し、顔を上げて楓を見る。
ヴァーミンが跳びかかってきたのを楓は身を翻して避け、装着していたドライバーに緑のクリスタルをはめ込む。強化ガラスの膜が中心部の左右から飛び出し、クリスタルを保護する様に固定される。ドライバーから発せられる音が大気を振動させ、楓は両手を交差させる。胸に引き寄せ、そして右腕を左前に突き出し、叫ぶ。
「変身!」
楓が叫ぶのと同時にヴァーミンが動く。自分に向かって来るそれに楓は真正面から立ち向かう。走り出す体に黒いインナースーツが瞬時に装着され、胸、肩、腕、脚にドライバーから放出されたエネルギーが集まっていく。それは凝固して鎧に変わり、楓の身体にクリスタルのエネルギーを充填させる。
「はっ!」
気合と共に放たれたパンチがヴァーミンを吹き飛ばす。体勢を整える楓の視界に、ガラスに薄く映った自分の姿が入る。
緑の装甲はシンプルな形状で所々に銀のラインが走り、元の物よりかはメカニカルな印象を受ける。胸部装甲に付いていた一対の装飾は無く、頭部の装飾も簡素だがチョウを模った緑のマスクとそこに光る赤の複眼は変わらない。
「これが、ラセン……」
ヴァーミンが呻きながら立ち上がる。それに気付いたラセンは地面を蹴り、ヴァーミンの身体を掴んで窓に向かって投げる。ガラスを突き破って外に放り出されたヴァーミンを追って自分も外に飛び出し、膝蹴りをヴァーミンの腹に連続で撃ち込む。ふらつくヴァーミンに渾身のパンチを繰り出すと、ヴァーミンは耐えきれずに爆発し変身していた人間が気を失って地面に倒れる。
周囲で銃声と怒号が鳴り響く。一体を撃破したラセンは複数のヴァーミンに照準を合わせ、直感的にドライバーの上側面を叩く。クリスタルから抽出されたエネルギーがドライバーを介してラセンの両腕に充填され、風を纏ったラセンが戦場を駆ける。
一番近くにいたヴァーミンにエネルギーを纏った拳を放つ。仲間が吹き飛ばされた事に気が付き襲ってくるヴァーミンの攻撃を躱してカウンターのパンチ。ヴァーミンの間を高速で駆け抜け、すれ違いざまに拳を的確に撃ち込んでいく。ラセンが動きを止めるのと同時に、複数体のヴァーミンが爆発する。
それまで戦っていた部隊は皆その光景に目を奪われ、中には自然と笑みが零れる者もいた。絶望的な状況の中、救世主が現れたのだと、誰もが歓喜していた。
しかしこれで終わりではない。爆発を背にして残心するラセンの研ぎ澄まされた感覚が、何者かの接近を感知する。こちらに向かってゆっくりと、堂々とした歩みを進めるシルエットが煙の中から浮かび上がる。
それは他でもない、ヴァーミン達の王、アナザーラセンだった。
「その姿は……ちっ、厄介な事になったか……」
舌打ちするアナザーラセンに対し、私は臨戦態勢をとる。
ヴァーミンを倒すために力を解放したが、いつもの様な疲労感は無くまだ戦える様に感じる。いつもよりも身体に満ちるエネルギーは体感的には少ないが、同時に体力の消耗も少ない。この歴史の状況を考えると、一瞬の火力ではなく長く戦える事に重きを置いて設計されたのかもしれない。
だからまだやれる。そして今度こそ勝つ。
「ふっ!」
先に仕掛けるのは私。力を込めて地を駆け、アナザーラセンに肉薄する寸前で跳躍する。
「何ッ!?」
驚くアナザーラセンの後ろに着地すると同時に蹴りを繰り出す。咄嗟に防御したアナザーラセンは後退り、唸って反撃のパンチを繰り出してくる。タイミングを見計らい、その腕に飛び乗って再び跳躍。私を見失った敵が振り返ると同時に距離を詰め、顔面を殴りつける。
「動きが……ちいっ!」
思った通りだ。おそらくアナザーラセンは自分と同等の力を持つ相手との戦闘経験が無いのだろう。一方的に相手を蹂躙し、破壊する事しかしてこなかった。
だからこそ、私の動きに付いて来れていない。スペックでは劣っても、それを埋めるだけの経験値の差が私にはある。それに前回対峙した時の力を吸われる様な感覚も無い。これならいける。
ドライバーを叩き、全身にエネルギーを行き渡らせるイメージをする。その通りにエネルギーが身体に運ばれ、私の動きを加速させる。走り、アナザーラセンの攻撃を躱して回し蹴り、怯んだ所にすかさず拳を連続で撃ち込む。溜めた一撃でアナザーラセンを吹き飛ばし、すぐに距離を詰めようと走り出す。
「なめるな!」
アナザーラセンが腕をかざすと風が巻き起こり、私の侵攻を阻んだ。凄まじい風が私を絡めとり、身動きが取れなくなる。その隙にアナザーラセンは右腕に風を纏い、その拳を繰り出す。なんとか防御態勢をとれたが、大きく吹き飛ばされて地面を転がる。
前の傷が癒えてないのもあり、全身が軋む様に痛い。立ち上がるのもやっとだ。
でも……。
「頑張れー!」
「負けるな、仮面ライダー!」
「行けーっ!」
部隊の人達の声援が聞こえる。私を応援してくれる人が、力をくれる人達がいる。
「頑張れ……青葉さん!」
弟子クンが私を呼ぶ声が聞こえる。全身が熱くなって、力が漲ってくる。
大丈夫、私は負けない。この世界を元に戻すためにも。
皆を、守るためにも!
ドライバーを叩く。それに反応したアナザーラセンが再び風を巻き起こし、私の動きを封じる。でも……。
そんなもので、私は止まらない!
風の中、ラセンは腰を落とし、そして風を切り裂いて跳躍する。
暴風域を脱し天高く舞うラセンの背から緑のエネルギーが放出され、それはチョウの翅を模った。空中で体勢を制御し、右脚をアナザーラセンに向けて突き出す。そして。
「はああああっ!」
風のエネルギーを纏ったキックがアナザーラセンを捉え、大きく吹き飛ばす。ラセンが着地し、立ち上がると同時にアナザーラセンが爆発し、炎の中で雪城理央が地面に伏した。その傍らに転がるアナザーウォッチには、大きな亀裂が走っていた。
アナザーラセン……雪城理央が倒れたのを確認し、私は変身を解こうとする。しかし……。
「どうして……?」
カレンさんの呟きが私の手を止める。
「どうして、とは?」
「アナザーウォッチが破壊されていない……そうか!」
カレンさんは納得した様に顔を上げる。
「アナザーライダーは元となったライダーの力でしか倒せない……確かに貴方はラセンだけど、厳密には元のラセンではない。だから……」
「完全には倒せない……?」
「そうです。青葉さん、ウォッチを回収してください!」
ウォッチを取り上げてしまえば確かにアナザーラセンにはなれなくなる。その言葉に従って走り出そうとする。
しかし身体は動かなかった。
『これは……一体?』
口を動かしたつもりが音が出ない。完全に身体の動きが止まっている。目に見える範囲では、部隊の人々の動きも止まっている。ちらついていた炎でさえも、その動きを止めている。動きも、音も無い、静寂の世界。
そんな世界の中、ただ一人動く者がいた。
「やれやれ、ちょっと覗いてみたら……やられてどうするんだ、王様よ」
全身赤い服を着た何者かが雪城理央の傍らに立っていた。そいつは私を見て嫌な笑いを浮かべる。
「これはこれは、お初にお目にかかります。仮面ライダーラセン……そこの女は知っているだろうから潔く名乗っておこう、俺はアズラ。お前達が探しているタイムジャッカーとは俺の事だ」
アズラと名乗った男はゆっくりと歩を進め、私に近づいてくる。
「会ったばかりで何だが、これ以上邪魔されても鬱陶しいのでね。その物騒な機械は没収させてもらおう」
そして私の前に立ち、ドライバーを掴む。
『やめろ!』
私が心の中でそう叫んだのと同時に腕が動き、アズラの腕を掴んでドライバーから引き剥がした。それを見てアズラが舌打ちする。
「やはり半端な力では抑えられんか……今日の所は一先ず退散としよう」
アズラは私を注意深く見ながら後退りし、雪城理央を抱える。すると銀色のオーロラの様なものが突如出現し、二人を覆い隠す。オーロラが消えた後には、二人の姿は無かった。
全身の感覚が戻る。炎が再び揺らめき、人々がそれぞれ顔を見合わせる。
「今のは……?」
「タイムジャッカーの時間停止能力です。逃げられてしまいました……後一歩だったのに」
カレンさんの悔しそうな呟きが、夜の戦場に木霊した。
負傷者の治療の手配をした後、私達はオフィスへと戻って来ていた。勝利したはずなのに、オフィスには重い空気が漂っていた。
「コーヒーでも淹れるか」
そう言うと伊崎さんは隣の給湯室に入っていった。暫く沈黙が続き、それを破ったのはカレンさんだった。
「やはり根本を叩くしかない」
「根本、と言うと?」
「アナザーライダーが産まれた時代、そこに干渉してアナザーライダーの誕生を防ぐ、もしくは早期に排除すると言う事です」
カレンさんの目には先程の様な落胆は無く、寧ろ決意に満ちていた。
「そんな事が可能なんですか?」
「可能だ。最初に言ったが、彼女は未来から来ている。時間を移動する手段を持っているのさ」
伊崎さんがトレイに並べたカップを配っていく。白い湯気が立ち昇り、コーヒーの深い匂いが鼻をくすぐる。それを一口飲み、カレンさんは私を真っ直ぐに見た。
「青葉さん、私と一緒に過去に行ってくれますか?」
「過去に……」
つまりはタイムスリップと言う事だ。そんな事が本当に可能なのか、もし可能だとしてもそれで未来を元に戻せるのか正直不安ではある。
でもやるしかない。
「分かりました。私にできる事があるなら」
カレンさんは安心した様に微笑む。
「ありがとうございます。出発は……コーヒーを飲んでからにしましょうか」
エレベーターのディスプレイが地下2階を示す。扉が開き、通路を歩いた先の広いスペースにそれは鎮座していた。
「あれって……」
今朝気を失う前に見た、巨大なバイクの様なものだった。
「これはタイムマジーン。これに乗る事で過去や未来、時間を自由に行き来する事ができます。さあ、行きましょう」
タイムマジーンの一部が展開しスロープになる。迷いなく中に入っていくカレンさんについて中に入ろうと。
「あの……」
した所で、弟子クンが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「俺、あなたの弟子なんですよね?でも俺、何も役に立てなくて……」
俯く弟子クン。最近は調子が良かったから、久しぶりに彼のこんな様子を見た気がする。
でも、何も役に立ってないは違うかな。
「君の声が聞こえたから、私は勝てたんだと思う」
「え……?」
「君が私を信じてくれたから、皆を守れたんだ。だから、今度も信じて欲しい。絶対に世界を元通りにしてみせるから」
弟子クンは呆気にとられた顔をしていたが、それが次第に笑顔に変わっていった。
「はい、あの……頑張ってください!」
「うん、行ってくる」
笑顔を交わし、私はタイムマジーンの中に入る。カレンさんは既に操縦桿を握っており、モニターには2016と表示されている。
「準備は良いですか?」
カレンさんの問いかけに、私は強く頷く。
「行きましょう……7年前に」