仮面ライダーラセン   作:赫牛

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特別篇 ラセンアルター(3) 跳躍

 操縦席の前に設置されたモニターには、機械の回路の様な、それでいて虹の様に幻想的な通路が映っており、私達が今ここを通っているのが分かる。カレンさん曰く、この『時空の通路』はあらゆる時間、世界に繋がっており、どんなに遠い過去や未来にも、どんなにかけ離れた世界にも行けるとの事。信じ難い話ではあるが、その言葉を信じるしか無いのが現状である。

 

「もうすぐです。多少揺れるので何かに掴まって」

 

 カレンさんの言葉通り、モニターには白く光る出口が映し出されている。そして多少……と言うかかなり機体が揺れて、咄嗟に壁に寄り掛かった。

 十数秒で揺れが落ち着き、ドア兼スロープが開いて芝の匂いが機内に入ってくる。カレンさんに続いて降りると、そこは花恵の西区にある公園だった。

 

「無事2016年に来れましたね」

 

「そっか、そうなんだ……」

 

 この辺りは2023年と比べても然程変化していないので正直実感は無い。変わっていないが故に地理で悩む必要が無いと言うメリットもあるにはあるが、タイムスリップしたのなら折角なら懐かしい建物とか見たい気持ちもあった。

 カレンさんが端末を取り出し、ホログラムで地図を表示させる。

 

「私達の目的はアナザーラセンの誕生を阻止する事。この時代、雪城理央はラセンの開発に携わっていました」

 

「そうなんですか?」

 

 藤堂教授から聞いていた当時の研究メンバーは5人、しかしその中に雪城理央の名前は無かったはずだ。

 

「主要メンバーではなく、誰かしらの助手だったようです。研究は青葉さんも知っての通り、ここの地下で行われていました」

 

 地図に赤い点が表示される。確か街の中央に近い場所に位置する、一見すると何でもない小さな事務所が建っていたはずだ。

 

「一先ずはここに向かいましょう……つきましては青葉さん」

 

「はい?」

 

「ここまで案内してもらえませんか」

 

「……え?」

 

「私地図読めなくて」

 

「あー……」

 

 

 

 

 

 店で二人乗りのバイクをレンタルし……免許の生年月日はカレンさんが未来の技術で誤魔化してくれた……目的地へと走らせる。西の外れから街の中心に向かう途中では、やはりと言うか再開発や建て直し等でなくなった景観や建物がちらほらと見受けられた。未だに半信半疑ではあったが、こうなると本当に時間を越えた事を認めざるを得ない。勿論カレンさんに悪意があると思っていた訳ではないが。

 花恵市は別段広い訳ではなく、渋滞に巻き込まれる事も無かったので数十分で目的地に辿り着いた。何の変哲もない事務所が、異様なオーラを放っている様に見えるのは私の思い込みか、或いは。

 さて、無事に到着した訳だが、問題はどうやって中に入るかだ。

 仮にも機密情報の宝庫、当然警備も厳重な訳で、まさか真正面から突入するなんてことは……。

 

「失礼します」

 

 カレンさんは堂々と事務所のドアを開ける。

 

「嘘ぉ……」

 

 中には警備員が二人、壁を背にして怖い顔をして立っている。カレンさんは臆する事なく近づき、丁度二人の間に取り付けてある装置に自分の端末をかざす。ぴっ、と電子音が鳴り、壁の一部が音も無く開いて下へ続く通路が現れる。

 

「どうしました?行きますよ」

 

「え、あ、はい」

 

 何でもない様に歩くカレンさんの後に続いて通路に入ると、壁が動いて入り口を塞ぎ、一瞬の後に照明が点灯する。

 

「あれって、電子カードキーですよね?どこで手に入れたんですか?」

 

「わざわざ個別の物を入手するなんてしませんよ。この時代のセキュリティ如き、未来の技術でちょちょいのちょいです」

 

「はえー……」

 

 現代のセキュリティもなかなかに高度な技術が使われていると思うのだが。未来って色々大変そうだな。

 

 

 

 

 

 暫く通路を歩くと、時々人とすれ違う様になった。大抵の人は持っている資料に目を通していたりでこちらを見ていないのだが、何人かはすれ違う際に物珍しそうに私達を見てくる。

 

「あの、見られてますけど大丈夫です?ほら、あの人なんて眉ひそめてますし」

 

「大丈夫です。私達の姿を違和感無くカモフラージュさせる装置も持ってきていますから。きっと新入りが来たとか思ってるんですよ」

 

「そうですかね……」

 

 さらっと凄い技術を開示された事に内心驚いていると、あっと言ってカレンさんが歩みを止める。

 

「そういやその装置、起動してなかったです。いけないいけない」

 

「……まじですか」

 

 思わずそう漏らした瞬間、大音量で警報が鳴り響いた。同時にアナウンスが流れる。

 

『研究所内に侵入者有り。警備隊は直ちに確保にあたれ。繰り返す……』

 

 赤いライトが通路を照らす。そんな状況にもかかわらず、私とカレンさんはゆっくりと顔を見合わせた。

 

「カレンさんって、意外とポン——」

 

「違います決してポンコツではありません。同僚にからかわれてたりしません」

 

「……ああ」

 

 そう言う感じだったかこの人。

 遠くから大勢の足音が聞こえてきて我に帰る。

 

「と、兎に角進みましょう!」

 

「ふぇっ……は、はい!」

 

 呆然としていたカレンさんの手を引き走り出す。分岐する道をカレンさんのナビゲートに従って進み、最短ルートで目的地を目指す。しかし無情にも、進行方向から装備を着こんだ男達が私達目掛けて走ってきた。やはりと言うか、一筋縄ではいかないものだ。

 

「仕方ない……応戦します!」

 

「ええっ!?」

 

 カレンさんの手を離し、真正面から男達の間に切り込む。振るわれる警棒を最小限の動きで避け、後ろをとって一番近いのにハイキックをお見舞いする。変な呻き声を上げて沈んだ男を跳び越えてもう一人の胸に跳び蹴り。3人目の腕を掴んでチョップし、落とした警棒を拾って襲い掛かってきた男に叩きつけると電流が走り、男が崩れ落ちる。想像以上に危ない代物だった。一先ずこれはカレンさんに押し付ける。

 

「え、ええ?」

 

「これで身を守ってください」

 

「私戦闘は専門外なんですけどー!」

 

「つべこべ言わない!」

 

「そんなぁー!」

 

 カレンさんの情けない声は一旦無視して、私達を取り囲む男達に向き直る。今の所残るは4人。しかしいつ増援が来るか分からない。

 数瞬睨み合って、向こうが仕掛けてこないのでステップして肉薄し、ジャンプして男二人の胸を順に踏みつける。一人の背後に着地して足を払って転倒させ、カレンさんを襲う男を後ろから蹴ってよろめかせる。

 

「カレンさん、今!」

 

「え、えいっ!」

 

 カレンさんが警棒を振り下ろし、感電した男が気を失った。

 

「ナイスです!」

 

「や、やった!」

 

 これで近くにいる警備隊は全員無力化できた。ハイタッチでもしたい気分だが、すぐに足音が聞こえてきたのでカレンさんの手を取って走る。

 

「道合ってますか?」

 

「はい、このまま真っ直ぐ!」

 

 私達の侵入による混乱が、アナザーライダーの誕生にどう影響するかは分からない。間に合うようにと念じながら、ただひたすらにゴールを目指す。

 

 

 

 

 

 けたたましくサイレンが鳴る中、雪城理央の上司、研究チームのリーダーを務める男の態度はのんびりとしたもので、外の喧騒なんて構わずに作業を続けていた。そんな彼を見て雪城理央は当然焦っていた。

 

「主任、早く避難しないと!」

 

「まー警備隊が対処するでしょ」

 

「しかし、万一の事があったら、折角の私達の研究が……」

 

「別に口出ししなくて良いよ。君の手柄になる訳でもないしさ」

 

「え……?」

 

 言葉に詰まった雪城理央を、彼はまるで道に落ちている石を見る様な目で見ていた。

 

「君は僕の助手でしょ?助手の名前なんて後世には残らないよ。まあ残るとしても僕の名前だろうね」

 

 ここまで彼は一切表情を変えなかった。しかしさも当然の様に言い放ったその一言は、どれ程雪城理央を驚愕させ、落胆させ、憤怒させた事か。

 

「冗談ですよね……?今までかなり貢献してきたでしょう?ねえ、主任?」

 

「君馬鹿じゃないんだからさあ、同じ事言わせないでよ。あ、それよりそこの資料取って」

 

 ここまで言ってなおも図々しく命令する彼の態度に、雪城理央は我慢の限界に達し彼に掴みかかった。

 

「ふざけるな!俺がどれだけこの研究に捧げてきたと……」

 

「じゃあ君がやるかい?」

 

「っ……!」

 

 襟首を掴まれているのも意に介せず、彼は雪城理央を嘲笑う。

 

「できないでしょ?研究の構想は僕の頭にしか無いからね。君がやった所ですぐに行き詰る。だから大人しく手伝ってね」

 

 彼は雪城理央の手を払いのけ、何事も無かったかの様にデスクに戻った。

 

「……くそっ!」

 

 何をどう言おうとこの男に勝てないと悟った雪城理央は、一言吐き捨てて研究室を後にした。

 

 今の雪城理央にとって、この非常事態もどうでも良い事になってしまった。誰もいない喫煙スペースに辿り着き、懐からタバコを取り出したが箱の中には一本も入っておらず、雪城理央はそれを地面に叩きつける。

 上手くいかない、と言うより、何もかも崩れ去った様に彼は感じていた。あの研究のために割いた3年は無駄になった。あの男が自分を良い様に使っている事を、何故もっと早く見抜けなかったのだろうかと、後悔の念が彼の中で渦巻いていた。

 あの研究はこの街を豊かにするためと聞き、だから彼は賛同した。しかし今、それに見放されたと言う事実は、彼にとって尽くしてきた街に裏切られたも同義だった。

 もう何もかも終わりにしたい。

 絶望と怒りで頭が支配されていた雪城理央だったが、すぐ近くで足音がしたのに気付くくらいには理性が残っていた。

 

「良い顔してるなぁ、お前」

 

 いつの間にか雪城理央の隣に、赤ずくめの奇妙な男が立っていた。

 

「何だあんた……そうか、あんたが侵入者か」

 

「俺が?いやいやいや、俺はちんけな警備に引っ掛かる程間抜けじゃない……お前と取引をしたくて来たんだ」

 

「俺と?」

 

 男は雪城理央の顔を見てにぃと笑い、懐から懐中時計の様な何かを取り出す。

 

「これを使って王になれ。そしてお前を軽んじた奴らに復讐するんだ」

 

 男の持つそれは禍々しい何かを纏っており、雪城理央はそれから目が離せなかった。

 

「あんたは何を見返りに求める?」

 

「王になったお前の力が欲しい。俺の願いを叶える手伝いをしてくれ」

 

 また手伝いか、と雪城理央は思った。こいつも自分を利用するだけ利用して斬り捨てるのではないかと言う疑いが首をもたげた。

 しかし、彼にとってそれはどうでも良かった。

 

「俺は……復讐ができればそれで良い……」

 

 雪城理央は男が差し出したそれ……アナザーウォッチを掴む。

 

RASEN(ラセン)……』

 

 力を込めると禍々しい音が鳴り響き、男が添えた手に導かれる様にアナザーウォッチを胸に押し当てる。

 

「う……ウオオオオオオッ!」

 

 黒い風が巻き起こり、それが治まった時、雪城理央はアナザーラセンへと姿を変えていた。

 

 

 

 

 

 私達が目的地に辿り着いたのと、雪城理央がアナザーラセンに変わったのはほぼ同時だった。巻き起こる風でガラスが割れ、咄嗟にカレンさんを庇う。

 

「間に合わなかった……」

 

「いえ、まだです!アナザーラセンの存在が完全に世界に定着する前に倒してください!」

 

「了解!」

 

 ドライバーを装着しクリスタルを装填、構え、そして叫ぶ。

 

「変身!」

 

 溢れるエネルギーが鎧に姿を変え、ラセンへの変身が完了する。そしてアナザーラセンが気付く前に組み付いて拳を二発、大きく溜めて一発撃ち込む。よろめいたアナザーラセンを掴んで通路に引きずり出し、再び拳を繰り出す。

 

「くそっ……何だお前!」

 

「貴方を止めに来たんだ」

 

「何だと……?」

 

 さっきの私と同じ様に拳を繰り出してくるのを避け、いなすと同時に腕を掴んで背負い投げる。起き上がった所に回し蹴りを放ち、吹き飛ばす。予想通り相手は私の攻撃に対応できていないようだ。

 しかしその考えが隙を生んだのか、次のアナザーラセンの行動に咄嗟に対応できなかった。アナザーラセンは腕から風を生じさせて私の動きを止め、そして背を向けて逃走を始めた。

 

「待て!」

 

 

 

 

 

 アナザーラセンが逃げ込んだのは第二研究室と書かれた部屋だった。開け放たれたドアから飛び込むと、アナザーラセンは白衣を纏った男を羽交い絞めにしていた。

 

「動くな!」

 

 言葉はそれだけだったが、変に動くとどうなるかは明白だった。私は現状を判断し……そしてアナザーラセンが人質に取っている男を見て驚愕した。

 目にかかる程度に切り揃えられた黒髪、身に危険が迫っていると言うのに薄っすらと笑いを浮かべる口元、そして深淵を覗いているかの様な暗い瞳。

 その男の顔を、私は良く知っていた。

 実際に会った事は今まで無い。しかし写真では何度も見て、いつでも見つけられる様にと覚えていた。

 そして今、時間を越えた先で会った。

 今すぐにでも行動を起こしてしまいたい衝動に駆られる。未来が変わってしまう可能性だってあるけど、寧ろ変えてしまった方が良いとさえ思う。

 でもできない。相手はこの時点ではまだ何もしていないはず。未来の罪で裁くと言うのはあまりにも傲慢で、何より相手は生身の人間だ。

 

 

 

 だからできない。この男をここで排除する事はできない。

 

 

 

「それで良い……いや、やはり手を挙げてもらおうか」

 

 ヴァーミンが爪を男の喉元に突きつける。

 

「……分かった」

 

 その言葉に従って手をゆっくりと動かし……そして右腕をアナザーラセンに向けてかざす。腕から放出されたエネルギーが風となって吹き荒れ、アナザーラセンの動きを止める。資料が風で散らされる中踏み込みアナザーラセンの腕を掴んで男から引き剥がし、そのまま組み付いて研究室の外まで押し出し通路に投げ飛ばす。

 視線を感じ振り返ると、男は私を穴が開く程に見つめていた。この姿を目に焼き付けようとするが如く、黒い深淵が私を捉えていた。

 口を開こうとした瞬間、視界の端でアナザーラセンが動き出す。衝動を抑えて男は捨て置き、アナザーラセンに向き直る。

 ドライバーを叩きエネルギーを右脚に集中させる。左脚を引いて腰を落とし、助走をつけて前へ鋭く跳ぶ。背中から放出されるエネルギーで体勢を無理矢理調節し、アナザーラセンの胸をキックで撃つ。アナザーラセンが壁に叩きつけられ、少し後に爆風が通路を駆け巡った。

 炎が通り過ぎて焦げた通路に水が降り注ぎ、熱を急激に冷ましていく。雪城理央が倒れた傍らに、さっきも見たアナザーウォッチが転がっている。

 あれを壊せば、全部元通りに。

 そして歩き出した瞬間、また時間が止まる。

 通路の向こう側から現れ、忌々し気に私を見るのは赤ずくめの男……アズラ。

 

「時空管理局め……また邪魔をするか」

 

 そう零しながらアナザーウォッチを拾い、また私を見る。

 

「だが青葉楓、歴史を修正する鍵がお前だと言う事も分かった。ならば、そう弁えた上で行動すれば良い話だ」

 

 アズラの背後に灰色のオーロラが出現し、今度はアズラだけを飲み込む。アズラとウォッチは消失し、後には雪城理央が倒れているだけだった。

 身体を縛る圧力が消え、再び動けるようになる。後ろからカレンさんの足音が来る。

 

「アナザーウォッチは!?」

 

「すみません、アズラに回収されました」

 

「そうでしたか……いえ、諦めません。アズラを追いかけましょう」

 

 カレンさんの目の光はまだ消えなかった。それは勿論私も同じつもりだと、カレンさんに頷いて同意する。

 

「時間を越えた痕跡があります。どうやら別の時間に逃げ込んだようです……ここです」

 

 カレンさんが端末を操作し画面を見せる。そこに表示された日付に、脳が引っ掛かりを覚える。

 

「この日……まさか」

 

 アズラは私が鍵だと言った。ならばこの日付は、偶然ではなく目的のあるもの。

 2021年1月25日。お父さん……柳生明人の命日。

 私が初めて仮面ライダーになった日だ。

 

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