仮面ライダーラセン   作:赫牛

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白の鼓動(2)

 多対一と言う不利な状況に置かれ、更に敵の毒を受けてしまったラセン。敵を見る眼は輝きを失っていないものの、じわりと広がる痛みに息も絶え絶え、追い詰められていると言う絶望的な状況。

 

「くふふふ……」

 

 メディが変身するヴァーミンが妖艶な仕草で剣を掲げ、ラセンの輪郭をなぜる様に遊ぶ。動けないラセンの目の前に立ち、剣先をラセンの喉元に向ける。

 

「じゃあ……口、使えなくしちゃうねぇ?」

 

 嘲る様に嗤いながら、狙いを定めて剣を引き絞っていく。今回ばかりはラセンも仮面の下で目を瞑り、諦めていた。

 のだが。

 剣が突き出される刹那、ラセンの懐が白く輝き、突如としてラセンとヴァーミンの間のわずかな空間に氷の壁が発生した。それは鋭い剣の切っ先を受け止め、それを辿ってヴァーミンの腕を凍り付かせた。

 

「うわっ!」

「え……っ!」

 

 呆気に取られていたのはヴァーミンだけでなくラセンも同じだったが、すぐに自分がやるべき事に思考を切り替え、ドライバーを叩いて風を巻き起こす。暴風で砕かれた氷がそのまま風に乗り、凄まじい速度でヴァーミン達に襲い掛かる。メディ達がそれに怯んでいる背後でエンジン音が響き、バイクが走り去る音が遠ざかっていく。

 

「逃げたのぉ?……つまんないの」

 

 氷の嵐が治まった後、メディは剣を下すと子供の様に独り言ちた。変身を解いて見えた顔はあからさまに不機嫌で、働きバチの脚を蹴飛ばして路地裏へと消えていった。

 

 

 

 

 

 暫くバイクを走らせ、人気の無い路地裏まで来た所で変身を解除した。途端に脇腹に鋭い痛みが走り、思わずうずくまる。

 あの剣に付けられた傷が背中まで貫通していないのがせめてもの救いだが、流し込まれた毒によって全身に痛みが走っているし血は流れるしでまともに動けない。ラセンドライバーに内蔵された治癒効果によって傷は塞がりつつあるが、あいつの言葉が本当なら恐らく毒までは治せないだろう。

 使用しているクリスタルも強力な部類だがそれだけじゃない、メディ自体が強い。厄介な敵だ。対策を練らないと。

 携帯を取り出し、桜に電話をかける。数コールした後に繋がった。

 

『もしもし?』

「桜……メディって女性に心当たり無い?」

『いきなり何……って声どうした。大丈夫?』

「大、丈夫……何か情報無い?」

『え……ええと……あるけど、結構危ない寄りの機密なんだけど』

「そこを何とか」

『うー、もう……そいつそこそこ名の通った殺し屋。警察全体で探してるんだけど全然見つからない』

 

 成程、殺し屋と来たか。立てこもり犯達に雇われている、と言う文脈なのだろう。

 

「そいつ今花恵にいるよ」

『マジ!?……ってあれか、楓絡みって事は……』

「うん、ヴァーミンだった」

『だよねー……うちらがどうこうできる奴じゃないか』

 

 花恵の勇敢な警察官と言えど、ヴァーミンを相手にさせる訳にはいかない。

 

「まあ、桶は桶屋に、と言う事で」

『ごめん、任せた……ちょっと私もう行かなきゃだから、そろそろ切る』

「オッケーありがとう。また今度奢るよ」

『楽しみにしてる、じゃあ』

 

 通話が終了した途端、支えていた腕から力が抜けてため息が出る。通話の後ろから聞こえてくる音が騒がしかったから、きっと警察も立てこもりにかかり切りなんだろう。これ以上の助力は期待しない方が良い。弟子クンも人質にされてるし、自分で何とかするしかない。

 打開の鍵は……もしかしたらあるのかもしれない。

 懐から取り出した白いクリスタルを見ながら、さっきの事象を思い返す。

 私が窮地に陥った時に突然発光と共に氷の壁が生成された。そして私が所持しているクリスタルの中で氷にまつわる能力が秘められているのは一つしかない。

 しかし、だ。

 

「使う……のか?」

 

 今朝も思案した通り、このクリスタルは純正化されていないものだから安定した運用はできないはずだ。かといって先程の様な偶発的なアシストを期待する訳にもいかない。

 

「ああもう……」

 

 いつもならある手札で何とかするしかないと思考を巡らせるのだが、今このクリスタルがあるせいでこれを使う方向で思考が引っ張られてしまっている。ノイズだ。

 駄目だ、切り替えろ。こんな不安定な手札を択に入れる訳にはいかない。

 とは言え今は痛みも相まって集中できない。少し休まないと。

 壁にもたれてしゃがみこんだ私は目を閉じた。その手に白いクリスタルを握りしめたまま。

 

 

 

 

 

 俺達が人質になってから、一時間と少し。

 未だに状況は変わらず、警察と立てこもり犯の睨み合いが続いているままだ。武装した集団からは苛立ちを感じるが、辛抱強く銃は向け続けている。

 と。

 

「あの……」

 

 手を高く挙げる男が一人。

「トイレに行きたいんだが」

「駄目だ、我慢しろ」

「でもここで漏らすのは……頼むよ」

「……良いだろう、おい、こいつを見張れ」

 

 窓口に座るリーダー格なのであろう男が銃で示した犯人が人質の男の後ろに付き銃を押し当てる。その状態のままトイレの方へと歩いていき……途中で男が反転して犯人の腕を押さえ、銃を奪い取った。

 

「なっ……!?」

「おい動くな!さもないと……こ、こいつを撃つぞ!」

 

 震えながらも武装集団を威嚇する男は犯人の一人に狙いを定めている。それを見たリーダーの男は眉をひそめ立ち上がる。

 

「随分舐めた事してくれるな……いや丁度良い。どうなるか思い知らせてやる」

 

 男が懐を弄り……取り出したのは鈍く光るクリスタルだった。男はそれを胸に押し当て、その姿をハリセンボンの特徴を有したヴァーミンへと変貌させる。

 人々の叫びが行内に響く中、ヴァーミンは身体中に生える針の一つを発射、銃を構える男の腕に突き刺した。

 

「うう……ああああっ!」

 

 激痛が走ったのだろう、男は銃を取り落としてしまい、犯人がそれを拾って男に突き付ける。ヴァーミンは見せつける様に両腕を広げ、人質達に語りかける。

 

「良いか、お前等も痛い目に遭いたくなければ変なまねをするな……分かったかぁ!?」

 

 ヴァーミンの威圧的な言葉に人質達は黙って頷き、行内に沈黙が戻る。変身を解除した男は、また椅子に座り込んだ。

 まさか奴ら、クリスタルにまで手を出しているなんて。

 俺が動けてさえいれば……でも無理なものは仕方無い。きっと師匠が勘づいて動いてくれているはずだ。それを待つんだ。

 それまで、耐えるしか無い。

 

 

 

 

 

 目を開けると、粗方傷は塞がっていた。だが、体中にじんじんと広がる痛みは変わらずだ。

 ふぅと息を吐き、ぐっと力を入れて立ち上がる。お腹が減ったが、今の格好でレストランやコンビニに寄るのはできなくはないが通報される可能性があるので避けたい。ここは一旦帰って補給を……。

 

「いや、来てもらえば良いのか」

 

 携帯を取り出し、登録してある番号にかける。相手はすぐに出てくれた。

 

「はい、喫茶ニシノです」

「もしもし千種?至急食べ物が欲しいんだけど……」

 

 

 

 

 

 大まかな場所を伝えて十数分もすると、見慣れた車が近付いてきた。中から小柄なボブカットの女性……千種が降りてくる。

 

「いたいた……ええ?大丈夫なのそれ……」

「大丈夫大丈夫、でもお腹空いてて」

「そうだよね、どれ食べる?」

「ティラミスかな」

「ティラミスね……はいどうぞ」

「やった、いただきます」

 

 タッパーに入ったそれをスプーンで大きく掬い頬張ると、少しの苦味とコクの深い甘味が口の中で蕩けた。美味しい。数少ない私の事情を知る人物である千種が実家の喫茶店を継いでくれて本当に良かった。

 

「こんなにぼろぼろで……強かったの?」

「うんめっちゃ強い……次イチゴパフェで」

「速いね……はいパフェ」

「ありがと」

 

 これまた絶品のパフェを頬張りながら考える。メディが立てこもり犯に雇われているなら、救出の過程で妨害が入るのは確定している。つまりは最低でも一度は戦わないといけない訳だ。ちゃんと対応策を考えないと。

 相手の強みは素早さを活かした近距離での戦闘。であればその土俵に立つのは避けるべきなので遠距離攻撃ができる赤のラセンが適しているとも言えるが、それは一対一での話だ。厄介な子分が三体、私の邪魔をしてくるだろうから、そうなると接近戦に持ち込まれやすくなって赤のラセンでは不利になる。真正面からの斬り合いを避けると言う観点なら紫で搦め手を使うと言うのも手だが、消費が激しい紫でいつまで戦えるかは分からないし、何より消耗した今の状態で使うべきではないだろう。

 やはり緑で行くべきか……いや。防御に長けた青ならばあの剣も防げるかもしれない。攻撃を受けつつカウンターで撃破、うん、これで行こう。

 

「ごちそうさま。じゃあ行くね」

「大丈夫なの?」

「うん、まあやってみるしかないかな」

「分かった、頑張って」

「ありがとう!お金は今度!」

「別に良いから」

 

 微笑む千種に手を振ってエンジンをふかし、バイクを走らせる。

 

 

 

 

 

 そしてこちらの予想通り、メディは現れた。先程と同じく私の進路上に、いつの間にか立ちはだかっている。

 

「くふふふ、懲りないのねぇ、それとも好きになっちゃったぁ?」

「まさか。まだおいたしないといけない連中がいるだけさ」

「おいた……くふふふ、可笑しいのね。反省するとか思ってるのぉ?」

「いいや。でも、だからこそ本気で殴れてせいせいするよ」

 

 ドライバーを装着し、青のクリスタルを装填する。発せられる音が大気を振動させる中、構えて叫ぶ。

 

「変身!」

 

 ドライバーから水が螺旋状に噴出し体に纏われていく。頑強な鎧と一本角を有し、剣を携えた青のラセンに変身した所で、メディが引きつる程の笑顔を見せる。

 

「いいわ!あなたもやる気なのねぇ!素敵ぃ!」

 

 クリスタルを握り込みハチのヴァーミンに変貌した所で、どこからか三体の働きバチのヴァーミン達がメディの下に集った。

 

「くふふふ……あはははっ!」

 

 最初からフルスロットルのメディは翅を広げ、超高速でこちらに迫り剣を突き出す。それを待ち構え、剣先をこちらの剣で滑らせて攻撃を逸らす。

 

「あらぁ?……くふふふ、意外に器用なのねぇ」

「はあっ!」

 

 メディの軽口を無視して剣を振るう。しかしそれは上空へと飛んで躱される。

 

「じゃあこれは?どうなのどうなのぉ!?」

 

 メディとその周りを飛ぶ働きバチ達が、一斉に翅を強く振動させる。途端に途轍もない重圧がのしかかってきて思わず片膝を突いた。成程、四体のヴァーミンが周囲の空気を振動させ、重なった羽音がプレッシャーとなって襲ってくるのか。こちらの動きは重いと踏んだのだろう。的確に厄介な戦法を取ってきた。

 だが、青のラセンを舐めてもらうと困る。

 重力に逆らいながらドライバーを叩くと背中や腕、脚の装甲の一部が展開し、中からスラスター機構が露出する。鎧の所々に空いた吸水口から空気を吸い上げ、スラスターから吐き出す。流れる空気が渦を巻き、やがてそれは小さな竜巻になってヴァーミン達を飲み込んだ。強風によって飛行を維持できなくなった四体は流されるままに地面に叩きつけられた。

 初めてダメージらしいダメージを受け、メディが唸る。圧力から解放された私はすぐさま剣を構えて走り、剣を振り下ろす。この一撃は転がって避けられたが追撃、相手が立ち上がった瞬間に斬撃を見舞う。メディを守る様に働きバチ達が纏わりつこうと迫ってくるが、一体ずつ的確に斬り払って寄せ付けない。

 戦いは私の優勢……と言いたい所だが。

 

「こんなにやる人初めて……でもぉ、我慢もいつまで保つかしらぁ?」

「っ……最後まで相手してあげるさ」

 

 メディの指摘通り、私に打ち込まれた毒が今も身体を蝕んでいる。動く度に鈍い痛みが走るのをどうにか無視してはいるが、いつまで無理ができるか。

 再びメディが剣を振るうのをこちらも剣で迎え撃つ。刺突を受け止め、斬撃を受け止め、鍔迫り合った後にメディが緩急をつけて放った一撃が躱しきれず鎧に命中し、弾かれた。

 

「かたぁい……けどぉ、全部がそうじゃないでしょぉ?」

 

 先程までとメディの剣の軌跡が変わり、明らかに鎧が無い僅かな隙間を狙う様になった。動きの鈍い身体で躱し、受け止め、受け流すがそれも限界がある。私の体力が枯渇していくにつれて鎧への被弾も多くなっていく。

 そしてついに、メディの剣先が私の左腕に突き刺さった。同時に、先程と同じく毒を流し込まれる感覚。

 次の瞬間、激痛が全身に走った。

 

「う……うぁ……」

「くふふふ、知ってるぅ?ハチってぇ、二回目はもっと痛いのよぉ」

 

 ハチに二回刺されると重い症状が出ると言うのは、最初に刺された時に出来たハチ毒の抗体が二回目で過剰に反応して起こるアナフィラキシーショックと言う現象である。

 しかし前回刺されてからそれ程時間も経っておらず、戦いの最中も身体を蝕んでいた毒の抗体が出来ているとは思えない。恐らくクリスタルは前述の様な理論を無視して、二回目に刺された時に発症する症状だけを再現したのだろう。

 つまり私にもアナフィラキシーショックと似たような症状が出ていると言う事だ。不味い。早く解毒しないと最悪命に関わる。

 好機と見たか、働きバチの一体が私に飛び掛ってきた。それを目の端で捉えた私は力を振り絞ってドライバーを叩き、水のエネルギーを纏わせた剣をすれ違いざまに叩き込んだ。爆風に煽られて地面を転がり、変身が解除された。

 息も絶え絶えに状況を確認する。さっきの一撃でどうにか一体は倒せた様で、黒スーツを着た男が地面に倒れている。呻き立ち上がろうとしたその男を、メディが踏みつける。

 

「詰めが甘いわぁ、馬鹿ね……あたし、馬鹿は嫌いよぉ」

「許してくださいメディ様!あ、ああ……!」

 

 必死に許しを請う男に、メディは何の躊躇いも無く剣を突き刺した。

 

「なっ……?」

「ああああああっ!メディ様ぁ!メディ……さまぁ……」

 

 のたうち回っていた男の声が次第にか細くなり、そして動かなくなった。

 まさか。

 

「殺した……?」

「なぁに?別に良いでしょぉ?使えない馬鹿は嫌いよあたし」

 

 くふふふ、小さく嗤ったメディは動かなくなった男を蹴り飛ばした。

 なんて奴だ。さっきまで仲間だったのに躊躇無く殺す選択をした……使えないからと言う理由だけで。

 そんな奴、ただ倒すだけで許されて良いのか?

 私は、許せるのか?

 

 

 

 

 

『こいつは、殺さねばならない悪だ』

 

どこからか声が聞こえた。

違う、悪だからと言って命を奪って良い訳じゃない。

 

『こいつは、存在しない方が良い人間だ』

 

存在しない方が良い人間なんていない……はずだ。

 

『こいつは、他者を傷つける悪だ』

 

それは……。

 

『こいつは、罰さねばならない悪だ』

 

……そうだ。

 

 

 

 

 

「こいつは、倒さねばならない悪だ」

 

 全身がすうっと冷えていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 悠々とメディが歩を進める前で、もう動けないはずの青葉楓がゆらりと立ち上がった。驚いたメディが見つめる先、楓がいつの間にか手に持っていたのは、白く輝くクリスタル。ドライバーから青いクリスタルを取り外した楓は、入れ替わりで白いクリスタルを装填した。

 

BLIZZARD(ブリザード)

 

 合成音声が発せられると、普段の大気を振動させる様な低音のものとは違う、甲高い警告音が繰り返し流れる。脱力した姿勢のまま敵を睨む楓が、いつもとは違う彩であの言葉を呟く。

 

「変身……」

 

 音声認証をクリアしたドライバーの中央部分から微細な氷の結晶が噴出する。氷の嵐となって螺旋状に渦を巻くそれが、黒のアンダースーツに覆われた楓の体に張り付いて徐々に新雪の様に透き通った白の鎧を形成していく。鋭い爪を備えた腕と脚、獣の様なしなやかさを保つ胴、そして狼の如き意匠の頭部までが白く染まると、最後に大きな二つの複眼が獰猛に赤く光る。

 

「何それ……そんなの知らない!」

 

 メディの驚愕の声にぴくりと反応した新たなラセンは、背を反り天を仰ぐ。

 

「ウアアアアアアアアッ!」

 

 その咆哮は、力に狂うヴァーミンと何ら変わりないものだった。

 再び敵を捉えたラセンがすぐに跳躍しメディに飛びかかる。余りにも俊敏な動きに反応が遅れたメディはそのまま身体を掴まれ共に地面を転がる。すぐさま立ち上がったラセンがよろめくメディを押し倒しマウントを取ると、拳で何度も何度も殴りつける。衝撃で頭が朦朧とするメディの思考には事前に知らされていない力の存在に対する驚きと、そして彼女自身信じられない事だったが白のラセンに対する恐怖が渦巻いていた。

 

「放せ……放せぇ!」

 

 金切り声を上げたメディががむしゃらに剣を振るうと、察知したラセンは後方に宙返りしながら避ける。距離が出来たのを見て二体の働きバチが主人を守るためにラセンへと立ち向かっていく。迎え撃つラセンが力を漲らせると、周囲の水分が冷却され氷となってラセンの指から腕を覆っていく。巨大な爪を生成したラセンが腕を振るい、働きバチを切り裂いていく。目にも留まらぬ連撃を受けた働きバチ達は、二体とも身体からエネルギーを爆発させ人間の姿へと戻る。

 

「何なの……何なのお前ぇ!」

 

 メディの叫びに応える様に、ラセンは獣の如き動きで飛びかかった。

 

 

 

 

 

 あれから更に一時間が経った頃だった。不意に外が騒がしくなり、不審に思った男がヴァーミンに変わり、武装集団を顎で使って様子を見に行かせようとしたその時、ガラスを突き破って二つの影が飛び込んできた。

 行内が騒然となる中すぐさま立ち上がった片方、その白い姿に見覚えは無かったが、その腰に装着されたドライバーは良く見た物と同じ。

 

「師匠……?」

 

 全く新しい姿のラセンが一緒に飛び込んできたハチの様なヴァーミンに飛びかかり、拳を連続で叩きつけている。いつもの師匠の様な冷静なファイトスタイルではなく、まるで獣の様な荒々しさだった。

 そこまで考えてはっと我に返る。この混乱の中なら。

 

「変身!」

 

 ドライバーを装着しクリスタルを装填、構えは省略して叫び、ヴルムへと変身する。呆気に取られているハリセンボンのヴァーミンに駆け寄り、人質達から引き剥がす。

 

「仮面ライダー!?いつの間に!?」

「運が悪かったな!」

 

 拳を撃ち込んで怯ませ、更に蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「お、お前等!何やってんだ早く助けろ!」

 

 尻もちを突いたヴァーミンが号令をかけると混乱状態だった武装集団はやっと俺に照準を合わせ、銃撃を始める。無論そんな物は効かないが鬱陶しいのには違いないので、狙いを切り替える。逃げ回る人質達に当たらないよう注意を払いながら犯人達から銃を取り上げ、壊し、気絶させて無力化していく。

 

「ほいっ、と」

 

 逃げ出しそうになった最後の一人のでこを弾いて気絶させ、制圧完了だ。

 

「ひ、ひいっ……!」

 

 その様子を見て怖気づいたのであろうヴァーミンは正面入口から脱兎の如く逃げていく。

 

「逃がすかよ!」

 

 すぐに追いついて身体を掴み殴りかかろうとするとヴァーミンが咄嗟に身体を丸めると同時に全身から針が突き出す。

 

「おおっと」

 

 間一髪で針が刺さる前にパンチを引っ込める。そうだった、こいつこう言うのが特徴のヴァーミンだった。

 どうしようか、拳や脚だと倒せても俺にもかなりのダメージが入るはず。師匠は……確か青の状態で剣を使って倒していた。悲しい事にヴルムにそう言った武装は無いけど俺も何か使えれば……。

 

「あった」

 

 コンクリートで出来た車止めを掴み、地面から引っこ抜く。ドライバーを叩いて炎のエネルギーを腕、そして車止めに収束させ、そして。

 

「たあっ!」

 

 気合を込めて投槍の要領で車止めを投擲する。ヴァーミンへと一直線に吸い込まれていった車止めが命中すると同時にヴァーミンが叫びを上げ、車止めから伝わったエネルギーが爆発した。コンクリート片が散らばる中さっきの男が吹き飛んで、警察の足元まで転がっていった。

 

「中にもいっぱいいますんで!」

「あ、ああ」

 

 困惑する警官に言付けてふぅとため息をついた時、銀行の天井が破壊され中から二つの影……ハチのヴァーミンと白いラセンが空を飛んで遠ざかっていくのが見えた。

 

「師匠……!」

 

 妙な胸騒ぎを覚えた俺は、その影を見ながらバイクに跨った。

 

 

 

 

 

 空高く飛行するヴァーミン……メディと、その脚にしがみつくラセン。メディはラセンを振り落とそうと自由な方の脚で蹴るが、ラセンは物ともせず徐々にふくらはぎから腿へ、腿から腰へ這い上がってくる。そして鋭さを増した氷の爪でメディの翅を引き裂き、メディ共々墜落していく途中で身体を蹴って宙返りししなやかに着地した。

 

「うぅ……来るな、来るなぁ!」

 

 地面に叩きつけられ息も絶え絶えのメディは、自分を狙う獣から逃げようと必死に身を捩る。しかし無情にも、白い獣は静かにドライバーを叩いた。中心から溢れ出した白いエネルギーが足元に収束すると獣の右脚の踵と左脚の爪先に大きく反り返った氷の爪を生やし、陽光を透かして薄い影を作る。

低く唸っていた獣は天高く吠えると跳躍し、右脚を大きく振り上げる。余剰エネルギーがラセンの背後に集まり、大きな狼の幻視を作り出した。

 そして獣は叫びを上げながら、動けないメディに食らいつき、噛み砕いた。絶叫と爆音が辺りに響き炎が吹き荒れた後、地面には傷だらけのメディと粉々になったクリスタルが転がっていた。

 

 

 

 

 

 俺が爆心地に辿り着いた時、そこには倒されたのであろう女と白いラセンがいた。どうやら事態は収束したようだ。色々聞きたい事はあるがこれで一件落着……。

 かと思われた、が。

 ラセンがぼろぼろになった女の首元を掴んで持ち上げ、腕を振り上げようとしている。

 まさか、攻撃しようとしているのか!?

 

「師匠っ!」

 

 急いで駆け寄り、今まさに振り下ろされようとしている腕を掴んだ。その腕に込められた力が緩む様子は一切無い。

 

「何やってるんですか!そんな事したら死んじゃいますよ!?」

 

 俺の呼びかけにも応えず、ラセンは唸りながら俺の腹を蹴る。痛みのあまり後退ってしまうと、またラセンは女に向き直った。

 

「やめろ!」

 

 今度は体当たりして女から引き剥がし、、肩を掴んで揺さぶる。

 

「どうしちゃったんですか!?動けない相手を殴るなんて、仮面ライダーのやる事じゃないでしょ!?」

 

 抵抗していたラセンは俺の言葉にぴくりと反応し、頭を押さえて苦しみだした。

 

「師匠!?……師匠っ!」

 

 近づこうとするとドライバーから出たエネルギーが小さく爆ぜ俺を拒んだ。ふらふらと後退るラセンのドライバーの白い光が明滅し、輝きを失う。同時に装甲が氷の粒子へと還り、変身が解けた師匠が膝から崩れ落ちる。

 

「師匠、師匠!」

 

 慌てて受け止めた師匠の体は、氷の様に冷え切っていた。

 

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