仮面ライダーラセン   作:赫牛

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鏑木桜の事件簿(2)

 取調室にて。

 

「では貴方が増本千秋さんを誘拐し、山中で殺害したと認めるんですね」

「……はい」

「その中でクリスタルを使用したのも?」

「間違いないです」

 

 増本千秋殺害事件について、昨日逮捕、拘束した水谷正志の取り調べが始まっていた……が、水谷は最初から容疑を認めており、後は事件の詳細を確認するのみになっていた。

 

「意外とあっさりでしたね」

「……そうだな」

「何ですかその間」

「まだ何かある……気がする」

「気がするって……」

 

 あやふやな物言いとは裏腹に、いつもは呑気な班長の顔が険しいものになっていた。もしかしたら刑事の勘と言うやつかもしれない。

 

 

 

 

 

 その証言が飛び出したのは取り調べが始まってから一時間が経過した頃だった。

 

「どこでクリスタルを入手しましたか?」

「それは……同僚の美濃(みの)さんが教えてくれて……」

 

 その一言で観察室がざわつき始める。美濃……美濃真矢(まや)、確かに昨日事情聴取した中にそんな人物はいた。が。

 

「何を教えられましたか?例えば誰に会えば良いかとか……」

「誰かは……分からなかったです。ただクリスタルを売っている人がいる場所を教えてもらって、そこに行って買いました」

 

 クリスタルの売人がいると言う説自体はかなり前から通説となっていたが、この証言はそれをより強固にするものではある。

 しかし、この証言だけでは売人と美濃の繋がりを証明する事にはならない。水谷が嘘をついている可能性だってあるし、本当だとしても効力が弱すぎる。何か確固たる証拠が必要だ。

 

「中曽根と宮崎、令状取りに行け。金城と佐川は美濃の家を押さえろ……俺達は会社だ、行くぞ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 それから、3時間した後。

 美濃真矢は取調室の席に着いていた。しかし動揺している様子は無く、寧ろどこか堂々としたものを感じる。

 

「美濃真矢さん、貴方には水谷正志さんへの犯罪教唆、及びクリスタルの売買に関わっている疑いがかけられています。心当たりはありますか?」

「いいえ、全く」

 

 私が告げた罪状を、美濃は淡々と否定する。その表情には翳りが全く無い。

 

「水谷さんは貴方に、クリスタルの売人を紹介されたと証言していますが、それも心当たりは?」

「無いですよ……てか、それ私がやったって証拠はあるんですか?」

「む……」

「ただ犯人が名前を挙げたからって共犯扱いとか、ちょっと勘弁してほしいですね」

「ですから、その為に話を――」

「話す事なんてありません。私、やってませんから……もう良いですか?」

 

 言葉通り話すことは無いと、それ以降美濃が口を開く事は無かった。

 

 

 

 

 

 夜、自分のデスクで資料を見ていると、思わずため息が出る。

 水谷の携帯を調べてもメモアプリに美濃から教えられたであろう場所が書いてあるのみで、それ以外の決定的な証拠は無かった。美濃の言う通り、ただ名前が挙がっただけではあるのだ。

 しかしその証言は恐らく真実だろうと、そう確信している。確信してはいて、それを裏付ける証拠が欲しい。

 となればどうする?美濃に張り付いて何か出るまで待つか?でも班長の許可が無い限りそんな勝手な事は……。

 

「鏑木」

「っ……はい」

 

 いつの間にか背後に立っていた班長に声をかけられ、思考の螺旋から戻ってきた。

 

「何考えてたんだ?」

「……別に何でもないですよ」

「そうか」

 

 班長は私が持っていた資料をつまみ、ぴらぴらとページをめくる。

 

「美濃だと思ってるんだろ?」

「それは……」

「でも証拠が無い。探りに行こうにも令状も出なかった。勝手に動く事はできない……違うか?」

「……違いませんけど」

「ほら見ろ」

 

 はんっと鼻で笑った班長の顔が妙に癪に障るが、一応上司故に手は出さない事にした。

 

「だったらどうするんですか」

「……なあ鏑木」

「はい?」

「腹減ってないか?」

「はぁ?」

「ちょっとあんぱんでも食いに行こうぜ、外に」

「……そうですね行きましょうか」

 

 それだけ話して、私達はそそくさとオフィスを出ていった。

 

 

 

 

 

「全く……こんな事してたらいつか大目玉だぞ」

「それは班長もでしょ」

 

 軽口を叩き合う私達は、私の運転する車で美濃真矢の自宅に向かっていた。理由は勿論、張り込みで奴の尻尾を掴むためだ。

 

「もし何か出てきたらどうします?」

「その時は……そうだな、任意しかないな」

「ですよねー」

 

 美濃のあの態度なら、ただの任意同行なら応じないだろう。だからこそ、ちゃんと決定的な証拠を掴む必要がある。それこそクリスタルの売人との繋がりの様な。そんなものが都合良く出るかは分からないが、そう言うのはやってみないと分からないとも言う。

 それに班長も張り込みに賛成と言う事は、美濃に何かあると見ている……いや、班長ならほぼ確信しているのだろう。『刑事の勘』と言うやつで。

 

 

 

 

 

 と言う訳で美濃真矢を張り込んで、既に三日が経った。が、現時点では何も出てきていない。特に変な行動を起こさない美濃をずっと見張りながら、コンビニで買った軽食にありつく日々だった。

 

「意外と真面目なんですね、あの態度で……」

「そりゃ表面上はな。誰だって痛い腹を探られたらああもなる」

「それ『痛くもない腹』ですよね?」

「言葉遊びだよ」

 

 しかし班長はまだ見切りをつけておらず、捜査は未だに継続中である(上には周辺情報について聞き込みをしている、と言う事にして誤魔化している)。いつまで続けられるか分からないし、そろそろ何か収穫があっても良いんじゃないだろうか。

 

「おい」

 

 等と考えてぼおっとしていると肩を叩かれ我に返る。班長が指差す先にいたのは美濃と……どこにでもいる様な風貌の男だった。にしてはどこかで見た事がある様な、強い既視感を覚える。

 やっと動きを見せた事に内心歓喜しつつシートベルトを締め、車に乗り込んだ二人の後を追う。十数分後には、花恵の中でも有名なレストランに着いていた。中に入った二人を少し離れた場所から観察するが。

 

「食べてますね」

「デートだなこれは」

 

 何か受け渡すとか、何か声をひそめて話すとか、そういった素振りは一切無く、ただただ食事をしながら談笑、と言った様に見てとれる。自分達に見せたのとはまるで違う表情の美濃がいた。

 

 

 

 

 

 結局その後も近くの映画館に行っただけで、特に怪しい動きは無いまま美濃の自宅まで戻ってきてしまい、そのまま夜が更けた頃に男と美濃が出てきた。恐らくは見送りなのだろう。

 

「今日も何も無しですか……」

「……あれ、追いかけるぞ」

「え?」

 

 班長は美濃ではなく、車で走り去ろうとしている男の方を見ていた。急いでエンジンを始動させ、ゆっくりと男の車を追跡する。

 

「班長、何でこっちを?美濃は良いんですか?」

「まあ見てろ、ほら」

 

 男は最初は表通りを走っていたが段々と人通りの少ない道へ行き、そして『あるエリア』の付近を通る。

 

「ここって……」

「西区の玖居(くい)町だ」

 

 玖居町、この花恵市の中で最も治安が悪いと言われているエリアだ。クリスタル関連犯罪の発生件数も当然他より多く、犯罪の温床となっている。市全体で改善に向けて動いているが、犯罪を根絶すると言う目標はまだ程遠い。この辺りを通りがかっただけで怪しいかと言われればそうではないが、やはり気にはなる。

 男の車は更に進路を変え、薄暗い裏路地へと入って行く。見失わない様に追い続けると、やがて辿り着いたのは。

 

「まじか……」

 

 花恵に存在すると言う犯罪者グループ、その内の一つの拠点と見られているビルだった。

 このままこれ以上深追いするのはまずい。

 でもここに来ていると言う事は、あの男がグループの一員である可能性が高い。ここで確保できれば、美濃と犯罪グループの繋がりも立証できるかもしれない。しかし……。

 

「行くぞ」

「っ、はい!」

 

 私が躊躇ったのと対照的に、班長はつかつかと車に近づき、窓をノックする。男が一瞬訝しむ様な表情を見せ、こちらの姿を認めると目を見開いてすぐに車を発進させる。

 

「追うぞ!」

「はい!」

 

 急いで車に戻り、パトランプを点けながら追跡する。幸いな事に来た道をそのまま戻ってくれたので曲がりくねった路地でも見失わずに済み、そのまま大通りに出る。猛スピードで車に接触しそうになりながら逃げる男の車を、それが通って出来た隙間を縫う様にして追いかける私達。深夜のカーチェイスは少なくない一般車を巻き込みながら、大通りから高速道路へと舞台を移す。

 依然距離は変わらず離れており、目視もかなり怪しくなりつつある。それに連日の張り込みで集中力が今にでも切れそうだ。そして今もどんどん距離が離れていって。

 

「くっそお……!」

「もういい鏑木」

「でも――」

「もう充分だ。これでしっかり映っただろう」

「……え?」

 

 そう問答をしている内に男の車を完全に見失ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 翌々日。

 

「何で私のせいになってるんですこれ!?班長の方がぐいぐい行ってたじゃないですか!」

「うるさいな良いだろ別に。どっちにしろ俺の責任なんだから」

 

 私達が追っていた男は監視カメラの映像から行先が割り出され、昨日あっけなく御用となった。所持品の中にはクリスタルがあったらしい事もあり、犯罪グループとの関与も併せて目下取り調べが行われているのだが……問題はカーチェイスの顛末についての報告書である。その中では『何も知らない』歴の浅い警官である私が『うっかり』犯罪グループの拠点まで行き、『偶々』そこに停まっていた不審な車に勇敢にも声をかけに行った事にされているのだ。事実と大きく異なっていると声を大にして言いたい。いや言っているのだが。

 

「まあ良いじゃん。検挙できたんだしさ、お手柄よお手柄」

「くぅ……大目玉食らう時は班長も一緒ですからね!?」

「はいはい、覚悟しておきますよと」

 

 このペースで行けば謹慎跳び越えて懲戒免職すら想像に容易い。この人と組んでいるのは果たして間違ってないと言えるのだろうか、かなり自信がなくなってきた。

 

 

 

 

 

 そんな経緯で逮捕された男……名を山村幹也(やまむらみきや)と言うが、取り調べの結果、美濃真矢との交際自体は認めていた。しかし、美濃がクリスタルに関与している事に関しては否定し続けていた。

 美濃も改めて取り調べを受ける事になったが結果は変わらず。知らぬ存ぜぬの一点張りで容疑を認める事は無かった。取り調べを担当した刑事も、あれは本当に何も知らないのだろうと早々に打ち切り、美濃は解放される事になった。私達の捜査は、全て無駄足だったと言う結論だった。

 

「ふぅ……」

 

 自販機で買ったコーヒーを飲んで、ついため息が零れる。そんな時だった。

 

「あら、刑事さん」

 

 声をかけてきたのは美濃真矢だった。

 

「……出入口はあちらですよ」

「すみません、お手洗いが借りたくて」

「ならこっちじゃないですね、向こうの方です」

「親切にありがとうございます」

 

 美濃は私が示した方に行き、途中でくるりと私の方に向き直った。

 

「残念でしたね、刑事さん」

「……何が」

「私を犯人にしたかったんでしょうけど、証拠が無かった。幹也の事は私も驚きましたけど、それも私と犯罪を結びつけるものじゃなかった……全部無駄足って事です」

 

 可笑しいと嗤う美濃の顔は歪んでいて、彼女の性根が窺い知れる。

 

「あんな石ころ一つで躍起になるなんて、ほどほどにしておいた方が良いですよ……では」

 

 そう言い捨てて、美濃は背を向ける。勝ちを確信した様な、そんな足取りだった。

 

「石ころ、ね……」

 

 だが、『勝ち』を確信したのは彼女だけではなかった。

 

 

 

 

 

 その日の深夜、玖居町の路地裏にて。

 二つの人影が何やら声をひそめて話している。一人は仮面を着けた何者か。もう一人は……美濃真矢だった。

 

「できるだけ強いやつが良い……ええ、お金は惜しまないから」

 

 美濃はそう言って、鞄から封筒を取り出し仮面の何者かに渡す。仮面の何者かも懐を弄り、その手に持った黒いクリスタルを美濃の手に……。

 

「動くな!」

 

 闇に隠れていた二人を光が照らしだす。光の向こうに立っていたのは、鏑木桜だった。

 

「美濃真矢、クリスタル売買の現行犯で逮捕する!」

「っ、なんで……!」

 

 自分への捜査は終わったはずと困惑する美濃に、桜が銃を突きつける。

 

「美濃さん、貴方私に『あんな石ころ一つで』と言いましたね」

「はあ?」

「我々は貴方にクリスタルを見せてませんし、メディアやSNSでも規制されて見る事はできないはずです……なのに貴方の言葉は見た事がある様に聞こえました」

「それだけの理由で……?」

「貴方を追いかけるには充分です……さあ大人しく――」

 

 しかし、桜は詰めが甘かった。

 目の前の美濃に注視していた桜は、背後からの衝撃に思わず崩れ落ちる。霞む視界で振り返ると、そこにはバットを持った見知らぬ男が立っていた。

 美濃が低く笑う声が暗い路地裏に響く。

 

「ちょっと刑事さんダサ過ぎー!かっこつけて出てきたってか、考え無しって言うか」

「うぅ……仲間がいたなんて」

「当たり前でしょ……そっか、目の前に餌があったから飛びついちゃったんだ、かわいー!」

 

 あははと哄笑する美濃は、手に持ったクリスタルに目を落とし、ニンマリと嗤う。

 

「そんな悪い子には、お仕置きしないとね」

 

 握りこんだクリスタルが美濃の体に沈み込み、全身を変貌させていく。硬質な黒い外骨格が全身を包み、腕には翅を模した盾と角を模した二股の剣。額からも同じ様に角を生やし、口元は元の姿と同じ様に大きく歪んでいる。

 カブトムシのヴァーミンとなった美濃は、未だ動けない桜へとじりじりと迫る。そして剣を振り上げ、そのまま――。

 

「っ!」

 

 桜が目を瞑ったその時、銃声が響きヴァーミンが呻く。桜が想像した痛みはやってこず、恐る恐る目を開けると、ヴァーミンは自分ではない遠くの何かを睨みつけている。足音がしてそちらを見ると、深い闇の中から誰かのシルエットが現れた。

 

「何だ、あんた……!」

「考えが足りないのは、お前らの方じゃないのか?」

「え……?」

 

 こちらに歩いてくるフードを目深に被った人物から、桜のよく知った声が聞こえてきて思わず声が漏れる。

 月明りに照らされたその顔は。

 

「班長……?」

 

 捜査一課強行犯係4班班長……鉤川綾人だった。

 

 

 

 

 

「仲間を呼んでたか……」

「いや……」

 

 私が呼んだ訳じゃない。直前に楓には伝えていたが、班長には一言だって言っていない。

 それに班長が手に持っている物。シルエットは少し異なるが、あれは楓達が使っている結晶銃と同じ物だ。

 

「何で、班長が……」

「鏑木、少し黙ってろ……邪魔だ」

「っ……!」

 

 聞いた事の無い班長の冷たい声に背筋が凍る。隣まで歩いてきた班長の表情も、これ以上無く険しいものだった。

 

「ふ、部下の尻拭いしなきゃなんて、刑事さんも大変ね」

「……何か勘違いしてないか?」

「は?」

「俺はお前を捕まえに来たんじゃない……裁きに来たんだ」

 

 そう言って班長が懐から取り出したのは……銀の縁取りが施された金色の箱だった。それに私は見覚えがある。

 

「ヴルムドライバー……?何で……?」

 

 楓のお弟子君、鳴神真哉が持っているはずのドライバー。仮面ライダーに変身するためのアイテムを、しかし何故班長が持っているんだ?

 その疑問に答えるかの様に、班長はドライバーを腰に押し当てる。側面から伸びた帯が自動で巻き付き固定されると、班長は更にドライバーの上側面からトレイを引き出し、そこに血の様に赤いクリスタルをセット、押し込んで装填する。

 

SCAR(スカー)

 

 合成音声の後、ドライバーから発せられる波動が大気を振動させる。

 班長は左手を顔にかざし、三本の指で顔を引っ掻く様に振り降ろし、そして。

 

 

 

「変身」

 

 

 

 コールを認識したドライバーから赤黒い鎖の様になったエネルギーが放出され、班長の全身に巻き付く。それがぐっと収縮し、一気に弾ける。

 

「っ……!」

 

 反射的に瞑った目をまた開けると、そこには見た事の無い戦士が立っていた。

 全身を覆う黒いアンダースーツの上に同じく黒い鎧を纏い、頭部には端から赤のグラデーションが入った黒いフードを被っている。右腕には先程の結晶銃を持ち、左腕は赤黒い鎖が巻き付いたままになっている。フードの奥の赤い複眼、二つ並ぶ内左の物には引っ掻き傷が三本走っていた。

 

「あんたが仮面ライダー!?……でも関係無い!まとめて殺してやる!」

 

 ヴァーミンが盾を構えながら突撃する。黒い仮面ライダーは銃を放ち牽制するが、弾は盾や甲殻に弾かれる。振り降ろされた剣を仮面ライダーは身を捩って躱し、更に振るわれようとした剣を持つ腕を片手で掴んで止め、そのまま力を込めて捻る。痛みに耐えきれなかったのかヴァーミンが剣を取り落とし、がら空きになった胴に蹴りが刺さる。

 

「なんで……これ強いクリスタルのはずでしょ!?」

「使ってるやつが弱ければ宝の持ち腐れだ」

「何ですって……!」

 

 仮面ライダーの言葉に血が上ったヴァーミンは立ち上がり再びタックルを仕掛ける。仮面ライダーは闘牛士の様にひらりと躱すと左腕をかざす。巻かれていた鎖が弾け飛び、その下に隠れていた鋭い爪が伸びる。それを振り下ろすとヴァーミンの甲殻から火花が散ってのけ反った。そして振り返ったヴァーミンの腹に、距離を詰めた仮面ライダーの爪が深く突き刺さる。呻くヴァーミンを蹴り飛ばし、再び結晶銃を放ってヴァーミンの身体に風穴を開けていく。

 

「なに、これ……」

 

 圧倒し、傷つけ、追い打ちをかける。今までに見た事が無い『仮面ライダー』の戦い方に、私は恐怖を覚えていた。こんなのが楓達と同じ『仮面ライダー』なのだと思いたくはなかった。

 

「や、やめて!来ないで!」

 

 後退るヴァーミンを見て、仮面ライダーはドライバーの右側面を押した。

 

「いいや、終わりだ」

 

 ドライバーから溢れた赤黒いオーラが仮面ライダーの右脚に纏わりつき、収束して一際濃くなる。それと同時に跳びあがり、空中で右脚を突き出した。

 

「はあっ!」

 

 跳び蹴りがヴァーミンを撃ち、吹き飛ばす。狭い路地裏に爆風が吹き荒れ、腕で顔を庇った。

 再び目を開けると傷だらけの美濃が倒れており、それを仮面ライダーが不気味に見つめていた。

 

「うう……こんな、事で」

 

 呻く美濃に仮面ライダーが歩み寄り、襟を掴んで持ち上げる。

 

「な、なに……?」

「ここまでやってもお前は罪を告白しないだろう……だからここで裁く」

「や、やめて……まだ私死にたく――」

「死にはしない。だが……」

 

 仮面ライダーは左手で両瞼を閉じさせ、そして。

 

 

 

「お前に光はもう来ない」

 

 爪で両目を引き裂いた。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 絶叫が響き、解放された美濃が地面をのたうち回る。起こった事のインパクトに言葉を失っていると、仮面ライダーが今度は私の方に歩いてきた。

 

「班長……」

 

 仮面ライダーは何も言わずに結晶銃に薄い青のクリスタルを装填し、銃口をこちらに向けた。そして引き金が引かれたのに気付く前に、私の意識が黒く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

「桜……桜!」

 

 揺さぶられて目を覚ます。楓が心配そうに私を見ていた。

 そっか、私美濃を追いかけて、楓を呼んで、それで……。

 

「何で、私……」

「……覚えてないの?」

「え?」

 

 楓の視線の先を見ると、そこには美濃が倒れていた。気絶している様だったが、彼女の周りには血だまりが出来ており、そして何より目元にクマのものの様な痛々しいひっかき傷があった。

 

「何、これ……」

 

 周囲には仮面で見知らぬ男が二人、手足を縛られた状態で同じく気絶している。

 なんなんだ一体。こんな惨状が残されていると言うのに。

 どうして、何も分からないんだ。

 

 

 

 

 

 一つ大きく吸い込んで、少し咳き込む。昔は煙草なんて腐る程吸っていたのに、今は妙に喉に刺さる。

『仕事』を終えた後は、こうしてあの女性(ひと)が好きだったのと同じ銘柄の物を吸うのがルーティンになっていた。そうしないと落ち着かないと言うか、こうするのが彼女へのはなむけになる様な気がして、だから自然とそうしていた。

 いつの間にかグローブボックスから一枚の写真を取り出し、見ていた。

 あの時のまま、何気ない一瞬を切り取ったそれの中で、彼女はあの時の様に優しく微笑んでいた。

 待っててくれ。いつか必ずあいつらを。

 

 

 

 

 

 君を殺したあいつら全員に、裁きを下してやる。

 

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