仮面ライダーラセン   作:赫牛

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貴方の復讐(1)

 花恵市の、閑静な住宅街。

 築10年以内の家々が並ぶこのニュータウンは、都市部から移り住む人も多いと聞く。

 その中にある一軒家の前に、俺は立っていた。

 改めて見ると、他の家と比べて洒落た外観の家だ。

 大きくもある。庭も広かったのを考えると、土地自体が大きいのだろう。

 ここが今日から、俺が住む家。

 何度見ても、実感が湧かない。

 

 ちょうど1週間前。

 病院での化け物騒ぎがあったその日に、俺は仮面ライダーの弟子になった。

 そして師匠……青葉楓さんに、共同生活を持ちかけられたのだ。

 

『その方が効率良いでしょ。それとも、毎朝通う方が良い?』

 

 というのが、師匠のお言葉だった。

 戸惑う俺を他所に、引っ越しの段取り決めや荷物の運び込みなど、あれよあれよと事は進んでいき。

 気付けば今日から、住み込みで弟子稼業に勤しむことになった。

 

 服が詰め込まれたスーツケース——これは師匠に買ってもらったものだ——を引き、玄関のチャイムを鳴らす。

 

『はーい。今開けるね』

 

 という声と共に、機械音がドアからした。遠隔操作で開錠されたようだ。

 

「お、お邪魔します……」

 

 前の時は窓から侵入した家に、今度は正面から入っていく。

 

「やっと来たね。待ってたよ」

 

 向かって右にある扉から師匠が顔を覗かせた。

 

「ようこそ我が家へ。今日からここが君の家だよ」

 

「は、はい!お世話になります!」

 

 つい大声が出てしまう。

 

「まあまあ、そう固くならずにさ」

 

 柔和な笑みを浮かべながら、近づいてくる師匠。

 

「よろしくね、弟子クン」

 

「よ、よろしく、お願いします。師匠」

 

「取り敢えず、荷物を部屋に置いちゃおっか。スリッパ、どれでも好きなの履いていいよ」

 

「はい……」

 

 スーツケースを持って、師匠の後について階段を昇る。

 通されたのは、階段のすぐ横にある部屋。

 

「ここが君の部屋。ベッドとか適当に置いちゃったけど、後で変えてくれて良いからね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 スーツケースと背負っていたリュックサックを置くと、師匠が怪訝な顔をして聞いてきた。

 

「荷物、これだけ?」

 

「はい……そうですけど」

 

「ふーん」

 

「え……何ですか?」

 

「ううん、別に」

 

 何か考えていた様子の師匠だったが、すぐに表情が変わる。

 

「疲れたでしょ。手を洗ったらお茶でも飲もうか。洗面所は降りて左の、手前から2番目の扉ね」

 

「は、はい……」

 

 俺が返事をする前に、師匠は階段を降りていった。

 

 改めて、部屋全体を見る。

 テーブルやカーテンは前のアパートで使っていたものそのまま。しかしやけに大きなクローゼットや寝返りで3回転できそうなベッド、本棚等、俺の知らない家具が用意されている。

 この一部屋で、前に住んでいたアパートの部屋より広い。

 ここで過ごすと思うと、なんだかむずむずしてくる。

 

 階段を降りて、洗面所へ。

 部屋の奥には浴室と思われる扉がある。

 そう言えば。

 ふと、思い出す。

 忍び込んだ日に師匠と鉢合わせた時、この部屋から出て来てたんだったか。

 扉が開いて……師匠が出てきて……師匠はタオル一枚で……

 左右に首を振る。

 まったく何を考えているのか。

 あの人の裸を今思い出しても気まずいだけだ。

 

 俺がリビングに入ると、師匠がティーポットにお湯を注ぎ終わったところだった。

 

「ずいぶん遅かったね。もしかして迷った?」

 

「いえ、ちょっと考え事を」

 

 手で示され、テーブルにつく。ティーポットの中には、茶葉とスライスしたオレンジが浮かんでいる。

 俺の真正面に師匠が座った。

 

「ちょっと待っててね。具体的には3分くらい」

 

「はい……紅茶、好きなんですか?」

 

 俺の問いに師匠は少し考えるような仕草を取る。

 

「うーん、好き、ではあるけど。半分くらいは習慣かな」

 

「そんなに紅茶飲んでたんですか?」

 

「うん。せ……お父さんがね、好きでよく飲んでたんだ。それで私もいつの間にか」

 

「そうなんですね」

 

「弟子クンは?紅茶は好き?」

 

 頬杖をつく師匠。

 

「あんまり飲まないけど、嫌いではないです」

 

「私の下で修業するからには、好きになってもらうよ」

 

 少し挑戦的な笑みに、どきりとする。

 

「そ、それはそうと師匠」

 

「ん、何?」

 

「修業するにしても、何で住み込みにしようと思ったんですか?」

 

「それは言ったじゃん、その方が効率良いからって。それと……」

 

「それと?」

 

「弟子と言えば住み込みでしょ。君が私の身の回りの世話をする代わりに、私は君に仮面ライダーのノウハウを叩きこむ、みたいな」

 

 そういうもの……なのか?

 一般的な弟子というものがどんなものかわからないから何とも言えない。

 というか。

 

「それって師匠が楽したいだけでは?」

 

「……ほら、出来たよ紅茶」

 

 絶対に話逸らしたよな、この人。

 笑みを浮かべながら紅茶をカップに注ぐその顔からは、内心を窺うことはできない。

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

「……いただきます」

 

 釈然としないながらも、紅茶を口に運ぶ。

 オレンジの香りが、程よく嗅覚を刺激する。

 そしてそれが、紅茶自体の爽やかさを引き立たせているようで。

 

「美味しい……」

 

「でしょ?これも淹れられるようになってもらうからね」

 

「マジですか……」

 

「返事は?」

 

「……はい」

 

「よろしい」

 

 満足した様な師匠の顔が、少し真面目なものに変わる。

 

「さて、一息ついたところで、おしゃべりがてら早速お勉強と行こうか。疲れてるところ悪いけど、頑張って覚えてね」

 

「は、はい!」

 

 紅茶で緩んでいた体が引き締まる。

 

「まず、弟子クンが知ってる仮面ライダーについての知識を挙げてみて」

 

「ええと……正体は、師匠で……」

 

「それはいいよ」

 

「あ、すいません……でもそれ以外だと、化け物と戦うバイク乗りってことくらいしか……」

 

「ヴァーミン」

 

「え?」

 

「化け物じゃなくて、ヴァーミンって言うんだよ」

 

「そうなんですか?知らなかった……」

 

「なんで『仮面ライダー』は知ってるのに『ヴァーミン』は知らないのさ」

 

 師匠がため息をつく。

 

「じゃあ、ヴァーミンについて知ってることは?」

 

「普通じゃあり得ない力を持ってるってのと……あの変な結晶を使って、人が変身してるってこと、くらいです」

 

「なるほど、まあ一般人よりは知ってるって感じだね」

 

 俺の答えを聞いて、考えるように手を組む師匠。

 

「そうだね。まずはそこから整理していこうか」

 

 師匠が居住まいを正す。

 

「知っての通り、君が言う変な結晶……私たちが『クリスタル』と呼んでるものを使って変身した人間、それが『ヴァーミン』。さしずめ花恵に群がる『害虫』って意味だろうね」

 

「クリスタルに、ヴァーミン……」

 

「そう。これがクリスタル」

 

 そう言って師匠は懐から緑の結晶を取り出した。

 

「これは私が変身する時に使うクリスタル。それと同じものを使って、人がヴァーミンになる。でも……」

 

 言葉を切った師匠が、今度は箱の様にも見える機械をテーブルに置く。

 

「この『ラセンドライバー』を使えば、仮面ライダーになれるって訳。触ってみる?」

 

「良いんですか?」

 

「これのメンテナンスなんかもしないとだから、まずは一度触れてみて」

 

「はい」

 

 仮面ライダーのベルト……いや、ドライバーを手に取ってみる。

 見た目に反して、然程重くはない。銀のボディに所々金の装飾があり、中心には透明な丸いレンズの様なものがはめられている。

 

「この側面にボタンみたいなものがあるでしょ?その面を上にして装着するんだ。それから右にある取っ手を引くと……」

 

 取っ手がある側面がスライドし、トレイが引き出される。トレイの中心、丁度レンズ部分から見える場所に、丸いくぼみがある。

 

「このくぼみにクリスタルをはめて、トレイを装填して変身、っていう手順。実に簡単」

 

「それだけで仮面ライダーになれるんですか……」

 

「ああ、後変身する時はしっかり『変身』って大きな声で言わないといけないよ。音声認識だから」

 

「それで叫んでたんですね。なるほど……」

 

 あれだけ遠い存在だと思っていた『仮面ライダー』が身近に感じる。

 

「ほら、こっちも触ってみて」

 

 と言ってクリスタルを差し出してくる師匠。

 

「え……それ、ヴァーミンになったりしません?」

 

「大丈夫。普通は使おうと思わない限りは変身しないから。それにそのクリスタルは調整されたものだから、仮にヴァーミンになろうとしてもなれないよ」

 

「そ、そうなんですね。じゃあ、失礼します……」

 

 緑のクリスタルを受け取る。

 こちらは予想よりも確かな手応えがあった。透き通った緑の結晶に、蝶の様な図柄が刻印されている。中心が厚く、端に行くにつれて徐々に細くなる様カットされた宝石のような印象を受ける。

 この掌に収まる大きさの結晶が、人を化け物に変える……そして仮面ライダーの力となっているのか。

 

「こんな小さな結晶にあんな力が宿ってるなんて……まるで魔法みたいだ」

 

「魔法じゃないよ。れっきとした科学の代物さ、弟子クン」

 

「そうなんですか?」

 

 師匠は紅茶を一飲みして続ける。

 

「このドライバーとそのクリスタルには、抜本的半導体ネットワークシステム、英訳するとRadical Semiconductor Network System、略してラセンシステムが使われてる」

 

「半導体……」

 

「そう、その名の通り、このクリスタルは半導体の塊ってことなのさ。つまりは人工物。魔法でもなんでもないよ」

 

「それって……」

 

「ん?」

 

 そう、人工物という事は。

 

「これを作ってばらまいてるやつがいるってことですよね……」

 

 この街に悪意を振りまく者、間接的ではあるが俺の両親を死に追いやった者がいる。

 

「うん、そうだね……」

 

 師匠は少し微笑んだ。

 

「そいつを見つけて、しかるべき罰を受けさせることも、私たちの仕事。だから頑張らないとね」

 

「はい!俺、頑張ります!」

 

 そしていつか必ず、二人の仇を。

 

「もう、今は勉強中だよ。お茶飲んで落ち着いて」

 

「は、はい……」

 

 つい先走ってしまった。二口目を飲むと、確かに熱くなっていた頭が静まるのを感じる。

 

「話を戻そうか。このクリスタルが、仮面ライダーへの変身に必要ってとこからだね」

 

 師匠が緑のクリスタルに目を落とす。

 

「このクリスタルには蝶の刻印がしてあるけど、蝶みたいに翅を生やして自由に空を飛んだりはできない。何故ならそうなる様な調整が施されているから」

 

「どうしてですか?」

 

「そうしないと、鎧の強度が下がってしまうからなんだ。クリスタルはその中に込められた力を人体に出力することで、人をヴァーミンに変えてる。そのエネルギーの流れを、身体能力を高める程度に(とど)めて、残ったものを鎧に変換するのがラセンドライバー。クリスタルから出るエネルギーをほとんど鎧に使っちゃうから、常に翅を生やしたりといったことはできないんだ。もしできても、その分柔くなるってことだね」

 

「な、なるほど」

 

 気を抜くとすぐに置いて行かれてしまいそうだ。

 

「でも身体変化に使われなかった分のエネルギーが鎧には満ちてるから、クリスタルの根幹にある能力は十二分に発揮される」

 

「根幹?」

 

「ヴァーミンになったときに発揮される最も特徴的な能力だね。例えばこのクリスタルなら、風を纏うことで攻撃の威力や移動速度の底上げができる。この前戦ったヴァーミンのクリスタルを使ったとしたら、高速移動ができる、といった感じにね」

 

「なんだか他のクリスタルも使ったことあるみたいな口振りですね」

 

「あるよ。私が持ってる中で調整されてるのは、これを含めて4つ。それを状況に応じて使い分けてるんだ」

 

「それには、一体どんな力があるんですか?」

 

 俺の質問を受けた師匠は、少し考えて。

 

「うーん、ないしょ」

 

「なんでですか?」

 

「いきなり教えちゃったら面白くないでしょ。今日は基礎。これは応用。また使った時にでも教えてあげるよ」

 

 なんじゃそりゃあ……。

 

「そんなもったいぶらなくて良いのに……」

 

「まあまあ。違うこと教えてあげるから。紅茶飲んで」

 

「そう言えば落ち着くと思ってません?」

 

 まあ紅茶は飲むんだが。うん、美味しい。

 

「それでクリスタルに関する事の続きなんだけどね、これには能力とかではなくて、クリスタル全般に共通する特性があるんだ」

 

「それは?」

 

「使用者の感情に強く影響され、同時にクリスタルも使用者の感情を表層に引き出すって事。感情が高ぶっている程出力されるエネルギーは多くなって、クリスタルからの干渉も強くなってより感情的になる。逆にリラックスした状態だと、使用者とクリスタルの力は切り離されて、パフォーマンスはガクッと落ちる。これを踏まえるとエネルギーが多過ぎても少な過ぎてもいけないから、変身する時は程よく興奮した状態が望ましいね」

 

「そうなんですね」

 

 そこでまた、新たな疑問が首をもたげる。

 

「でも師匠って、戦ってる時結構落ち着いてるように見えたんですけど……興奮してるんですか?」

 

「なんかいやらしいな、その聞き方」

 

「いや、興奮って師匠が言ったんですけど……」

 

「まあ良いけど。そうだね、君の言う通り、ああ見えて内心燃えてるってこと。向こうは感情に飲まれて暴走してるようなもんだからね。こっちも相応の覚悟ってのが必要なのさ」

 

「暴走、ですか」

 

 確かにあの菊池という青年の様子は、暴走と言われても納得できるものだった。

 

「そう。そしてクリスタルの最も危険な部分にも関わることでもある」

 

「最も危険……?」

 

 さっきまでの微笑みを消し、真っ直ぐに俺を見る師匠。

 

 

 

「クリスタルの最も危険な所はね、一番強く反応する感情が『復讐心』である、ということなんだ」

 

 

 

「復讐……」

 

 以外にも出たその言葉に、心臓を掴まれたような気分になる。

 

「何かに復讐しようとする心が強い人程、強いヴァーミンになる。この前の青年たちも、復讐しようとしていたから、高い能力が発揮できていた」

 

 確かにそうだ。国枝優は不良グループ全員に、菊池は国枝優に復讐しようとしていた。

 

「調整されていたって、その特性は変わらない。だから弟子クンも気を付けないと、クリスタルの力に飲まれてしまうよ」

 

 なるほど、師匠が俺を弟子にしたがらなかった訳だ。

 

「気を付けます……」

 

「ほんとにね。頼むよ弟子クン」

 

 そう言うと師匠は、また柔らかな笑みを浮かべた。

 

「そんなクリスタルでも、正しく使えば私たちの戦う力になってくれる」

 

「変身に使うって事ですよね」

 

「それもあるけど、例えばこれ」

 

 師匠はこの前使っていた銃のようなものと、紫のクリスタルを取り出す。そのクリスタルは、緑のもののように透き通っておらず、所々ヒビが入っている様に見える。

 

「これは……?」

 

「このクリスタルはヴァーミンを倒して手に入れた、調整されていないクリスタルだね」

 

「え!?危なくないですか?」

 

 普通に危険物ではないか。

 俺の様子に師匠は少し呆れたように笑う。

 

「だからヴァーミンになろうとしなければ大丈夫なんだってば。話を戻すとね、大抵のクリスタルはヴァーミンを倒した際に壊れるんだけど、偶にこんな感じで壊れ切ってないものもあるんだ。そういうのは回収して、有効活用するようにしてる」

 

「回収?警察に提供とかしないんですか?」

 

「それは警察に渡すリターンよりも、リスクの方を重く見てるからだね」

 

「リスク、ですか」

 

「もしクリスタルが研究されて、そのまま軍事転用されたら?或いはシンプルに、クリスタルを手にした警察の誰かがヴァーミンになったら?そういうリスクを背負うよりも、私たちが管理した方が良いという結論なんだ」

 

「確かにそうかもしれませんね……」

 

 その方が二次被害を未然に防ぐ事ができる。戦う身とすれば、かなり負担が減るのだろう。

 

「それでこの銃は、回収したクリスタルを装填して内部で砕くことで、そのエネルギーを弾として撃つことができる代物でね。壊れかけのクリスタルを処理しつつ、非常時の武器にもなるという事なのさ」

 

 確かに銃身の上に、円形になったパーツがある。他の銃で言うマガジンに当たる部分なのだろう。

 

「これは師匠が作ったんですか?」

 

「ううん、協力してくれてる人に作って貰ったんだ。その人も機会があれば紹介するね」

 

「そんな人が……」

 

「仮面ライダーも万能じゃないからね。誰かに頼る事も大事だよ」

 

 師匠が紅茶に口をつける。上品な佇まいは、今の会話の内容とはかけ離れているように思える。

 

「肝に銘じておきます」

 

「うんうん、師匠の言う事を素直に聞ける弟子でよろしい」

 

 ご満悦の様だ。今ならさっきの様にお預けされる事なく何でも答えてくれそうな気がする。

 

「師匠、質問なんですけど」

 

「何かな」

 

「ヴァーミンを倒しても全く壊れてないクリスタルってあったりするんですか?」

 

「あー、本当に、極々稀にあるよ」

 

「それも、ドライバーに入れたら使えるんですか?」

 

「使えないことはないかな。ただそのままだと出力されるエネルギーの純度が低くて弱かったり、クリスタルから出るエネルギーが強過ぎて暴走する危険性があるから、再調整が必要だけどね」

 

「じゃあ調整さえすれば、どんどんいろんな力を身につけて、強くなれるってことですね!」

 

「ああ、それは無理」

 

 即否定された。

 

「え、どうしてです?」

 

「再調整の仕方、知らないから」

 

「えーっ!?滅茶苦茶できそうな口ぶりだったじゃないですか」

 

「そういうの私の専門じゃないから」

 

「じ、じゃあ再調整できる科学者が仲間にいるとか……」

 

「私の知り合いにできる科学者はいないね」

 

「そんなぁ……」

 

 現実はそう甘くはなかった。

 

「仮面ライダーも万能じゃないってことさ」

 

 師匠は笑いながら優雅に紅茶を飲んだ。

 

「じゃあ最後に。これが一番大事だから、覚悟して聞くように」

 

「は、はい!」

 

 今までも重要だったと思うが、それよりも大事なのか。

 一体何なんだろう。

 

「それはね……」

 

「それは……」

 

 思わず生唾を飲む。

 

「仮面ライダーの、『名前』、だよ」

 

「な、名前?」

 

 名前って?「仮面ライダー」じゃなくて?

 

「だって、知らないと外で仮面ライダーの話できないじゃん。名前で呼べば、何のことかはわからないでしょ?」

 

「確かに……」

 

 本名ではあるが暗号的な意味合いも含まれているという事か。

 

「じゃあ、その名前って?」

 

「うん。ちゃんと覚えてね」

 

 師匠が息を吸い、口を開く。

 

 

 

「その名前は『ラセン』。私が背負い、そして君に託されるはずの戦士の名。

 敢えて繋げるなら……『仮面ライダーラセン』、だね」

 

 

 

「仮面ライダー……ラセン」

 

 噛みしめるように口にする。これが師匠と、俺がなるかもしれない『仮面ライダー』の名前。

 

「うん。だから今後外でこの話をするときは『ラセン』と呼ぶように。いいね?」

 

「はい……ラセン……ラセン……」

 

 記憶に刻み込むように復唱していると、師匠が若干苦笑しつつ言う。

 

「今日はこれで終わりだよ。詰込み過ぎはいけないしね」

 

「結構情報量多かった気がするんですけど」

 

「まあ基本的な知識は入れといて貰わないといけないからさ。弟子としての第一歩だよ」

 

 これで一歩。自分で言うのもなんだが、先が思いやられるというやつだ。

 

「おかわりいるかい?」

 

「あ、いただきます」

 

 今まで紅茶というものに親しんでこなかった俺が言っても説得力は皆無だと思うが、世界一美味い紅茶ってこれの事なんじゃないかと思えてくる。

 

「弟子クンはこの後何か予定ある?」

 

「いや、特にないですけど」

 

「そっか。うーん……」

 

 顎に手を当て、立ち上がる師匠。

 

「早速仕事ですか?」

 

「そう言えばそうなんだけどね……」

 

 そう言いながら俺の席まで回り込んでくる。目は俺を見たままぶれない。

 一体何を言われるのか。いや、何でも来いだ。

 仮面ライダーの勉強も大事だが、師匠に頼まれた事を遂行するのも、弟子として当然。

 

「師匠の言う事なら何でもやります!掃除でも、買い物でも、皿洗いでも!」

 

「そうだね。じゃあ……」

 

 師匠が俺の両肩に手を置く。

 

「服、買いに行こっか」

 

「……え?」

 

 服?

 

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