仮面ライダーラセン   作:赫牛

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距離(2)

「ひどい匂いだね」

 

 師匠は鼻をハンカチで押さえている。

 

「確かに……」

 

 俺も鼻をつまむ。

 辺りには強烈な金属臭が立ちこめている。

 俺たちはクリスタルの反応があった、とある銀行の花恵支店に来ていた。

 サイレンが鳴ってすぐにバイクで向かったのだが、遠かったのもあり犯人には逃げられたようだ。既に野次馬も集まってしまっている。

 それにしても。

 

「ありゃ一体どうなってんだ……」

 

 非常線テープの奥には、おそらく金庫だったものが露わになっている。

 どうやら犯人は壁を壊し、金庫までの最短ルートを作ったらしい。

 だが問題はそこじゃない。

 金庫の横腹に穴が開いている。それも力ずくで破壊されたとかじゃなく、縁がどろどろにに溶かされている。

 金属が溶けるとなると、高熱とかか?火を使うクリスタルとなると……分からん。自然界で火を使う動物なんてヒトくらいだ。そもそも蝶が風だったりカジキが水だったりするのだから考えても仕方ないのだが。

 

「もう行こっか、弟子クン」

 

「え?調べなくても良いんですか?」

 

「流石に警察がいる前では無理だよ。一応現場は見れたし、ここは退散しとこう」

 

「分かりました」

 

 少し離れた駐車スペースまで戻ると、一緒に来ていた朝田さんが顔を上げた。

 

「あれ、随分と速かったっすね」

 

「警察が先に来てしまっていて。まあ得るものはありましたよ」

 

「え、何か分かったんですか?」

 

 俺は何もかもがさっぱりだったのだが、師匠は一体何を見つけ出したのだろう。

 

「そうだね、あの状況では何も分からない、という事が分かったかな」

 

「え、ええ?」

 

 思わずずっこけそうになった。

 というか師匠でも分からないとなると、厄介な事件なのでは?

 そんな事を思っていると師匠が笑った。

 

「私の力だけでは、って事だよ。そういう時にはどうするか、分かるでしょ?」

 

「そっか、人を頼るって事ですね!」

 

「そう言う事。という訳で私は用事が出来たからこのまま出掛けるんだけど、弟子クンと八雲さんに頼みたい事があるんだ」

 

 俺は分かるけど、朝田さんにも?

 

「何ですか?」

「何すかね?」

 

 俺と朝田さんの声が重なる。お互いに渋い顔をする。

 

「弟子クンはここ周辺の調査をお願い。聞き込みとかネットを使うとかして、なんでもいいから手掛かりをつかんできて欲しい」

 

「分かりました!」

 

 成程、それなら今の俺でもできそうだ。

 最近不甲斐ないとこばかり見せているから、挽回できるかもしれない。

 

「それから八雲さん」

 

「はいはい?」

 

「八雲さんは弟子クンの補佐をお願いします。外で調査する場合は用心棒になってあげてください」

 

「え?」

「はい?」

 

 俺と朝田さんの声がまた重なる。

 

「じゃあ私は行ってきますので。仲良くしてあげてくださいね。弟子クンも失礼のないように」

 

 そう言い残した師匠を乗せ、バイクは走り出してしまった。

 朝田さんの方を見る。朝田さんも俺を見ていた。

 

「え?」

「え?」

 

 

 

 

 

「銀行の騒ぎ?いやあ、見てないね」

 

「すみません急いでいるので……」

 

「兄ちゃんあんたいい男だねぇ。どう?うち寄ってかない?安くしとくよ?」

 

 

 

「はあ……」

 

 疲れた。

 取り敢えず聞き込みから始めたのだが、どうにも上手くいっていない。

 事件を見てる人はいないし宗教の勧誘と間違われるし怪しい店に連れ込まれそうになるし。

 俺の想像ではもっと情報が集まっていたんだけどなあ。スーツとか着てたらまた違ったのかなあ。

 

「おい、ため息つくんじゃねえよ辛気臭い」

 

 少し前を歩く朝田さんが俺に噛みつく。

 

「はあ……はいはい」

 

「おいなんだその態度。一発殴っても良いか?」

 

「良い訳ないでしょう?はあ……何でこの人と調査に出ないといけないんだ」

 

 情報が集まらないだけでもつらいのに、この人の相手をしていると余計に疲れてくる。

 

「はぁ?俺の方こそ、何でお前なんかの用心棒しないといけないんだって思ってるよ」

 

「用心棒って言っても、ただ付いて来てるだけじゃないですか。全然補佐になってないですよね」

 

「てめえだって情報一つも集められてねえじゃねえかよ。ほんと、姐さんは何でこんな役立たずを弟子なんかにしたのやら」

 

「何だと!」

 

「ああ?やるか!?」

 

 顔が引っ付きそうな程の至近距離で睨み合う。

 朝田さんはなかなか厳つい表情をしているが、俺だって引くわけにはいかない。

 

「ふんっ!」

「ふんっ!」

 

 二人同時に顔を背けて鼻を鳴らす。それがまた気に食わない。

 

 そうしている内に、いつの間にか事件現場まで戻って来ていた。

 ここまでの収穫はゼロ。このままじゃ埒が明かない。

 何か取っ掛かりがあればいいのだけれど……。

 

「なあ、東どこにいるか知らないか?」

 

「東なら向こうの方に行きましたけど……そういや戻って来てないですね」

 

 ふと聞こえた会話。

 現場に残った鑑識のものだった。

 

「ったく。お前連絡先知ってるか?電話してみてくれ」

 

「片付け終わったらやってみます」

 

 鑑識たちは銀行のすぐ横にある路地の方を向いていた。

 そちらに目を向けた時、何かが俺の視界で光った。

 鑑識が立ち去った後、違和感があった場所に近づく。

 

「おい、どうしたんだ地面なんか見て」

 

「いや、これ……」

 

 朝田さんに分かるように指差す。

 舗装されたアスファルトの上に、黒い線が銀行の入り口付近から路地に向かって伸びている。線は太陽光を反射して、僅かに光って見える。

 

「さっきの会話って……」

 

「これを辿ってって事か?」

 

「可能性はありますよね」

 

 目を凝らしながら線を辿る。

 光が差し込まない細い路地では線が見えなくなってしまうので、自然と屈みながら移動する。

 

「おい見えねえだろ。のけよ」

 

「ちょっと。押さないでくださいよ」

 

「俺年上だぞ。こういうのは譲るのが礼儀ってもんなんじゃねえのか?」

 

「今時そんな事言いませんよ!調査を任されたのは俺なんですから、朝田さんは用心棒やっといてください!」

 

「随分必死だなお前!さては姐さんの事好きだからいいとこ見せようとしてるんだろ!」

 

「は、はあ!?べ、別に好きじゃないですけど!?」

 

 狭い路地で相手を押しのけ合う。

 

「そう言うあなたの方こそ師匠の事好きなんじゃないですか!?」

 

「ああそうだが!?それがどうした!」

 

「え、ええ!?」

 

 そんなにはっきり肯定されるとどう返せば良いのか分からなくなった。

 

「俺は姐さんの役に立つためなら何でもするぜ?すげえ嫌だけどお前の用心棒だってなあ!」

 

「好きだからって、そんな事軽々しく言えるんですか?」

 

「ハッ、そうだと言ったら?それに俺は姐さんに信頼されてっからなあ。信頼には応えるもんだろ」

 

「信頼……」

 

 信頼。

 師匠は、この人の事を信頼している。

 こんな粗暴で大人気ない様な人でも、信頼している。

 

 

 

 じゃあ俺は?

 

 

 

 俺は師匠に信頼されているのか?

 今まで考えてみた事もなかった。

 いや、考えるまでもなかった。

 もし信頼されているなら、用心棒なんて要らなかった。

 訓練も家事も満足にできない俺なんかに、一人で仕事を任せられる訳ない。

 それに師匠が美咲さんたちや朝田さんといる時に見せる顔。

 あの顔を、俺はまだ3回しか見た事がない。

 千種さんの店に行った時。美咲さんに会いに行った時。今日朝田さんが家に来た時。

 俺が見ているのは、いつも自信たっぷりで、冷静で、優しい師匠だ。

 それはそれで良いと思う。まさに頼れる師匠だ。

 でも。

 それは、どこまで行っても他人に向ける顔と同じ気がする。

 友達とか、恋人とか、信頼する人の前でする表情とはかけ離れている気がする。

 師匠はまだ俺に、心を開いていないんじゃないか?

 まだ知り合って1カ月とは言え、仮にも同じ屋根の下に暮らしている。

 だが、それでもまだ足りない。

 信頼して欲しいけど、俺には何もかも足りていない。

 実力も、実績も、一緒に過ごした時間も。

 

「おい、いきなり黙んなよ。なんだよしけた面しやがって……」

 

 師匠の信頼を勝ち取れるものは何か。

 実力は一朝一夕で身に付くものじゃない。

 時間が過ぎるのを待つのも、ただ待つだけではどうにもならない。

 実績だ。何かを成したという結果が今の俺には必要だ。

 つまりは今、ここで犯人に繋がる情報を得ることができれば。

 師匠の信頼を勝ち取れるという事じゃないか。

 だとすると犯人が残した手掛かりが消えてしまわないうちに……。

 

「お、おい、なんか言えよ。ったく……」

 

 黒い線を辿る。線はアスファルトの上を、どこまでも続いているような気がした。

 

 

 

 

 

 気付けば今はもう使われていない倉庫の前まで来ていた。

 トタンは茶色く錆びついて、入るのを躊躇いそうになる。

 だが行かなければならない。

 線はこの中へ続いているのだから。

 僅かに開いている扉から、中の様子を窺う。

 静かだ。中にはほとんど物がないため、奥まで見渡すことができる。

 

「あれは……」

 

 人が倒れている。

 青い制服。鑑識のものだ。

 きっと会話に出ていた戻って来ない人なのだろう。

 あの人も線を辿って、ここで何かあったんだ。

 助けないと。

 

「待て、何するつもりだ」

 

 肩を掴まれる。

 

「決まってるでしょ。あの人を助けるんですよ」

 

「落ち着け。何があるか分からんぞ」

 

「でもそんな事言ってたら手遅れになるかもしれない!」

 

「あ、おい!」

 

 手を振り払い、倒れている人に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?しっかり……」

 

「うるせえなぁ……」

 

 初めて聞く声。

 振り返ると、入り口側の壁に、男がもたれかかっていた。

 

「おかげでうとうとしてたのに目が覚めちまったぜ」

 

 立ち上がったその男から敵意を感じる。

 

「お前がやったのか?」

 

「俺はそいつにまだ用があるんだ。ガキはとっとと失せろ」

 

「お前がヴァーミンか?」

 

「……ほう、良い質問だ」

 

 男がゆっくりと歩き出す。

 懐に手を伸ばし。

 

「当たりだぜ」

 

 黒いクリスタルを取り出した。

 

「っ!」

 

「分かったら帰れ。疲れてるんだ。無駄な事はしたくない」

 

「嫌だね。この人を連れて帰る。あんたも自首させる」

 

 汗が伝うのが分かる。今にも膝が震えだしそうだ。

 

「ふぅ……仕方ない」

 

 男がクリスタルを握り込む。

 その腕が黒い外皮に覆われていく。

 一瞬の内に、男はアリの様にも見える化け物へと変貌した。

 

「痛い目を見る覚悟はできてるよな」

 

 近づいてくる。

 怖い。だけど。

 何かしないと、師匠に認めてもらえない。

 

「うおおおお!」

 

 ヴァーミンに組み付く。

 一瞬動きが止まり、だがすぐにヴァーミンは俺を引き剥がす。

 

「ヌン!」

 

 軽く腕を振るうだけで、俺は吹っ飛ばされる。

 

「ごはっ!」

 

「帰れ。それとももっと痛い目に遭いたいか?」

 

 この状況になってもヴァーミンは逃げるように促してくる。

 根が優しいのか、単に面倒なのか。

 

「帰らない」

 

 どっちでもいい。

 ただじゃ帰れない。

 

「ちっ……もう知らねえぞ」

 

 そう言うヴァーミンの背中から火花が散る。

 

「逃げろ!」

 

「朝田さん……」

 

 師匠が持っていたものと同じ銃を構えた朝田さんがヴァーミンに照準を定めている。

 

「仲間がいたのか」

 

 ヴァーミンの狙いが俺から朝田さんに切り替わる。

 今なら逃げられる。

 でも。

 

「おい、何やってんだ!」

 

 倒れている人を担ぎ上げる。

 意識がない人間というのはかなり重い。

 でも師匠に鍛えられてるんだ。このくらい、なんてことはない。

 

「行かせるか……」

 

 俺の方を向いたヴァーミンにまた銃弾が命中する。

 

「ヌウゥ……」

 

 朝田さんが俺たちとは反対側に回り込む。

 その間にも俺は出口に向かって歩みを進める。

 だが。

 

「ぐっ……」

 

 距離を詰められた朝田さんの腕をヴァーミンが掴む。

 手から銃が零れ落ちる。

 そして朝田さんも投げ飛ばされる。

 

「かはっ!」

 

 俺たちの方まで朝田さんが転がってくる。

 

「さあ、そいつを置いてけ」

 

 あくまでヴァーミンはこの人を置いていくよう要求する。

 でも引き下がる訳にはいかない。

 おめおめと逃げ出す事なんてできない。

 俺が黙っているとしびれを切らしたのか、ヴァーミンが近づいてきた。

 動かないといけないと分かっているのに。

 俺は動けない。

 己の無力を知ってしまったから。

 見捨てて逃げる事も、立ち向かう事もできない。

 結局何もできていない。

 こんなんじゃ俺は、師匠に認めてもらえない。

 

 そんな事を考えていた時。

 けたたましいエンジン音が聞こえてきた。

 それは真っ直ぐこちらに近づいてくる。

 そしてヴァーミンが顔を上げた瞬間、緑のバイクがヴァーミンに体当たりした。

 大きく吹き飛ばされるヴァーミン。

 ヘルメットを脱ぐと、長い黒髪がさらりと揺れる。

 

「師匠!」

 

 師匠は俺たちを一瞥すると、バイクから降りてドライバーを腰に着ける。

 

「変身!」

 

 構えを取り、叫んだ師匠が緑の風に包まれる。

 緑のラセンになった師匠がヴァーミンと対峙する。

 

「仮面ライダーか……」

 

 ヴァーミンも体勢を立て直し、睨み合う。

 先に動いたのはヴァーミンだった。

 

「オオオオオッ!」

 

 工夫などない、ラセンを正面に見据えた突進。

 ラセンも避けず、正面から迎え撃つ。

 シルエットが重なる。

 そのまま動きが止まった。

 かに見えた。

 

「っ……」

 

 徐々にラセンが押され始める。

 アスファルトが削れる音が大きくなっていく。

 ヴァーミンに押されるまま、ラセンが壁際まで追い詰められる。

 しかしラセンが膝蹴りを入れ、即座にパンチを繰り出す。

 距離が出来たその時に、ラセンがこちらを向く。

 

「早くその人を外へ!」

 

 我に返る。そうだ、ぼおっとみてる場合じゃない。

 鑑識官を朝田さんと二人で担ぎ、扉の外へ連れ出す。

 

「朝田さん、その人をお願いします!」

 

「おい、待て……」

 

 朝田さんが言い終わる前に駆け出す。

 何もできなかったんだ。

 せめて見届けないと。

 師匠の戦い方を、目に焼き付けるんだ。

 

 

 

 

 

「師匠!」

 

 弟子クンの声がする。

 戻って来ちゃったか。

 私の戦いぶりを見たいのだろうし、仕方のない事だが。

 戦うようになってから分かったのだが、人が近くにいるだけで戦いの難易度はグンと跳ね上がる。

 1人でなら周りを気にせずに戦闘ができる。取れる行動の選択肢も増え、戦いを組み立てやすくなる。

 だがそうでない場合は、誰かを守りながらだとか、人のいる方に近づかないようにだとかで行動が制限されてしまう。

 本当なら1人で自由に戦いたい。でもこれは弟子を取ったからには避けられない道だ。

 お父さんも同じ気持ちだったのだろうか。

 それとも私が未熟だからだろうか。

 いや、そんな事を考えても詮無い事だ。

 今私が向き合っているのは弟子クンじゃなく、このヴァーミンだ。

 

「オオオオオッ!」

 

 余計な事を考えていたからだろうか。

 反応するのが少し遅れた。

 掴みかかろうとする掌を受け止める。

 だがそのまま力勝負に持ち込むのは良くない。

 見た目と事前に受け取った情報、両方から分かるようにこのヴァーミンはアリの特徴を備えている。

 アリと言えば、その身体の大きさにそぐわぬパワーが特徴だ。

 自分よりも遥かに重い荷物を運ぶことができる。

 先程の突進でも分かったのだが、このヴァーミンにもその力強さが反映されている。

 力比べではこちらが不利だ。

 こういう時は。

 

「ヌ!?」

 

 一瞬だけ力を抜き、腕を引く。

 腕に力を込めていたヴァーミンが体勢を崩す。

 

「ふっ!」

 

 腕を掴んだまま背中から倒れ、回転する勢いを利用してヴァーミンを投げ飛ばす。

 取り敢えず距離は取れた。

 このまま遠距離での攻撃をすれば良い。

 クリスタルを取り出そうとした時、ヴァーミンが口から液体を吐き掛けてきた。

 

「おっと」

 

 咄嗟に避ける。

 着弾点を見ると、アスファルトが溶けだしていた。

 これも桜から貰った情報にあった。

 銀行の金庫の溶けていた部分を調べたところ、特定のアリが持つと言うギ酸に似た成分が検出されたらしい。

 つまりは遠距離攻撃も可能と言う訳だ。

 

 ここで重要な事を忘れていた事に気付く。

 弟子クンがいる事だ。

 このまま遠距離での戦闘に持ち込むと、隠れる物がないこの場所では弟子クンに流れ弾が行くかもしれない。

 それはまずい。万が一怪我をされたら困る。

 となると私がとるべき択は。

 

「ふっ!」

 

 走り出す。ヴァーミンを見据えて、出来た距離を詰めていく。

 ヴァーミンが同じように酸を吐き出す。

 それを風の盾で受け止め、ヴァーミンの目の前まで走り抜ける。

 

「何!?」

 

 ヴァーミンが驚いた時には、私は懐に潜り込んでいる。

 そのまま拳を上に突き出し、ヴァーミンを吹き飛ばす。

 背中から着地したヴァーミンがうめき声を上げる。

 その間にドライバーの上側面を叩き、エネルギーを解放する。

 脚に風が収束した瞬間に助走をつけ跳躍する。

 

「はあっ!」

 

 右足を突き出し、立ち上がったヴァーミンに蹴りを突き刺す。

 ヴァーミンは更に吹き飛ばされ、流し込まれたエネルギーが爆発した。

 

 

 

 

 

 男が倒れ、クリスタルが砕ける。

 師匠の戦いを見て一番に思い浮かんだのは『すごい』の一言だった。

 機転を利かし、相手の攻撃に即座に対応する。

 見たら何をしているか分かるが、咄嗟に思いつくかと言われれば否だ。

 直感的に、俺にはできないと悟った。

 これも訓練を重ねればできるようになるのか。師匠がすごいだけなのか。

 

「弟子クン、この人縛っておいて」

 

「あ、はい!」

 

 そうだ、見てるだけじゃ駄目なんだった。

 犯人を警察に確実に引き渡すために、動きを封じておくのが師匠の方針だ。そのための訓練もしてある。

 ロープを取り出し、男に近づく。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 大きな音を立て、倉庫の壁が崩れる。

 開いた穴から飛び込んできたのは、先程のと同じ様な見た目をしたヴァーミン。

 そして男を抱え、そのままもと来た穴へと猛スピードで逃げていく。

 師匠がその後を追い、俺も外へと出る。

 しかしヴァーミンは建物の屋根から屋根へと跳躍し、姿を消した。

 

 師匠が変身を解き、風が吹き抜ける。

 

「逃げられましたね」

 

「そうだね。それより……」

 

 師匠が俺を見た。

 

「また無茶したんだね」

 

「え、何でそれを……」

 

「身だしなみには気を付けた方が良いよ」

 

 師匠が襟を指差す。

 探ってみると、襟の裏に小型の機械が着いていた。

 師匠の耳にはイヤホンがある。もしかして盗聴されていたのか?

 

「八雲さんが止めているのも聞かずに、一人で突っ走ったんだ」

 

「……すみません」

 

 ふぅ、と師匠がため息をつく。

 

「調査を任せるのは早かったかな」

 

 その一言がとても重く感じた。

 師匠は倉庫の中へ戻っていく。

 俺はただ突っ立っていた。

 さっきの言葉が、頭の中で響き続けていた。

 

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